You are my angel 【marriageシリーズ】

 

 

 

「ねぇ?ヒロ・・・本当に大丈夫かな」

大ちゃんは娘のミルクやらオムツやらを手際良くベンチチェストの上に揃えながらオレに聞いた

「大丈夫に決まってるじゃん。オレ、パパだよ」

オレは愛娘を片手で抱き抱えながら気持ちの良い風が吹くベランダから部屋に入った

「あーうー」

彼女はもっとお日様に当たりたいようで手を窓の方に伸ばしている

「愛ちゃん・・・・ママがお出掛けしたらまたベランダに連れて行ってあげるからね」

「分かってるよ、でも今日はいつもみたいに2,3時間で帰って来れるとは決まってないんだよ。

 ヒロひとりで愛の世話するのってした事ないでしょ・・・だから・・・」

大ちゃんが心配するのも無理は無い・・・

大ちゃんは少しずつ作曲活動を再開し始めていた

でも短い時間しかやらないとの条件付きでの活動だ

オレももちろん育児に参加するパパだが・・・やはり限界はあった

子供の生活リズムからはかけ離れた世界だから何時間も見る事は出来ない

でも娘が大きくなるにつれていつか彼女としっかり向き合わなければならない日が来ると覚悟していたが・・・

こんなにいきなり来るなんて!

 

 

久し振りのオフだったので思いっきり惰眠を貪ろうとしていたが・・・オレの上でキャッキャッ喜ぶ娘に起こされていた

「やったな〜〜〜」

ベッドで二人転がっていたら大ちゃんがちょっと怪訝な顔でオレの所に来た

「大ちゃん?」

「どうしよう・・・・」

「ん、何があったの?今、電話していたようだけど。大事件?」

「・・・アベちゃんからだったんだけど、どうしても今すぐに来て欲しいって。」

「仕事か・・・。良いんじゃない、愛はオレが見てるから」

アレ・・・?何で沈んでるのさ?

「何かゴタゴタしてるらしい。会社の内部の事とか・・・ボクも経営者の一人だからどうしても参加して欲しいって」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、それは大変だね」

オレの腕をすりぬけて彼女はベッドの端に腰掛けている大ちゃんの所までハイハイして行った

最近、ずり這いからちゃんとした四つん這いが出来るようになった

オレ達の娘は順調に・・・それ以上に成長している

「アベちゃんもゴメンネって。どうしよう?今からベビーシッターは頼めないし。ボクの母に来て貰おうか?」

そうなんだ・・・愛がもっと小さい時はオレ達に任せるのが心配とばかりに

両方の母親が代わる代わる面倒を見に来てくれていた

今でも電話をかければきっと来てくれるとは思うけれどそうは甘えてはいられない

「大ちゃんのお母さんだって忙しいと思うよ。それに、余計な心配はさせたくないでしょ」

「うん」

 

・・・・って事で大ちゃんは渋々オレに娘を託して出掛ける事にした

自分の支度もそこそこに愛の着替えやら冷凍した離乳食のありかやら、まるでオレは初めてこの家に来た人間扱いだ

「大ちゃん!」

少しも落ち着こうとしない彼をオレは抱き締める

「子供って親が思うより図太いんだって、病院のスズキさんが言ってたよ。それにオレってそんなに頼りない?」

「そうじゃない。ヒロごめんね、・・・違うの。きっとボクが愛から離れるのが淋しいんだよ」

「これからこう言う事何度でもあると思うんだ、ひょっとして、ツアーとかに出たらもっと離れちゃうよ。

 accessのライブツアーだったら二人共いないんだよ。だから、愛には強い子になって欲しいじゃない・・ネッ?」

オレの胸に顔を埋めて少し淋しげに溜め息を零す

「うん・・・分かってる。ボクの方が子離れしなくちゃね」

「ママが甘えん坊さんだ」

うつむく大ちゃんの髪にキスを一つ・・・・

両親のイチャイチャをいつも見ている娘はすっかり慣れてしまい、手に触ったタオル地のオモチャを放り投げてみた

パパの足に当たってそれは思いもかけぬ方向に転がる

・・・・結構、図太く育っているのを知らないのは優しいママだけかもしれない

「終わったらすぐに帰ってくるからね」

なかなか大ちゃんは娘を離そうとしなかった

分かるよ・・・オレも仕事に行く時は後ろ髪ひかれるもんな

pipipi・・・pipipi・・・

大ちゃんの携帯が2コールで切れた・・・それはアベちゃんがすでにマンションの下まで迎えに来ているって事だ

それが合図になってオレに渡した

「じゃ、行ってくる。パパと良い子にしててね」

娘の顔にキスしてから、少し背伸びしてオレの頬にもキスをした

「下まで送ろうか?」

「見送られたら行きたくなくなるからココで良いよ」

オレは娘の手を取ってバイバイをさせた

嬉しそうな淋しそうな微笑を残して大ちゃんはドァを出て行った

 

