*** LOVE FOR NOW ***

 

T side-D

 

ダイスケがスタジオのソファーでボンヤリ宙を見ていると、その視界に怖い顔をしたアベが入ってきた。

『ダイスケ〜、ボーッとしてても仕事は終わらないわよ。 いつまでそうしている気?』

『だよね〜』

そう言いながらもダイスケは立つ気配を見せない。

『どうしたの? 何かあった? 具合でも悪い?』

少し心配顔になったアベに、そうじゃないけど・・・・と言葉を濁す。

『何よ? 言いなさいよ』

そう言ったことをアベは10秒後に後悔するのだが・・・。


『ヒロのさぁ・・・・携帯ってよく鳴るよね・・・』

『そぅ?』

『僕といるときは切ったり留守電にしたりして出ないんだけどさ、それって僕に気を使ってだと思う?

 それとも やっぱり相手が女の子だから、僕の前では出られな・・・・・アベちゃん?』

ドアに向かってスタスタ歩き出したアベをダイスケが呼び止めると彼女は さっきの倍くらい不機嫌な顔で振り向いた。

『そこで一生ヒロの心配してなさい! ただし明日にはニシカワくんの曲仕上げないと詞が間に合わないわよ。

 そんなことになったら 向こう1ヶ月 ヒロとは会わせないから そのつもりでね!』

一気に捲し立てて、アベはドアの向こうに消えていった。

えぇ〜〜〜? というダイスケの抗議の声も届かなかったに違いない。

『・・・・・・・お仕事しよっかな・・・・・・・』

誰に言うでもなく呟いて仕事部屋に入る。

 

