* snow blind *              ☆この作品はケータイで連載したものを纏めたものです






「あと一ヶ月だ」

残り数枚になったカレンダーを捲りながらオレは言った

「夏のライブ終わった頃はまだまだ先だと思ったよね」

君はオレとカレンダーを交互に見やりながら答えてくれた

苗場のライブまで一ヵ月

オレと君が作り上げたユニットの15周年記念にファンを募って行われるライブ



15年・・・これが最後になるなんて思いたくはない

数年前の嬬恋でのファンイベント

星が降るような夜空の下で『別れ』を決めたオレ達が今度は初冬の夜に何を決断するだろう




「楽しみだね」

君が笑いながらそう言うからオレも静かに答えるよ

「何があっても大丈夫だから…」


15年・・・この短くて長い年月の意味の答えは簡単に出せないよね


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「おっ!出来上がったんだ」


刷り上がったばかりの君のライブパンフレットがテーブルの上に無造作に置いてあった

オレはそれを手に取る

いつもの君

出会った頃と変わらない君がそこにいる

休む事が罪悪だとでも言うように君は走り続けてる

『それが僕のスタイルなんだよ』

君の口癖も出会った時のままだね


「ヒュー!カッコいい」

「でしょ、でしょ〜今回は配色に凝ってみたんだよ」

いつでもファンを驚かせたいと君は言う

「でもさぁ、大ちゃん。曲作ったりライブしたり、遊ぶ暇あるの?」

オレの向かい側に座り同じようにパンフレットを捲る手が止まった

「ヒロとは違う意味での友達となら遊んでるよ」

「違う意味って……女の子と遊んでるかって聞いた訳じゃない」

君はあの時の事忘れてないんだね…



『ヒロの事は私が一番知ってるわ』

テーブルに君が置いた携帯電話

「んっ?」

「見ていいよ」

「まさか…」

開くと目に飛び込むメールにオレはがっくり肩を落とした

「……………ごめん」

今オレが付き合っている彼女が君に宛てたメールだった

今まで付き合った子達は殆どと言っていいくらい"彼女の特権"としてオレの携帯を見る

突き詰められ元カノの携番やメルアドを消すのは可愛いと思うが…大ちゃんのメルアドを見つけると少し言葉を無くす

こんなメールだけじゃなく食事している店に直談判しに来た女の子もいたっけ

"ヒロにもっと合う曲を作ってあげて〜"