ママの背中が見えなくなったからか彼女はオレの顔を見つめた

「さぁて!今日はパパとお留守番しようね」

きっとオレの言葉を理解したんだと思う

すぐにリビングにあるお気に入りのオモチャの方へ行きたがった

幼い彼女も何かを決意したようだ

『頼りないパパだもの・・・』

 

リビングのラグマットの上に娘を降ろして、オレはまだ洗濯機に残っていた娘の服をベランダに干す

「洗い終わったら風に飛ばされないように愛のだけはお日様にあててね」と頼まれていたからだ

大人のは乾燥機に直行でも構わないが子供のはお日様に当てると肌に良いらしい

・・・オレ達は親になって色々な事を周りの人から教えて貰った

例えそれが「事実」ではなくても昔から言われてる事はすべてが子供の為なんだ

そうやって皆大事に育てられて行くんだから

 

ベランダに出るとまだ風は冷たい

首を竦めるように手早く背の低い洗濯干しに小さな服を並べる

この間までオレの手の中に隠してしまえるほど小さかった娘の服も、今はちゃんと大人のミニチュア程度になっている

「うわぁ・・おっきくなってるんだよな」

それだけで胸が一杯になっているオレって・・・親バカ?アベちゃんに言わせるとバカ親らしい

ガラス窓越しにタオル地のヌイグルミに夢中になっている娘を見つめた

目元はオレにそっくりだと産まれた時から言われているけど意志の強そうな唇は大ちゃんそっくりなんだよな

・・・ってか、オレの娘は世界一可愛いんだから

見つめるオレに気付いて彼女がベランダの所までハイハイしてきた

「そっか、さっきベランダに出してあげるって約束したもんね」

抱き上げてベランダに出ると身を乗り出さんばかりに周囲の景色を見ている

「お、落ち着いて・・・・」

こう言う落ち着きの無い所や好奇心の塊のような所はオレにそっくりだ

「あーーうーーー」

彼女が指差す方向には大きな公園がある

「そうだ!お散歩行こうか?そうしよう・・・きっと外に行きたいんだよな」

大ちゃんがいつも使ってる「お散歩用袋」を見つけて中に必要なものを詰めた

それを見ただけで玄関までハイハイして行く・・・・

オレに似すぎてて大笑いをしてしまった

冷たい風に負けないように厚手のジャンバーを着させて完了!

玄関の隅に置いてあるベビーバギーを左手に娘を右手に抱えてオレは玄関を出た

施錠をしてからバギーに乗せて廊下を歩く

途中に同じ頃の赤ちゃんを抱いた人と擦れ違い軽く会釈を交わす

・・・・うちの娘の方が数倍可愛いじゃん

でも、この光景をファンが見たら驚くんだろうか?

いつか公にしなければならない日が来るんだろうか?

でも、娘がこの世に生を受けたと言う事実だけは皆に知って貰いたい

そう強くオレも大ちゃんも願っている

・・・・その時が来たら

 

 

ブラブラと回りの景色をみながら15分ほどでその公園に着いた

綺麗な彩色を施された遊具と木で作られたベンチが点々とある他は見渡す限り広大な公園

「へぇ〜〜近くにこんな広い所があったなんてね」

ミッキーの絵のビニールシートを広げ娘を乗せた

見る物、聞く物、小さな虫さえ彼女の興味をそそらないモノはなかった

ひとつ気を付けなければならない事は・・・・

「あ!ダメだって!口に入れちゃぁ〜〜〜」

すぐに口に入れる癖だけは見過ごせない

オレは娘と同じ視線になるようにシートに寝転がってみた

「こう言う感じで愛には見えている訳か・・・・」

コノ目線上にある全てのモノだけが彼女の全世界なんだと思うと不思議だ

「うーうー」

見ると彼女もオレと同じ格好でシートに寝転がっていた

「可愛い・・・・」

こんな可愛い姿を見ると娘の為なら命だって投げ出せると思う

空を見上げればすぐそこに春の息吹が感じられる

「愛ちゃん、雲だね」

語りかけながら流れる雲を見ていたら眠くなってしまった・・・

 

