秘 密

    Z

 

  「あ・・・小林さん、おはようございます。  瑞樹は元気ですか?」

  レコーディングを終えて一週間が過ぎていた。

  〃おはようございます、その節はお世話になりました。とても良い曲だと社長共々喜んでおります。

   彼もCDデビューに向けてボイトレやダンスのレッスンに励んでいますよ。 今日は、ジャケットが出来上がりましたので持って来ました〃

  「わぁ・・カッコ良いじゃないですか〜〜。曲が負けていたらどうしようね?ヒロ・・」

  『本当・・・カッコ良い出来栄えだよね。でも大ちゃんの曲が負けるとは思えないよ』

  「そう?」

  ヒロユキはロスから帰ってから、ダイスケの側を片時も離れずにいた。

  《小林さん、お待たせしました》

  アベが外から戻って来た。

  《これからの事の打ち合わせがあるから・・ダイスケも切りの良い所で帰りなさいよ》

  「うん・・今日はもう帰る」

  《あらそう・・・・でも、運転手がいるから安心ね》

  『運転手?!なの?大ちゃん〜〜〜』

  「泣かないの。良い子・・良い子・・」

  ダイスケは泣真似をするヒロユキの頭を撫でる。

  《まぁた・・・甘えまくりと甘やかしまくりね・・・今日もヒロの所?わんこ達が寂しがってるわよ》

  「あ・・・そっか・・・じゃあ、今日は帰ろうかな?良い?ヒロ」

  『良いよ。じゃあ、今日は大ちゃんの方に送るね』

  《どうしてヒロに聞くのかしら??》

  「いいでしょ・・・ねぇ・・ヒロ」

 

