DistanceU






もう1ヶ月近く、連絡がない。

携帯のせいじゃないけど、つい恨みがましい視線で見てしまう。

オレは大きくため息をつくと、持っていた携帯をテーブルの上に投げるように置いた。




彼女を愛している。

その気持ちは変わっていないはずなのに、心がざわついている。

彼女が別れを切り出したときも、結婚した時も、子供が生まれた時でさえ、気持ちは変わらなかった。

もちろん、その都度、傷つかなかったと言えば嘘になるけど、愛に変わりはないから・・・・・ずっとそう信じてきたのに・・・・・。



いつでも心の中に、もやもやとした嫉妬を飼っていた。

でも彼女が自分ひとりのものでないことは、結婚した時からわかっていたことだ。

今、この瞬間も自分以外の男に抱かれているかもしれないという事実は、どうしようもないことだからと今までは割り切っていた。


心が揺らぎ始めた原因は、大ちゃんの存在かもしれない。


A*Sを再開したのは、純粋にやりたかったから・・・・歌いたかったから。

何年か振りで彼と仕事をして、何も変わってないのが懐かしくて嬉しかった。

もちろん、彼も大人になっていたけれど、本質は同じ。

でも、同じように大人になっていたオレには、以前見えなかったものが見えるようになっていた。


それは、大ちゃんの想い


もしかしたら、昔からそうだったのかもしれない。

こんなにわかりやすいのに、どうして気付かなかったのか・・・・・。

一生懸命隠そうとしているけど、零れてくるオレへの好意・・・・・いや、恋慕と呼んでいいもの。

彼に確認したわけではないけれど目は口ほどにものを言う≠ニいう諺を身をもって体験している感じだ。






A*S再結成後、初めてのライブツアーで、今日は地元の東京だった。

せっかく、一人きりの楽屋を充てがわれているというのに、オレは何を考えているんだろう。

携帯を放り出して立ち上がった時、ドアにノックの音がした。


『・・・・ヒロ、いい?』


遠慮がちな大ちゃんの声。

少し、悪戯心が働いて、何も言わず、いきなりドアを開けてみたら、びっくりした彼がドアの前で目を丸くしていた。

『ごめん、びっくりした?』

『したよ〜』

笑いだした彼に、ドアを大きく開けて、どうぞと招き入れる。

ドアを閉めがてら、彼の背中を押すように触れたら、面白いくらいにビクッとして振り返った。

『あ・・・こ、これ、ヒロも食べるかなって・・・・ここのおいしいんだよ』

誤魔化すように笑いながら差し出した手の中には、小さな箱に入った二つのシュークリーム。

『あ〜、ありがとう。 これは・・・オレと・・・大ちゃんの分?』

受け取る時、さりげなくその指に触れてみると、彼の瞼が微かに震える。

そんな、試すような真似をしている自分がすごく嫌なのに、驚くくらい素直な反応を返してくれる彼に喜んでいる自分がいる。



いつまで待っても自分ひとりのものにならない彼女に、焦れるようになってしまったのは、

彼のくれる温かさに慣れてしまったせいだろうか。



『違うよ〜、僕のはあっちにあるからさ、これはヒロとハヤシさんの・・・あれ? いないね』

部屋を見回した彼がオレに向かって小首を傾げる。

『うん、ちょっと集中したかったから一人にしてもらってて・・・』

『あ、ごめん。 邪魔しちゃったね・・・じゃ、またあとで・・・』

慌てて出て行こうとして、ドアノブに伸ばしかけた彼の手を、すかさず掴んで引き寄せた。

『まだいいよ。 コレいっしょに食べよ?』

でも・・・・と、言いよどみながらも彼が断らないことを知っている。

掴んだ腕から伝わってくる熱が、それを教えていた。

『・・・じゃあ、ハヤシさんのは、またあとで持って来るね』

小さな椅子に向かい合って座ると、オレは持っていたシュークリームをひとつ、彼に手渡す。

『・・・大ちゃん、体調は?』

『うんっ、快調だよ。 ヒロは?』

『バッチリ! 風邪も治ったしね〜・・・今日は任せといて!』

握りこぶしを作ったオレを見て、笑いながら彼がシュークリームに齧りつく。

思いのほか、柔らかだったカスタードが、シューの間からこぼれて、慌てて片手で受け止めたら

反対側からもクリームが溢れて・・・・シューは崩れているし、かなり悲惨な状態になっている。

『うわ・・・これ、クリームがいっぱいだからヒロ、気をつけないと・・・』

両手と口の周りをクリームだらけにした彼に、オレは思わず吹き出した。

『気をつけないといけないのは大ちゃんだよ・・・・ほら、残ってる分、食べちゃわないと・・・』

小さい子供のように、手を舐めながらシュークリームを口に入れる彼を微笑ましく見ていたのに

そのピンク色の舌の動きに、わずかに鼓動が跳ねる。


・・・違う。


同性である彼に性的衝動など感じるはずがない。

欲求不満かな・・・・しばらく彼女に会ってないから・・・・・・・うん、きっとそうだ。


『ああ〜、ベトベトになっちゃったね〜、洗った方が早いよ・・・ほら・・・』

彼の腕を掴んで立ち上がらせると、視線で洗面台を指す。

