labyrinth 5 〜






どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・ヒロに何かあったら・・・・

ダイスケの頭の中に、他の言葉は浮かんでこない。

『大丈夫よ・・・・』

ヒロの部屋へと向かう車の中で、そんなダイスケを安心させようとアベが声をかけても

ダイスケは両手を組んだまま前を見つめて微動だにしない。

ヒロのことだから大丈夫に決まっている・・・・アベはそう思いながらも

電話をかけてきたハヤシが、ひどく心配そうだったのを思い出していた。



《あの・・・・うちのタカミから何か連絡なかったでしょうか?》

−−−−−いいえ・・・ヒロがどうかしたんですか?

《昼過ぎから仕事だったんですが、来なかったんです・・・連絡もなくて・・・》

−−−−−ヒロが? その後連絡は?

《それが、ケータイも繋がらなくて・・・・今、タカミの部屋の前にいるんですけど》

−−−−−いないんですか?

《ええ、多分・・・・ただ・・・・・・・睡眠薬が・・・》

−−−−−睡眠薬?

《昨日、眠れないからって、少量を渡したんですけど・・・・・大丈夫ですよね?》




眠れない? あのヒロが? アベはしばらく言葉が出なかった。

管理人に言って、ドアを開けてもらうべきか悩んだ末、アベに電話をしたらしい。

最近、ヒロの様子がおかしかったと心配そうなハヤシに鍵を持って今から行きますと伝え

アベとダイスケは車に飛び乗った。

もちろん、鍵を持っているのはダイスケで、普通ならハヤシも少し疑問に思うのだろうが

状況が状況なだけに、そんな余裕もなかったらしい。

アベから話を聞いたダイスケは一瞬、顔色を失くしたものの、

とるものもとりあえずといった感じで、アベの手を引くように車へと走る。




ヒロの部屋の前で、青い顔をしたハヤシがドアにもたれて立っていた。

『あ・・・アベさん・・・・・すみません・・・・』

ダイスケたちの姿を認めて、ハヤシが縋るような声を出す。

アベが、大丈夫ですかと、労いの声をかけてる横をすり抜けるようにして

ダイスケが合鍵を使ってドアを開けた。

『ヒロッ?』

真っ暗な室内に駆け上がりながら、ダイスケが呼びかける。

いつもの習慣で、すぐにリビングの明かりをつけるが、そこにヒロの影はない。

隣の寝室へ続くドアをあけたとたん、ダイスケの口から声にならない悲鳴が上がった。

後を追うように室内に上がってきたアベとハヤシが、そんなダイスケの背中を見て

嫌な予感と供に、そこにヒロがいることを確信する。


『ヒ・・・ロ・・・・』

掠れた声で呼びかけながら、ダイスケがゆっくりとベッドに歩み寄る。

薄暗い部屋の中、ベッドに横たわる影はピクリとも動かない。

震える手を伸ばして、ダイスケはヒロの頬にそっと触れてみる。

・・・・温かい・・・・

『ヒロ! ヒロ! ねぇヒロってば!』

その温かさに助けられて、ダイスケはヒロの肩を思いっきり揺さぶった。

『・・・う・・・・ん・・・・』

小さくヒロが呻くのを聞いて、ダイスケが大きく息を吐くと同時に

後ろで見守っていた、アベとハヤシも息をつく。


『大丈夫だと思います・・・・これなら・・・』

ハヤシの言葉にダイスケが振り返ると、その手に錠剤のパッケージが握られている。

『これ、昨日渡したものなんですけど、1錠飲むところを2錠飲んじゃってるみたいで・・・』

『つまり、薬を飲みすぎて起きられなかったってことですか?』

アベが呆れた声を出すと、ハヤシが苦笑いしながら頷いた。

『じゃ、ヒロは大丈夫なの?』

まだ心配そうなダイスケにハヤシは笑ってみせる。

『ええ・・・このくらいなら・・・寝すぎてボンヤリするかもしれませんけど・・・』

『いつもボンヤリしてるけどね〜』

アベが憎まれ口を叩いたが、すぐに口元を押さえて、ごめんなさいとハヤシに頭を下げる。

いえいえ、こちらこそお騒がせして・・・・と、頭を下げあう二人を尻目にダイスケはじっとヒロの寝顔を見つめていた。



どうして睡眠薬なんか飲んだの?

何がヒロを眠れなくさせたの?

僕にはもう関係のないこと?



ヒロが死んでしまうかも・・・・そう思ったとき、ダイスケは後悔でいっぱいだった。

なんであんなにあっさり別れちゃったんだろう

絶対に別れたくなんかなかったくせに、変な意地を張って・・・・

ヒロ・・・ヒロ・・・早く目を覚まして・・・・

言いたいことがいっぱいあるから・・・・




『あとはアサクラに任せてもらえますか?』

アベの言葉に、ハヤシは一瞬戸惑ったものの、ヒロとダイスケの間に何かを感じていたのも事実で

黙って頷くと、アベと二人、静かに部屋を出て行った。

玄関の閉まる音を後ろに聞きながら、ダイスケはヒロの髪を撫でて、ひたすら目を覚ますのを待っている。




待ちくたびれて、いつの間にか眠ってしまったらしい。

ヒロの枕元に伏せていた顔を、ゆっくり上げたダイスケが、琥珀色の瞳を捕らえた。

『ヒロ・・・・』

囁くような呼びかけと同時にダイスケの目から涙が溢れ出す。

名前を呼ぶ以外、かける言葉も見つからなくて、ただただ泣いているダイスケに

ヒロは戸惑った表情を見せて、何かを呟いた。

でも、その声は小さく掠れてダイスケの耳には届かず、零れる涙を止めることは出来ない。

何も言ってくれないヒロに焦れるように、ダイスケは布団から覗くヒロの手を取ると

その指先に唇を押し当てるようにキスをした。

すると、それに反応したのか、ヒロがふわっと微笑みを見せる。

『ヒロ・・・・』

その微笑みが嬉しくて、ダイスケの瞳から、また新たな涙が溢れ出す。

『だ・・・・ちゃ・・・・・』

ヒロの掠れた声に、なぁにと、耳を傾ける。

・・・・そんなに泣いたら・・・目が溶けちゃうよ・・・・・

途切れ途切れの声に、ダイスケが小さく笑った。



---------- next ----------


すみませーん、まだ終わらないのか!とお思いでしょうが・・・・・
あと1回! 付き合ってやってください!!!<(_ _)>
ここで終わっていい気もするんですが・・・・私なりのこだわりです(^_^;

流花☆2005/01/10
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