  『本当に今日はオレの所に来ないの?』

  車をダイスケのマンションへと走らせながらヒロユキがポソッと呟いた。

  「あれ?さっきは良いってゆったじゃん」

  『だって〜〜〜〜〜』

  「フフフ・・・・」

  『この一週間さ・・ず〜っと一緒にいたからさ・・もう大ちゃんと離れたくないよ』

  「僕も。でも今日はね・・わんこ達に会わせてくれる?それともわんこ達をヒロの部屋に連れて行って良い?」

  『うぅ・・・それは。チェッ・・・やっぱりライバルはわんこか・・・』

  ダイスケのマンションに着いて、でもすぐに帰る気の無いヒロユキは地下駐車場に入って行く。

  『わんこ達が来たらすぐに帰るね・・・』

  「まだ・・・言ってる。フフフ・・・」

  ダイスケの部屋に上がる時、気付かれないようにヒロユキは靴を靴箱に入れた。

  「ヒロ?なぁにしてるの?」

  『何でも無いよ』

  帰る途中で寄ったコンビニの袋から牛乳を取り出してヒロユキに聞く。

  「ヒロ?オ−レ飲みたいんだけど、頼んで良い?ず〜っとヒロの所に居たから、ちょっとだけ掃除機かけたいなぁって・・・」

  『OK!まかしといて。美味しいの入れるからね』

  PIN・・PON・・

  「あれ?誰かな?ちょっと待っててね」

  「どちら様ですか?」

  〃あの・・・僕です。瑞樹です・・・〃

  「久し振りだね。どうしたの?」

  〃ちょっと・・・アベさんから預かり物を頼まれてしまって・・・〃

  「アベちゃんから?何だろ・・後で届けてくれても良いのに・・・うん、わかった。今、開けるから」

  『誰?』

  「瑞樹がね・・アベちゃんからの頼まれ物だって・・」

  玄関のチャイムが鳴って・・・ドアを開けると瑞樹が封筒を抱えて立っていた。

  「元気だった?  あ、今日ねジャケット見たよ。カッコ良かったね」

  〃・・・・・アベさんからって言うのは嘘です。ちょっと大変な事になっちゃって・・浅倉さんに相談しなくちゃって思って・・・〃

  「相談?ここでは何だから上がる?・・・今ね・・・」

  ヒロユキの名前を出しかけて彼の靴が見当たらない事に気付いた。

  ・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・・・・・

  瑞樹を促して中に入ると、リビングにもそこから見えるキッチンにもヒロユキの姿は無かった。

  瑞樹の名前を聞いて寝室にでも行ってしまったのかも知れない・・・・。

  「何?相談って?」

  意を決したように瑞樹は封筒から数枚の写真を取り出して、ダイスケの前に並べた。

  それを見たダイスケから軽い悲鳴があがる。

  「何!?コレ?どうして・・・?」

  すぐに口元を押さえたが、今の悲鳴はヒロユキに聞こえてしまっただろう。

  「どうして?」

  数日前、瑞樹とDリゾートの帰り、このマンションのエントランスで瑞樹とキスしている写真だった。

  隠し撮りなんてカワイイものじゃない・・・

  ダイスケと瑞樹だと分かっていて写したのに間違いないモノだった。

  〃それを写したカメラマンから電話があって・・・500万円払ったらこのネタは世間に出さないって・・〃

  「どうして・・君の所に?僕の方に来ても良いのにね?」

  〃浅倉さんと僕じゃあ、芸能界での地位が違いますから・・・でも、僕500万なんて持っていないし・・・どうしていいか・・・分からなくて〃

  弱々しく瑞樹は目を伏せた・・・・

  「500万・・・大金だよ。その人に連絡取れる?僕が話してみようか?」

  〃でも、浅倉さんだって困るでしょう?こんなにはっきり顔が写っているんですよ〃

  「僕の事務所なら握り潰せるかもしれないし、お金の問題じゃないけど、500万も出さずに済むかも知れないよ」

 

  〃困るんだよね〃

  長い沈黙の後、瑞樹の顔から弱々しさが消えて、ふてぶてしさが見えていた。

  〃500万いるんだよ!あんたならそんなはした金、すぐに出せるだろう!〃

  「瑞樹・・・・・?」

 

  『おおかた・・・昔の仲間に強請られているって所かな?』

  寝室からヒロユキが出て来て、ダイスケを庇うように後ろに立った。

  「ヒロ・・向こうに行ってて・・・これは僕たちの問題だから。お願い・・」

  『大ちゃん・・・騙されちゃダメだよ。彼はね大ちゃんを強請ろうとしているんだから』

  〃・・・一緒でしたか・・・それは気付きませんでした〃

  〃でも・・・良いのかな?こんな写真が世間に出ちゃっても。オレと浅倉さんがキスしている所だよ〃

  瑞樹はその写真をヒロユキに投げつけた。

  「ヒロ!見ないで!」

  ダイスケが拾い上げる前にヒロユキの目にそれは飛び込んでくる。

  『どうせ・・君の仲間が写したんだろう?わざと大ちゃんの顔が写るように君が角度とか考えたんじゃないの?』

  「・・・そうなの?」

  『誰に何を掴まれて強請られているかは知らないけど、500万払ったらそれで終わり・・って事は無いよ。 

   また次・・また次・・・君は一生強請られ続けるつもりなのかい? そいつらと手を切らない限り・・・君が有名になればなるほど付きまとわれるよ』

  〃何も知らないクセに偉そうな事、言うなよ。あんた達の事、ネタにしてもいいんだぜ・・・同性愛ユニットとかさ・・・面白いんじゃないの?〃

  『言いたければどうぞ?今時・・こんなネタが面白いかな?』

  ヒロユキの何事にも動じない態度に瑞樹は焦っていた・・・ふとダイスケを見ると小刻みに震えている・・・

  〃・・・浅倉さん・・・あの夜は楽しかったですね〃

  「何?何を言ってるの?」

  ダイスケのうろたえぶりにヒロユキの表情が変わった。

  『大ちゃん・・大丈夫?顔が真っ青だよ。上手く事が運ばなかったからって、矛先を大ちゃんに向けるなよ』

  〃本当の事ですよね?浅倉さん・・・オレのキスはどうでした?気持ちよかったでしょ?〃

  「もう止めて・・・止めて!」

  〃ひどいなぁ・・・オレ達、気持ちよくなってたじゃないですか。あんなにオレに触られて嬉しがってたでしょう?〃

  パンッ!乾いた音が部屋に響いた。

  ヒロユキが瑞樹の頬を叩いた・・・・。

  『それ以上、大ちゃんを侮辱したら・・・こんなモノじゃ済まさないよ』

 

