〜 labyrinth 4 〜 あれから何日過ぎたんだろう・・・・・。 当然のことだが、ダイスケからの連絡はない。 もちろん、ヒロから連絡なんて出来るわけもなく、日々は緩く流れていく。 1年ぐらい過ぎたような気がするのだが、実際1ヶ月も経ってはいなかった。 胸の奥に出来たシコリは、日を追うごとに大きくなっていて、それは夜ごと痛んでヒロの眠りを妨げている。 『顔色、悪いわね』 先日も、マネージャーのハヤシに指摘されたが、笑顔で否定する。 飲みすぎただけだから・・・・と。 もちろん、それで納得してもらえるはずもなく 『最近、ずっとよ? 何かあったの?』 仕事のことなのか、家族のことなのか、あるいは女性がらみなのか、ハヤシは次々訊いてくるが ヒロはただ笑っているだけで、何も答えようとはしない・・・・いやできない。 夜、ベッドに入るとダイスケを思い出す。 それは、何年も前からヒロの日課のようなものだった。 今頃、何をしているだろう。 きっと、スタジオに篭って曲を作っているんだろうな。 アベと笑いあって、犬と戯れて・・・・・そんなダイスケを思いながら眠りにつく。 それが、あの日から出来なくなっていた。 ダイスケを思い出すたび、痛む胸に耐え切れず、無理矢理彼を封じ込めた。 友人たちと遅くまで飲み歩き、好きでもない女と挨拶代わりのセックスをする。 そうやって逃げていても、彼の影はことあるごとに現われてヒロを苛む。 確かに、ダイスケと別れたことで、自分が “ 普通 ” だと安心していられた。 これが当たり前の姿だと、女性の丸い身体を抱きながら自分を納得させて・・・・。 だったら、この痛みは何なんだろう? ダイスケとは笑って別れられたのだから、何も問題はないはずなのに・・・・。 きっと彼は、何もなかったかのようにアルバム制作に忙しい日々を送っているに違いない。 ヒロのことなど思い出す暇もなく・・・・・・・そう考えて、また痛む胸・・・・。 酒を飲んで、潰れるように眠りについても悪夢に追われて目を覚ます。 自分以外の誰かと、親しげに笑いあうダイスケ。 名前を呼んでも、見えない壁に阻まれて声は届かない。 彼といっしょにいるのが男なのか女なのかも、ぼやけてわからないのに、その相手に嫉妬している。 ダイスケの唇が、相手のそれと重なり合う寸前に、自分の悲鳴で目が覚める。 汗びっしょりで目覚めた後は、もうどうやっても眠りは訪れない。 そんなある夜、煙草を探して開けた引き出しの奥に睡眠薬を見つけた。 数年前、仕事に行き詰って眠れない日が続いていた頃、友人から貰ったものだ。 そんなものがあることさえ、忘れていた。 引越しの時、なくならなかったのが不思議なくらいだ。 まだ、効力があるんだろうか・・・・・。 とても強い薬で、一錠飲めば効き過ぎるくらいのものだったけれど・・・・。 随分前のものだから効き目も薄くなっているだろうな・・・・そう思いながらも白い錠剤を口に含む。 こんなものに頼りたくはなかったけど・・・・・・それでも眠りは訪れた。 薬によってもたらされた夢は、怖いくらいに幸せなものだった。 ----- ねぇ、ヒロォ ----- ダイスケが甘い声でヒロを見上げる。 その声も、仕種も、見慣れたものなのに懐かしくて・・・・・。 細い身体を抱きしめると、背中に回される腕の感触が嬉しくて・・・・。 何度も何度も口づけて、ダイスケの口から “ 愛してる ” という言葉を引き出して・・・・。 蕩けるように甘い夢を見て目覚めた朝でも、感じる胸の痛みは変わらなかったけど 幸せな夢のために、ヒロは次の夜も、また次の夜も薬を飲み続けた。 夢の中では、ダイスケとレコーディングしていたり、食事をしながら笑っていたり、 肩を寄せ合って、街角を歩いていることさえあった。 なのに、何故かダイスケを抱く夢だけは見なかった。 でも夢の中のヒロは、ただダイスケといられれば幸せで、 罪悪感の欠片もない自分が嬉しくて・・・・でも、やがて薬は底を突く。 『ねぇ・・・・』 雑誌の撮影が終わって帰りの車の中で、運転席のハヤシに話しかける。 『睡眠薬って薬局で買えるかなぁ?』 軽く答えてくれると思っていたのに、ハヤシは急ブレーキをかけると、ヒロを振り返った。 『ヒロ?!』 いつものハヤシなら、そんなことは考えなかっただろうが、最近ヒロの様子は目に見えておかしい。 ずっと心配していたところへ “ 睡眠薬 ” なんて言われて動揺してしまった。 ハヤシの心配顔にヒロは苦笑いする。 『やだなぁ、ちょっと眠れないだけだってば。 そんな顔しないでよ』 もちろん、そんな言葉でハヤシは納得できない。 あれほど頑張っていたレコーディングの作業ですら、手をつけずにほったらかしになっている。 その上、夜も眠れないなんて・・・・・何もないわけがない。 『・・・ヒロ、私には話せないの?』 『・・・・ごめん・・・・大丈夫だから・・・』 ぜんぜん大丈夫そうもない顔で微笑うヒロに、ハヤシは大きくため息をつく。 『・・・・・わかりました。 知り合いのお医者様に頼んで少し貰ってあげる・・・・』 ヒロのありがとうの言葉に被せるようにハヤシが言葉を続ける。 『でも、ホントに少しだけよ。 その分がなくなってもまだ眠れないようなら・・・・ 絶対、理由を話していただきますから! いい?』 睨みつけるハヤシに、ヒロは小さく頷く。 でもきっと理由を話すことは出来ないだろう。 ヒロ自身、自分の心が見えていないのだから・・・・。 明日は昼過ぎから雑誌のインタビューだから遅刻しないようにと念を押されて事務所を出た。 ポケットの中の、貰ったばかりの錠剤をお守りのように、そっと握り締める。 絶対にないとわかっているのに、部屋の鍵を開けるとき微かな期待をしてしまう。 そこに誰かが待っていてくれることを・・・・・。 部屋の明かりをつけて、最初に見るのはソファー、そしてベッド。 もちろん、そこに温もりの後はなくて、ヒロは深いため息をつく。 大好きになる前に、彼しか見えなくなる前に別れようと決心して・・・・なのに・・・・ とっくに好きになってるじゃないか・・・・・彼しか見てないじゃないか。 そんな自分が可笑しくて、悲しくて・・・・・。 ケータイを手に取り、彼の番号をダイヤルしそうになって思い留まる。 いまさら? 自分の身勝手さに涙が零れそうになる。 脱いだ上着をソファーに投げつけた時、ポケットで乾いた音がした。 そうだ、とっとと寝てしまおう。 この白い錠剤があれば、胸の痛みも忘れられる。 いつも一錠だったけど、今夜はもっと・・・・・だっていつもの倍くらい胸の痛みが酷いから・・・・。 噛み砕いた錠剤のほろ苦さに奇妙な安心感を憶えていた。 ・・・・幸せな夢をみよう・・・・。 いっそ・・・・・目覚めなければいいのに・・・・・。 幸せな夢の中でダイスケと二人、ずっと暮らせたらいいのに・・・・・。 ---------- next ---------- |
何やってんだ、ヒロ?(いや、私か・・・・(^^;)
すみません、まだ終わらなくて・・・・
自分でも収拾つかなくなってたりして・・・・(涙)
流花 2004/12/25
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