◇◇◇ 果てしなき・・・ ◇◇◇








「うるさいな」

さっきから携帯が鳴り続けている

途中、何回か間を置きながらすでに5分は続いているだろう

その前は玄関のチャイムが鳴っていた

流石にダイスケにとっては当たり前な時間だが、普通の人には深夜なので出ない方が賢明だ

しかし、携帯がこれだけ鳴ると家族に何かがあったのかもしれない…嫌な予感も頭を掠め始めた

気持ちが萎えていると体を動かすのも辛い

投げつけて行方の分からない携帯を音で探す

「…あった」

なんの事はない

壁とベッドの間に挟まれているだけで、壊れるわけもない

「ヒロ!?」

液晶画面には今、一番会いたくなくて・・・一番会いたい人の名前

通話ボタンを押そうかどうか迷ったが音は鳴り止まない


ピッ


「はい…」

『良かった…大ちゃん、大丈夫だった』

さっきと変わらない優しい声

忌々しいあの時間が消えてしまえば耳に心地良いだろうに

「何?」

『玄関チャイム鳴らしても出ないから心配したよ』

「玄関って…? 今、ボクの部屋の前にいるんだ」

『うん…』

「話す事何もないから」

『待って、大ちゃん!切らないで!』

「わさわざ何を言いに来たの? 言い訳? 別れ話? それとも…彼とエッチした報告!!」


『…とにかく顔を見たい! 会って話がしたいんだよ。 会ってくれるまで帰らない。 ここで座ってずっと待ってるから。

 でもさ、朝になったらマンションの住人に不審者で通報されるかも・・・・・そしたら大ちゃんの名前出しちゃうよ、良いのかな〜』

プッ…

ダイスケは吹き出した

脅迫しているのか駄々をこねているのかヒロユキらしくて笑えた

「わかった、開けるよ。」

ノロノロと体を起こし、玄関に行く

この向こうにヒロユキがいる

これから2人に何が起こるのだろう


ダイスケは目を閉じ深呼吸をしてからカギを開けた


少し照れ臭そうにヒロユキは立っていた

『ごめんね…こんな時間に』

「ううん…話だけならココで良いよね」

ヒロユキを前にしてダイスケは身を固くした


こんなに近くにいるのに心は遙か遠くにあるような気がする




ダイスケに許されて入った玄関

話のキッカケを掴めずヒロユキは飾ってある絵画を、

ダイスケはヒロユキの靴のつま先に視線を落としていた

沈黙に耐えられずダイスケが口を開いた

「言わなきゃならない事があるなら早く言ってくれないかな。 で、帰って欲しいんだけど」

平静に言ったつもりなのに、語尾が震えた

ヒロユキは顔をダイスケに向ける

「そうだね…じゃ、顔上げてよ。 オレ、大ちゃんの顔見たいって言ったよね」

「え…」

まだ、ヒロユキの顔をまっすぐに見られるだけの心の準備ができていない

「大ちゃん…」

ダイスケは唇を噛みしめる

わざと甘えた声を出すヒロユキをずるいと思った

ゆっくりと顔を上げれば、優しく微笑むヒロユキの瞳が見つめている

ダイスケはヒロユキに縋りつきそうになるのを必死で堪えた

「やっと大ちゃんの顔が見れた。 目赤いね…またオレが泣かせたんだ。」

長い指が差し出され触れられると思った瞬間、寸前で止まる

「別に…だから、話って?」

「別れ話とノロケ話は全く無いから。 大ちゃんと別れる気ないし、彼とはエッチしてないよ」

…まぁ、ちょっとだけヤバい感じはあったけど、それは秘密

ここで言わなきゃならない事じゃない


「彼の携帯に出たよね。 それでも…」

「彼と一緒だったのは本当、だからといって何かあった訳じゃないよ。 他人の携帯に出たのは軽率な行為だった、ごめんね」

「本当?」

「神かけて…信じてくれる?」


まだ君の本心が掴めない

ダイスケはヒロユキを見つめ続けた


澄んだ君の瞳にボクが映っている

信じたい気持ちは嘘じゃない

素直に頷く事も出来なくて…

「ヒロ」

「ん? 何? 何でも聞いて」

ダイスケは何から聞いて良いのかわからなかった

何が一番聞きたいのかも…


「ボクはどうしたら良い?」

ダイスケの瞳から大粒の涙が溜まり、やがて…こぼれた

「大ちゃんの好きなようにして…殴るなり、罵るなり…」

僅かな距離を越え、ヒロユキはダイスケを抱きしめた

「でも…一つだけ。憎んでも良いから、オレの事嫌いにならないで」


憎んでも良いから愛してて

言葉にするより君を思い切り抱きしめたい

「ヒロのバカ…」

「うん、うん」

「優柔不断なんだから」

「ごめんね」

「顔も見たくないよ」

「オレは見たい」

「ボクの前から消えてしまえばいいのに」

「大ちゃんが望むなら」

言いながら抱きしめる腕の力を緩める事はしない

華奢な肩を今見失ったら、きっとそのまま見失ってしまいそうで

「…ヒロ?」

「ん?」

「足冷たい…上がって。 中で話そう」


ヒロユキが引き寄せた為にダイスケは裸足で玄関から落ち、大理石の冷たい床石を踏んでいた

