labyrinth 2 【D-side】

“ こんな幸せが、ずっと続くはずはない ”

そんな澱のような想いを消すことが出来ないでいる。




『今からヒロが来るから・・・』

ケータイを切ったダイスケの言葉に

『来るから・・・・なに?』

アベがワンコのブラッシングをしながら目を上げる。

『二人きりで話があるんだって』

『だから、なに?』

『アベちゃ〜ん・・・』

わざととぼけるアベにダイスケが苦笑いする。

『二人だけで話〜? ホントに話なのぉ?』

疑わしそうに言いながらもブラシを片付け始める。

『うん・・・・なんか、声が硬かった・・・・なんだろ・・・・』

不安げなダイスケをアベが笑う。

『どーせ、たいした用事じゃないわよ、顔が見たかったとか、抱きしめたかったとか・・・・』

後の言葉は飲み込んで、意味ありげに含み笑いするアベに、

ダイスケの不安も少し薄らいだのだが・・・・。




部屋に入って来た時から、何か様子が違っていた。

ダイスケがソファーに座って、いつもなら隣に来るはずのヒロは立ち尽くしたまま・・・・。

『改まって、どうしたのぉ?』

からかうように言ったのは、自分の不安を振り払うため・・・・・ヒロが笑っていないから・・・。




『もう、やめよう・・・・』


いつもと違うヒロの口から出た言葉に、ダイスケは一瞬言葉を失くす。

それでも微笑みは絶やさないで、ヒロに訊ねた。

『・・・・・やめるって・・・何を?』

『オレと・・・大ちゃんのこういう付き合い・・・・いや、こういう関係・・・・かな』

ヒロは何を言ってるんだろう? 別れるってこと? いや、違う、そんなはずない。

自分が何か大きな勘違いをしているのだと、無理矢理思い込もうとしても、

自然に喉が詰まる。

『ヒロ? ご・・・めん・・・・・意味が・・・・よく・・・・』

ヒロが視線を逸らすのを見て、絞り出すようにして出した声も途切れてしまう。

『つまり・・・・男同士なわけだし・・・こういうのは不自然だろ? 

 いつまでも、このままじゃダメだと思うんだよね・・・』

視線を合わせず、少し早口で喋るヒロの声が遠い。 耳鳴りがする。

そんなダイスケの胸を過ぎったのは “ やっぱり ” という想い。


“ こんな幸せが、ずっと続くはずはない ”


思っていたより少し早かったけど・・・・。



『好きな人でも出来た?』

原因はそれ? でも、視線を落としたままで、ヒロは緩く首を振る。

それが真実なのか、自分に気を使っているだけなのか、

今のダイスケに判断することは出来なかったけど、でもどんな理由にせよ、

ヒロにこんな辛い顔をさせているのが自分なのは確かだった。

『ア・・・A*Sは・・・どうするの?』

『・・・・やめたくはないけど・・・・それは大ちゃんに任せるよ』


その言葉に、ダイスケの心が少しだけ軽くなる。

それならば、ヒロといっしょにいることが出来る。 

ヒロの顔を見ることが出来る。 

ヒロの声を聞くことが出来る。

ヒロが近くで笑っていてくれるなら、自分は耐えていける。

遠いあの日に別れたときより、まだましだと必死に、自分に言い聞かせる。


『・・・・そう・・・・わかった、考えとく』

思い切り明るい声を出したら、ヒロがやっと顔を上げた。

『やだなぁ、ヒロ、なんて顔してんの?』

笑っていられる。 ヒロのためなら笑える。

ダイスケの笑顔に、ヒロがふっと息を吐いたのがわかった。

『僕が泣くと思った?』

『うーー・・・、うん、ちょっとね・・・』

『ざーんねんでーしたっ、泣いてなんかやらないよ!』

おどけて見せても、ヒロの顔から憂いが去ってくれない。

『うん・・・・大ちゃんは強いもんね』

強くないよ・・・・だから笑って、ヒロ・・・・お願いだから・・・・。

『そ、だから大丈夫だよ。 僕の顔も見たくないって言われたら、

 さすがにショックかもしれないけど・・・』

『そんなことあるわけないよ』

即答したヒロに、ダイスケが微笑む。

『よかった・・・・じゃA*Sは続ける方向で考えとくよ。 いい?』

『もちろん』

そう答えたヒロが、この部屋に来て初めての笑顔を見せた。

ほら、やっぱりヒロは笑っているほうがいい。

目の前の笑顔は、もう自分のものではないけれど・・・・・

この手で触れることは出来ないけれど・・・・・

それでも愛することはやめられないから・・・・いつでも笑顔でいて欲しい。


『あ・・・そろそろ仕事に戻らないと・・・・』

もう限界だと思った。

これ以上、ヒロの前で笑っているのは、今の自分には無理だ。

『うん、忙しいのにごめんね・・・・じゃ・・・また・・・』

『うん、またね・・・』

手を振るヒロに、同じように手を振り返して・・・・・

でも最後まで、ソファーから立ち上がることは出来なかった。




ヒロの後姿がドアの向こうに消えても、ダイスケの瞳はヒロの背中を見ていた。

もう恋人ではなくなったヒロの背中、何度も縋ったその背中が焼きついたように離れない。

『ヒ・・・ロ・・・』

声に出すのと同時に、その瞳から涙が溢れ出す。

行かないで、行かないで、行かないで・・・・・・

声に出せなかった想いが涙になって零れていく。

二人が出会ったのは運命だと思ってた。 いや、思いたかった。

だから大丈夫だと・・・・いつか別れの日がくるなんて

自分の杞憂に過ぎないのだと思っていたかったのに・・・・。


手の甲で拭っても拭っても溢れてくる涙に溺れながら、ダイスケは思っていた。

泣くのは今日だけ・・・・明日になったら笑っているから・・・だから今だけは・・・・・。


『ヒロッ・・・ヒロ・・・・ヒ・・・ロ・・・』


しゃくりあげるダイスケの声だけが、一人きりのスタジオに吸い込まれいていった。



---------- next ----------


すみません・・・・どうしても大ちゃんを泣かせたいようです(_ _;)
これ・・・・どう収拾つける気だ、自分・・・・;

                             流花☆2004/11/05
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