〜面影(後編)





ダイスケは不思議だった

会えない距離と時間に心が苛まれていたというのに

車の中のヒロユキは前と何も変わらないし、受け答えする自分も何も変わっていない

離れていたのが嘘だと思えるほど

それでも、会話の中にお互い知らない名前や場所がふと出ると

あぁ…と胸の隅がチクッと痛くなる

ヒロユキも同じ気持ちなのかわずかに黙り込む

「着いたよ」

言われて店の名前を見た瞬間ダイスケは感嘆の声をあげた

「うわ…懐かしい…いつ以来?ちゃんと有ったんだ…」

毎日一緒にいても話し足りないと

あの頃、2人で通った店だった

何時間も一番奥の席に居座りオーナーに苦笑いされた

別れてからダイスケはこの店を封印した

…と言うよりヒロユキを思い出させる全てを忘れ去ろうとした

それでも、変わってない外観や名前のロゴに甘酸っぱい思い出が甦ってくる

「あの席は今もあるんだろうか…」

口を吐いて出た独り言がヒロユキの耳に届く

「ほらっ、、大ちゃん。オレ達の指定席」

【reserve】の札が可愛い花と共にテーブルに置かれていた

「ココ予約してくれたの?」

「もちろん!大ちゃんと久しぶりに食事するならこの店しかないでしょって感じで」

「…凄い嬉しい」


相変わらず食事は美味しく、オーナーも笑顔で迎えてくれる

この空間にダイスケはヒロユキと別れていた時間を忘れ始めていた

……

途切れない会話の途中、時計に目をやりダイスケは現実に引き戻された

「あっ!ボク帰らないと」

「まだ良いじゃん…仕事?」

「違うけど…」

サトシの顔がよぎる

「どうしても行かなきゃダメ?」

「…」

「もう少し大ちゃんと一緒に居たい」

ヒロユキは見つめたまま

テーブルの下でダイスケの手をキツく握りしめた

ダイスケの身体から力が抜ける


互いに言葉を交わさないまま

2人は店を出た

ヒロユキが玄関口に車をつけた一瞬ダイスケが戸惑うと

中からドアが開かれヒロユキが促す

「乗って…大ちゃん」

ダイスケがシートに沈むと同時に車は滑らかに夜の街に走り出した

「これからどうするの?」

「そんなに帰りたいんだ」

「…」

ダイスケは唇を噛んだ

「ごめん…怒った訳じゃないよ」

ダイスケは腕時計を外しヒロユキに渡した

「ヒロが持ってて」

「良いの?……大ちゃんの時間、全部オレが貰っちゃうよ」

頷くダイスケの目元が朱に染まる

車を運転してきた事を言い訳にヒロユキが向かったのは最上階がラウンジになっている高級ホテルだった

「ここなら帰りを気にせずに飲めるよね」

「泊まるの?」

我ながら間の抜けた事を口にしたとダイスケは思った

当然とばかりにチェックインするヒロユキの後に着いてエレベーターに乗る

「大ちゃん」

いきなり抱きしめられダイスケは息が止まりそうだった

この温もりにこの力強い腕に抱かれる夢を何度見ただろう

今も夢を見ているようでダイスケは切なかった

部屋に入るなり互いの唇をむさぼりあった

「んふっ…あ…」

口づけしながらジャケットを脱がされ、シャツのボタンが外されてる

「…ヒロ?ラウンジに行くんじゃないの?」

「後で良いじゃん」

「もう…ヒロ」

苦笑するダイスケをヒロユキは抱き上げベッドに横たえた

「大ちゃんは余裕あるんだね」

そんなモノある訳がない

残る理性が肉欲と熾烈な闘いをしている

やがて、食べられるようなキスを身体中に受けたいとダイスケは懇願し理性を手放した

「ヒロの…なめたい」


もう何時間も前からサトシの目は時計と携帯しか見てはいなかった

今までも遅くなる時は、メールや電話で知らせてくれた

「まだスタジオなんだよね」

だから、自分から催促がましい事はしたくないとサトシはじっと待っている

週にたった一晩だけ

食事して語り合ってキスを繰り返して

