The best time of life. [前編]
【リクエスト内容・・・・・結婚】
「へぇ〜〜〜鈴木さん、結婚したんだ。おめでとうございます」
久し振りに会った飲み仲間の左の薬指に光る指輪を見つけてヒロユキは驚いた
・・・結婚なんてオレのキャラじゃないから絶対しないよ・・・・いつもそう言っていたからだ
ソコをいじわるく突いてやると、あっけなく相好を崩して嬉しそうに言った
「うん・・・・まぁな・・・いつも一緒にいるとか一緒に住みたいとかなら結婚しなくても良いんだけど
・・・何か〃コイツと同じ籍に入りたい〃って、いきなり思ったわけさ・・・自分でもわかんね・・はずみかな」
彼は照れくさそうに仲間から薦められたグラスの中身を一気に空けた
結婚している友人が回りに少ないから、今イチ身近に感じられないけれど・・・やはり〃はずみ〃で出来る事ではないと思う
もちろん、兄達はすでに若い時に結婚して子供も持ち、いわゆる『幸せな家庭』を築いているからその暖かさを知らない訳ではない
「結婚・・・・ってどうしてするんでしょうね?」
「えぇ・・・・?難しい事聞くなよ」
「すいません・・・・」
「ヒロはさ〜〜〜今までにこの人なら結婚しても良い!って思った事はないんだ?」
「あ〜〜〜若い時ってゆーか、ガキの頃は付き合うイコール結婚するって思ってましたよ」
「それは、また・・・マセガキだな」
「意味も分かんなかったから・・・ママゴトみたいなモンです」
「結婚って「壮大」なモンじゃなくて「ちっぽっけ」な感情が支配するんじゃないかな?コイツと一生一緒にいられたら良いとか・・・
弱い部分を見てしまって庇ってやりたいとか・・・コイツの手料理毎晩食べたいとか・・・オレが守って貰いたいとかさ・・・」
「でも・・・その想いが続かなくて別れてしまうじゃないですか?だったら「恋人」の方が楽なのに」
「・・・まぁな・・・オレも彼女に聞いたよ『ひょっとしたらお前の戸籍汚すことになるかもしれない』って、
そしたらアイツ『別に良いわよ、一度や二度汚れたって』だってさ。その言葉に負けたかも。オレ。女は強いよ」
「やっぱり、オレには理解出来ないですねぇ。アハハハ・・・きっと向いてないな」
「そうかな?絶対、現れるよ・・・そういう人がさ。案外、もうその人は近くにいるかもしれないし」
その人はヒロユキの帰りを部屋で待っていてくれた
玄関を開けるとヒロユキの足よりは小さな男物のブーツがキチンと揃えられてあった
「今日は早く終わったんだね?連絡くれたら迎えに行ったのに」玄関からリビングへと通じる廊下を声高に話しかけながら歩く
「おかえり〜〜友達と飲みに行くって言ってたから車じゃないでしょ?悪くて呼べないよ」
ダイスケはリビングの隣の寝室のベッドに寝転がったまま返事をした
それを見るなりヒロユキはダイスケの隣に倒れこんで同じように寝転がった
「だあいちゃ〜〜〜ん」
「あ・・・もうヒロってば・・ジャケットくらい脱がないとシワになるよ」
自分のジャケットを脱がせようとするダイスケの手を優しく止めた
「良いの、良いの。このまんまゴロゴロさせてよ」
まだシワになるのを気にしている彼を抱きしめる細腰に両手を回してそのまま顔を埋めた
「ヒロ?何かあった?」髪を撫でながら顔を覗き込むけれどそれ以上深くは聞いてこない
時々君に無性に甘えたくなる 受け止めて欲しいのは君だけ
「何でもないよ・・・大ちゃんに甘えたいだけ」
甘えながらヒロユキはダイスケの着ているTシャツの裾から手を差し入れ始める
慌ててダイスケは動き出したヒロユキの手を止めた 「・・・ヒロ、この手は何かな?」
「あ・・・・バレた?」
「どさくさに紛れないでよ〜〜まったく。帰って来ていきなりは嫌だよ」軽くヒロユキの頭を叩く
「うん・・・ゴメン。お腹空いてない?」
「ボクは済ませて来たよ。ヒロは?飲んだだけじゃない?」
いたずらな手は引っ込めたものの、ダイスケの腰に両手を回して甘えるのは止めなかった
「寝るなら着替えないとダメだって」咎めるのでもなく何度も髪を梳きながらダイスケの優しい声がヒロユキに降りてくる
それが胸の奥にまで響いてくるのを感じながら瞼が下りてくるのに逆らう事は出来なかった
「疲れてるんだね」
開け放した窓を閉める瞬間、強い風に乗って部屋に届けられた金木犀の香りを鼻腔に感じた時にはすでに深い眠りの中にいた
朝、ヒロユキが目を覚ました時には隣に居る筈のダイスケの姿は無く
掛けられていたブランケットを剥いで見ると着たままだったジャケットは無理矢理に脱がせられたようだった
流石にそれ以外の洋服は脱がせられなかったみたいで、楽になるようにと少しだけ下げられたズボンのファスナーが恥ずかしかった