叫ぶ彼女に君は言い放ったね

「そんなにヒロの事考えてるなら君が作ったら?」



「いい加減にして欲しいな…これで何人目?仕事で初めて知り合う人もいるから制限出来ないんだよ」

もちろん、楽しい事じゃないから君の目は笑っていない

「ごめん………もうメールしないように言っとくよ」

「どうだか」

気怠げに立ち上がった君はスタジオに消えた

「可愛いけどバカなんだよなぁ」

ほどなく、彼女とは別れた




フロントガラスの水玉模様を見つめながらオレは車を走らせる

ザーザー

雨音が車内にまで響くほどひどい降りになって来た

とうとう視界が危うくなって来たのでワイパーを動かす

『苗場の曲順考えたから見に来てくれる?』

受け取った君からのメールには、スタジオではなく自宅に来て欲しいと結ばれてた

例の彼女とはあれからすぐに別れたが…

それを君に報告するべきかどうか迷っている

そんな事…君は知りたくないよね


「あれっ…」

君の自宅のガレージのオレがいつも停めるスペースに見知らぬ車がある

先客とダブってしまったらしい

君の自宅から少し離れた場所に車を停めるとガラスを流れ落ちる幾筋の雨糸をぼんやりと瞳に映す

ガチャリと扉が開く音にオレは慌てて目をそちらに向けた

「それじゃあ、ありがとうございました。 あっ、もうここで良いです。 雨凄いっすから」

優しい面差しの若い男性が玄関から現われチラッと彼の肩越しに金髪が揺れている


「大ちゃん………」


茶色の髪にザックリ編んだセーター、黒の皮パンを着こなすかなりなイケメンだ

長い足を運転席に畳むとドアを閉めてスムーズに車を走らせた

ブルーの車体を横目にオレは空いた場所に車を入れた

さっきのイケメンが気にならない と言えば嘘になる

例えば、彼女の元カレに街でバッタリ出会ってしまうくらいの気まずさはあるけれど

「関係ないか…」


ピンポン♪


「大ちゃん、オレ」

『すぐ開けるよ』

ドアが開いた

「早かったじゃん。 車大丈夫だった?」

「ちぃーす。 メール貰ったのこの近くだったんだよね。 車?…全然大丈夫だったけど?」

イケメンは見てない振りをした

可愛いワンコ達が悪戯しないように脱いだ靴は靴箱に片付けるようにしている

大事な靴を噛まれるのに懲りたと言うのが本音だが今はそれだけじゃない

オレの靴を納める場所がある

それは特別なんだろうか

「ヒロ?何ポーとしてんの?そこ開けたままだとジョンに持ってかれるよ」

「えっ?あぁ〜〜〜〜!ジョン!!!!」

片方を咥えたまま黒い塊が振り向いた



ジョンから靴を取り返し靴箱に片付けたオレはリビングのソファに座り込んだ

「ご…苦労さ…ま…ハハハ」

君は笑い過ぎて言葉が出ないようだった

「無茶苦茶早いし〜せっまい隙間に隠すし〜どうしようかと思ったよ」

無様な事だが少し息が切れてた

まぁ、仕方ないさ

子犬ってのはそんなモンだ

あんな死闘を繰り広げたのにジョンはオレの足に擦り寄って来た

「ジョンに好かれちゃったね、ヒロがいるとボクの方に来ないもん」

「そう?そうかな」

体中を撫でてから首筋に顔を埋める

犬好きなら平気な可愛がり方も少し前のオレなら絶対やれなかった

「んっ…?」

ジョンの毛から君のではないオレのでもない甘い香りが薫る

そうか彼もジョンを撫でて…

当たり前のように君とこの場所で笑いあったんだ


その瞬間、胸に何かが刺さったような痛みを覚えた


「ヒロ…どした?仕事しなきゃ。 何しに来たかわからないじゃん」

目の前に紙をヒラヒラさせながら君がオレの顔を覗き込んだ

「ヒロ?何…」

オレは思わず君を抱き締めていた



「ヒロ…なに冗談やってんの?」

明るい言葉と裏腹に抱き締めた身体は拒んでいた

オレは慌てて君を離す

「仕事するの嫌だからってそれは反則だよ。 ボクの動き封じても働かせるからね

 それに、早く終わって彼女とデートしたいだろ」

「あ…その事なんだけど」

「んっ?」

「言ってなかったけど、彼女とは別れた。 大ちゃんへのメールの後すぐにね」

君の表情を伺う

「ん〜何となくだろうなって思ってた」

フゥと溜め息を吐く君

「まぁ…オレは判り安いですから。 あれ?大ちゃん髪切った?」

何事もなかったようにオレの向かい側に座る君の印象が何となく違う

こう言う時オレは男女問わず髪型を褒める事にしている

「気付いた?少し梳いてもらったんだ」

「よく美容院行く暇あったね〜」

「うん。だから来て貰ったんだ」

「出張???」

「顔な染みの店だからちょっとワガママ聞いて貰っちゃった」

「それはいつ?」

「ヒロが来る少し前まで切って貰ってた。 だから駐車場開いてたか心配だったんだ」

あのイケメン!美容師だったんだ

オレは気が抜けてしまい、再び足にジャレついて来たジョンを抱きしめた

「ヒロ!?」





「ボク達…これからどうしたら良いと思う?」

薄明かりの中で君の背中が震えてる

「大ちゃん…」

「何をどうしたい訳じゃない…でも、このままじゃ…どこにも行けないような気がする…」

いつも自信満々な君の言葉とは思えないくらい弱々しくて儚い声


「再会した時に話し合ったじゃん…無理はやめよう、やりたい曲、やりたい事が出来たら二人で頑張ろうってさ…

そのスタンスが嫌になった?」


君は一貫して音楽を求めて来た

オレと言えば芝居の世界に浸ってみたりしてそれを君は我が事のように喜んでくれていると思ってたのは…

オレの勝手な思い込みだったのか


「やりたい曲、やりたい事が見つからなくなったら?」

部屋にエアコンの音だけが響いてる

オレは君と向き合えずに灯の届かない闇を見つめた





なんて………………………シュールな夢を見た


「これってリアルすぎないか」


最悪の目覚めにオレは気分が悪くなって来た

確かに夕べは友達と飲んだけれど悪酔いするほどの量じゃなかったはずだ

でも、夢は潜在意識が出るらしい

「やりたい曲、やりたい事が見つからないのはオレなんだろうなぁ」

いつだって君を頼ってるのはオレ

甘えてるのはオレ

許されてるのはオレ


「あ…軽く落ち込んで来た」

ライブのリハーサルも始まるってのにこのザマかよ

「大ちゃんはどう思ってるんだろ、オレってどんな存在?」


……君に会いたい


冬のツーンとした朝の空気の中

オレは車を君へと走らせる


車を走らせるこの瞬間にも君の顔を見たいと思う

見慣れた建物に近付きエンジンを切る

まだ世間では眠りを貪っている頃だから…


チャイムを鳴らすと君がドアを開ける


「おはよ。 どうした?こんな時間に…」

「うん…」

突然の訪問にも笑顔で迎えてくれる君にオレは何も告げられない

「ごめんね、大ちゃんは今から寝るんだよね…ごめん」

「良いけど、ヒロがそんな借りて来た猫みたいだと怖いよ。 何か話したい事でも?」

「あるけど…ないかな…」

聞きたい事は胸に山程あるけれど、それを口にするのは間違ってるのかも知れないと大きな後悔が襲う

「何それ???」

コロコロと君が笑う

あぁ…そうなんだ

不意にオレの中のモヤモヤが晴れた

いつでも隣で君が笑ってくれる

オレの他愛ない言葉に仕草に無言の問い掛けに君は笑ってくれる

それが当たり前な事だと気付いた

「大ちゃん、苗場楽しもうね」

「何それ?おっかしい〜。 うん、きっと楽しいよ。 だってボクとヒロが一緒なんだから」

「そうだね」


…せっかくの夜なんだから雪が降ると良いな

少しだけ早い聖夜のプレゼントをボク達にくれないだろうか





・・fin・・





取りあえずココで終わりですm(_ _m)
色気の色も無くてすいません

苗場で素敵な夜があったら何か書くかも(^^;)

ありがとうございました。
     suica
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