silver heaven






雨の事を形容して“銀糸”と言う

繊細で光輝いて儚い


幸せな人にも悲しい人にも・・・

愛する人にも寂しい人にも・・・

雨は誰にでも優しく降り注ぐ

そう、きっとオレと彼にも

光る銀のベールを注いでくれている




ガラス窓を打つ雫の落ちるスピードが速くなってきた

雨の勢いが更に強くなったようだ

室内からそれを指でなぞってみた

「つまんないの?」

オレは立ち上がり彼に近寄る

「雨の日は時間が過ぎるのが遅い・・・」

「オレと一緒にいるのに、そんな事思ってたなんて。悲しいや」

「違う、その反対。普段忙しくて出来ない事がやれて嬉しい感じ」

「何するの?」

オレは彼の金の髪を掬い取っては溢し、掬い取っては溢す

長くなった髪が襟足に当たると擽ったそうに目を細める

そんな君が可愛い

「ヒロと出会うずっとずっと前からの事」

「オレの知らない大ちゃんか・・・きっと沢山あるんだよね、何か悔しいな」

「フフ・・・ボクだって知らないヒロが沢山いるよ」

でも、今は寄り添いながら生きている

ガラスに当たる雨音を聴きながらオレも少しだけ思い出に耽ってみるかな

大ちゃんに言ってない事があるんだ

君は覚えていないだろうけど、オレはこんな雨の日に君と出会っていたんだよ






それは、まだ「アサクラのア」の字すら知らない頃

オレは学生でバンドを組み、華々しく・・・ちょとだけ華々しくデビューしたりしていた

仕事に行く前にいつも寄る店で朝メシ代わりのハンバーガーを食べていた

可愛い店員がさっき磨き上げたばかりの窓ガラスにポツッ、ポツッと天からの落し物が降ってきた

「うわ・・・雨か。そう言えば天気予報、曇りのち雨だったっけ。当たる事もあるんだな」

街行く人々はカバンや紙袋などを頭に乗せて足取りも速く屋根のある場所を目指している

オレ自身はカサを持って出て来ていなかったけれど、目的の場所までは目と鼻の先なのでたいして動揺する事も無く食べ続けていた

「・・・・オレ、何やってんだろ」

ポロリと何気なく口を吐く言葉には真実が混ざっていると思う

学生なのか芸能人なのか・・・はっきりしない自分の立場

そろそろ確固たる何かが欲しくて彷徨っている気がする

「さて・・・」

食べ散らかした包装紙を手の中でクシャクシャに丸めた途端

ザーーーっという物凄い雨の音が店の中まで聞こえてくる

道路を歩くのをあきらめた何人かが勢いよく店にズブ濡れで飛び込んで来た

口々にさっきまで晴れていたのに≠セの、台風みたいだ≠フと言いながら・・・

流石のオレもこの大雨の中を走る気になれず再び腰を下ろした

何気に窓の外を見やればガラスに貼り付けてある店のロゴが邪魔して顔は見えないけどソコで雨宿りする人影を見た

カサを持たずに今まで雨の中を走っていたのだろうか・・・

ブルーと水色のチェックのシャツの肩口から袖口までが色が変わるくらいに濡れている

ジーンズなんかは膝といわず裾といわず水の中歩いてきましたって感じだ

大きなカバンを肩から掛け、その中からハンドタオルを出して拭いてはいるが申し訳程度にしか水滴は吸ってくれないようだ

何故かオレはその手の動きから目が離せなくて見つめ続けている

顔が見えないのだから何に魅かれたって言う訳じゃない

ただ漠然と女の子だろうな・・・とか

その大きな荷物の中身は何だろう・・・とか

店の中に入って休憩すればいいのに・・・とか

勝手に思ってしまっていた


何度も止まない雨を恨めしげに空を見上げているんだろうか?

後姿の髪がサラサラと揺れる


オレは氷が溶けて薄くなったコーラをズズと飲み干した

それでも雨は止まない・・・

窓の外の人影がゴソゴソっとカバンの中を探り始めた

「財布の中身確かめて店の中に入る気になったかな」

やっと、その人の顔が見れると思うとオレの気持ちが華やいだ

それって変じゃない??

セルフ突っ込みしながら心が逸るのが止められない


「わぁ!」

窓の向こうの人が慌てている

見ればカバンからこぼれ落ちる沢山の楽譜

濡れてしまえば使い物にならなくなってしまうだろう

必死で拾い上げるも見る見るうちにシミが広がり書いてある音譜たちも滲み始めた


自分でも気付かぬうちにオレの足は勝手に店のドアを蹴破らんばかりに外に出ていた


「オレも拾うよ!」

外に出て気付いた

こんなささやかな日除けじゃ雨宿りにはならないって事を

「すいません」

二人して濡れた楽譜を拾い集める

端から見たら滑稽なんだろうか


すべて拾い集めその人に手渡した

大部分は濡れてしまいまともなモノは数枚しかないけれど・・・

「ありがとうございました」

「ゴメンね、もっと早く拾いに来て上げてたら何枚かは無事だったかもしれないのに」

オレはそこで初めてその人を見つめた


・・・・・?

アレ、ひょっとして男の子?

小柄だけれど胸は出てなくて、オレも持ってる喉仏ってのがあるし、声も微妙に低い


「いいえ・・・大丈夫です、助かりました。本当にありがとうございました」

その人がニッコリ笑う

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛い

「お、音楽やってるんだね?」

どうしてそこでオレがうろたえるかな?

「はい。遊び程度ですけど」

オレは遊び程度にもなってないです

びしょ濡れの彼の背中が小刻みに震えるのを見て

店に入る?って聞こうとした時、スーーっと一台の外車が彼の隣に滑り込んできた

「スッゲ〜〜〜」

と、心の中だけで驚く


「どうした?」

「あ・・・お疲れ様です」

ウワ〜〜〜何か業界って感じだ

「地下鉄上がってスタジオに行こうとしたら雨に降られちゃいました」

「そっか、・・・乗れよ」

「え・・・あ・・・じゃあ」

車に乗り込む瞬間、彼がこちらを振り向いた

「楽譜拾って頂いてありがとうございました」

「う、、、うん」

彼が会釈して車に乗り込んでも、オレは一歩も動けなかった


まるで一夜の夢のような出会い


どこの誰かも分からない


名前すら知らない


いつか、どこかで再び出会えるなんて、そんな事ある訳ないとその時のオレは思っていた






「    よね?」

「うん・・・・って、何?大ちゃん」

その白い頬がプウと脹れる

「なぁに?聞いてなかったの?さっきから、ウンウンって返事してると思ったら・・・まったく」

「ごめん」

「ボク達、会えて良かったね。人生って色んな所にきっかけが転がってるんだなぁ〜って思うよ」

先輩のライブを観に行ったあの日ではなく、もっと前に出会っていたなんて君は夢にも思ってないんだろう

あの日の大ちゃんも可愛かったんだよ


「いつまでも、こうやって二人で雨見ていたいね」


雨はオレと君を包み込み静かに降り続く・・・


どうか、君の肩を濡らすのが優しい雫だけでありますように







★★★★★★★★★★END




CAN-DEEさんのリクエスト【水にまつわるお話】で書かせて頂きました
もっと、早く書くつもりでしたが、文字通り雨のシーズン%棊ですね
雨降りは「嫌い」だけど、ロマンティックですもんね
「水」ってリクエストには答えてないかな?ダメか・・・(-_-;

                      suika
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