君と・・・・




   * 2 *



予定より早く打ち合わせが終わり、時間がぽっかりとあいた

「まだ間に合うんじゃないの?」

マネージャーのアベがダイスケに声をかけた

その言葉が何を指しているのかは聞かなくてもわかる

「電話してみる」

ピッ…

短いやりとりで電話を切ってしまったダイスケにアベは何かがあった事を悟る



ボタンひとつで繋がる携帯でかけ間違えるなどあり得ないのだ

ダイスケは車の座席に深く座り込んだ

−『はい、もしもし』−


今聞いたばかりの女性の声が耳から離れていかない


すでに食事の約束した人が…それも、女性がいた

「誘ってくれたのは社交辞令だったんだ」

分かっているのに胸が痛い



「たまにはこんな早い時間に家に帰る? もうスタジオに行かなくてもいいわよ」

「ううん…曲作らなきゃ。ピアノも練習しないと、またボロボロになるのは…恐いから」

数年前、一度の失敗が長く尾をひきピアノを見るだけで手が震えることがあった

そんな思いはもうしたくない

ライブは誰も助けてくれない孤独な場所だ

そんな恐ろしさの中でヒロユキだけがダイスケの救い

ヒロユキの声に導かれ…

ヒロユキの笑顔に癒されて…

ヒロユキの背中から勇気を貰う…

でも、それだけの事

ヒロユキという人間を形造るモノの中に自分はいない

「じゃ、食事してからスタジオに帰りましょうか」

「アベちゃん……一ヶ所だけ行きたい所があるんだけど良いかな?」

「良いわよ…ドコ?」

「恵比寿ガーデンプレイス」


「恵比寿…あぁ、クリスマス仕様のイルミネーション?」

「そう…そこにバカラのクリスタルで作られた世界一のクリスマスツリーがあるんだって。見てみたいな」

「私も聞いた事はあるんだけど毎年この時期は忙しくて見に行けないまま終わってるのよね」

「好きな人と見ると必ず結ばれるんだって。ボクと一緒で良いの?」

ダイスケは運転席を覗きこんだ

アベが憮然とした顔で答える

「仕方無いでしょ! 相手がダイスケじゃね…結ばれるものも切れちゃうかも」

「アッハッハッハ! アベちゃん、面白いよソレ」

遠くに電飾に彩られた並木道が見えてきた





ヒロユキは席に戻ると何気に携帯に目を落した


今時、携帯を持つ人間なら習慣になっている仕草だ

そこに何がある訳じゃない

それでも、ココにいない誰かから連絡が入る事を期待してしまう

ユリはそれだけで自分がヒロユキにとって大切な人ではないと確信した

「ヒロ、出よう」

「そうだね」

支払いを終えてヒロユキは外に出た

師走なのにこの暖かさ

狂った気象に体がついていかない

それでも街の至るところに飾られたイルミネーションがクリスマスが近い事を教えてくれる


「ごちそうさまでした」

ちょこんと頭を下げるユリにヒロユキも

「いえいえ、どういたしまして」

と、頭を下げた

そのおどけた仕草にヒロユキの優しさを見る

あなたが好き…

ユリはヒロユキへ流れ出す心を止める事が出来ない

何の取り柄もないOLの自分がミュージシャンの彼と知り合えて、

こうして2人だけで食事がして貰えるこの場所を誰にも奪われたくないと思った

「これからどうする? 違う店で飲む? タクシー止めようか」

最後は仲間がいる店になだれ込むだろうと思ったヒロユキは車を置いてきていた

「いい!」

「ユリ?」

「あのね…行きたい所があるの、一緒に行ってくれる?…ダメかな」

それがクセなのか計算なのか長い睫を伏せた

「良いよ」

「ホント!?嬉しい!」

「遠い?」

ううん…とユリが首を振る

「ここから歩いて行ける所」

「ここからって…」

ユリが見つめる視線の先をヒロユキも辿った

「恵比寿ガーデンプレイス…」


「あそこにバカラのクリスタルで作られたクリスマスツリーがあって、一度見たいと思っていたの」


始めからそうなるように考えてこの店を選んだのか…

ヒロユキはそんなユリを可愛いくてズルイ女だと思った

「じゃあ、行こうか」

「はい」

腕にそっとまわされた細い手の感触にヒロユキは気づかないフリをした





恵比寿駅近くのビルの駐車場に車を置きダイスケとアベはガーデンプレイスに向かった

すでに駅からの道の両脇の木々は煌めくディスプレイを施されクリスマスムードを盛り上げている

同じ流れを歩くカップルは数えきれない

「凄いわね…でもって、みんなラブラブなんでしょ…何かムカつくわ」

アベの独り言がダイスケの耳に届いて笑みを誘う

「アベちゃんだってそんな頃があったでしょ?」

「ラブラブはね…でもクリスマスに彼氏とデートした事は記憶にないわ」

「ボクがいるじゃん」

「あ・り・が・と・う」


「こんなにたくさんのカップルがいるんだからボク達も仲の良い恋人同士に見えるよ」

「そう? いいとこ姉弟でしょ」

「この辺りは何回も来てるけどクリスマスシーズンは初めてだから…まったく景色が違うよね」



「わぁ……………」


程なくガーデンプレイスの中にさしかかる

目の前にそびえるバカラのクリスマスツリーは想像した以上の美しさだ

それはアーケイドから吊り下げられた大きな特殊ガラスの箱に入れられていた

その荘厳な美しい輝きは見つめる人全てを魅了する

ダイスケもアベも見上げたまま言葉も出ない

「例えようがないくらい綺麗だね」

「ホント…いくらするのかしら」

女性はいつもシビアなものだ

隣では彼が彼女を携帯で撮ってあげている


ダイスケは思う

何を見たかではなくて誰と見るかで楽しさの記憶が残るのだろうと…

「アベちゃん、上に行こうよ」

きっと上から見るツリーも違う趣だろう

ダイスケは階段を上がった

「あっ!ベーグルのお店!」

途中で好きな店を見つけたアベは階段を降りて行ってしまった

「アベちゃんってば…またラブラブは遠くなったね」


階段を上りきると自分の目と同じ高さにクリスマスツリーがある

手を伸ばせば届きそうだ

「ここからだと細かい部分まで見られるんだ」

ダイスケはツリーに目を近づけた

細かい光の粒子の中に次から次へと歩いてくるカップルが映っている

ダイスケの瞳が一人を捉えた

「ウソ………ヒロ?」

慌てて手摺から身体を乗り出した


ダイスケが彼を見間違う筈はない

誰よりも愛しい人なのだから…

「ヒ…」

声を掛けようとしたダイスケはヒロユキの隣にいる女性に気付いた

「ヒロの携帯に出た人?」

2人がクリスマスツリーを見上げた瞬間、ダイスケは人混みに紛れた

…見られてはいけない



********** NEXT **********


さて、このお話、どこまで続くのかはsuikaさん自身もわからないそうです(^_^;

携帯で、毎日送られてくるので、今日はもちろん、大ちゃんのディナーショーの話。

ここにUPできるのは・・・・・・・まだ先です。 ごめんなさい<(_ _;>

                                         流花

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