曲は最後の一曲で、殆どは出来上がっていたので、仕上作業は2時間ほどで終わった。 

ふとドアのガラス窓を見ると誰かが手を振っている。

ヒロ・・・・のはずはなく、ブロンドに近い髪の色はニシカワだった。

『こんばんわ〜・・・・今、いい?』

そう言いながら すでにドアを開けて入ってきている。 

ダイスケは この部屋へはあまり人を入れたがらず、スタッフも気を使って近づかないようにしていたが、

ニシカワは最初から平気で入ってきていた。

自分が特別という意識があるわけではないのだが ニシカワの性格がそうさせているのか誰もとがめる者はいない。

だからダイスケもあえて止めることはしていなかった。


『ちょうどよかった。 今曲が出来たとこだよ。聴いていく?』

ダイスケは そう言いながらガラスの外を覗いてみたが誰も見当たらない。

『ひとり?アベちゃんいなかった?』

『うん、仕事の帰りに寄ってみただけやから。 アベちゃんどころかワンコも見当たらんけど・・・・?』

『ああ、アーちゃんたち、今日は美容院。 あ、アベちゃん迎えにいったのかな?』

様子を見ようと部屋から出ようとしたダイスケの腕を掴んでニシカワが引き戻した。

『なに? あ、そっか、曲を聴・・・・く・・・・・・』

曲を聴きたいのかとニシカワの顔を見たがそんな感じではない。

『ちょっと・・・・訊きたいことがあんねんけど・・・』

いつになく歯切れがわるい。

なに? と首を傾げるダイスケに、こんなこと言える筋合いじゃないんだけど・・・・と。

『タカミさん・・・・・さぁ・・・・』

ニシカワの口から その名前が出るとは思ってもいなくてダイスケは少し動揺をみせた。

そんなダイスケを見て ニシカワはちょっと苦笑いする。

『やっぱり・・・付き合ってるん?』

『な・・・に言ってんの? どうしてそんなこと聞くんだよ?』

ダイスケのことを よく知ってるニシカワに否定もしづらいが、かといってヒロに迷惑がかかるかもと思うと肯定もできない。

『・・・・ん・・・・付き合ってないんやったら ぜんっぜん関係ない話なんやけど』

ヒロのことだったら どんな小さいことでも気になるダイスケに関係ない話なんてあるはずはない。

『何? そういう言い方気になるだろ。 はっきり言えば?』

『うーん・・・・・・昨日ね、飲みに行ったんだよね〜・・・六本木』

言いにくそうに話し始めるニシカワに、それで?と先を促す。

『そこでタカミさんに会った・・・・いや、見かけた・・・かな』

そっか、夕べはヒロ六本木に行ったんだ〜とのんきに構えてたら

『女の子連れてた』

という一言で、驚きそうになった自分をダイスケはグッと収めて微笑ってみせる。

『ふぅん・・・ヒロだからね〜、女友達なんていっぱいいると思うよ』

そんなダイスケの言葉にニシカワは ちょっと拍子抜けした顔を見せる。

『あぁ・・・そうなんや? タカミさんの腕にぶら下がるみたいにして歩いてたんやけど・・・彼女やないんかな? 

 ショートカットの可愛い子だったんだよね』

『へ・・ぇ・・・・』

自分でもわかるくらい顔が引きつってくるのがダイスケには止められなかった。

ヒロが女の子と遊ぶなんてよくあること・・・・・いつもそう割り切っているのに実際に聞かされるとやはり辛い。

『や・・・っぱり 付き合ってんねやろ?』

そんな顔をされたら気づくって・・・・・とニシカワに言われてダイスケも苦笑いを返す。

『二股? 浮気?』

そう訊かれても答えようがない。 

ヒロはそんなことしないと言い切れない自分が嫌になる。

『そんな顔すんなや・・・・』

ニシカワは そういいながらダイスケに近づくと、ふわっと唇にキスを落とした。

びっくりして後ろに下がったダイスケに、ごめん、つい・・・とニシカワが照れ笑いする。

しょうがないなぁ・・・・・と、笑おうしたダイスケの目がニシカワの後ろに見えるガラス窓の向こうに信じられない人を捕らえた。

ダイスケは目の前のニシカワを突き飛ばす勢いでドアを開けて仕事部屋を飛び出す。

すでにスタジオから出て行こうとしているその人がドアに手をかけたまま立ち止まった。

『ヒロ・・・・』

振り返ったその顔を見て ダイスケは何も言えなくなる。 明らかに目が怒ってる。

『・・・・・・・』

聞き取れないくらい小さな声で、ごめん・・・とヒロの口が動く。

そのまま 後も見ないでスタジオを出て行くヒロを、ダイスケは追うことが出来なかった。


『追わないの?』

後ろからニシカワの心配そうな声がかかる。

『なんで・・・・“ごめん” なの・・・・』

ダイスケがポソッと呟く。

キスされてたのを見られたのは自分なのに・・・・どうしてヒロが謝るんだろう。

『ねぇ、なんでごめんなの?!』

振り向きざま ニシカワに言葉をぶつける。

『謝るとしたら僕のほうじゃないの?! なんでヒロが・・・・・』

『邪魔してごめん・・・・って意味ちゃうの?』

『邪魔・・・・・・って・・・・・・』

ダイスケは頭が混乱して言葉が出てこない。

そんなダイスケを見てニシカワが同情するように顔を覗き込む。

『キスしてたのに邪魔してごめん。 オレは消えるから後はごゆっくり・・・・・って意味にしかとれないけど・・・』

ダイスケの顔がみるみる強張っていくのを見て ニシカワは思わず抱きしめようとして力いっぱい振り払われた。

どうしよう・・・・・・ヒロが怒ってる。 あやまったら許してくれるかな・・・・・・・・・・・・・・許してくれなかったら?

ヒロが自分の前からいなくなると考えただけで息が出来ないくらい苦しくなる。

謝らなきゃ・・・・・・・でも足がすくんで動けない。 

『大ちゃん・・・・・』

そこにいるニシカワの存在はダイスケの頭から完全に消えていた。

彼の目はヒロが出て行ったドアだけを見つめていた。

 

 

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