  その時、玄関のチャイムが鳴って、アベちゃんと瑞樹のマネージャーの小林が入って来た。

  〃瑞樹!!とうとう・・こんな事まで。強請られているならどうして私や社長に言わないんだ!〃

  小林は瑞樹を見るなり、殴りつけた。

  〃小林さん・・・だって・・・だって・・・オレどうしていいか分からなかった。 事務所に迷惑かけたらもう出て行かなきゃいけないって・・・そう思って・・・

   オレ・・昔、暴走族だったんだ。悪い事なんてなんにもしてないよ。でもそこにいたって言うだけでマイナスなのかな・・・

   お金で解決するならって、一度払ってしまったらそれから何度も何度も・・・・オレが悪いんだから仕方無いけど。

   オレ・・浅倉さんに憧れていました・・・浅倉さんならオレの苦しみ分かってくれるかと思って・・・

   請るつもりなんて・・・初めは無かった・・・でも、金額が高くなって来て・・・もう・・・〃

  『そんなの憧れでもなんでも無いよ・・・好きな人は守ってあげなくちゃ嘘だよ』

  〃ごめんなさい・・・・・オレ・・・オレ・・・浅倉さんが本当に好きだったんだ・・・〃

  〃すいません・・・浅倉さん、貴水さん、アベさん・・・瑞樹は連れて帰って良いですか? ちゃんと私共で昔の仲間とも手を切らせますし、デビューもさせたいとも思っています。

   でも・・・浅倉さんが訴えると仰るなら・・・・社長とも相談してこれからの事を決めたいと思います・・・〃

  《訴えるような事はしません・・・ねぇ?ダイスケはどう?》

  「・・・瑞樹も苦しんでいたんですね・・・可哀相に・・・気付いてあげれればもっと早く助けてあげられたのに」

  『大ちゃん』

  小林は泣きじゃくる瑞樹と部屋を出て行った。

  『アベちゃん・・・このままで良いの?この写真のネガは彼の友人が持っているかもしれないんだよね』

  《あぁ・・ここにあるわよ。》

  『えぇ!!何でよ・・・』

  《瑞樹は本当にダイスケを巻き込みたくなかったと思うの。最初に強請られていた時まずネガを買い取ったみたい。

   それを小林さんが瑞樹の部屋で見つけて。でもそれで最後に強請ろうと思ったのがダイスケだなんて皮肉ね》

  『可哀想な子だね・・・早く立ち直って欲しいな。』

  《ヒロ、電話で知らせてくれて助かったわ。》

  『でもさアベちゃん・・・今日、彼がココに来るって分かってたの?》

  《う〜〜ん、ココ2.3日マンションの近くで瑞樹を見かけたような気がしたのよ。 ひょっとしてダイスケを待ってるのかもしれないって・・・。》

  『それで、さっき大ちゃんに部屋に帰るように言ったんだ。わんこの話すれば帰らない訳ないからね。』

  《小林さんから、瑞樹がかなり追い込まれてるらしいって聞いたから、早く何とかしたかったの。

   うちとしてもCDが出てから、問題が起これば被害が大きくなるから。今の方がキズも小さいし・・彼の為にだってね?》

  『流石!敏腕マネージャー!』

  《おだてても何も出ないわよ。それより、ヒロこそ、流石じゃない?靴・・・隠しておいたでしょ?》

  『アベちゃんがオレに送って行けって行った時に、何かあるかもって。当たって欲しくない予感だったけどネ』

  《じゃあ、私は帰るわ・・・ヒロ、ダイスケをお願いね》

  『大丈夫・・・大ちゃんはオレが守るからさ』

 

  リビングに戻るとダイスケは散らばったあの写真を細かく切り刻んでいた・・・・

 

  『大ちゃん・・・あのね・・さっき彼が言った事、何とも思っていないから。あんな嘘・・・』

  「・・・・・怒らないの?こんな写真見せられたのに・・・」

  『怒る?大ちゃんは被害者なんだから・・・・彼に上手く利用されただけでしょ。怒るわけないじゃん』

  「・・・・・・・・・・」

  『それとも・・・嘘じゃなかったの?本当の事だった?』

  『大ちゃん!何故、黙ってるの?』

  ヒロユキに強く肩を揺すぶられて、ダイスケは一粒・・・涙を零した。

 

 

  さぁ!これから二人はどうなってしまうのでしょうか?

   ヒロは・・・大ちゃんは・・・どうなるの〜〜〜〜?

                         suika

 

    

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