ココに居る事その存在

 

 

「大ちゃん・・・自転車乗ろうか?」

ダイスケは雑誌を繰る手を止めた

「何??何をいきなり言い出すのさ」

言った本人は長い毛足のマットに寝転んでダイスケを見上げていた

「オレ、変な事言った?自転車に乗ろうか?って聞いただけじゃん」

ゴロゴロと芋虫のようにダイスケの膝まで辿り着くと両手で腰に抱き付いた

昨夜は次の日が同じオフ日と知ってダイスケがヒロユキの部屋に泊まった

眠りにつくのが遅く・・・寝覚めた時にはすでに陽が高くなっていた

「だってさ・・・せっかくふたりだけのオフなのにどこへも行かないなんて勿体無いじゃん」

「だからって、いきなり自転車って・・・」

腰を抱かれてヒロユキの頭が自分の膝にあるのを嫌がりもせずにダイスケは再び雑誌に目を落とす

そんなそっけないダイスケの態度の裏には昨夜の気恥ずかしさが混じっているのをヒロユキは知っている

窓の外に目をやればやっと寒い冬を抜け出し〃春〃の匂いを風の中に感じる事が出来る季節になった

「車も良いけど、最近自転車で街を走る姿見ると気持ち良さそうだな・・・って思うわけさ」

「自転車・・・・あるの?」

「あれ?知らなかった?ガレージの隅に凄いMB置いてあるんだけどな」

ダイスケは必死に思い出そうとするけれど・・・

「だって、ココに来る時はいつも暗いからガレージの隅なんて見えてないよ」

「友人から貰ったんだけど・・・BMWの会社が作ったやつだから凄い丈夫なんだって」

「2台ある?」

「ううん・・・・1台だけ」

その答えにダイスケは目を閉じて少し心を落ち着けるように深呼吸した

「1台でどうやって走るの?ボクが乗ってヒロがその後から走ってくるつもり?」

膝の上にいる大きな子供をあやすようにヒロユキの頬を両手で挟んで聞いてみた

「やだな〃二人乗り〃するに決まってるでしょ?」

「・・・・・・・・・・」

とうとう・・・ダイスケは黙ってしまった

何が悲しくてこの年になって自転車2ケツしなきゃいけないのだろう??

考えても、考えても彼の考えている事は理解できなかった

「ねぇ〜〜〜大ちゃん〜〜〜〜オレが漕ぐから後ろに乗ってオレの腰に抱きついてよ」

「・・・それがしたいが為に自転車乗ろうって言い出したの?」

ライブの時のカッコ良さは微塵も感じられず、今はただの駄々っ子になっている

「したい〜〜したい〜〜〜」

とうとうヒロユキは芋虫本体になってマットの上を転がり始めた

「・・・・ヒロ」

その低い声にヒロユキ芋虫の動きが止まった

・・・・うわぁ、かなり怒ってる・・・・

顔を上げる事が怖くて出来なかった

ダイスケはあまり怒らないと言う事になっているようだが、どうしてヒロユキと二人だけの時には怒るし泣くし大変なのだ

「まだ明るいから、夕方になったらで良い?目立ちゃうし、恥ずかしいから」

そう言ってダイスケはまた雑誌を繰った

きっと恥ずかしさを隠す為だとヒロユキは思った

再び、ダイスケの所まで転がってダイスケの腰を抱き締める

「きっと気持ち良いよ・・・風になれるって・・・」

そんな台詞をどこかで聞いたような気がした

「ワガママなんだから・・・もう・・・」

「大ちゃんにしかこんな事言わないってば」

「ホントかな・・・お店のお姉ちゃんとかにもそう言ってるんじゃないの」

「信用無いな・・・オレ」

 

 