密な夜を過ごすだけのこの部屋がそれでも広く感じてしまうのは

サトシがダイスケを心から慈しんでいるからだ

「ダイスケさん…日付け変わっちゃった」

サトシはジャケットと車のキーを掴み部屋を出た

…一度くらいは無茶しても良いよね

いきなり行って驚かせよう

自分に言い訳して車に乗り込み、ダイスケがいるスタジオを目指す

「あ…でもメールくらいはしとかなきゃ」

『今からスタジオに行く無理矢理にでも連れ出すから覚悟しておいてね』

恋人を奪いに行く王子さまの気分で、携帯を閉じた


しかし…

スタジオに近づくにつれ、サトシの高揚感は冷めていく

見上げたビルの窓に灯りはない

…ダイスケがスタジオにいない事は分かっていた



「ヒロのなめたい」

ダイスケは囁き下半身へ手を這わせる

と、ヒロユキが軽く制した

「大ちゃん…そのまえに頼みがあるんだけど」

「何?」

声が上擦る

「…オレに曲書いてくれないかな?」

「どういう事?アクセス復活するの?」

「違うんだ…」

「ゴーストて言うのかな…オレが作ったと発表したい」

「どう…言う…事?」

ダイスケは身体の芯がスーと冷めて行くのを感じた

「ソロやってるのに求められるのはアクセスなんだよ!それが悔しい…」

「それは…いけないよ」

「アクセスじゃ意味がないんだよ!オレにだってプライドはある」

ヒロユキの苦しみがダイスケは痛いほど分かった

しかし…

「それは…自分を騙すだけじゃない大事なファンまで騙す事になる

ボクにその手伝いは出来ないよ。なっ!やめて、ヒロ!」

いきなり、ヒロユキがダイスケの身体をベッドに押しつけた

「頼み聞いてくれたら…抱いてあげるのに」

「離せ…ボクにだってプライドはある」


サトシも…

ダイスケも…

ヒロユキも…

それぞれが不安と悲しみと怒りを胸に抱いて夜を越えようとしている



「オレの頼みは聞けない?どうしても嫌?」

ダイスケを組敷いたままヒロユキは虚ろな瞳で同じ言葉を繰り返す

「出来る訳がないよ」

「“OK”って言ってくれるまで抱いてあげられないよ…ココ、こんなになってるのにね」

長い指がダイスケの下肢をまさぐる

「や…やだ…」

「やだだって…可愛い声で泣くんだね」

「そんな…ボクの知ってるヒロじゃない!」

這わせた手をゆっくりと動かしながらヒロユキはあざ笑う

「オレの何知ってるって言うの?ずっと離れてたのにね…フッ」

首筋にイヤらしい吐息を吹きかけられ

ダイスケの下肢が形を変え始める

「いや…いや…」

「こうされたいんだよね」

ヒロユキはダイスケが穿いていたズボンをはぎ取った

「!!!!」

そのまま下着を下げられ性器を剥き出しにされてダイスケはおののいた

「なっ!?ヤダ!」

性器を暖かい口腔に包まれダイスケは叫ぶ

「やだ!……サトシ!!」

慌てて両の掌で口を押さえた

「サトシ…」

自分がどれだけサトシに甘えて、辛い時にだけ縋りつき利用していた

それでも愛してくれる眼差しに守られていたとダイスケは気づいた

「サトシ…?大ちゃんの恋人かぁ…そんな人がいるのについて来たんだ。オレ、大ちゃんに愛されてるじゃん」

ヒロユキの唇を項に感じながらダイスケは涙を流した

「ごめん。ずっとボクは錯覚していた。別れてもヒロが好きだと…ヒロの面影を愛していたんだ」

「オレはもういらない人間?」

「彼じゃなきゃダメだ…やっと気づいたのに。ボクはここに来てしまったんだ…バカだよね」

サトシはもうボクを待ってくれてはいないだろう



「これがダイスケさんのコップ」

「これがダイスケさんの歯ブラシ」

「これがダイスケさんのパジャマ」

「これがダイスケさんの香水」

「これがダイスケさんの…」

部屋の中を歩きながらサトシはダイスケの物をひとつ、ひとつ、探した

しかし、探す必要などなかった