「あ・・いけね」

目を覚ましてすぐに隣にいる筈の娘の姿が無い事に気付いた

「えぇ!」

そんなに長く眠った訳ではなく・・・数分の事だと思う

それにハイハイし始めたばかりで遠く行く訳も無かった

「いた!!・・・良かった」

自分より大きい子達が遊んでいるのに心惹かれたんだろう

ブランコの方に近づいていく娘の姿を見つけた

小さな身体でお尻を振りながらハイハイしているのを見つけてオレは胸を撫で下ろした

「愛に何かあったら大ちゃんに顔向けできないじゃん・・・」

迎えに行こうとオレは立ち上がった・・その時

3歳くらいの男の子が急に走りだしたと思ったらブランコを揺すった

そんな子供の目には赤ちゃんの姿は映っていない

「危ない!!」

オレは走った・・・今までこんなに必死で走った事はなかった・・・

・・・こうなって欲しくない時ほど、景色がスローモーションになるのは何故なんだろう

ブランコが大きくカーブを描いて娘のオデコにぶつかるのをオレは映画か何かのように見ているしかなかった

身体は必死で走っていると言うのに

ブランコの近くにいた女の人が走って来てブランコの鎖を思いっきり掴んでくれたのでかなり衝撃は柔かくなっていたと思う

娘はゆっくり後ろに倒れてすぐに大声で泣き出した

「愛!!!!!」

倒れて泣いている娘をオレは抱えてブランコが当たったオデコを見た

少し赤くなって大きなタンコブが出来ている

「うわぁ〜〜〜ど、どうしよう〜〜〜」

抱きしめてあげても泣き止まない娘にオレが泣きたくなって来た

ブランコを揺すった子供のお母さんが何か謝っていたようだが、今のオレの耳に入るわけは無かった

「大ちゃん・・・」

頭に浮かんだのは大ちゃんだけだった・・・でも泣きつく事は出来ない

「オレが愛の世話するからって大きい事言っといてこのザマかよ。・・・ごめんね」

脹れたオデコを優しく撫でながらオレは父親失格だと思った

「あ・・・」

携帯でかかりつけの病院に電話をかける

「ヤマモト先生ですか?じつは娘が怪我しちゃって・・・」

大ちゃんが妊娠した時からずっと世話になっている大ちゃんの同級生の医師だった

どんな状況で今はどんな症状かを細かく説明する

・・・タンコブが出来るのは良い事で、赤くなっているのは2,3日で治るし、

泣いているのはブランコが当たった衝撃で驚いているだけだと・・・

ひとつずつオレの不安を消すように説明してくれた

『お前も立派な父親やってんだな』

電話の向こうで苦笑するのが分かった

でも、いきなりグッタリしたり、食べた物を吐いた時は病院へ連れてくるようにと念を押されて

「でも・・泣き止まないんですよ!」

最後に縋るように聞くオレに一言スズキさんが言ってくれる

『泣き止むまでパパがしっかり抱き締めていてあげてください、きっと落ち着くと思いますよ。』

「はい」

言われなくてもオレはもう娘を離さないだろう

「ごめんね・・・ごめんね・・・」

広げてあったシートを畳んで「お散歩袋」に納め、バギーも畳んでオレはうちに帰る支度をした

少しだけ泣き止んで彼女はジっとオレの顔を見る

まだココに居たいのに・・・って遠くにいる子供達に視線を馳せる

「良かった・・・遊ぶ元気出てるんだ・・・・でもおうちに帰ろうね」

ブランコにぶつかった彼女よりオレの方が元気を無くしていた

・・・大事な娘を守れなかった後悔は重く心に圧し掛かる

 

 

