君と・・・・・





 * 4 *




ブクブク。゜。゜。゜。

「プワッ!!!」

ヒロユキは考え事をする時、湯船の中に頭まで潜り瞑想する

その方が集中できるからだ

息が続かなくなり、もうこれ以上は潜っていられないという瞬間に何かが閃く

…の筈なのだが

「ダメだ!何も浮かばない…て言うか本当に大ちゃんだったのかな?」

自分が見間違う筈ない、それだけは絶対言える

なのに…確信が無い

ダイスケがあんな場所に居る事が不思議だからだ

それに…一人だったのだろうか?

アベが一緒に居たのなら、こんなに不安にならないのに

「一人で来ても不思議じゃないけどさ…」

もし、恵比寿に行ったと聞いたら、自分は誰と行ったかを答えなくてはいけないかも…

「別にやましい事何にもないけどさ」

頭の中を色んなシュチェーションが渦巻いて、口から出るのは言い訳ばっかり


ヒロユキはザッと湯船から上がった

髪を拭き腰にバスタオルを巻きリビングのソファに座る

携帯を手に取り着歴を調べた

ポトン…

拭ききれなかった滴が裸の胸を濡らす


ダイスケから来ないのが不満だ

画像を送った事に対して一言で良いから返して欲しい

それが糸口になり案外とすんなり聞けそうな気もするのに

「大ちゃん…見てくれてないのかな…?」

明日から暫く芝居の仕事に入る

スタジオからも歌う事からも遠ざかるのだ

「オレからかけるのもな…いや、別に恵比寿の事以外話がない訳じゃないしさ」


♪♪♪♪

「出ない…」

携帯ってのは便利で不便な機械

手元に置いてなければ意味を成さない

メモリーを削減してしまえば、それはこの世に存在さえしなかった事になる

「あれ?…さっきユリ…何か言いたそうだったよな…食事した店で…?」

ハークション!!!!

盛大なクシャミで未だ裸のままな自分に気付く

「風邪ひいたらシャレにならないじゃん…明日の仕事で鼻声はNGだろ」

スウェットを着てベッドに潜り込んでから、もう一度ダイスケにコールした

「オレ…大ちゃんに嫌われちゃった?」




「アベちゃん、おはよう」

「おはよう」

「何?何かボクの顔に付いてる?」

「…また寝てないでしょ?」


ここ2、3日の忙しさに加え恵比寿での出来事に心を持って行かれてダイスケは眠れぬ夜を過ごしていた

「やだな…寝てなきゃ人間生きてられないよ」

アベはそれ以上言葉を掛けるのはやめた

言っても無駄だと分かっていたし…

「そうね…これからは倒れたら心配してあげるわ」

「ひどい」

言って聞くような素直なダイスケはらしくないのだ


恒例のクリスマスディナーショーまで残り数日


ピアノの練習も最後は気合いかもと開き直った

「そうだ…ディナーショーの衣装 今日、届くから。」

「本当?楽しみだね」

「ヒロは今、俳優やっているのよね」

アベがスケジュール手帳を見ながら呟いた


カウントダウンのリハーサルが始まるまでは、そちらの仕事が忙しくスタジオに顔を出す事も無いだろう

「相変わらず年末に来ても2人共バタバタしてるわね」


『アベさん、ディナーショーの衣装が届きました』

スタッフが2人に声を掛けた


「来ましたか」

アベは至極嬉しそうだ

生地を選び、デザインも見て、仮縫いまで立ち合ったというのに

完成した洋服を見られる瞬間はいつもワクワクする

ダイスケが箱の蓋を開ける

「わぁ!!!綺麗!」

周りの女性陣の歓声が半端じゃない

毎年、雪のイメージで白い衣装を作る

今年も例年に負けないくらい気合いを入れてみた

「どうかな?」

ダイスケが上着を身体に当ててみせると、着て見せて下さいとの声が上がった

アベも頷いている


「じゃ、隣の部屋で着てくるね」


カチャリ…

ダイスケが真っ白いスーツで現れた

「キャー!アサクラさん、可愛いです」

確かに齢三十を七つも越しているとは思えない程の可愛らしさだ

今年流行りの白いファーが胸元を飾り白い肌がますます白く見える

美白に憧れる女性に恨まれそうだ

スタッフに口々に誉められればダイスケも悪い気はしない

「アベちゃん、ボクの携帯のカメラで撮ってくれる?」

「良いけど…誉められたからって待受画面にはしないでよ」

「…しないよ」

ダイスケは撮って貰った写真を見、そのままヒロユキに送った

件名に一言だけ添えて…

「ディナーショー頑張るよ」





「よいしょっと!」

ヒロユキが控えのイスに座るとマネージャーのハヤシが日除けパラソルを差しかけた

「お疲れ様」

次のシーンの為の照明位置を替えるわずかな時間に休憩をとる

ネットドラマは普通では考えられないくらい短時間で撮り終える

製作予算の関係や俳優達のスケジュール合わせの難しさだったりするのだが…

ヒロユキ自身もカウントダウンライブのリハーサル間際までスケジュールが入っていた


それでも作品のクオリティーは最高を目指す

「やっぱり…難しいな」

アイスコーヒーを口に運びながら演技の反省をする

まぁ…ちゃんとした俳優には叶うわけもないのだが

ハヤシに携帯を持って来て貰うように頼む

「あ…大ちゃんから来てるじゃん。画像も?」

メールを開けた瞬間それは目に飛び込んできた

「ウオッ!!!!」

ヒロユキの驚く声に悪いと思いつつハヤシが覗きこむ

「あらぁ〜〜アサクラさんですね。ディナーショーの衣装かな? 凄い…真っ白」

「…可愛いよね」

始まった…とハヤシは苦笑する

ヒロユキはダイスケの事を聞かれると、何度となく“可愛い”と答ている

それは何の照れもなく…自然に


画像に向かっても言うのだから本当に可愛らしいと思っているのだろう

あの日の夜…

結局、何回かけても通じなかった

あきらめとちょっとの悔しさでなかなか寝付かれずに朝を迎えた

翌朝、マネージャーの電話で起きた自分を誉めてあげたかったくらいだ


恵比寿の事も聞きたいけれど、それよりもどうして電話に出なかったのか知りたかった


そんな気持ちの中

久しぶりに送られて来た画像

「今年はこの衣装なんだね」


画像を見つめる優しい瞳にヒロユキ自身は気付いていない…


「大丈夫!絶対、成功するよ オレが付いてる

遠く離れている大ちゃんにオレの声が届きますように…」

こんな恥ずかしい言葉を返信出来るのも、Christmas eveのせいかも知れない


『撮影始めます!お願いします!』

スタッフの言葉にヒロユキは我に返る

画面が黒くなっても携帯を開いたままだった

「ディナーショー明日か…」



********** NEXT **********
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送