Saint Valentine's Day

suikaさんが携帯で連載していたものをまとめてみました。 すでに読んでらっしゃる数人の方々も、もう一度一気読みでお楽しみください(*^^*)  流花


Sad valentine



1.

さようならと言わなければ、ボク達の恋は始まらない


もうすぐ…好きな人に告白出来る日がやって来る


何年も前から胸に甘い小箱を隠し続けて、それはリボンも外されぬままに朽ちている


告白なんか出来る訳がない

受け止めて貰える筈もない


同じ性と言うだけの単純な、でもあまりにも高い壁を乗り越えるだけの意志は持てなくて

振り向いて貰えないと知りながら、虚飾の曲だけで繋がっている2人

そんな矛盾を抱えながらもボクは彼に笑顔を向けていた


そろそろ…

答えを出さなくちゃと決心はするけれど、彼の顔を見たら心が叫んでしまうかもしれない

誰も許してくれなくてもボクは彼を愛している


黄昏の季節から花綻ぶ季節への橋渡しの行事


言い出さなきゃ


言い出せない


さようならと言わなければ、ボク達の恋は始まらない


「ヒロ…さようなら」





2
.
…昨日まであんなに笑いあっていたのに

今日は一人でココにいる


それがどう言う事なのか、少しずつ分かってきた


オレに問いかける事もせず、君は涙を隠して耐え続けていたんだろうか


儚げな肩を何度も遠くから見つめた

知らないうちにそれが癖になった


時折、そんなオレに気付いて君は恥ずかしそうに俯いていたね

オレ達は微妙な位置でお互いを感じていたのかもしれない

それが心地良くて優しい君に頼りきっていた

気付かない振りをして

傷付かない振りをして

君が去った後の時間は止まってしまい、オレは一歩も動けない


身体が震えるほど人を愛するなんて夢にも思わなかった


この胸の痛みは誰にも分からないだろう


そして、オレは もがれた方翼のつけ根から紅い血を流し続ける


「大ちゃん…会いたい」



camellia



この坂道を降りて行けば違う世界がきっと開けると

ボクはそんな淡雪のような期待をして先を急ぐ

でも、別れを告げ飛び出した華やかな街はモノクロに一変していた


あぁ…


もう、この街には一欠片の未練さえない

彼の側にいられない人生に意味はない


気付いてしまえば簡単な事だった


それでもボクは生きていかなければならない

暗闇の中でも希望はある筈だから


ボクには音楽が

ボクには家族が

ボクには仲間が


支えてくれるモノは世界中に溢れている

ただ一つを除いて…

届かなかった想いを消し去る為には、新しい恋をすればいい


心がきしむような恋を…



wrecked ship
【難破船】



まだ傷口が塞がらず、ダラダラとみっともなく血を流しながらオレは歌っている


それだけが今のオレに出来る事

君と繋がっていたと感じられる唯一の行為

そして、歌はオレを裏切らない


人間て大切な支えを失っても平気でいられるんだ

周りばかりじゃなく自分を騙せばそれは思うより簡単


心を傷付けるよりも身体を痛めつける方が楽だ

別れを告げた君はもっと辛かったんだろうね

インタビューされているんだから、ちゃんと笑顔でいなければ…

なのに、ふと相手から漏れる君の名に鼓動が早くなる

どこに居るのかと詰め寄りたくなる


こんな無様なオレでも君は好きでいてくれたのだろうか


同じ未来を見つめ続けたかった

ただ一人の君と一緒に…


「!!!!!」


オレは声を上げて泣いた

後悔は涙に混じり頬を濡らす


出来るならガキのように叫びたい


「ひとりぼっちにしないでくれ!」


おかしいだろう?

こんなに君を愛していたなんて



chance



この広い都会で巡り会う

この狭い都会でも巡り会わない

人はたくさんの奇跡を積み重ねながら生きている

もし、今日会えなくても

きっと…明日は


あれから何年経っただろう

悲しみの隣を歩いていても時間は当たり前に過ぎてゆき

それなりに歳を重ねている

同じ業界に居れば相手が今どうしているのか分かる

面影を辿るのも簡単な事だ

でも、奇跡は起きてはいなかった




「アベちゃん、少し散歩してくるね」

「また?」

「いいじゃん。コンビニはボクにとってテーマパークなんだからさ」

「じゃ、ジュースの新製品が出てたら買ってきてね」

「アベちゃんだってコンビニ好きなくせに。」

「ハイハイ、何とでも言って」


ダイスケはマフラーを巻き外に出た

2月の風景が華やいだものになっている

もうすぐそこに…


あれから何度目かの

st’valentine day



confession




誰にもきっとある筈なんだ

心の中に゛永遠に変わらない想い゛が …


どんなに傷ついても

どんなに諦めても

どんなに時が経っても





「ジューチュ欲ちい」

ヒーターを効かせすぎただろうか

後部座席の幼子がぐずり始めた

「もうすぐだから我慢しなさい」

隣りでママが宥めているけれど、我慢しないのが子供の特権だ

オレは目に入ったコンビニへ車を滑らせた

「ヒロ…良いのよ」

「読みたい雑誌買おうと思っていたからついでにね」

「じゃあ、私が買ってくるわ」

オレは降りようとする彼女を制した

「そんな大きなお腹じゃ大変だよ。 何、飲む?」

「ありがとう…じゃ、冷たいお茶が良いな」

「OK」


気づけば小さなレディはコンビニの開けられないドアを睨み付けている

最初に読みたかった雑誌をカゴに入れて、ドリンクのコーナーに行く

「茉莉は何が飲みたい?