冬の夕暮れは早い・・・

「寒いよ〜〜ヒロ!」

「ダメだよ、大ちゃんが嫌がるから今まで待ったのに」

この暗闇なら二人乗りしても、さして人の目を気にしなくて済むだろう

しかし・・・昼間の陽が無くなった外の風は素肌を刺すように痛い

ヒロユキはガレージの隅にある自転車の埃をタオルで拭ってから道路に出した

「ね?凄いでしょ?」

「う・・うん」

あまり自動車とか自転車とかに興味の無いダイスケはあいまいな返事をするしかなかった

「ヒロ!?」

いきなり叫ぶダイスケの声にヒロユキはそんなに嫌なのだろうかと思った

「何???」

「これで・・・どうやって2人乗り出来るの??」

そりゃあ無理すれば出来ないこと無いだろうが・・・

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!気付かなかったぁぁぁぁ!」

「でしょう?」

その自転車は機能重視で作られており後タイヤにはカバーフレームが付いていなかった

どう頑張っても後ろに乗って前の人に抱き付けるようには作られていないモノだった

「一人で乗るには快適な自転車だよね・・・じゃあ、ボク部屋に戻るから」

言うなりヒロユキの部屋に戻るのではなくスタスタと大通りの方へと歩き出してしまった

「大ちゃん〜〜待ってよ!」

ピタッとダイスケの足が止まり振り向く

「何??」

「送ってくよ」

「自転車で??」

「・・もちろん、車で」

「じゃあ、お願い」

 

 

 

ダイスケの部屋を目指す車の中はいつもと違って会話が無い

自転車の事や2人乗りしたかったなどと無茶を言ったヒロユキはかける言葉がなかった

ダイスケは窓の外を走り去る街並みのネオンを見るとは無く瞳に映してはいるけれど・・・

「あ・・・」

ダイスケの声の方を向けば学校帰りの高校生のカップルが自転車の二人乗りをしていた

今風の髪型の彼氏の背中にしっかり手を回して楽しそうに彼に話しかけている可愛い彼女

寒さに頬を真っ赤にして、それでも手袋をせずに彼の制服の背中を握り締めている

彼も彼女の為に無理なスピードを出さないようにしているようだ

「あの子達はお互いを大切にしているんだね」

「そうだね・・・可愛いよな。オレもあんな頃あったなぁ」

「彼女が怖がるようなスピードは出さなかった?」

「どっちかって言うと彼女の方がスピード狂だったかな・・・あ・・・」

ヒロユキは喋りすぎたのを後悔した

「大丈夫、そんな若い時の彼女に嫉妬するほど子供じゃないよ」

そうかな・・思いながらダイスケの膝の上の手は開いたり閉じたり落ち着きが無くなっている

また車の中は気まずい空気が流れる

 

「春になったら自転車買って・・・・どこか二人で行こうか?」

「大ちゃん」

「ねっ・・・」

「OK!サイクリングロードがある所知ってるよ」

「そこは2人乗り出来る?目立たないかな」

「でも、大ちゃんがそんなに嫌なら良いから。オレも後悔してます」

「さっきの子みたいに彼女の事を心配しながら走ってくれる?後に大事な人を乗せてるって誰が見ても分かるくらいにさ」

気付けばもうそこにダイスケのマンションが見えていた

ヒロユキは何も答えずにマンションの地下駐車場へ車を滑らせた

指定の場所に停めてエンジン音がおさまるとヒロユキの腕がダイスケの身体を優しく包み込む

「みんなに思いっきり見せ付けてあげようよ、大ちゃんがオレの一番大事な人だって事を・・・」

笑みを零すダイスケに口付けをする

・・・怒ってるかと思えば昔の彼女に嫉妬して高校生のカップルを羨ましがる・・・

こんなに気の使う恋人を持った事はなかったとヒロユキは思った

でも、同時にそれだけ愛されていると言う実感も沸いて来る

愛しいという気持ちが重ねるキスを深く長くしていく

エアコンの止まった車の中に徐々に冷気が忍び寄る

 

「ヒロ・・寒いよ・・・」

「だね。 部屋に行きたいけど、何をしに送ってきたのか分からなくなるから・・このまま帰るよ」

ダイスケが助手席を降りてヒロユキの方へ回ってきた

ヒロユキはてっきり〃おやすみ〃を言われるのだとばかり思った

「おやすみ・・だい・・・」

窓から少しだけ顔を出した瞬間に再びキス

地下とは言え誰に見られてしまうか分からない場所で

「あの高校生カップルに負けないくらいオレ達ラブラブじゃん・・・」

「バーカ」

車から離れかけたダイスケの服の袖を握ってもう一度キスをする

愛しいからキスが止まらない

 

「春になったら・・・ねっ・・・」

「うん・・・オレの背中にしっかり掴まっててよ」

 

・・・・愛しい人の為だけに恋人の背中は存在する

 

 

 

************************END************************

 

 

ってか、あなたたちが高校生カップルだちゅーの(笑)←自分で書いていて笑える

朝の犬の散歩の時に、男子高校生の二人乗りを目撃し思わず書いてしまった私ってアホ(ーー;

                         suikaでした。。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送