起きてキッチンに行くとダイスケはいつものように100%果汁ジュースを飲んでTVを見ていた
「おはよう。大ちゃん」
後ろから抱きしめるようにダイスケの手からグラスを取り上げるとジュースを一気に飲み干す
「まだ半分も飲んでなかったのにぃ、もう!・・・」
「美味しい」テーブルにグラスを戻し、ダイスケの頬にキスをする
「今日は外の撮影?」
TV画面はお天気情報になっていた
「うん、海の近くで撮るんだって。ホラッ、オレって海が似合うからさ」
振り返ってヒロユキを見る目が真ん丸くなった そしてダイスケの目はTV画面に戻った 「ハイ、ハイ・・・」
「大ちゃん〜〜無視しないでよ。アレ?」
「どうした?」
今から自分が行く筈の画面を指差した
「アレ〜〜〜夕方から雨かぁ・・・ちょうど帰ってくる頃。高速乗ってる時だけは勘弁して欲しいな」
「ヒロも雨の高速は苦手?」
「うん・・・て言うか、雨って速く走らなきゃダメって気分になるみたいで運転してると怖いんだよ。
特にトラックとかは時間と闘ってるからね」
それでなくてもこの時期はいきなり強い雨になって視界も狭くなるから・・・とヒロユキは呟く
「今日は自分で運転しない方が良いんじゃないの?」
あまり運転の事でヒロユキが愚痴を零さないのに珍しいとダイスケは不安になった
「うん・・・でも自分の車で行った方が時間のロスとか無いし、終わってすぐに大ちゃんの許に戻って来れるからね」
「迎えに来てくれるの?」 さっき飲まれてしまった果汁ジュースをもう一度グラスに注いで今度は取られない様に口に運ぶ
ソファに座るヒロユキがダイスケへと手を伸ばして隣に座らせる
今度はグラスを取られまいと軽く睨みつけるけれどヒロユキは笑ってダイスケの肩を抱き髪にキスをした
「もっちろん。大ちゃんが来い!って言うならパリだって行っちゃうよ」
目の前に広げられた『パリ』のガイドブックを指差し今度は頬にキスをする
ジョークだって分かっていても好きな人から聞くセリフには勇気をくれる魔法がかかっているような気がする
「そっか・・・絶対、パリで言うからね・・・その時は来てよ」
「OK!・・・取り合えず今日は時間までは約束出来ないけど一緒に食事しに行こうね。」
いつまでもイチャイチャしたいけれど、撮影時間が決まっているスケジュールを無視する訳にはいかない
それに一度自分の部屋に帰ると言うダイスケを送っていく為に早めに出ようと決めていた
地下の駐車場から車を出す時に今日の空を見て、今にも降り出しそうな曇り空にダイスケの身体が少し震えた
「ん?どうしたの?寒い?」ヒーターを入れるにはまだ早いこの季節
「大丈夫・・・寒いわけじゃないんだけどね。ねぇ?ヒロ、本当に自分の車で行くの?」
「何だ・・・さっきの話まだ引っ張ってんの?そんな心配しないでよ」
軽快に車を走らせるヒロユキから不安の影など見つける事は難しかった・・・自分の取り越し苦労だとダイスケは思った
でも、不安を拭い去ってくれるような青い空は出てくる気配もなく・・・曇り空はグレーから黒にと色を変えつつあった
その雲の下ではすでに冷たい大粒の雨が落ちてきていた
「これでラストです」カメラマンの声に続いてシャッター音が軽快に響く中ヒロユキは自由にポーズを決めてフィルムに収まる
「お疲れサマです」撮影に携わった人達から労いの拍手が沸いた
「お疲れ〜〜〜〜〜」ヒロユキもスタッフに労いの拍手を送る
顔馴染みの雑誌のライターが近寄ってきて「お疲れ様でした、休憩挟んでインタビューやっちゃいますね」
海が見えるオープンカフェに移動して束の間の休憩を取る
最初はテラス席にと促されたが今にも雨が降り出しそうなので店側が気を効かして中でのインタビューとなった
グラスの中に浮かぶ氷さえ冷たく感じて見えるほど低い気温
良い写真を撮る為とは言え海辺での撮影はヒロユキもカメラマンもある意味命懸けだとジョークが零れる程だった
その甲斐あってポラをチェックした限りではとても良い出来だとヒロユキは思った
「何かさ〜凄い良い写真になったって気しない?」向かい側に座ってヒロユキの休憩が終わるのを待っているライターに話かけた
「あら?いつもタカミさんの写真は良いデキでしょ。今日に限ってどうしたんですか?」苦笑して真面目に受け止めてくれない
撮影していたとは言え営業時間なので普通にお客さんもいる
少し離れた所にOLらしい4人の女性が何かの雑誌を全員で覗き込んでキャーワァーと笑い合っていた
その声にヒロユキ達も目を向ける
「若い子は良いわねぇ・・・キャピキャピで・・・」溜め息混じりにライターが笑みを零す