…どこを見てもダイスケが溢れている


サトシは時計を見た

真夜中をとうに過ぎ

彼がこの部屋を訪れる事はもう無いと覚悟を決めた

初めから2人の間には“愛”など無かったのかもしれない

「それでも…ボクはあなたを愛していた」

その呟きは音のない空間へ吸い込まれて行った


「過去形なんだ」

声のする方を見てサトシは驚いた

「ダイスケさん!?」

廊下からこぼれたライトに浮かび上がったのは紛れなき愛しい人の姿

「ダイ…」

一歩ずつ近づき…やがてサトシの瞳に映るとダイスケは自ら唇を重ねた

「んぅ…ふ…」

やがて激しくなる口づけに思わず吐息が漏れる

「ダイスケさん」

「ずっと、ずっと、一緒に居てくれるよね?」

「いいの?」

「春は桜を見たいな」

「うん」

「夏は海に落ちる夕日を見に連れて行ってね」

「ダイスケさんが見たいなら」

「秋は燃えるような紅葉だね」

「京都まで見に行く?」

「冬は…」

「真っ白い雪の中でダイスケさんにキスしたい」

サトシがダイスケの腰を抱きしめる

「いいよ…サトシと一緒ならどこへだって行くよ」


あなたの優しさが怖くて逃げ出したかった

今はその優しさに溺れたい

もう二度と “面影” はボクを苦しめない


††††††完



終わりました(*^^*)
ヒロを悪者にしてしまいましたが
大ちゃんが幸せならオッケーですよね(*^^*)ホンモノはムカつくくらいラブラブらしいんで(-_-メ)














うしろ影【面影・番外】




「ぅ…」

サトシの手が優しく腿の内側をなぞるとダイスケの唇から悦の声が漏れた

何度も撫で上げられ、次に来るだろう快感を待ち望む

「あ…ん」

「良い?ダイスケさん…良いの?」

下半身にサトシの吐息を感じ、ダイスケはうんうんと頷く

「は…やく、はやく…」

温かい口腔に自分の雄を包まれてダイスケの腰が浮き上がる

舌でゆっくりと上下に嘗められたり、時々強く吸い上げられたりする度に鼓動が痛いくらい早くなる

「あっ…あっ…ダメ…おかしくなっちゃう

ボクはずっと、ずっと、こうされたかったのかも…でも、怖かった…ごめんね」

一際強く吸われ

射精を促されるように舌の動きを感じた瞬間ダイスケはサトシの咥内に精を放った

「んう!」

何度も身震いをして精を出しつくす

サトシはそれを愛しそうにに全てを受け止めた

「謝んなくて良い。オレ…すっげえ、幸せだから」

サトシはそっとダイスケに口づけした

「サトシが好き」

「うん、オレも好きだよ」

「何も聞かないんだね」

「ダイスケさんが言いたくない事は聞かないよ」

「…誰と会ってたか…うっ…」

サトシはダイスケの言葉を唇を塞いだ

「あのね、サトシ。もしも…もしも…彼が苦しんでいたら救ってあげたい。それだけは許してくれる?」

「オレは…絶対、ダイスケさんの仕事には口出しはしないだから…プライベートはオレだけって約束して」

「うん…束縛していい。サトシだけのモノだから」

その言葉にサトシは艶然と微笑み

仰向きになり腰を突きだした

「ダイスケ…嘗めて」

頬を染めて、ダイスケはサトシの雄に手を添えて唇を近づけた

これから来る快感を身体中で受け止める為…瞳を閉じた

「はあ…あぁ…ダイスケ…凄く気持ち良いよ」

サトシの喘ぎをダイスケの耳が捉えると知らず己自身も勃起していた

サトシとのセックスは甘い

思い切り味わって…

思い切り溺れたい…





†††††完


おまけエッチ終わりました(*^^*)
サトシとのエッチに気持ち良くなる大ちゃんを書きたかった
のだが…?

しかし、どうしても、おバカなアイツが脳裏を掠める(_ _;ヤダヤダ…



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