君影草

 

     【後編】

教えて貰った大通りに出ると、すぐにダイスケの姿が見えた

「寒い中・・待っててくれたんだ・・・あ〜〜あ〜〜はしゃいじゃって・・・」

運転席にヒロユキを見つけるとダイスケは子供のようにぴょんぴょんと跳ねて合図を送ってくれた

「お待たせ・・・」助手席のドアを中から開ける

「ゴメンネ・・・いきなり呼び出して」

シートに座り込むダイスケからフワッっと花のような香りが流れてきた

「あれ?・・・」

ダイスケにもシートベルトをちゃんとつけて貰いゆっくりと車を滑らした

「なに?どうした?」

「あのさ・・・大ちゃん香水変えた?前は柑橘系の香りだったよね?」

「香水・・・?つけてないよ」

「そう?・・・でも優しい花の香りがするよ」

「あぁ・・・判った。今日レコーディングに立ち会った女の子がつけていたから・・その子の香りが移ったんだ」

・・・・香りが移ってしまうくらい長い間その子の近くにいたんだね・・・・・・

チリッ・・・胸の奥がすこしだけ妬けつく感じ

ダイスケが予約してあると言う店はすぐに見つかった

「マスターと顔馴染みだから・・・こんな時間でも大丈夫なんだよ」

気が付けばすでにディナーと言うにも遅い時間だった

小じんまりしているが調度品や壁の絵などにはマスターのこだわりが見て取れる

ダイスケが来る時は奥の個室が指定席らしく何も言わなくても案内された

ひとごこちついてダイスケが白いコートを脱ぐと目にも鮮やかなコバルトブルーのシャツが表れた

「また・・・・凄い色のシャツだね・・・」

「そうかな?変?」

「変って言うか・・・目に痛い・・・って感じかな?」

「いらっしゃいませ」お絞りと水とメニューを持った店員が入って来た

「僕はいつものね」

いつもので・・通じてしまうのだから余程の顔馴染みなのだろうとヒロユキは思った

「ヒロはどうする?ココのお肉美味しいよ」

ダイスケはヒロユキの手元のメニューのいくつかの料理の説明をしてくれた

「オレはこれとこれと・・これも頼もうかな。あとウーロン茶もね」

それを聞いていたダイスケの目が丸くなった

店員は注文した料理の名を復唱すると「かしこまりました」と言って部屋から出て行った

「どうしちゃったの?!ヒロ・・・お野菜料理ばっかりじゃん?」

「オレさ・・ジムのトレーナーに教えて貰った脂肪を採らずに筋肉を付けるエクササイズやってるんだ。だからお肉はね・・」

「舞台の為?」

「他にも理由はあるけど、まぁ、今は舞台の為かな」

「ごめんね・・・知っていたらお肉メインのココには連れて来なかったのに・・・」

「待って・・待って・・・大ちゃんが謝る必要ないって・・・共演者とも焼肉とか行ってるし・・みんな遠慮無しだよ」

「でも・・・車だからお酒も飲めないし・・・ゴメン。迎えに来て貰わなきゃ飲めたのに」

ダイスケの声が小さくなって自分を責めているのが伝わって来る

ヒロユキは少し苛立ってきた・・・軽い女ならココでキレているかもしれない・・・相手がダイスケではそれも出来ない

「判った・・・ちょっと待っててね」

ダイスケは急に立ち上がったかと思うと厨房に走って行った

ダイスケの身体よりかなりサイズが大きそうなシャツが翻っている・・・

どうやら注文した料理を「お持ち帰り用」に出来ないかと頼んでいるらしく、マスターもふたつ返事で引き受けてくれていた

顔を紅潮させてダイスケが厨房から戻って来た

「お持ち帰りって・・大ちゃん、どうしたの?急用?」

「御飯もお酒もダメなんてヒロが可哀想すぎるから・・部屋でゆっくり食べて・・・その・・彼女でも呼んで」

チリッ・・また押さえつけていた妬けつく痛み

自分が目の前で肉を食べるのを見せ付けておまけに酒も飲めないのでは彼が楽しい訳が無いと思ったから

「・・・オレは大ちゃんと久し振りに話が出来るから誘ってもらって嬉しかったのに」

「僕も楽しみしていたよ・・・でもさ・・・」

淋しそうに目を伏せたダイスケを見て、彼なりに自分に気を使ってくれている事を感じた

「ねぇ?この後って大ちゃんスタジオに戻るの?」

「今日はもう無いよ・・アベちゃんにヒロと食事してくるからって言っておいたから」

「じゃあ、オレの部屋に来ない?せっかく会ったのにこのままサヨナラって・・・次はいつ会えるか判らないでしょ?」

「良いの?」

「もちろん♪でも飲んじゃうと送ってあげられないかもしれないけど?」

「タクシーあるし、何ならアベちゃんに迎えに来てもらおうかな」

「マジ?!」

二人が笑い合っている所にマスターが料理の入ったタッパーを持って来た

厨房で余っていたタッパーに入れられるには不似合いな綺麗に並べられている美味しそうな料理たち

ダイスケの大好きな肉料理用の特製タレまで小さい入れ物に入れてくれた

無理を言って申し訳無いと謝るダイスケに馴染みのマスターはなんて事は無いと笑っていたが

「冷めない内に食べて欲しい」と・・・料理人としてのプライドがそう一言告げた

ヒロユキが駐車場から車を店の表に回すと支払いを済ませたダイスケが両手に料理を抱えて乗り込む

「後に置く?」

「ううん・・・タレとかあるし、綺麗に並べられていたのが散らかったら料理が可哀想だから」

「・・・・そう・・じゃしっかり持っててね」

 