「キャピキャピって・・・・・」ココで否定したら余計にライターの機嫌を損ねる気がしてヒロユキは口を閉ざした
「さっきトイレに立った時に見たんだけど、あの中の一人が結婚するみたいで、
ドレスのページ広げて『コレにしたの』ってみんなに言ってました。今が一番楽しんでしょうね」
「・・・結婚かぁ・・・」
声には出さず、口の中だけで反芻する
にも、関わらず「あらっ?タカミさん気になるんですか?」職業柄、些細な事が引っかかるようだ
「そうじゃないけどさ・・・『結婚』ってナンだろうね?」思わず常に疑問に思っている事を聞いた
「ナンだろう・・って言われても。ただの行事ではないですよね?」
「家族が欲しい・・・家で待ってくれる人が欲しい・・・食事を作ってくれる人が欲しい・・・一緒に喜んだり泣いたり出来る人が欲しい?」
「う〜〜ん、それだけでは無いと思いますよ」いつもは雄弁なライターが困ってる
「『種の保存』だったらいたしてしまえば終わりだよね。一緒にいる事は無いよ、なのにさ・・・どうしてだろう?」
「・・・きっと、理屈じゃないんじゃないでしょうか?会った瞬間にビビッって来るってよく言われるじゃないですか・・・
昔はそんな事有る訳ない!って思っていましたが、この歳になるとそう言う奇跡みたいな事でもない限り結婚しないと思うんです。」
「奇跡ね・・・」飲みかけていたグラスの中身を一気に喉に流し混む・・・途中、小さな氷の欠片が喉に引っかかって融けてゆく
「さぁて、インタビュー始めちゃいましょうか?」ライターがレコーダーのRECボタンを押した
「ありがとうございました、お疲れ様です。良い記事になりそうですよ」
「ありがとうございました、楽しみにしてます。じゃあ、また」
30分ほどのインタビューを無事に終えて、挨拶を交わしながらマネジャーはヒロユキは近づいた
「お疲れ〜〜ヒロはこのまま帰っても良いよ。」スケジュール帳を確認しながら告げられた
「だよね〜〜〜この後スケジュールあるって言ったら怒るよ。ハハハ・・・」一日のスケジュールくらいは頭に入っているつもりだ
インタビューしている間にも段々外は薄暗くなり風も強くなっていた
外に出てみると、風の中に『雨』の気配を色濃く感じ始めた・・・もう来るかも・・・
「気をつけて」マネージャーの声に送られて車を走り出す、『あと1時間半くらいで着く』と乗り込む前にダイスケにメールを送った
高速に乗るとすぐに小さな雨粒が落ちて来た・・・と思った途端にフロントガラスを突き破るかと思うほどの大雨になった
「うわぁ・・・天気予報が当たった訳だ・・・」
忙しなく左右に振れるワイパーを見ると、ふとサイドミラーに映った5,6台後のトラックが目に入った
それでなくてもこの大雨の中のトラックは苦手なモノがある
追い越して来る時の水しぶきとか風圧とかが嫌いだった
「アレ・・・ちょっと変かな・・・?」
フラフラと右に左に車体がブレている気がしてならなかった・・・・・雨のせいかな・・・・・
気になるなら初心者とかが走る一番左の車線を行けば良い様なものだが運転に自信のあるヒロユキがそんな事を考える事はなく
あまりの強い雨のせいでどの車も車間距離を図れなかったり、道路に溜まった水にタイヤを取られていたりしている
かと言って高速道路は速度を落とす事もままならなくて、横を走る車体が高い車が上げる水しぶきにヒロユキの視界が
一瞬見えなくなった
「あっぶねぇ〜〜〜〜」
そのせいで、無茶な追越しを繰り返すトラックがすぐ後を走っている事にヒロユキはまだ気付かなかった
ふらふらしながらトラックは何故かヒロユキの方に異常な接近をしてきてヒロユキが気付いた時には
バックミラー一杯にトラックが映った
ガガガッ・・・と車体が擦れる音がしてぶつかる衝撃を感じた
それでもこのままマトモにぶつかる訳にはいかないとヒロユキは引き摺られそうになるハンドルを強く切って分離帯に突っ込んだ
鉄の柵にぶつかって意識を手離す瞬間に浮かんだのはダイスケの笑顔だった
「大・・ちゃ・・・ん・・・」
**************************************** to be continued
Rillaさんからのリクエストで書かせて頂きました。
けど・・・・・キリリクなのに続き物ってどうなの?!(^_^;
ちょっとやってみたかっただけです(笑) 本当にたいした事はないの・・・ラブラブに決まってるんだからさ♪
後編・・・凄く短かったらゴメンネ(誰に謝ってるんだろ?)
suika
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