君と・・・・・





 * 5 *




大好きな『夢と魔法の国』がすぐ目の前にあると言うのに、ダイスケはカーテンを閉めきりイスに座っていた

やっと今日のディナーショーにこぎつけた感がある

リハーサルをしている時は終わりなど来ないような気がしていた

辛い時の後には楽しい時が待っている

本当にそうなれば良いのに…

掌を白いスーツの胸元を当ててみる

「あ…ドキドキしてるよ。緊張してるなぁ、いい加減慣れればいいのに」

ディナーショーへの高揚感が時間と共に高まってくる


『大丈夫!絶対、成功するよ オレが付いてる

 遠く離れている大ちゃんにオレの声が届きますように…』

ヒロユキから貰った言葉を呪文のように繰り返し、すでに震えている手に言い聞かせる


「ヒロ…聞こえてるよ」

自分が選んで自分で決めた事だから逃げる訳には行かない

だから、せめて神頼みならぬ「ヒロ頼み」くらいは許して欲しい

終わればカウントダウンライブへ向かってリハーサルが始まる

「嫌でも毎日顔を会わせるわよ」

そう言ってアベは笑った

「君の隣は開いているかな?」


ダイスケは今日初めて部屋のカーテンを開けた

ガラスの向こう、少し夜空を仰ぎ見た


夜の街を彩る強い光に隠れて見えないけれど、確かに存在する崇高な星に祈りを込める


許されるなら、彼の片方の隣をボクに下さい

コンコン…

「ダイスケ…時間よ」

「はい」


今だけはヒロユキの事も忘れて…


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


ディナーショーを終えて、ファンを全員見送り部屋の扉が閉まった

「フッ〜〜」


ダイスケはホッと一心地つく

「お疲れ様!」

労いの言葉と成功への賞賛を一心に浴びてダイスケは心地良い空気の中にいた

「今年はピアノも大丈夫だったじゃない」


「あ〜言わないでよ。気にしているんだからさ」


「そうなの?自信満々だったじゃない」


「そうじゃないけど後はファンの子に判断して貰うしかないよ」

「そうね。まぁ無事に終わったから良かったわよ。さあて、打ち上げ行くわよ!」

ジャケットを脱ぎながらアベの雄叫びを背中で聞いていた

「あ…そっか。あのさアベちゃん。ちょっとだけ出てすぐにスタジオ行っても良いかな」


「今日くらい良いじゃん…羽根伸ばそうよ」

ジャケットをハンガーに掛ける手が止まる

「ヒロ?!」

「大ちゃん、お疲れ様 。excellent!」

「いつから居たの?」

「初めから。 裏でモニター見てた、大ちゃんカッコ良かったよ」

この笑顔が自分だけのものならと・・・ダイスケは思わずにいられなかった

でも聖なる今日だけは・・・胸に秘めておこう

「そうだね… Christmas だし」





「皆さんのおかげで今日のディナーショーは大成功に終わりました、本当にありがとうございました。

 来年も開けるように頑張ります。ここからはパーっと無礼講でやって下さい…乾杯!」


ディナーショーを終えて、都内のレストランを打ち上げ用に借り切った

賑やかな宴がダイスケの合図で始まる

誰も不思議には思わないが、ヒロユキもその中に混じりスタッフと飲んでいた


グラスを片手に持ち、ヒロユキはダイスケに近寄った

「大ちゃん…おめでとう」

「ヒロも忙しいのに…ありがとう」


映画の撮影で南の島に行っていたヒロユキの顔が陽に焼けている

「東京帰って来てさ…歩いている人と自分の肌の色のギャップに笑ったよ」

「そうだろうね、でも…カッコイイ」


「そう? そうかな。大ちゃんの衣装も可愛かった、凄い綺麗だったよ」

「そう?」


端で聞いていたらまるで恋人同士の会話だ


ダイスケの右腕とヒロユキの左腕が僅かに触れ合う


お互いに聞きたい事はたくさんあるけれど、ひとつの仕事をやり終えた充実感を壊す事はしたくなかった

むしろ…聞かなくても良いのかもしれないと思える

ゆったりと2人で過ごせるこの空間が全て


「大ちゃん この後さ、2人で抜け出さない?」

「ヒロ…でも」

「主役はアベちゃんに代わって貰ったら」

ヒロユキは人の輪の中心にいる彼女に視線を向けた


「だね」

2人顔を見合わせて笑う


ダイスケはそっとヒロユキから離れた


身体中から沸き上がる熱が触れ合う腕から伝わって彼に知られるのが怖くて…


「どした?」

「ううん…何でもない」




「…ここがヒロの部屋」

ユリは夜風の中

ヒロユキの部屋の前に佇む




打ち上げ会場を抜け出し、2人だけで飲んでいたけれど何故か話が続かない

ヒロユキがポツリ

「オレの部屋…来る?」


ダイスケは無言で頷く

クリスマスの夜にタクシーを捕まえるのは至難の技だ

ヒロユキはそれを平気でやってのけた

そんな所もダイスケは頼もしくて仕方ない

知らずヒロユキを見つめてしまう



運転手を気にしながら、話を続ける


「大ちゃんがオレの部屋に来るの久しぶりだよね」


「そうかも知れない」

「今年は大ちゃん忙しかったから…」


「あ!」


「何、何、どした?」

「日付が代わったとは言え、まだクリスマスだよ! 部屋なんか行ったら彼女が待っているんじゃない?」

「いや…彼女なんかいないから」


…ウソ

ボクは知っている


「本当?信じても良いのかな」

「来れば分かるから」

その言葉が本物ならどんなに幸せだろう

「この前送ってくれた写真ありがとう。綺麗だった」


「あのツリー見た事ある?」

ヒロユキは問いつめてみたかった

「あるよ」

ここで否定してもアベが言えば分かってしまう

「ワイドショーで流れてるの見てアベちゃんと行ったよ」

「そうなんだ…いつ頃?」

「随分前…」


途切れた会話が修復出来ないままタクシーはヒロユキの部屋があるマンション前に着いてしまった


誰に見られるか分からないとヒロユキがオートロックを解除する間

ダイスケは少し離れて待った


「ヒロ!」

高い声が自分を呼ぶのに驚きヒロユキは振り向いた

「ユリ!?何でココに」

「ヒロのお友達に無理矢理聞き出しちゃった…ごめんね 会いたくて我慢出来なかったの」

それが癖なのか計算なのか…

この寒空に薄いジャケットを羽織った姿のまま


「だからと言ってココまで来るのは困る…やめて貰えないかな」


ダイスケは一歩も動けなかった

その声を知っていた

携帯に出た彼女が今、目の前でヒロユキに甘えている


「ヒロ…ボク帰るね」

「ちょっ!ちょっと待って!大ちゃん!」


「……嫌だ」

「大ちゃん!」


「彼女いないなんて何で言うのさ! いるならそれでも良いんだから!」


「友達だよ! 彼女じゃないから!」


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