DistanceV






『あ〜〜〜〜〜!!!』

ダイスケの大声に、びっくりして年下の恋人が飛んでくる。

『なに?! どうしたの?!』

リビングの真ん中に立つダイスケの手には、最近お気に入りのお菓子の袋が握られていて

キッチンから駆けつけた恋人を恨めしそうに睨んでいる。

『食べたね?!』

『は?』

『これ! 食べないでねって言ったのに!』

持っていた袋を突き出して頬を膨らますダイスケに恋人が苦笑いする。

『なんだ、そんなこと・・・・大声出すから何事かと思えば・・・』

『そんなことって・・・・あのねぇ、これはねぇ・・・』

そのお菓子の説明を始めたダイスケに、はいはいと相槌を打ちながら暁人は、付き合い始めてもう1年以上経つが

この年上の人の金銭感覚がよくわからないと首を傾げる。

何千万もする機材は、即決で買ったりするくせに、数百円のお菓子で文句を言っているのだから。

と、考えているのが顔に出たらしく、ダイスケがますます頬を膨らませた。

『もういい! これはスタジオに持っていく!』

『あのさぁ、1〜2枚食っただけだぜ?』

『いいや、4〜5枚は減ってる!』

そう言ったところで、自分達のくだらない言い合いに気付いて、どちらからともなく笑い出した。

『もう・・・アキトには何言っても無駄だってことがわかったよ、そんなとこヒロそっく・・・り・・だよね』

一瞬、言葉を止めそうになったダイスケだったが、そのほうが不自然だと気付いて続けると

『そう? ヒロさんってそんなふうなの?』

なんの疑いもなく暁人が聞いてくる。

『まぁね、アキトよりはマシ・・・・・かも・・・』

そう言って笑いながらも、やっぱり似た人を選んでしまったのかと、ダイスケはほんの少し胸が痛んだ。



ダイスケにとって、仕事のパートナーであるヒロユキは永遠の人だ。

永遠に好きな人・・・・・・少なくとも今のところは、そう思っている。

そして、永遠に手の届かない相手でもある。

ノーマルに女性が好きなヒロユキがダイスケを好きになる可能性はゼロに近い。

その上、彼にはすでに想い人までいるのだからどうにもならないだろう。

だから諦めた、 でも気持ちは止められない。

少しでも近くにいたい。 

その顔を見ていたい。 

その声を聞いていたい。

仕事上のパートナーという幸せで辛いポジション。

その辛い気持ちがピークだった頃、暁人と知り合った。

CDのジャケットデザインの打ち合わせで顔を合わせてから、ずっとダイスケにアプローチしてくれていた。

5歳年下のグラフィックデザイナーの暁人は、ダイスケよりちょっとだけ背が高く、

クルクルはねた天然パーマの髪が、その性格を表しているようだった。

犬が大好きで、ダイスケの飼い犬ともすぐに打ち解けて、申し分のない恋人だった。

そんな彼をヒロユキに紹介するのは、かなりの勇気が必要だったけど、自分自身の気持ちに区切りをつけたかったから。

ダイスケの性癖に、ほんの少し戸惑いをみせたヒロユキだったが、暁人とは打ち解けてくれたようで

たまに会うと、同じ車好きなので、そんな話で盛り上がっていたりする。



『ダイスケさぁ、今日は早く帰れる?』

暁人は合鍵はもちろん、最近では仕事用のパソコンまで持ち込んでいて半同棲状態になっている。

『うん、多分・・・・アキトはずっといるの?』

『そうだね、急ぎの仕事は入ってないから・・・・なんだったらアニー置いていく?』

ツアーや泊まりの仕事の時は、犬を預かってくれたりする暁人の好意にダイスケは笑って首を横に振る。