『うん。 でもさ、服は汚さなかったよ』

自慢げな彼に、オレはたまらず、また笑い出す。

『も〜・・・ヒロだって食べる時はきっとこんな風になっちゃうんだからねっ』

尖らせた唇の端についたクリームに、またオレの悪戯心が刺激されて、

素早く顔を近づけると、そのクリームをペロッと舐め取る。

一瞬で固まってしまった彼に、オレはにっこり微笑んだ。

『おいしいね〜、このクリーム』

『あ・・・・う、うん・・・・や・・・だな、ヒロ、ワンコみたいだよ』

引きつった笑顔を浮かべたまま、オレの腕を振り払うようにして、部屋の隅にある洗面台へ走る。

その金色の髪に見え隠れする耳朶が、赤く染まっていることに満足している自分を苦く笑う。

『オレ、ワンコ並〜? ねぇ・・・オレとワンコとどっちが好き〜?』

そんなバカな質問に、一瞬とは言いがたいほどの間をあけて、返事が返ってくる。

『ワンコはヒロと違って、ちゃ〜んと言うこときいてくれるからね〜』

『え〜、オレだって良い子だと思うけどなぁ・・・』

オレの言葉に、笑いながら振り返った彼から動揺は消えている。

タオルを渡すと

『あ、ありがと』

オレの目を見て微笑む。 


強いね、大ちゃん。


でも、どっちが好きなのかは答えてくれないんだね・・・・。

ワンコって言ってもオレは傷つかないよ? それとも、そうじゃないから答えられなかったの?

こんなことをしている自分に、後から襲ってくる罪悪感のことを今は忘れていた。



ひとしきり、冗談を言い合ったあと彼が、そろそろ行くねと、ドアの方を振り返る。

『ねぇ、大ちゃん・・・』

オレは引き止めるように声をかけた・・・・まだ一人になりたくなくて・・・・。

『なぁに?』

『大ちゃんさ・・・MCで運命って言葉使うでしょ? あれ・・・ホントに信じてる?』

冗談めかして言うつもりだったのに、失敗した。

彼の瞳が翳ったのがわかる。

『う・・ん・・・信じてるよ。 こうやってヒロとA*Sやってるのって、絶対運命だと思うし・・・・

 あ・・・ヒロが言いたいのは・・・運命の相手・・・とか、そういうこと?』

少し躊躇ったあと、彼が言葉を続ける。

『・・・彼女と・・・何かあった?』

『え・・・いや・・・どうして?』

『なんか・・・元気なかったから・・・違ったらごめん・・・』


謝らないで・・・・大ちゃんは何も悪くないんだから・・・。


『まぁ・・・当たらずとも遠からずってとこかな。 最近、会えないからさ・・・』

笑って見せたら、大ちゃんも微笑んだ・・・・・ちょっと辛そうに・・・。

『大丈夫、今日、きっと見に来てくれてるよ。 だってヒロの・・・・・運命の人でしょ?』

『そう・・・かな』

『そうだよ、A*Sも運命だし・・・ヒロ、運命信じるって、前に言ったじゃん』

慰めてくれているのだろうけど・・・・大ちゃん、辛くないの?

『だったら、彼女と結ばれないのも運命かな?』

完全な八つ当たりじゃないか・・・・そんなこと大ちゃんに言ってどうするんだよ。

『・・・そんなこと・・・まだわからないよ?』

掠れてしまった彼の声。

伏せた瞼に胸が痛む。

ごめん、大ちゃんの気持ちに応えられないってわかっているのに、その気持ちに甘えてしまっている。

『そうだよね・・・オレが誰か違う人好きになるかもしれないしね』

その言葉に顔を上げた彼の瞳の中に、微かな期待と戸惑いが読み取れる。

『とにかく、ライブ、頑張ろ!』

オレは彼の肩を抱くようにして、ドアを開けた。

『じゃあ、またあとで・・・』

こぼれる笑みで、手を振った彼がドアの向こうに消えたとたん、自己嫌悪に陥る。



大ちゃんを好きになるかもしれない・・・・そんなありもしない期待を持たせてはいないだろうか。

そこまでして、繋ぎとめておきたいのか?


・・・・・・繋ぎとめておきたい? 何故だ? A*Sのために?

違う・・・・それだけじゃなくて・・・・それだけじゃなくて?


わからない・・・・きっと、今は彼女に会えなくてどうかしてるんだ。

彼女に会ったら、また気持ちも元に戻るに違いない。





そして彼女とは関係なく、その日のライブも最高だった。

少なくとも、ステージに立ってる間は彼女がいなくても自分は幸せだと認めるしかない。

そして、それは彼がもたらしてくれているということも・・・・。



これからは、ステージを降りても幸せでいられるようになろう。

これ以上、彼を苦しめなくていいように・・・・。







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end ----------





うわ、ヒロがやな奴になってる・・・(_ _;)

でもヒロも悩んでます、いっちょまえに・・・・(苦笑)

すみません・・・お願いだから着いて来てください!!!(泣)

                  流花



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