「まぁま・・・どうぞ・・上がって、上がって」

「おじゃましま〜す」

ヒロユキが先に上がり、そして当たり前のようにダイスケから料理を受け取る

何気ない仕草の一つ一つが6年の時を遡っていくようだとダイスケもヒロユキも思った

「うわ〜〜〜シンプルだね」

「てか、何も無いでしょ」

無駄なモノは何一つ置いていない部屋

随分変わったものだと、昔のヒロユキの楽屋を思い出したダイスケから苦笑が零れる

「何笑ってるの?大ちゃん?オレの部屋そんなにおかしいかな?」

「ううん・・さぁ食べよう、食べよう!お腹減ったよ〜〜〜」

ヒロユキがキッチンに立つとダイスケも後からついて来た

「お皿に盛った方が雰囲気出るよね?」

「うん。せっかく綺麗に作ってあるんだから・・・ココから直接は申し訳ないでしょ」

男所帯にはキッチンだからと言って食器棚などある筈も無い

造り付けの収納棚を片っ端から開けてあるだけの皿を取り出した

それにダイスケがタッパーから料理を取り出して綺麗に盛り付けていく

いつも見ているから同じように盛り付ける自信はあった

「どう?」

「OK!美味しそうだね〜大ちゃん」

ダイスケが盛り付けた料理を並べている間にヒロユキは冷えた焼酎とワインをテーブルに並べた

ワインはさっき店を出る時に気を利かせたマスターが持たせてくれた

ダイスケの今の好みは赤ワインらしい・・・

二人向かい合わせに座ってワインと焼酎を手に持ちグラスをカチンと合わせた

「乾杯・・って何に?」

「再会したお祝いにしとこ・・・ねっ」

「何でもいいから・・乾杯!」

「もう・・ヒロは早く食べたいだけじゃない?」

言い終らないうちにすでにヒロユキの口の中は美味しい料理で一杯だった

「ひゃってさ〜〜〜〜ほなかひぇったひゃら・・・」

「判ったから喋らずに食べなさい・・・」

久し振りだからといって何か特別言わなければならない事も無くて

今興味のある事、好きな歌、好きなスポーツ、好きな場所・・・

会っていない間を無理やり埋める事をする必要は無かった

ただ楽しい時間が終わってしまわないように言葉を探し続けた

酒の力を借りればバカ話を探せるかとヒロユキはいつもよりピッチを早めて行く

自分では酔ったと思わなかった・・・

「あっ・・・」

普通にグラスをテーブルに置いたと思ったのに、肉のタレが入っている器に引っ掛けてしまった

器はダイスケの方に転がって中身をシャツにぶちまけた

「大ちゃん!ゴメン!」

ティシュを探しにリビングだの寝室だのを走り回って一気に酔いが醒めてしまった

「大丈夫だから・・・」

料理を殆ど食べてしまった後なのでタレは少ししか残っていなかったけれど

特製タレとマスターが自慢していただけあって色んな香辛料が配合して作ってあるのだろう、匂いはかなり強かった

シャツの上からティシュで丁寧に拭き取って行く

「色は目立たないけど・・こんな美味しそうな匂いさせて帰らなきゃいけないのか〜〜」

ダイスケは楽しそうに笑った・・・

しばらくしてダイスケは肌に違和感を感じ始めていた

ちょっとだけ熱を持ったような痛痒さ・・・?

