labyrinth 6






ゆっくり、ゆっくり覚醒していく。

思考はハッキリしているのに、目を開けるのが苦痛だった。

目を閉じたまま、昨夜のことを考える。

そして、この状態になった原因に思い至る。


薬飲みすぎたんだ・・・・・。


バカなことをしたものだと、反省すると同時に、また胸の痛みが復活する。

問題は何一つ解決していない。

逃げてないで、向き合わないと・・・・・。


とりあえず、この状態から脱しようと無理矢理目を開く。

薄暗がりの中、目に飛び込んできたのは金色の髪。

その優しい色に、嘘のように胸の痛みが引いていくのがわかった。

なぜここにダイスケがいるのかはわからないけれど、

もしかしたら、これは夢かもしれないけれど・・・・

その髪に手を伸ばしたいのに、身体が自由に動かない。

多分、薬の後遺症だろうとヒロが歯痒く感じていると、目の前のダイスケがゆっくり起き上がった。

『ヒロ・・・・』

そう呟くなり、涙を零し始めたダイスケにヒロが戸惑う。

泣かないでと言った声は、喉に絡んでダイスケに届いてくれない。

すると、ダイスケがヒロの手を取って、その指に唇を押し当てた。

ちゃんと伝わってくる唇の温かさに、ヒロが微笑むとダイスケが再び涙を零す。

大ちゃん・・・・・・・・そんなに泣いたら・・・目が溶けちゃうよ・・・・・

掠れてはいたけれど、今度の声はダイスケに届いたらしく、やっと微笑みを見せてくれた。

『あ・・・・お水・・・』

呟くなり、ダイスケが立ち上がりキッチンの方へと姿を消す。


取り残されたヒロは、痺れたようになっている身体を少しづつ動かしながらベッドサイドの時計を見て

深夜を回っていることを確認して苦笑いを漏らした。

明日は、マネージャーどころか、社長にもどやされそうだ。

ゆっくりと腕を上げて、指を1本1本折っていく。

なんとか、動くことにほっとしているところへダイスケがペットボトルを片手に戻ってきた。

『ヒロ・・・・大丈夫? 水・・・・飲む?』

『うん・・・・飲ませてくれる?』

まだ少し掠れる声で、横になったまま甘えたように言うヒロに

ペットボトルの蓋を開けていたダイスケがボトルとヒロを見比べて困った顔をする。

『え・・・と・・・・寝たままだと零れちゃうかな・・・どうしよ・・・・』

『だから・・・・大ちゃんが飲ませて?』

『うん・・・だから・・・・あっ・・・』

やっと言葉の意味を理解したダイスケが困ったようにボトルを見つめている。

その戸惑い方を見て “口移し” なんてしたことがないのだろうと、ヒロがこっそりほくそ笑む。

それでも、ダイスケは思いきったようにボトルを傾けて水を口に含むと、ヒロの唇に押し当てる。

冷たい水はすぐにヒロの喉へと消えていき、もう一口とダイスケが唇を離そうとしたが

いつの間にか、ヒロの長い腕はダイスケの背中の方へと回り、その後頭部を押さえて離さない。

『んっ・・・・』

くぐもった声を上げるダイスケの舌を捕らえて、ヒロは両腕でベッドの中に引きずり込んでいく。

そして、いつの間にかダイスケを組み敷くカタチで見下ろすヒロにダイスケが唇を尖らせる。

『元気だよね』

涙の跡がついたまま、まだ赤い瞳で軽く睨んでくるダイスケがいとおしくて胸が熱くなる。

『うん・・・・大ちゃんが来てくれたから・・・』


言わなきゃならない、ダイスケが好きだと。

謝らなきゃならない、バカなこと言ってごめんって。

『だ・・・』

口を開こうとしたヒロの首に、いきなりダイスケがしがみついてきた。

『ヒロ、ヒロ、ヒロ・・・』

『・・・大ちゃん?』

びっくりしたヒロは名前を呼ぶ以外、何も思いつかなくて・・・・。

『すごく・・・すごく心配したんだから・・・』

『ん・・・ごめん・・・』

『なんで薬なんか飲んだの? 僕には言えないこと?』

ダイスケに会えなくて薬に逃げていた・・・・とは、ちょっと言いづらく黙っているヒロに

ダイスケは、焦れたようにもっと強くしがみつく。

『ヒロ・・・・・・好き・・・だよ』

ヒロの首筋に熱い息がかかる。

『別れたくなんかないよ・・・ヒロと一緒にいたい・・・・ずっと・・・・』

震える語尾で、ダイスケが泣いているのがわかる。

『大ちゃん・・・』

言いたいことのすべてを、どうして先に言ってしまうんだろうと、ヒロは大きく息をつく。

『こんなオレでも好きでいてくれるの?』

