Triangle





白と黒の鍵盤を滑る幼い指の動きが自分と同じように見えるのは勝手な思い込みだろうか…

緩やかに奏でる旋律が自分の作ったモノに似ているのは己が望んでいるからだろうか…


「大ちゃん似だよね」

何気なく言われたこんな言葉に嬉しさを隠せない

「そうかな?」

喜ぶボクの隣で拗ねてる人がいる

大丈夫だよ

この幼い指の形は君にとてもよく似ているよ



「じゃ、リハ始めます」

ボクの合図で音が奏で始める

春ツアーの中盤

ここは地方の某市民会館だ


会場によって音の響き方とか伝わり方が違うので少しだけ神経を使う

でも、ココは何度もライブをしているので全員が楽にリハを進められる

「ヒロ・・・出だしコレだからね」

「OK!OK!わかってるよ」

「本当に分かってるのかな??」

ボクの呟きが回りの苦笑を誘ってる

当のヒロは感覚の人だからきっと間違えずに歌い出せるのだろう

「ヒロが間違うのはバンドメンバーを呼び出さずに歌いだす事だけね」

声のする方へ顔を向けた途端ヒロの相好が崩れる

「愛!!パパはココだよ」

アベちゃんの後ろから歩いてきたのはボク達の可愛い娘だ

いつもは淋しくお留守番させるのだが地方と言っても新幹線で2時間のココは移動に楽なので連れて来てしまった

まだお客さんが入っていない真ん中の席にアベちゃんはどかっと座る

「楽屋で遊んでるのも飽きて少しむずがったから連れてきたわよ」

「パパ!」

ヒロの方へ小さな手を振っている

「愛が見てるからしっかりリハしようね、大ちゃん!」

「お!ラブちゃん・・・今日も素敵だね」

シーちゃんは愛の事をラブちゃん≠ニ呼び可愛がってくれる


愛の生い立ちを事細かに説明して理解してくれる人がどれほどいるだろう

むしろ、奇異だと思われても仕方ない

それでも受け止めてくれた仲間が確かに居てくれるからボク達親子は存在していられる



「ママ!!」

「アーちゃんのお隣で座って見ててね」

「はーい」

愛はアベちゃんの横に座ると視線をステージに向けた

「ラブちゃんは急にしっかりしてきたんやね」

堀Jも事実を受け止めてくれた一人だ


「そう?」

言われたヒロは娘の姿を眩しげに見つめた


3歳になった愛は今年の春に幼稚園に入園する

『お受験』なんてちゃんとしたモノではないが入園の面接を受けた

世間的にはどっちも「お父さん」で、ましてや2人で面接に行く訳には行かず

どっちが行くかで壮絶な・・・もとい、軽い言い合いをした

と言うかヒロが駄々っ子のようにボクに縋り付いてきたのでヒロに譲ってあげたのだ

もちろん、車の中でボクは半べそをかきながら2人が戻ってくるのをジッと待っていたのだけれど

園長先生からの問いかけにもしっかり答え簡単な知能テストも全部正解して凄く褒められたとヒロから聞いて

ボクはそれだけで感激した

そして・・・思う

ちゃんと真っ直ぐに育ってくれたんだなぁと


「大ちゃん?どした?」

感慨に耽っているボクにヒロが駆け寄る

「ごめん・・・何でもないよ」

ボクの言葉に頷きながらヒロも同じ事を考えているのだと思う


「しゅごい〜〜」

初めて観る訳でもないのにステージで行われている本番さながらのパフォーマンスに

二つの瞳がクルクルと動いている

ボク達はたった一人の観客に向けてライブをしている

「ほう〜〜〜」

ボクが楽器ごとセリ上がってしまう仕掛けには一際声を高くした

子供心には大きなテーマパークのアトラクションのような気がするのだろう

「ママ、怖くない??」

「大丈夫だよ・・・愛も乗ってみる??」

「本気?」

アベちゃんがあきれた

「怖くない?本当に怖くない?」

怖がりながらも愛の足はステージに近付いて来る

ヒロが手を伸ばして愛を抱き上げた

「パパ…本当に怖くない?」

「うん、大丈夫。そんなに不安ならパパも一緒に乗るよ」

「パパもいっちょなら愛も乗る」

一旦仕掛けを降ろし愛を抱いたヒロが乗ると再び上げて貰う

「うわっ!!!」

ヒロが小さく歓声を上げる

子供より喜んでいるようだ

「しゅごい、しゅごい。パパ、ちたに降りたい」

「高い所怖くないんだね」

降ろすなりウロウロし始める娘の手をしっかり握りながらヒロが苦笑する

「ヒロもでしょ?」

「だって〜〜〜」

愛は無邪気にアベちゃんに手を振ったりしている

乗り出し過ぎて落ちそうになるのをボクも慌てて手を繋いだ

「愛、危ないよ」

「ママ〜〜愛も弾く」

コレと抱き上げてメインのキーボードに指を触れさせると気持ち良さそうに弾きだす

・・・・まぁ、曲になっていないのは愛嬌だ


「ちゃんと曲になっているんじゃない?凄いよ」

「でしょ?」


端で聞いているとまぁ、殴られても仕方ない会話をボクとヒロはしてる

だって・・・我が子はみんな天才だって親は思うものだよ


「大ちゃん」

不意にヒロに呼ばれボクは顔を上げた

「入園式さ・・・・」

「ヒロが出席してあげて。だって、きっとヒロのスーツ姿とかすっごくカッコイイと思うもん

カッコ良すぎて他の父兄から熱い視線とか送られたらどうしよう??ねぇ?ヒロ」

本当はボクも出たい

でも、2人で出るわけにも行かない、そんな事は痛いくらいわかってる

だから、愛の父親として堂々とヒロに出て欲しい

ホンの少し目の前が涙で霞んだ


「うん。でも、幼稚園の前までは大ちゃんとオレと愛の3人で歩いて行こうよ。誰に何言われたって平気だよ

そんな事は初めから覚悟して愛を産んだんだから。絶対2人をオレが守るって言ったじゃん」

「ヒロ、ありがと」


3人で歩こうよ・・・・

桜が舞い散る春の道を・・・

揺るがない愛を真ん中に・・・




「あのさ・・良い雰囲気の所悪いんだけど、もうすぐ開場の時間よ。いっそこのままお客さん入れる??」

アベちゃんの怒声が会場中に響いた







*****************************END








いつも孤軍奮闘してくれる、かおりちゃんに捧げます(^_^; ありがとう。
何も更新しないのにココを見てくれる皆様、ありがとうございます。

                        suica
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