***夢の花びら***






「んと…曲のリストはこんなもんで良いかな?」

何パターンもの組み合わせ候補の中から選りすぐったのを書き出してスタッフに見せた

目の前に迫っているaccessとして出演するイベントと自分のソロライブと…

イベントは何組も出るから決められた時間の中で自分らの音楽を最大限に観客に聴いて貰えるリストじゃなきゃ意味が無い

ソロは途中で観客がダレてしまわないように起承転結が必要だし


「良いと思いますよ、じゃあ、明日にでも書面にして打ち合わせましょうか」

「だね。お疲れ様〜〜〜」

「アサクラさんもお疲れ様でした。この後は食事ですか?」

「ううん。残ってる仕事片付けないとね…ここには居ない怖〜い人がうるさいから」

あぁと彼も笑って見せた

「じゃあ、お先に失礼します」

「お疲れ様」


パタン


閉じられたドアの音が今日はやけに重く響いている

いや気のせいだ…ボクの回りは何一つ変わってはいない

「でもお腹は空いたよね…」

冷蔵庫にはあいにく水とスイーツしか入ってない

「何にも無いよりマシか」


テーブルに3種類のスイーツを並べると流石にお腹は膨れるだろうと思う

と同時に『食べ過ぎ?』て不安もよぎる

今巷で言われているメタボリック症候群みたいにお腹がポッコリしたら困るしね


「ボクも11月が来ると……だしね」


こんな後ろ向きな考えはやめよう!とふるふると打ち消した

「ヒロにポッコリしたお腹なんて見せられない」

ヒロ……

イベントの打ち合わせが始まるまでなかなか会えずにいるボクの想い人

普段はそんな事ないけど、フッとした瞬間ヒロを思い出す

どこでどうしているのかがとても気になる

と言って行き先を確かめるような真似はしない

ボクとヒロの間にはそんな探り合いなど必要ないんだ


♪♪♪♪♪


「はい、もしもし」

『もしもし、ヒロだよ』

「どうしたの?」

『今スタジオだろ? すぐ迎えに行くから出掛ける支度しておいてよ』

「今から?」

『うん、すぐだからね。あ…カド曲がったから!じゃ』

「ヒロ?!じゃって切るなよ…訳分からないじゃん」

それでも言われた通りにスタジオの電源を落とし、薄い生地のジャケットを羽織った


ヒロがどこかに連れてってくれる

それだけで部屋の空気がさっきとは違う

如実にボクの気持ちが現れてしまうのかとおかしいような悲しいような気分だ



スタジオの施錠をし終えた時に一台の車がボクの目の前に滑り込んだ

「大ちゃん!早く乗って」

「えっ?えっ?」

挨拶を交わす暇もなく急かされて助手席に乗り込む


「いきなりごめんね」

謝りながらも嬉しそうなのは何でよ?

「良いけど、どこ行くの?」

「内緒。着けば分かるよ…でも間に合うかな」

髪を短くして、また若くなったのかな…

出会った頃と変わらない横顔がボクを安心させる


「あ…これがこの前言ってたカーナビだね」

真新しい液晶ディスプレイがまぶしい

「ひょっとしてこれを使えるように設定させろって言うんじゃないよね」

「ううん、そんなのどうでもいいよ、オレ使わないし…大体勘で行けちゃうしね」

そんな所も出会った頃と同じだ

ヒロは己の直感だけで生きている

時には間違っても構わないよ

それがヒロらしいと思えるから


車窓は薄暗さから闇が強くなりネオンや窓々の灯が濃さを増し東京の夜を彩り始めた

「あぁ…海に向かってるんだ」

見覚えのある橋の風景が近付くとパンパンと何かが破裂するような音がして車の中まで眩しい光に包まれた

「ヒロ!!」

「あ〜始まりには間に合わなかったよ、いきなりバレちゃうし」

「花火だね」

「去年オレがたまたまレインボーブリッジ通った時に花火見たって言ったら大ちゃんメチャメチャ怒ったじゃん」

「お…怒ってなんかいないよ」

助手席に座っていた顔も知らない誰かに嫉妬しただけ…

なんて死んでも言わないけど


「いーや、すげぇ怒ってた。オレ来年は誘わないとヤバいって思ったから」

花火を見ようと他の観客に混じり橋の上で車を止める

「ここって停めちゃいけないんだよね」

「ちょっとだけだから。降りて見ようよ」

違法な事もボクの為だと思って良いよね

ヒロに大事にされてると自惚れて良いよね


ワーワー


一際大きな花火が上がり見ている観客の歓声も凄くなる

それが例え一瞬だとしても…花火は人々の心に美しい夢を魅せてくれる

「綺麗だね」

「ヒロ」

「ん?」

花火が上がる前の暗闇にヒロの手を握り締める

「ありがとね、久しぶりにこんな近くで花火見られて凄い嬉しいよ」

「じゃさ、毎年連れて来てあげるから。約束ね」

ボクを見つめてヒロが微笑んだ

夜空に広がる花火よりボクにはヒロが眩しい

ずっとボクを照らしていて欲しいと儚い大輪の花に願いを託した


「やっぱり花火は2人で見るのが一番良いよね」

「で、去年は誰と見たの?」

「大ちゃん…もう許してよ」

「花火見たら食事連れてって。で、その後も……」


ボクの声は回りの歓声に打ち消されてしまったけどヒロの耳には届いたよねぇ?







◆◇◆◇◆◇◆終




キャー
メチャメチャ久しぶりに書きました(*_*)
自分のバースディに自分でプレゼントみたいな(^^;)

イベント楽しませてくださいね!←誰に頼んでるんだ(苦笑)

suica

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