恋愛論   【敏腕マネージャーの苦悩・6】





『山雀の足ほどしかない細い木の枝までが、

揺れてきらめく無数のダイアモンドで飾られている

もう、もとの小枝は見えない』 スタンダール





アベは時計を見やり、お茶の準備をし始める

決めてはいないがそれなりの時間が来るとダイスケがこちらの部屋でくつろぐからだ

「お茶をいれるのが女の仕事だとは思わないでよ」

と、常に言ってる割には人の為に何くれと世話するのが好きだ

ダイスケとは口には出さないけれど姉弟のような絆を感じる


カチャリ

「お疲れさま」

フウと短い溜め息は誰にも聞こえないくらい小さい

『大丈夫?』

と、気遣われる事への遠慮なのかもしれなくて、そんなダイスケをアベは切なく思う

「ハイ。ココア」

それでも、アベは素知らぬ顔でいつものようにカップを差し出した

「うん・・・ありがとう」

一口飲んでダイスケはカップの中の濃い茶色の液体を覗き込む

「コレ・・・ココア?本当?」

「何か?」

「アベちゃん?これっていつものボクが好きなココアじゃないよね」

「分かる?今日は゛黒豆ココア゛にしたのよ」

「あぁ・・・なるほど。特有の感じがあるね」

「身体に良いのよ。食物繊維にポリフェノールに女性に嬉しいイソフラボンまで入ってるし」

「って言いながら本当は演歌の貴公子がCMしてるからでしょ」

アベは口元に持ってきたカップの中を思わず見つめた

・・・バレバレなの?

「近頃、よく彼の話してるよね〜」

ダイスケは面白そうにアベの顔を覗き込む

しかし、ココアの味にはあまり納得していないようだ

「ダイスケは本物のココアのが良いでしょ?入れ直そうか?」

「大丈夫、でも次からは今までのにして貰って良い?」

「分かった」

返事しながら゛別に演歌の貴公子のせいではない゛と思ってはいる

「・・・で、コンサートとか行くの?」

「だ〜か〜ら、気にしちゃいないって!」

「好きなんでしょ?」

「あぁ!好きよ!彼のマネージャーやりたいくらいよ!」

ダイスケの言葉に逆ギレしてしまったアベは椅子から立ち上がり叫んだ

「分かったから・・・アべちゃん」

アベを怒らせた張本人はシラっとして言う

「ダイスケはくどいのよ、それとも本気で私を怒らせたいの?」

「早くアベちゃんにも〃白馬の王子様〃が現れたら良いのに・・・っとは本気で思ってるよ」

・・・えぇ!どうせ貴方には〃ちょっと天然の王子様〃がいるからね

「ねぇ?一度聞こうと思っていたんだけど・・・」

「何?」

豆特有の味が気になるのか、何度もカップの中をかき混ぜながら飲んでいる

カタンとガラスのテーブルとアベが置いたカップが微妙な音を立てた

「ダイスケは・・・ヒロのドコに惹かれたの?」

唇に黒い液体の名残を乗せてダイスケはアベを見つめた

「それって・・・好奇心?それとも興味本位?」

「そのどっちでもない、真面目に聞いてるの」

「・・・・・・」

「出逢いは偶然でも、間7年空けてまた一緒の道を歩もうなんて・・・私には信じられない事だわ

ヒロはイイ奴だけど、あまり誠実ではないような気がするし。

ダイスケの気持ちを汲んでくれるタイプでもない・・・結局、自分が一番って子よね」

「優しいよ」

呟くその手が握り締めているコップがカタカタと悲鳴を上げている

「ダイスケに優しい、それって誰にでも優しいって事でしょ。ダイスケだって知らない訳じゃなし。

特に女性には物凄く優しいわ・・・・人懐っこいし。みんなに好かれてる」

アベはダイスケを追い詰めたい訳ではない

むしろ、彼がいつか傷つくのではないかと心配している

別れを決めるなら・・・・・少しでも傷が小さい方が良い



「彼がスタジオに入って来た瞬間、ボクの回りの時間や音や空気や、とにかく全てのモノが止まったんだ。

大人しそうにソコに立っていたけど、でも本当はおしゃべりで楽しい青年だろうと感じた。

あの琥珀の瞳にボクが映った時の胸の高まりが今も忘れられない・・・・ずっと彼の瞳を見ていたかった。

そんな人に出逢った事が無かったから。

声を聞いてその想いはますます募っていったよね

それからの事はアベちゃんの方が知ってるんじゃないの」

「そうね・・・絶対ヒロと組みたい、何かやりたいってダイスケが興奮してたの覚えてる」


「違う道を選んでからもその印象は薄れなかった、むしろ時々見る夢の中のヒロはあの日のまま

ボクの前に現れてくる、あの瞳に吸い込まれていきたいとさえ思えるんだ。こんな感情は変なのかな?」


そう尋ねるダイスケは今もあの時のままのヒロと話しているようにアベは思えた

「だから、離れていても彼への印象が変わることはなかったのね」

「・・・きっとそうだよ、彼は彼のままでボクの前に再び現れてくれたのだから

ボクは彼に二度目の恋をしたんだよね」


・・・きっとそれは初めての恋より更に燃えたんだろうとアベは思う


「スタンダールの〃結晶作用〃だわね」

「スタンダール?結晶?」

ダイスケがアベの言葉に食付いた

誰よりも好奇心が強いのは自分だと気付いてはいない


「塩鉱を訪れ、その中に小枝を投げ込んで2,3ヶ月すると光り輝く塩の結晶に覆われるのを見て

恋するものが相手の美点を強く感じてそれに酔う・・・恋愛初期の心理をスタンダールはそう名付けたの。

こう言えば分かる?〃あばたもえくぼ〃

一点でも良い所があれば、他のモノは見えなくなるのよ」

・・・ダイスケにとってヒロがそうだとアベは力説したかった

当の本人は

「アベちゃんって物知りなんだね〜〜」

と、感心するばっかりだが


・・・本当は今日の朝刊に載っていたのをパクッただけだが、こうもピッタリくる人にお目にかかれるとは思わなかった

「で?アベちゃんの恋愛論は何?」


「果報は寝て待て・・・かしら」

「それじゃあ、ずっと寝てなきゃいけないじゃん」

「何ですって!!」

ハハハと低い笑い声を残してダイスケはスタジオのドアを閉めた

「覚えてらっしゃいよ!」


敏腕マネージャーアベはこうなったら〃白馬の王子〃を自分から迎えに行くと心の中で決心した





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆END






スタンダールの部分は日曜日(2/20付)の「中●新聞」に載っていたのをそっくり使いました(^_^;
黒豆ココア・・・私は好きです(^^♪

大ちゃんの一途さを書きたかった・・・それだけ。
私はその言葉は未知の部分だから。

             suika

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