家に戻るとさっき起こった事など何も無かったように娘は元気だ

おそるおそる与えるオヤツもジュースも別に吐く事も無く機嫌もすこぶる良い

むしろオレの方が神経質になっていたかもしれない

片づけをするオレを追っかけようとする娘がテーブルにぶつかるのが怖くてドアを閉めてしまったり

硬いオモチャは彼女の手の届かない場所に片付けたり・・・

ぐずり出す娘をどうあやしていいのかも分からなくなっていた

「大ちゃん・・・早く帰って来てよ・・・」

口から出るのは愚痴と溜め息ばかりだった

 

夕飯も冷凍庫にある離乳食をレンジで解凍して食べさせて、お風呂も入れて、

眠たそうに目を擦るのが「おねむ」の合図だ

いつもはベビーベッドに寝かしつけるけど今日はオレ達のベッドで一緒に眠る

小さな声で子守唄を歌えば興味があるのか同じように「うーあー」と歌いだす

「やっぱりオレ達の子だよね、音感良いもんな」

腕枕も出来ないくらい小さな愛し子を見つめた

「愛・・・今日はごめんね。守って上げられなくて。あの時、パパは息が停まるかと思ったよ・・ゴメン」

スっと小さな手を伸ばして一生懸命オレの頭を撫でてくれようとする

「愛・・・」

いつも大ちゃんがオレを慰めてくれる時にする仕草だった

「パパを勇気付けてくれるんだ。ありがとう」

こんなにも勇気付けてくれるものは今までオレの人生になかったかもしれない

・・・たった一人の人を除いては

可愛い天使がそばに居てくれればオレは何も迷わずに生きていける

娘の寝息を聞きながらオレも眠りの中に落ちて行った

 

 

・・・・小さな手を伸ばして愛がゆっくりと腕から堕ちて行くのにオレの手は届かない・・・・

 

「愛!!!」

オレは無意識に腕の中の身体を抱きしめた

「あ・・・良かった。ちゃんといる」

ん・・・・?愛にしてはちょっと大きくないか・・・?それにベビー服の柔らかな感触じゃない?

「大ちゃん?!」

目を開けるとオレが抱きしめていたのはいつの間にか帰って来ていた大ちゃんだった

「ただいま」

「うん、お帰り・・って、愛は?」

「ボクがベビーベッドに寝かせてきたよ。気付かなかったでしょ?2人共ぐっすり眠っていたからね」

オレは改めて大ちゃんの身体を抱き寄せた

「今日は愛の世話で大変だったね。ご苦労様」

スッと大ちゃんの手がオレの髪を撫ぜてくれる

・・・愛と同じ

「あのね・・・大ちゃん」

「どした?」

昼間の出来事をすべて話した、もちろんヤマモト先生の言葉も一字一句間違えずに伝える

「ごめん・・・頼りない親で。子供に怪我させるなんて最低だよね。それも女の子の顔に」

「ヒロ。大丈夫、育てて分かったけど子供って怪我するのが当たり前なんだよ。

今までヒロに心配させたくなくて言わなかったけど、小さい傷なんて日常茶飯事だから」

「そうなの・・・?」

「うん」

オレはちょとだけ安心して、大ちゃんの腰に手を回した

「だから安心して寝て良いよ」

オレの胸に顔を埋めてきた

「ありがとうね・・・愛を守ってくれて」

「父親なんだから当たり前じゃん。今日さ、この子の為なら死ねるって本気で思ったよ」

「ヒロ?」

「・・・ボクの為には?」

それは願いなのかワガママなのか命令なのか・・・

真剣な彼の顔を両手で挟んでゆっくりと唇を寄せる

「言わなくても分かってるって思った」

口づけをしたまま身体を反転させて細い身体を組み敷いた

「・・・まだ帰って来てそのままだよ・・・お風呂にも入ってないんだけど・・・?」

「お風呂?いいじゃん、汗かいてから入れば・・・」

「疲れているんだけどな・・・・」

柔かく微笑むと大ちゃんはベッドサイドの灯りを小さくした

 

 

・・・君達はオレの天使

 

・・・いつまでもオレの隣で笑ってて

 

・・・それだけで勇気が出るから

 

 

 

 

*************************************************************************END

 

 

 

 

雅姫ちひろ様に捧げます。(ご迷惑をおかけしました)

「甘い生活」って事ですがこれで良いのだろうか?

どっちかって言うとパパと娘の「甘い生活」になってしまった(^_^;

【君達は僕の天使】ヒロのまわりは天使だらけ♪

                        suika

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送