『今日は連れてくよ』

ヒロに慣れてもらいたいから、という言葉は飲み込んだ。

暁人が、ダイスケとヒロユキの仲を本気で疑うことはなかったけれど、たまにヤキモチを妬くことはある。

もちろん、ダイスケがよくヒロユキの話をするからだが、ほとんどはヒロユキの態度が原因だった。

ヒロユキと暁人を会わせてる時、必ずと言っていいほど、ヒロユキがダイスケに過剰なスキンシップを仕掛けてくる。

肩を抱いたり、腰に手を回したり、抱きついてきたこともあった。

そのたびに、暁人が拗ねてしまうのに困って、ダイスケはヒロユキに注意をしたのだが・・・

『だって、アキトくんの表情が変わるのがおかしくってさ、ついからかいたくなっちゃうんだよね〜』

まったく反省の色のないヒロユキに、怒るどころか一緒になって笑ってしまうダイスケだったから

それ以後もヒロユキの態度は改まることもなく、暁人は常にヒロユキに対して軽いジェラシーを覚えている状態だった。

『今日の仕事はA*Sの?』

『そうだよ・・・・なんで?』

なんでもないと視線を逸らす暁人が可愛くてダイスケは思わず微笑む。



アニーを連れて迎えの車に乗る時、見送りに出た暁人にいってきます≠ニ小さく手を振りながら

自分を待っていてくれる誰かがいるという幸せを噛みしめる。

この幸せを離したくはないと思っているのに、

心の中に染み付いたヒロユキの影を、どうしても消すことが出来ないのがダイスケは悔しかった。




『ベイビィ〜、今日も綺麗だね〜』

ヒロユキのセリフにダイスケはもちろん、周りのスタッフも笑いを漏らす。

それを言われたアニーだけは、何もわからず上機嫌でヒロユキに撫でられていた。

『すっかり慣れたよね〜』

そう言って笑うダイスケに、ヒロユキは軽くかぶりを振った。

『ん〜、みんながいればね。 二人っきりにはさせないでね?』

ね?っと、笑いながらウインクを投げられてダイスケの鼓動が跳ねる。

ヒロユキのそんな仕種にいつになったら慣れるのか・・・悔しいのに幸せな一瞬でもある。

そして、幸せだと感じてしまう自分にまた腹が立つ。


ダイスケに恋人が出来てから、ヒロユキはぷっつり彼女の話をしなくなった。

以前なら、ヒロユキの言葉の端々に彼女を感じていたが、最近はそれがない。

きっと、自分が幸せだから感じなくなったんだろうぐらいに、ダイスケは思っていた。

だから、新曲の楽譜を見せるために二人っきりになった仕事部屋で、ダイスケは深く考えることもなく口に出していた。

『そういえば、彼女は元気?』

『うん? そういう大ちゃんこそ、アキトくんは元気なの? 最近連れて来ないじゃん』

反対に聞かれたダイスケは、何か違和感を感じたものの、それでも笑って答える。

『そんな、仕事に連れてくるわけにいかないでしょ・・・連れてくる理由もないしね』

『へぇ〜、でも少なくとも3回は連れて来てるよね〜、理由もなく〜』

よく回数まで覚えているものだと、ダイスケが苦笑いする。

『・・・だって・・・・あれは・・・』

ヒロユキに紹介するため・・・・そう言いたかったが3回も紹介する必要はないとからかわれそうなのでやめておく。

『あれは・・・何? オレに見せびらかしたかったから?』

案の定、からかってきたヒロユキを、持っていた楽譜で叩くマネをすると

『あ〜〜〜、ビンゴなんだ〜?』

両手で頭を庇うようにしてヒロユキが笑い出す。

いつものことなのに、何故かヒロユキの笑い声が酷く乾いている感じがしてダイスケの微笑みが薄くなる。


はぐらかされた質問 彼女は元気?