炭酸はダメだよな…あんまり甘いのはすぐに喉が乾くから・・・ん?茉莉?」



『イチゴムーシュ!茉莉のイチゴムーシュ!』

『そっか…ごめんね』

デザートのコーナーで茉莉の声が聞こえる

他のお客に迷惑を掛けているらしい


「すいません!」

謝りながらデザートのコーナーに走った

彼女の手に握られているのは、最後のイチゴムースなのだろう

棚を見ると空っぽになっている


「お金を払わないうちは茉莉のじゃないから」

「やだ!茉莉のイチゴムーシュ!」

「本当にすいません」

バツが悪くて相手の顔を見る事が出来ない

「大丈夫…ボクも大人げなくてごめんなさい」

聞き覚えのある優しい声に惹かれて顔を上げた瞬間…


2つの運命が動き出すのを感じた


「大ちゃん…」



freedam



「ヒロ…」


神様はなんて意地悪で悪戯なんだろう

あの頃と何も変わらない彼をボクの目の前に見せてくれてる

さよならを告げた時から彼への気持ちは消えてはいない

胸の奥でくすぶり続け、時々熱い何かが込み上げてくる


いつか笑って会えれば良いと願っていたけれど…

それが今日だとは思いたくない

少なくとも子供を連れた彼を見て、平然と笑えるほど僕は強くないんだから



「大ちゃん…久しぶりだね」

「ホント…久しぶり」

「ここの近くに住んでいるの?」

「すぐソコにスタジオがあるんだ。 ヒロもこの近く?」


あいかわらず、引っ越しを繰り返しているんだろう


「そう言えばスタジオの住所を知らせるハガキ貰った気がする…ゴメンネ」

「…気にしないでいいよ」


そう…気にしないで…もう二度会う事はないから…


「あのさ…大ちゃん」

彼が真摯な瞳でボクに何かを言い掛ける

その琥珀色に身体ごと委ねてしまえれば…


「ジューチュ欲しい!イチゴムーシュ欲しい!」


幼子の声でボクは我に返った

「可愛いお嬢さんだね、いくつになるの?」

「えっ?あぁ…いくつだろ?」

「…嘘でしょ?」

「…いや、オレの子じゃないし…」


「パパ!」

可愛い声は彼ではなく店に入って来た男性に向けられていた



snow-white



「どうしたの…最近のコンビニはそんなのまで売ってる訳?」

「そんなのって、オレの事?アベちゃん…その毒舌相変わらずだね」

「久しぶりにかっこいいタカミさんに会えて嬉しいわ。 これなら良いの?」

「やっぱり変わってないや」


オレは大ちゃんと一緒に彼のスタジオにやって来ていた

何とか誤解は解けたものの、そのまま別れてしまう気にはなれなくて

大ちゃんの後に続けて姿を見せたオレに、アベちゃんは僅かに驚いたものの

口調は変わらなかった


「元気だった?」

「うん…アベちゃんもまだまだ若いよね」

「それは元は若くないって事?」

あ…やぶへび

あの頃と何も変わらない空気に包まれながら、オレ達のやりとりを

大ちゃんは笑って見ていた

…悲しみや怒りの全てを呑み込み時は穏やかに流れていく



「…だからね、うちのスタッフから頼まれたんだよ、どうしても迎えにいけないからって。

奥さんお腹大きいから心配しててさ」

「で、ヒロが代わりに行ってあげたんだ」

「まぁ…ヒマだったし、茉莉とは仲良しだしね。

で、急いで向かっていたらちょうどコンビニの横を走っていたんだ」

「茉莉ちゃんは沢山いる彼女の一人?」

「そうだね〜あと20年したらすっごい美人になるよ」

「…ヒロも変わってない」

「大ちゃん…オレの子供だって誤解したでしょ?」

「そりゃ…誰だってそう思うよ」

顔を真っ赤にして、プイと横を向く彼がこんなにも愛しい


今、彼の気持ちが誰のモノであっても、あの時の気持ちを告げたい



「ねぇ…大ちゃん」


世間の仕組みってモノに、絶望しても

゛変わらない想い゛があるから、前に歩いて行けた

何年経ってもそれだけは、色あせる事なくオレの背中を押し続けてくれるんだ



「真っ白い気持ちで、もう一度始めてみないか?」


◆◆◆◆◆end ☆

終わりました。 この後は言わずもがなです(^_^)v  韓国ドラマのように慌ただしい最後になってごめんなさい(爆) 長々とお付き合い下さいましてありがとうございました。
suika
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