君と・・・・ 




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東京は普段の年より、更に暖冬傾向らしい

先日も12月なのに真夏日を記録した

それでも朝晩は一枚上に羽織り、オシャレをしてみる

「今日暑かったね」

ヒロユキはジャケットを肩に乗せてスタジオに入っていった

「…って言っても大ちゃんは、ずっとインドアか。 ある意味天気に左右されない生活だ」

「何偉そうに言ってるの。ヒロだって似たり寄ったりじゃん」

ヒロユキの軽いイヤミにも動じる事はない

「本当の真夏でも毛皮着ちゃう人に言われたくない」

ダイスケはすぐに反撃する

今日は年末のカウントダウンの曲目を決める為に集まった





曲目や曲順がスムーズに決められてゆく

ダイスケはこういう時のまとまり感って凄いモノだと自分のスタッフを誉めたくなる

でも、もっと凄いと思ったのはヒロユキだった

前は末っ子的な奔放さで話の流れを途絶えさせたりしたものだが最近は頻繁に意見を出してくる

ダイスケだけが走っていると回りから思われやすいが本当はそうじゃない

「…の次は何が良いと思う?ねっヒロ」

「バラードとロックは固めた方が良くないかな?その方がお客さんも乗れると思う」

どこかで声があがる

「流れに強弱を付けた方があきないんじゃないか」

「オレがライブに来たファンをあきさせる訳ないじゃん…ねっ大ちゃん」

声を荒げる事もなく、静かに

それでも心の中では静かに反論するヒロユキの姿にダイスケは見とれた

『君と同じ時を、空間を、一瞬を過ごせる事に感謝しよう』



「お疲れさまでした」机の上のファイルがパタパタと閉じられてゆく

紙面上の流れはおおよそ決定した

細かい部分は立ちのリハーサルをしながら変えていくのがaccess流だ

「お疲れ〜〜〜」

ヒロユキは携帯をポケットから取り出しメールのチェックし始めた

メールにこだわりは無いと言う割にはチェックはこまめだ

ダイスケは指を止め画面を見つめながら笑いをこぼしているヒロユキを苦々しい思いで見ていた

「大ちゃん〜この後さ、どうする?飯食いに行かない?」

急ぎのメールは入っていなかったらしく、ヒロユキはのんびりとダイスケに聞いた

「あ…ごめん。今からディナーショーの衣装合わせなんだよね」

マネージャーのアベが時計を指差しながらダイスケを呼ぶ

それは安易にダイスケには時間が無いと言う意味だ

「ごめん、ごめん…忘れてた。そんな時期なんだ」

ダイスケがクリスマスにディナーショーを行うようになったのは

accessが解散をしてから数年後の事だ

それはまるで誰かと2人きりになるのを恐れるよう

華やかな日の全てを拒むようにダイスケは生きてきた

再び活動をし始めてからも、それは変わらない

「クリスマスは大切な人達と過ごすんだ」

「一番理想的だよね。オレもクリスマスパーティーやりたいよ」

手に触れる場所に飾ってある小さなサンタの人形を指ではじいた

その勢いで倒れた人形を慌てて立て直すと辺りを見回す

まるで悪戯を見つからないように隠す子供のようだ

…ヒロ

分かってる?

