◇◇◇ 果てしなき・・・ ◇◇◇







…六本木

昼間はカフェで夕方からバーになるお洒落な店で2人は飲んでいた

慧はさっきから度の強い酒をハイペースで空けている

「もう少し、ゆっくり飲んだ方が良いんじゃないかな」

綺麗なピンクのカクテルに手を伸ばす慧をヒロユキが制した

「大丈夫ですよ。 ボクお酒強いから。 正体無くしてタカミさんに迷惑かけません」

目の縁を紅く染めながら慧がトロンとヒロユキを見つめる

瞳が潤んで店の淡い照明を映し出す

ヒロユキはそれを不覚にも美しいと思ってしまった


薄暗い灯りの下では、男も女も綺麗に見える

まして、酒が入れば、そこに艶も加わる

本心を隠してつき合うには、この上なく心地良いシュチエーションだ

だが、ヒロユキはひとつだけ慧に聞いておきたい事があった

「あのさ…何でオレな訳?」

唐突な問いかけだが、慧にはすぐ理解出来たらしく、あぁ…と頷いた

「タカミさんは車好きでしょ?」

「?好きだけど」

「きっと、車好きなのに理由なんて無い筈だもの」

「…」

「恋愛なんて車と同じだし…あぁ、それはボクだけの考えなのかな〜」

自分も前まではそうだった…と、ヒロユキはグラスの中のバーボンを飲み下した


「理由なんてない。 アサクラさんのスタジオで貴方を見た時から好きになっちゃった」

「オレの気持ちはどうでも良いんだ?」

「まさか…フフッ、タカミさんはアサクラさんの事どう思っているんですか?」

「好きだよ」

ダイスケに伝える時はあんなに照れ臭いのにこんな時は素直に言える

誰にも隠す事じゃない

「へぇ…そうなんだ」

慧は意外そうな顔を見せる

「お二人を見てて、アサクラさんが一方的にタカミさんに執着しているかと思ってました」

「そんな事…」

「別にどっちでも良いや。 ボクは自分の欲しいモノは絶対、手に入れますから。 男でも女でもパートナーが決まっている人でも」

「手に入れて飽きたらすぐに捨てるんだ」

「飽きるか、飽きないかは…試してみないとわからないですよね」

カウンターの下で慧の手がそっとヒロユキの太股に置かれた

今日、初めてヒロユキは慧の瞳を真っ直ぐ見据える


「セックスしたいの?」






どこに居るのかもわからない2人を机上で思いを巡らせる事しかダイスケは出来ずにいた

いや、2人一緒に居ることすら憶測なのだから…

携帯を鳴らせばクリアになるけれど、すべてを知るのが怖い

分かっていた

いつかヒロユキが誰かに浚われて行く事

彼に心奪われ、彼が心惹かれる誰かが現れると…

こんなに愛していてもそれが何だって言うのだろう

永遠を縛り付ける鎖にはならない

それでも…

「ヒロ…今どこ? すぐに帰って来てよ」

届く筈ないどこかに居るヒロユキに向かい…ダイスケは呟くしか出来なかった



「ダメだわ…サイトウくんの携帯繋がらない。確認したい事があったんだけど…」

「そうなんだ」

アベはダイスケの憂いを知っていて慧に連絡を取った訳では無いが結果的にダイスケの不安を増しただけだ

いっそ、ヒロユキの部屋に行ってみようかと思った

そこに行けば・・・

すべてが間違いだったか、すべてが崩れ去るか、とにかく答えは出るのかもしれない

自分の想いが今、試されている






「アサクラさんとセックスしてるんだ」

それが慧の癖なのだろう、見下すように少し目を細めた

「意外…でもないか。 かなり親密だったから」

ヒロユキはもう何杯目になるか分からないグラスの中の琥珀色を見つめたまま何も言おうとはしなかった

「あの人、どんなセックスするんですか? 何か想像出来ないや。 いつも清廉な感じだから・・・よがったりするのかな?・・・」

「それくらいにしとけよ!」

乱暴に置かれたグラスから液体が波打ってこぼれた

慧の口からダイスケの事を、それも卑しげに語られるのを黙って聞いている訳にはいかない

フフッと笑みを作り慧がヒロユキの耳元に唇を寄せる

「そうですよね。 タカミさんがどういう風に抱くのか、これから見せて貰える訳だし。 ボクの家…ここの近くなんです」

小声で囁いた

「出ようか」

「ええ」

ヒロユキの身体に全てを預けるように慧は歩き出す

すでに “恋人” 気取りだ



2人を乗せたタクシーは豪奢なマンションの前で止まった

「凄いね」

親の資産ですからと慧は謙遜した

なるほど・・・こんな生活をしていれば他人を見下すのも仕方ないか

最上階まで見上げようとすれば首が痛くなるだろう



部屋に入るなりヒロユキは慧を抱きしめ、乱暴に唇を塞いだ

「んぅ……いた…い」

離れようとする手首を抑え背中を壁に押し付けた

「…したいんだろ」

ヒロユキの冷たい声色に慧は目を閉じて再び長く深い口づけをした

この夜を名付けるなら


・・・・・・背徳





…何かが違う

…そんな事は初めから分かっていた


「…ひどいなぁ」

やっと身体を離したヒロユキに慧がなまめかしい視線を送る

「エチケットとしてシャワーくらい浴びさせてくれなきゃ」

玄関から寝室に場所を変えても抱擁を止めることはなかった

「そっか…そうだね、ごめん」

慧は携帯を弄びながら視線をヒロユキに移す

赤く濡れた唇が口づけの激しさを表して少し興奮している自分を意識した

「ボクは嬉しいけど…」

慧はヒロユキの頬にキスをしてバスルームへ向かった

「あ…基本的にボクは隠し事無しなんで。 携帯かかってきたら出ても構いませんよ。 じゃあ、待ってて下さいね」


慧の姿が見えなくなるとヒロユキは深い溜息を2、3度吐いた

「オレ…何やってんだ」

挑発にちょっと乗った振りをしてみせただけだと…

無造作に脱ぎ散らかしてベッドの下に落ちているジャケットを手に部屋を出ようとした時

けたたましい音量で着うたが流れ始めた

さっきの慧の言葉を思い出し、反射的に携帯を掴むと通話ボタンを押した


「はい…」

『あ…これってサイトウさんの電話じゃ…』

「今ね、彼は風呂…」

『……ヒロ?』


それがダイスケの声だと分かってもヒロユキは何がどうなったのか理解出来なかった


「大ちゃん…」


どうして着信表示を見なかったのか

どうして電話に出てしまったのか

後悔と呼べる程、簡単じゃない

「大ちゃん!これは」

ツーツーと、機械音が聞こえる携帯をヒロユキはただ握りしめていた


「電話鳴ってましたよね?」

いつの間にか慧が隣に立っていた

髪からはまだ拭いきれない雫が落ち、ピンク色に火照った肌からは柔らかい香りがする

ヒロユキは無言で押し倒しその華奢な体躯を組み伏せた


「タカミさん…好き」

自分に向けられている瞳が怒りを映していることに慧は気づかなかった




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