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数日後、ライブの打ち合わせがダイスケのスタジオで行われた。
打ち合わせは順調に進んだものの、すべて終わったのは深夜。 早々に解散ということになった。
『ダイスケ〜、車まわしてくるから 待ってて』
アベがキーを掴んでスタジオを出ようとするのをヒロが止めた。
『あ、アベちゃん、大ちゃんなら俺が送るから・・・・・ね?』
いきなり 「ね?」 と言われたダイスケは、ヒロとアベちゃんの顔を交互に見ながら
『あ・・・・・うん。』
なんとなく頷く。 ヒロが送ってくれるなら そのほうがいいに決まってる。
『へぇ?いつ約束してたのよ? てか、ヒロが送るなんてめずらしいわね〜』
『たまにはね〜』
『そうでなくても梅雨時で雨が多いんだから、これ以上降らせないでよ?』
『ひっどいなぁ・・・・、今夜は晴れてるじゃん』
にこにこ笑うヒロを横目で見ながら、ダイスケは少し不安になる。 どうして急に?
何か二人きりで話があるに違いない。だから送ってくれるんだろうと・・・・。 どんな話?  
A*Sの契約が そろそろ切れるころだ。 CDも出したし、ライブも成功した。 夏のライブもチケットは完売している。
それでヒロの気がすんで、またソロ1本でやるから・・・・とか言い出さないだろうか。
そんな話だったら嫌だな。 ダイスケは7年前の傷が疼いて、そっと胸をおさえた。
 
ヒロに引っ張られるようにして、駐車場から車に乗り込んだ。
『シートベルト締めてね』
言い終わらないうちに車を発進させる。
『ホント、ヒロせっかちだよね、安全運転でね』
ヒロの横顔を見ながらダイスケが苦笑いすると、ヒロも前を見たままで微笑む。
『ヒロ?』
『ん? なぁに?』
何か話があるんでしょ? と喉まで出掛かっているのに、聞くのが怖くて言葉が出てこない。
俯いてしまったダイスケを見て、今度はヒロが苦笑いする。
『だぁいちゃん、 また何か変なこと考えてるでしょ?』
『べ・・・つに、何も・・・・』
『そう? スタジオにいるときから変だったよ・・・・・・・・あ、俺がアクセスやめるとか考え・・・』
『やめるの!?』
その瞬間、車は急ブレーキをかけて、道の端に止まった。
シートベルトを外して、ヒロがちょっと困ったような顔でダイスケと向き合う。
『な・・・に? ホントにやめたいの?』
てっきり その話のことで車を止めたのだと思ったダイスケは不安いっぱいの顔でヒロに問う。
そんなダイスケを見て、ヒロは大きく溜息をついた。
『俺って 本当に信用ないんだね〜。 まぁ自業自得ってとこもあるけど・・・・』
あのね、大ちゃん・・・・と、ダイスケの方に少し近づく。
『俺、好きだって言ったよね? 彼女とも別れたって。 ・・・・確かにアクセスと大ちゃんは別かもしれないけど
俺は欲張りだから両方欲しいよ。 だから変な心配しないで・・・・ね?』
微笑みかけるヒロを見て、ダイスケも ちょっと安心したものの不安が完全に拭い去れたわけではない。
『じゃ・・・やめない? もうすぐ更新の時期だけど・・・・更新・・・する?』
『するする。ぜんぜんする!』
『ぜんぜんって・・・・・ヒロ 日本語おかしいよ』
そう言って笑ったダイスケの頬に素早くヒロの唇が触れる。
『ヒロ!?』
頬を押さえたダイスケが慌てて窓の外を見たけれど、深夜の住宅街に人の姿はない。
そのまま車は、また走り出したのだが・・・・・・・
『あれ?・・・ヒロ、道、違わない?』
深夜の道路は空いていて、車はスムーズに進んでいくのだが、その景色にダイスケは見覚えがない。
『え〜? 違ってないよ』
ヒロに言われて、もう一度外を見たものの、やはり知らない道だ。
『裏道かなんか? いままでこんな道通って帰ったことないもん』
『そりゃないでしょ、俺んちへ向かってるんだから』
え? というカタチに口を開いたまま言葉が出ない。 どうしてヒロの部屋に?
『大ちゃん、そんな顔しないの』
ヒロが笑いながらダイスケを見る。 自分がどんな顔をしていたのか分からないダイスケはムスッとして言い返した。
『だって、送ってくれるって言ったよね? それがどうしてヒロンちに行くの?』
『大ちゃんちに送る・・・とは言ってないよ』
『そんなの!・・・・でも・・・・じゃ、ヒロの部屋に何しに行くの?』
『わからない?』
意味深に聴かれても、ダイスケには分からない。 首を振ると・・・・
『着いたら教えるよ。』
ヒロはそれだけ言って、もう口を開こうとはしない。
ずるいなぁ・・・・・と小さく呟いて、しかたなくダイスケもシートに凭れて、運転するヒロの横顔をジッと見ている。
 
 
20分程でレンガ色のマンションに到着した。 1階にある駐車場から直接エレベーターに乗る。
ダイスケがヒロの部屋へ行くのは初めてのことで、少し緊張してエレベーターの表示ランプを黙って見つめている。
ヒロはといえば、ご機嫌な顔で歌を口ずさんでいるのが、ダイスケから見ると小憎らしい。
5階で降りると、左右にドアが2つある。 各階2件づつという作りらしい。 
右側のドアの前に立ったヒロは ドアを開けようともしないで、ダイスケを見ている。
『どうしたの? 入らないの?』
不審そうに訊くダイスケの後ろに廻り込んだヒロが彼の背中を軽く押して言う。
『大ちゃんが開けて・・・・』
あ・・・・・。 ヒロがここに連れて来た意味が やっとダイスケにも分かる。
合鍵をもらったものの、ダイスケはヒロの部屋がどこにあるかも知らなかった。
場所を教えるために今夜連れて来てくれたのだろう、そして最初は二人いっしょに入りたかったのかもしれない。
そう考えて、ダイスケの機嫌も一気に持ち直した。
『鍵・・・・忘れちゃった・・・・』
『ええぇ〜〜〜!!!』
ヒロのびっくりした声にダイスケはニヤッと笑って
『うそ、うそ、持ってる』
と、ポケットに手を入れる。
『大ちゃ〜ん? 俺、今 倒れそうだったって』
『ごめん・・・・だって、ヒロ何も言ってくれなかったからホントに不安だったんだよ? ちょっとお返し』
そう言いながら、鍵をまわす。 ロックの外れる音がしてダイスケがヒロを振り返ると、ヒロは小さく頷いた。

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