大切なのはファンの子達だけど

クリスマスじゃなくてもいいんだ

一番好きな人と過ごせる

それだけで…







「ヒロ!こっち」

奥まった席から女性が小さく手を振っている

「遅れちゃって悪い」

「ヒロが時間通りに来た方が気味悪いかもね」

キャハハハと彼女は無邪気に笑った

ダイスケの事務所から出て、駐車場に向かうヒロユキの携帯が鳴った

女友達から食事の誘いだ

人懐っこいヒロユキには男女問わず友達が多い

ユリもその中の1人だった

しかし…最近、微妙に近しい関係になりつつある

ユリからの積極的なアプローチをヒロユキも感じている

彼女が指定した店は美味いが隠れ家的な存在で騒がしくない

なかなかに評判の良い店だ

最初はビールと今日のおススメコースを頼む

「約束なしにいきなり誘って大丈夫だった?」

それが癖なのか計算なのか…

少し上目がちにヒロユキを見つめる

肩までの髪を軽くウェーブさせ、顔立ちも綺麗だ

ラベンダー色のアンゴラセーターが白い肌に栄えている

決して派手ではないがそこにいるだけで華やな感じがする女性だ

「全然OK」

「良かった。お仕事忙しいんでしょ?近頃飲みに来ないもの。だから誘ってみました」

ユリはaccessの事も知っていて、中学生の頃ファンだと言われた

始めこそ、他の芸能人の話を聞きたがったが友人の座を手に入れると関心を示さなくなった

最近サーフィンを始めたユリはヒロユキに先週末に行った波の様子を楽しげに話し出した

ビールがウイスキーに代わり、料理も次々と運ばれる

「美味しい!試しに頼んでみて正解だった」

「オレはこの苦さはちょっとね」

「好き嫌いがないと思っていたのに。結婚したら困るわよ」

結婚?誰が?誰と?

ヒロユキに見つめられていると分かってユリは頬を染めた

下を向いた時、ユリのイヤリングが揺れた

「あ…それって…確か…ロイヤルオーダー?」

ヒロユキが気付いてくれたのが嬉しかったのかユリの声が弾む

「そう、先月の誕生日に自分で買ったの。寂しいでしょ」

遠回しに自分の誕生日を教えてくれているのか…

ロイヤルオーダー

確かダイスケが好きなアクセサリーブランドだ

シルバー素材で可愛いデザインが多い

ダイスケは天使や王冠のモチーフを好んで着けていた

以前、写真撮影で着けた指輪を可愛いからとスタイリストから買い上げていた事もあった

ヒロユキの瞳はここにはいない人を映し出す



目の前に白くて細い指がちらついてヒロユキは我に返った

「何考えてたの?私といると退屈?」

「ごめん…頭の中がまだ仕事モードなんだよ。ついさっきまでライブの打ち合わせしてたから」

「そうか…カウントダウンライブがあるのよね」

さっきヒロユキが苦いと言った料理をユリは口に運んだ

「ねぇ、ヒロ…暮れは忙しいのよね。その前のクリスマス…」

それを聞きたくてオレを誘ったのかとヒロユキは理解した

「う…ん、芝居の仕事があるし、レコーディングもライブのリハも…」

端からは体の良い言い訳を繰り返しているように見えるだろう

彼女でもないのに…と一言で済ますのは簡単だが相手を傷つけるのはヒロユキの性に合わない

「ちょっと…トイレ」

頭を冷やす為にヒロユキは席を立つ

2、3歩行きかけテーブルに戻って来た

「この前トイレに行って床に叩き付けたから」

苦笑いしながらジーンズの後ろポケットから携帯を取り出しテーブルの上に置いた

そして、そのままトイレに向かった

ユリはそれを手元に引き寄せ、バックから自分の携帯を出して並べた

同じ機種で色違いの携帯が並んでいる

この間、携帯を代えたと飲み仲間に見せているのを覚えて急いで買い換えた

同じ色は流石に選べなかった、あまりにもミエミエのような気がして

着信音も同じにした

「私…ストーカーみたい。何やってんだろ」

ヒロユキが好きだから…

片思いをしている時は誰だって見境なくなるもの

ユリは宝物に触れるようにヒロユキの携帯を手に持った

ただ、触れてみたかった

♪rururu…♪

手の中の携帯が鳴り始めた

ヒロユキを思うあまりにユリの何かが混乱したのか…

ユリは無意識に通話ボタンを押し、耳に当てた

『もしもし、ヒロ?』

「はい、もしもし」

『あ…すいません、間違えました』

ユリは慌てて携帯を切り、着歴を確かめる

「アサクラさんだ…どうしよう

私…ヒロの電話に出てしまった…どうしよう…」


ユリは着信履歴からアサクラの名前を削除した



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suikaさんが携帯で、ポチポチ送ってくれる小説をUPしました。
ラストがどうなるのか・・・・・・私も楽しみです(*^^*)

                             流花

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