『ヒロじゃなきゃ・・・・だめなんだ・・・』

『嫌いにならない?』

気弱な口調に、ダイスケが身体を離して不思議そうにヒロを見上げる。

『どうして、嫌いになるの?』

『ん・・・・オレってすーごいヤキモチ妬きだって知ってる?』

濡れた睫毛を瞬かせて、ダイスケが黙って首を振る。

『きっと、この先、大ちゃんがウンザリするようなことを言い出すよ』

『どんな?』

『今日も会いたい、明日も会いたい、毎日会いたい・・・・』

すると、ダイスケが嬉しそうに微笑んだ。

『それから?』

『オレ以外の奴とは親しく口を利くな・・・とか・・・』

『じゃ、浮気は絶対ダメだね』

すごく嬉しそうなダイスケに、ヒロは戸惑いがちに頷いてみせる。

『なのに、ヒロは浮気しちゃったりするんだよね?』

しないよ!と、即答出来ない自分が嫌になる。

返事に詰まっているヒロに、ダイスケが小さく笑いを漏らす。

『ヒロ・・・・だから、別れようなんて言ったの?』

『ごめん・・・・』

目を逸らすヒロの頬を両手で包むようにして、ダイスケがじっと見上げる。

『ヒロ・・・・これだけは憶えといて・・・僕はヒロが好きなんだよ。

 ヤキモチ妬きでも、浮気ばっかりしてても・・・・たとえ、僕のことが好きじゃなくなっても・・・

 だから・・・・・だから僕のそばにいて?』

ダイスケの瞳から、大粒の涙が一粒零れた。

そして、その涙の上に、ヒロの零した涙がパラパラと落ちていく。

あぁ、きっと、この人には一生かなわないんだろうなと、ダイスケを強く抱きしめる。

『ヒロ?』

『ん?』

『お返事は?』

『お返事?』

きょとんとしたヒロに、ダイスケが笑いを漏らす。

『そばにいてくれる?』

『・・・あっ・・・・もちろん! どっか行けって言われてもいる!』

ダイスケは嬉しそうにヒロの顔を引き寄せると、その涙に濡れた睫毛を舌で拭った。

『ヒロの涙見たの久しぶり・・・・・・・ん?・・・・ヒロ?』

ダイスケの温かい舌で、ヒロの違うところまで刺激されてしまい、その昂りにダイスケが気付く。

『本当に元気だよね』

皮肉交じりの言葉に、ヒロが白い歯を見せる。

『だって、大ちゃんが誘うから・・・・』

『僕が!? いつ!? だいたいヒロは即物的すぎるっていうか・・・・・あっ・・・』

口では、ダイスケに敵わないのはわかっているので、ヒロは身体で応戦に出た。

悪戯に蠢く指で、ダイスケの抗議は喘ぎに変えられていく。

『大ちゃん・・・・愛してる・・・』

囁きと共に、ダイスケの喘ぎさえ、ヒロの唇に吸い取られて・・・・・。




声が掠れる頃になって、やっと解放されたダイスケがヒロの腕の中で眠りにつく。

さすがに24時間眠っていたヒロに睡魔が訪れるはずもなく、

穏やかな寝息を立てているダイスケの寝顔を、飽きることなく見つめていた。

彼といればすべてが大丈夫・・・・・そんな根拠のない確信がヒロの中に生まれようとしていた。

何があっても彼を離しちゃいけないということだけはわかっている。

『運命・・・・かな』

ダイスケを起こさないように、小さく呟く。

彼と出会ったこと、別れたこと、再会したこと・・・・・愛したこと・・・・すべて運命ならば、


この運命を受け入れよう。


そう決心したとたん、何か温かいものが心の中に広がる。


彼の目が覚めたら、まずなんて言おう?

“誰よりも愛してる”? “ずっと一緒にいよう”? 

いや、そんな大袈裟なことじゃなく・・・・でも彼の笑顔が見られる言葉。

“大ちゃんちのワンコ、紹介してよ”



唇を微笑みのカタチにして眠っているダイスケの髪に、静かにキスを落とす。

限りない愛をこめて・・・・・。








********** the end **********







このシリーズは、取りあえずここで終了とさせていただきます。
長い間、お付き合いくださって本当にありがとうございました。
大好きなシリーズでしたので、自分が一番寂しかったりします(苦笑)

天邪鬼な私ですので、またこんなようなものを書き始めるかもしれませんが
その時は、懲りずにお付き合いいただけると嬉しいです。

                                    流花☆2005/01/23
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