この宙の下(このそらのもと)







「最近、太陽見てねぇな」

連日連夜、レコディーングやライブのリハーサルに追われて人間的な生活から遠のいている気がする

季節の変わり目とか少し薄着になった女の子のファッションとか

華やいだもの全てが自分の隣を素通りして行くようなもどかしさがある

こんなイライラを抱えてしまった時、今までなら2,3時間現場を抜け出し気分転換を図ったりするんだが

そんな蟻の抜け出る隙間も無いくらい今のスケジュールはタイトだ

自分を取り巻く状況がかなり“キツい”んだろうな

でも・・・普段は100%仕事になりきれない自分だからこんな感じも悪いものじゃない



「ふぁ・・・」

さっきから堪えていたアクビがとうとう口から漏れてしまった

「集中してないな」

ライブの構成をしてくれるプロデューサーに睨まれてオレは慌てて頭を下げた

「・・・すいません」

練習自体が好きじゃないんだ・・・・本番に成果を出せれば一番良いんじゃないか?!




「今さ・・・かったりぃ・・・って思っただろ?」

「え・・・そんな事ないよ。オレ真剣ですよ」

「顔にそう書いてある」

言われて自分の顔を窓ガラスに映してみた

・・・なるほど・・・

正直すぎるって文句言われるくらい正直な顔の自分がソコにいる

「頑張ります」

そう言いながら・・・いつだってオレは頑張っているのにこれ以上どうしろって言うんだろ?

どれだけ走っても走ってもゴールが見えない

ゴールの為に走るわけじゃないけれど先が見えないってのはかなり焦りを伴うものだ

「続ける? 休憩にする?」

「いえ・・・このまま続けましょう、お願いします」

こんな意味も無い会議を何時間続けても無駄だよ・・・とは言わないけどね




「林さん」

「何ですか?」

やっと退屈な会議が終って隣でスケジュール帳を見ているマネージャーに尋ねる

「あの人さ・・・信用できるの?」

「あの人って? プロデューサーの***さんですか?」

「そう」

彼女の目が驚きを隠せずにオレを見ている・・・オレ何かヤバイ事聞いたっけ?

「今頃何言ってるんですか? シングル発売されて目の前にライブが待っているのに。気が合いませんか?」

「気が合わないってか・・・嫌い?みたいな」

「ハァ〜〜〜〜〜」

彼女は盛大に溜め息を吐いて膝の上に置いた大きなバッグの上に上半身を倒した

「タカミさん」

俯いた口元から籠もった声が聞こえる

かなり怒ってますよね?

「ワガママもいい加減にしてください。 ***さんは社長がジキジキにお願いしたくらい有能なかたですよ」

有能だから・・・オレと反りが合う・・・とは限らないじゃん

でも、それ以上は何も言わない

“良い作品”が出来ればそれで何も問題は無いのだから・・・オレだって賢い大人にならなくちゃ

「だよね。うん、分かった。・・・今の話無かった事にして」

ミュージカルでこけた・・・それが事務所的にトラウマになってんのかよ?!


「じゃあ、お先に」

「タカミさん、明日は11時に・・・スタジオですから」

「OK」

スケジュール確認をしてくるマネージャーに軽く挨拶をしてオレは車のアクセルを踏み込む

見えない何かを破り捨てる勢いで・・・

会いたい彼は今もこの都会のどっかで誰かに伝える為に“音”を作っているのだろう

よそ見する暇も無いくらいのスピードで走り回ってるんだよな



「久し振りに行って見るか・・・」

会ってはいけないと誰かに言われているわけではない

オレと彼とで密かに交わした約束だった  

でも・・・こんな日は飲むか彼に会うか、どちらかしかない気がする

飲めば言い訳が効かない事をしてしまいそうな自分がココにいる

「こんな近くにいるのにね・・・大ちゃん」

気が合う人ってどこにでもいるようでどこにもいない

彼に会うまではそんな事欠片も考えなかった

・・・人類みな兄弟

脳天気にそう思っていたっけ

惹かれる理由もオッパイがあるか無いか・・・そんな事だった



なのに

磁石のように吸い寄せられる人間ってのは本当にいるもので確信した時は驚きすぎて声も出せなかった

引っ付いて離れて、また引っ付いて離れて・・・・長年連れ添った夫婦のような事を繰り返して今に至っている

この温度差がちょうど良いのだと気付くのに長い時間を費やした

たまに会う彼は新しい発見をさせてくれる貴重な人だ

「面白いの?」

って聴くと

「面白いよ」

って答えてくれる



黙っていても彼の言いたい事が分かるのはやっぱ凄い事だと思うよ

そんな君に会えた自分の「運」に感謝したい

君もそんな「運」に感謝してくれてるよね




梅雨なのにこの眩しすぎる太陽

頬を掠める少し湿気を吸って重く感じる風

昨日の雨に濡れて鮮やかな緑の葉

改めて自分が生きている今を思えば・・・

オレは一人で産まれて来たけれど一人で生きている訳じゃない

沢山の人に支えて貰っている

そして・・・誰よりも近くに彼

「まだ会えない・・・もう少し待っててね。大ちゃん」




プロデューサーに謝ろう

「イイモノ」を作るのはオレの今の出来る事だから・・・

オレの一番を見せられなければ彼に会ってはいけないと思った



どんなに離れていてもオレ達は

・・・・・同じ宙の下で生きている

それは迷う事ない事実で真実  そして約束



「明日なら良いかな?」

結構、軟弱なオレの決心

ついでにイベントでファンの子達に言った〃同じ日にライブやる事〃打ち合わせてみるかな

それかすぐ隣の会場でライブしてみようか? 

・・・笑って答えてくれるよね

「良いよ」
 








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最近、二人は会ってないと思うのね(本当はどうでしょう?)
でも、会えなくても心は繋がってるって思うの(思いたい!)
そんな願望丸出しのsuikaでした。

                        
suika    


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