「ヒロ・・タオルある?」

「あるよ・・・どうしたの?」

「貸してくれる?ついでに洗面所も」

「どうしたの?」

「さっきのタレがシャツに付いていたんだよね、ちゃんと拭き取ったと思ったんだけど」

「大ちゃん?言ってる意味が判らないんだけど??」

「・・・・痒いの・・・香辛料とかって刺激物でしょ・・少し痒くなってきた」

「マジ?!ちょと待って!すぐに濡らしてくるから」

すぐにヒロユキが水で湿らせたタオルを持って来た

「ハイッ・・・」

「ありがとう」

タオルを受け取ったダイスケは少し躊躇していたがココで恥ずかしがっても変な気がしてシャツの前のボタンを外した

胸元やお腹の所々がほんの少し赤くなっている

「大ちゃん・・・・白いね」

上半身とは言えダイスケの裸を見たのは初めてかもしれないとヒロユキは思った

デビュー当事に小さなライブハウスでライブを行った時くらいかもしれない

そんな頃はもう家から衣装を着てくる事も珍しくなかった

それからすぐに個室をもらえる様になって着替えを見せ合うような事も無かった

チリチリ・・胸の中で小さく燻っていた本能は眠ってはいない

一度芽生えたソレはどんなに誤魔化しても宥めても静かに表に出るチャンスを伺っていた

「うわっ・・・こんな所まで・・参っちゃったな」

胸元からお腹までは冷たいタオルで少しづつ和らいでいるけれど右の乳首の痒みはなかなか納まってはくれない

後ろ向きで手当てをしているダイスケの無防備に晒されている項や肩や手首の白さがヒロユキの本能を剥き出しにして行く

「どう?少しは良くなった?」

「うん、ありがと。随分と楽になった」

「・・・タオル貸して・・冷たくしてくるから」

「大丈夫だよ」

「いいから」

少し乱暴にダイスケの肩を掴んでこちらを向かせれば隠していた乳首がヒロユキの前に晒される

それは真っ赤に色づいてまるで木の実のように食べられたがっているかのように・・・

ダイスケは何が起こったのか認識するまでに時間がかかった

タオルを手から取られると思ったのにそのままヒロユキに手首を掴まれて床に押し倒されていた

乳首にヒロユキの息を感じるまもなく口に含まれていた

「ヒロ?・・・・・」

体格の差はどうしようもない、まして筋肉を付け始めたヒロユキにとって小さいダイスケの抵抗は無いに等しい

赤く色づいた乳首を舌で転がしてたまに甘噛みをしてやる

「ちょ・・やめてよ・・・」

押さえ付けられたままダイスケは抵抗した

ヒロユキはこんな酷い事を面白がってする人間じゃないと知っているけれど

・・・身体は心より正直だから・・・

「嫌・・・嫌だ・・あ・・」

やっと乳首への愛撫をやめて身体を上にずらしダイスケの顔を覗き込んだ

 

 

「ゴメンね・・・」

「ヒロ?」

さっきまでの荒々しさは消えてヒロユキは優しくダイスケの身体を包み込んだ

首筋に顔を埋めてまるで怖い物を見た子供のようにただ縋り付いている

「何かあった?ヒロ」

「う〜〜ん、大ちゃんに欲情している・・・って言ったら?」

笑うダイスケの身体が上下に動いて抱きしめているヒロユキにも伝わってくる

素肌の胸に耳を当てれば身体の中に楽器があるかのようにダイスケの声が響き渡って心地良い

「オレさ、今日の舞台・・・自分的に凄いデキが良くって身体が興奮してるって言うか・・・抑えられないって言うか・・・

 本当の事言うと大ちゃんから御飯誘われる前、女の子に電話したけど振られちゃって・・・その・・」

「僕がその子の代わりなの?」

「違うよ!!あ・・・でもこんな事やっておいて違うって言ってもダメか」

「6年前はこんな獣だとは知らなかったな」

「ケダモノ・・・ってそんなひどいよ」

「でもやっぱり男の肌だからその気も醒めちゃったでしょ?」

「ううん、逆かな・・・こうしていると気持ち良い。あの頃に戻っているみたい」

「あの頃ってaccess?」

「がむしゃらだったけど楽しかった、それはきっとガキのオレを大ちゃんが守ってくれていたんだね・・・今なら判るよ」

答えは返って来ないけれど抱きしめ返す手が少しだけ震えるてのがダイスケの悲しさをヒロユキに伝えた

本当の事は誰にも何も言わないまま二人はこの6年間を胸の奥に閉じ込めて来たのだった

「大ちゃんキスして良い?」

「女の子の代わりに?」

「違うよ・・・大ちゃんにキスしたい」

「あんな事しといて、今度は聞くんだ?」

「・・・・・・・・・・・ゴメン・・・・・・・・・」

「ヒロ・・キスして良い?」

言葉が終わらないうちにダイスケの唇がヒロユキの唇に落ちてきた

離れそうになるのを今度はヒロユキが押し戻して深く唇を合わせる

「ヒロ、好きだよ・・・初めてあった時から好きだったよ」

「うん、判ってた。でもあの頃のオレはその言葉を受け止められなくて・・・気付かないフリをしていたんだ」

「離れていても好き・・・今も好き・・・きっとこれからも好き」

「ありがとう。オレも好きだよ」

「フフフ・・・本当かな?」

「信じてくれないの」

「次・・・会った時に答えは出るのかもね」

・・・悲しいくらいに君が好き・・・怖いくらいに君が好き・・・痛いくらいに君が好き・・・言葉にならないくらいに君が好き・・・

 

 

それから数ケ月後・・・accessは復活する

 

**********END***************

   

 

ボツにしようかどうか迷ったんですがせっかく書いたのに・・・ってやはりボツれませんでした(T_T)
二人の微妙な心理描写を書きたかったのに文才が無いって悲しいね。
でも「君が好き」って気持ちが書けたから良いや♪←自己満足の塊ですから。
ちなみにタイトルの「君影草」は『鈴蘭』の別名です。鈴蘭の花って好き(ハァト)

p.s.次はHが書けるよう頑張ります(T-T)
 
 suika

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