* prologue *
T- side D

 

 

どうしてこんなことになってしまったんだろう・・・・・。
すべてが終わって自分の部屋に帰ってきたダイスケは
寝室の灯りを付けることもせずベッドに座ったままボンヤリと空を見つめていた。
 
 
初めてヒロを見た時、綺麗な子だな・・・と思った。
2歳年下だと聞いていたが、自分より背も高く大人っぽい気がした。
話してみると とても感じがよくて もっといっしょにいたくなった。
でも一番印象的だったのは その歌声。
氷の上を滑っていくような、どこまでも透きとおったハイトーン。
聴いていて鳥肌が立つことさえあった。
声が好きだ・・・・と感じてから、ヒロ自身を好きになるのに時間はかからなかった。
相手が男性だということも その時は何も気にならなかった。
どうせ適わない相手なのだから想っているだけでいい・・・・。
それがダイスケの考え方だ。 いままでも・・・・そしてこれからも・・・。
 
『いっしょにユニットを組まない?』
ダイスケの誘いに大きく頷いて笑ったヒロ。
それからは すべてが順調に進んだ。
A*Sと名づけた そのユニットは
ダイスケの作る音楽にヒロのハイトーンボイスが調和して独特のサウンドを生み出した。
デビューしてすぐにライブハウスをソールドアウト。
わずか1年で武道館を満員に出来る人気を得ていた。                                         
あまりにも順調過ぎたのかもしれない。
ダイスケは ただただ楽しかった。 好きな人といっしょに音楽を作り出すことが。
ヒロはやさしかった。 どんなに疲れてても、ダイスケが無茶な注文をつけても
機嫌を悪くして声を荒げるようなことはなかった。 ちょっと困った顔をして微笑うだけ。
だから・・・・・少しづつ、ほんの少しづつ、
ヒロの中で不満が育っていくのがダイスケにはわからなかった。
デビューして2年・・・・という時にヒロの事務所から突然A*Sを辞めたいという
申し出を聞いた時は寝耳に水という状態だった。
『やめたいの?』
ダイスケが直接ヒロに問いただすと 彼はいつもの笑顔を浮かべて 
他の音楽もやってみたいから・・・と。
『だったらアクセスの活動を一時休止すればいいじゃない。 やめることはないよ。』
でもヒロは ゆっくりと首を横に振って、中途半端なのは好きじゃないと言う。
今まで ダイスケの言うことに逆らったことなどなかったヒロのその態度にダイスケは動揺していた。
『本当は他の音楽をやりたいんじゃなくて、僕から離れたいだけじゃないの?』
自分が音楽作りに対しては かなり頑固だということはダイスケ自身も認めていたから
それが不満だったのかも・・・・と思って言った言葉だった。
でも、そんなことはないよ・・・・といつもの笑顔を見せてくれると思ったヒロが
気まずそうに目を逸らすのを見て、ダイスケは ますます動揺してしまう。
もしかして・・・・・、 もしかしたら自分の想いを知られていたのでは?
それが嫌でヒロは離れようとしているのだとしたら・・・・・・。
・・・・・そしてダイスケは普段なら考えられないミスを犯した。
『僕の気持ちに気付いてた・・・・・の?』
言ってはいけない言葉だった。 すべてを壊してしまう言葉だった。
ヒロは どうしていいかわからない顔で苦く微笑った。
 
それはダイスケの気持ちを知っていたことを肯定していた。
 
 
その日からA*Sの活動を停止するまでの約1ヶ月間
ダイスケもヒロも何もなかったかのように行動を共にしていた。
でもヒロがダイスケに対して少し距離を置いているのはあきらかだった。
いっそ突き放してくれた方が楽かもしれないのにとダイスケが思っても
ヒロは相変わらずやさしくて・・・・・。 ダイスケにはヒロの気持ちが読めなかった。
最後の大きなライブが終わった時 ステージの上なのに涙が止まらなかった。
もう2度とヒロとステージに立つことはないだろうと思うと涙を止めることが出来なかった。
そんなダイスケを振り向くこともなく、ヒロはA*S最後のステージを降りていった。


年が明けて、事後処理のような仕事も すべて終わると
二人きりになった事務所の部屋で ヒロはダイスケに右手を差し出して、
いろいろ ありがとう・・・・楽しかった、と微笑みながら握手をした。
『うん。 こちらこそ ありがとう。 とても楽し・・・・・・・・・』
言葉といっしょに涙がこぼれそうになり、ダイスケは俯いてしまう。
そんなダイスケに また会えるよ、俺に出来ることがあったらいつでも呼んで・・・と
ヒロはあくまでやさしい。 そんなヒロにダイスケは心の中で言い返す。
(嘘吐き・・・・もう会う気もないくせに・・・・・・・・・、そうだね、仕事だったら嫌でも来るよね)
奥歯をぐっと噛締めて ダイスケは無理矢理笑顔を作った。
『うん! じゃあ、またね!』
 
 
寝室の暗さにも気付かずに、ヒロのことを考えていた。
ヒロの笑顔が好きだ。 ヒロの思考が好きだ。 ヒロの声が好きだ。
ヒロの髪が、ヒロの指が、ヒロの瞳が・・・・・・。 
もう涙も流れない。
今ここで ヒロへの想いは断ち切ろう。 明日から生きていくために。
2年間、夢を見ていたと思えばいい。 何事もなかったように日常に戻ろう。 
大丈夫、すぐに元気になれる。 
だって、夢を見ていただけだから・・・・・・・。 とても楽しくて切ない夢を・・・・。

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