何かあったのだろうか、聞いていいものか・・・一瞬の躊躇いののちダイスケは口を開いた。

『ヒロ・・・・彼女どうかしたの?』

ヒロユキの顔から、ゆっくりと笑みが消えてダイスケから視線を逸らせるように目を伏せる。

『別れた』

『え?』


-----わ・か・れ・た?-----


その言葉を心の中で復唱しながら、ダイスケの手から楽譜が滑るように落ちていく。

『大ちゃん、楽譜が・・・』

屈んで楽譜を拾うヒロユキをダイスケはボンヤリ見つめていた。

頭の中が真っ白になったように何も考えられず、ヒロユキに楽譜を押し付けられて、やっと思考が動き出す。

受け取った楽譜を胸に抱くようにしてヒロユキを見上げる。

『ヒロ・・・・別れたって・・・・いつ?』

答えてくれないかもしれないと思ったが、ヒロユキはなんでもないことのように答える。

『もう、半年以上前かな』

『そんなに・・・・・でも、どうして?』

『いろいろあって・・・・・。 ぶっちゃけ、振られたんだけどね』

そう言ったヒロユキが初めて辛い顔を見せて・・・・だからダイスケはそれ以上何も聞けなくなってしまった。

そっか・・・・・と言ってその話を無理矢理打ち切ると、持っていた楽譜をヒロユキに渡す。

『これなんだけどさ・・・・・』

曲の説明を始めながら、ダイスケの心の中は訳のわからない想いが渦巻いていた。



予定通りの時間に仕事が終わり、ヒロユキもいつものように笑顔でスタジオをあとにする。

ダイスケも、あの後、彼女の話は聞かなかった・・・・いや、聞きたくなかったのかもしれない。

そして、無性に暁人に会いたかった。

『アベちゃん、送ってくれる?』

すでに帰り支度を始めているダイスケに、アベは意外そうな顔をする。

『珍しいわね、すぐに帰るなんて・・・』



2匹の犬を後ろに乗せて、ダイスケはアベの隣に座った。

いつもなら、スタジオでグズグズしていることの多いダイスケだったから、アベがシートベルトを締めながら笑いかける。

『アキトくんと約束でもしてるの?』

まぁね・・・・・と言葉を濁してダイスケは窓の外に目をやった。

あまり話はしたくないらしいと悟ったアベは、黙って車を発進させた。




別れた

その言葉を聞いた瞬間、足元が崩れていくような錯覚に陥った。

ありえない話ではないはずなのに、予想すらしていなかった自分が不思議だった。

そしてヒロユキの隣にポッカリ空いた空間を思い、ダイスケの心はざわつく。

次にそこに来るのは誰なのか・・・・自分以外の誰か? どうして自分ではダメなんだろう。

そこまで考えて、ダイスケは自分を嘲笑う。

とっくに諦めていたくせに・・・・・だから暁人を選んだくせに・・・・・

それでも足掻いている自分が悲しくて・・・・・アベから顔を背けるようにして、零れる涙を隠した。

でも、先ほどから様子のおかしかったダイスケを心配していたアベに見つからないわけはなく

『ダイスケ・・・・』

小さな声で呼びかけたアベの声は、すれ違った車のクラクションにかき消されたのかダイスケの耳には届かなかった。

静かに涙を流し続けるダイスケにそれ以上何を言っていいのかもわからず、アベは黙って目を逸らせた。




帰りを待っているといった暁人は、ダイスケが帰ったことにも気付かずリビングのソファーで眠りこけていた。

暁人の顔をみれば訳のわからない不安なんて吹き飛ぶと思っていたダイスケは、そんな姿に、またヒロユキを重ねて唇を噛む。


『アキト!』

ちょっと大きなダイスケの声に、暁人はビクッと目を開けた。

『あ〜おかえり〜・・・いま何時? ご飯食べたの? 何か温めようか?』

大きく伸びをして起き上がりながら、ダイスケの返事も待たずキッチンへ向おうとする暁人の背中に

ダイスケは縋るように抱きついた。

『なっ・・・に? どうしたの?』

『・・・なんでもない・・・』

そう言って胸に回されたダイスケの手を、暁人は包み込むように両手で握る。

何かあったのだろうと暁人にも察しはついたが、こんな時のダイスケは何を聞いても答えてはくれない。

いままでもそうだったから・・・・・。

ダイスケがこんな風になったことは数回あって、いつもA*Sの仕事の後だったことを覚えている。

仕事上でヒロユキとうまくいってないのだろうか・・・・・最初はそう思っていた暁人も

同じことが2回3回あると、何か違う理由があるのだろうとわかってくる。

でも、暁人は何も聞かない。

聞いてしまったら、この優しく微笑う人をなくしてしまうのではと、いつも根拠のない不安に駆られる。


だから今夜も、暁人はただ黙ってダイスケを抱きしめた。


彼を安心させるために・・・・・


そして、なにより自分の不安をかき消すために・・・・・







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end ----------





これ・・・面白いですか?(T_T)

どんどん、自己満足の世界に落ちていってますよね? 

すみません、私は書いてて楽しかったりするんですけどね(^^;

お願い!誰かついてきて!!!

流花

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