「あ…ごめんね」

身体は離しても重ねた手は繋いだままダイスケはヒロユキの腕を優しく引っ張った

「あれ? ワンコ達は?」

「流石にこの時間だもの、もう寝たよ」

「そうだよね」

ソファに2人で身体を沈める

…もう離さないで




「大ちゃん………ダイスケ」

激しく愛し合った後

隣で健やかな寝息をたてる可愛い横顔に呼び掛けた

呼び慣れた愛称ではなく

確かな愛を込めて名前を


浮ついてしまうこの感情は自分でもコントロール出来ない

でも、ダイスケへの気持ちは唯一で永遠だと今は思える

「ダイスケがいるからオレは幸せなんだよ。 だから、よそ見しちゃうのかな」

頬にかかる髪を少し横に流しキスをした

ついさっきまでの慧との張り詰めた時間を思えば、今は天国にいるようだ

この穏やかな空気を時に嫌い時に求めてヒロユキはさまよっているのだ


「だからって浮気して良い事にはならないよ」

「あ…起きてたんだ」

「おっきい…独り言だもん」

目を開けたダイスケがヒロユキの背中に腕をまわした

ヒロユキは柔肌にドキリとした

さっき十分潤った部分がまた疼いてくる

…やっべえ

触れ合うすべてから愛しいと言う感情が行き来して包み込まれてしまいそうだ

「ヒロ…ナンか当たってるよ」

ダイスケが “クスッ” と笑って身を捩った

耐えきれず勃ち上がりつつある性器がダイスケの性器と触れ合う

「ナンでだろう、大ちゃんだからかな? ヤリたくて仕方ないんだけど…」

「ボクも」

「ねぇ、大ちゃん。 3回は浮気して良い事にしない?」

「んな事!許すわけないでしょ!」

「だよね〜オレちょっと水飲んでくるわ」

ばつが悪そうにヒロユキはベッドからもぞもぞと抜け出した


「ヒロって…やっぱり油断出来ないなぁ」

ダイスケが冗談とも本気ともつかない溜め息をこぼす



甘い雰囲気にはふさわしくない携帯が鳴り出した

細い腕をのばし取り上げた携帯の表示画面の名前は

…慧だった

ダイスケは携帯を触る事もなく画面を見つめていた

今は彼に対して嫌悪しかなく電話をかけてくる意図もみつからなかった

ほどなく音はやみ、代わりにくぐもった音が聞こえてきた

それはベッドの脇の椅子に引っかけられたヒロユキのズボンから聞こえる

ダイスケが出ないからすぐに標的を変えたようだ

「あ…」

その様子にさっきの出来事を思い出させ、ダイスケはあぁ…と納得する

「そっかぁ…わざとか」


「あれ?オレの携帯鳴ってる?」

冷たい水で喉を潤したヒロユキが部屋に帰ってきた

「それ!…多分、慧からだよ」

「そう?って事は大ちゃんにもかけてきたのか」

「出ないよね」

ヒロユキはズボンから携帯を取り出すとスプリングをきしませベッドに上がるとダイスケを後ろから抱き締めた

「ヒロ?」

「シー」

振り向くダイスケに人差し指を唇に当て楽しそうに通話ボタンを押し、そのままダイスケの耳に宛てがった

『もしもし、タカミさんですか? 今どこです?』

あまり聞かない慧の苛立った声だった

『アサクラさんの部屋かな〜でもアサクラさん携帯につながらなかったし』

「もしもし、アサクラです」

電話の向こうで軽い舌打ちが聞こえ自分がやり返されたのを知ったらしい

『…そっかぁタカミさんそこにいるんだ。 それならそれで好都合かな』

あくまでも強気は崩さない

『タカミさんのセックスて凄い優しくて巧いですね。最高に気持ち良かった…アサクラさんが羨ましいな』

「…ヒロは君を抱いてないって言ったよ」

ヒロユキは口の端を僅かに上げ笑いながらダイスケの首筋に舌を這わせ嘗め回した

「ちょっと…ヒロ…やだ…」

挑発に気持ちが持って行かれそうになるのを引き戻される

「なんで?良いじゃん」

「でも…」

ヒロユキの右手がダイスケの胸のピンク色の乳首を摘んだ

「やぁ…やだってば…ヒロ」


『アサクラさん?』

健気にも携帯を耳から外さないダイスケの手を取りヒロユキは話しかけた

「大ちゃんが抱かれる時の声知りたいって言ってたよな、可愛い声聞かせてやるよ」

「えっ!えっ!何なに?どういう事?」

なおも胸への愛撫は続きそれだけで快感に溺れそうなのに、いきなりダイスケの性器は握りしめられた

「んふっ…や…だ…」

「大ちゃん好き…大好き」

ヒロユキの囁きにダイスケの体温が上がり身体中に熱い血が駆け回るのを感じた

ヒロユキの手の中のダイスケの性器が勢いを増した

「正直…」

「だって…あ…ヒロが…意地悪だもん」

ダイスケの手から携帯が落ち、シーツの上を転がる

ツーツー

そして通話も途切れていた


「大ちゃん…愛してる」

「簡単に愛してるなんて言っちゃダメだよ」

ダイスケが急に真顔になり、ヒロユキの身体の下から抜け出した

「わっ!ちょっ…いきなり何? 色気ないなぁ」

「そんな事ヒロに言われたくないよ!」

ダイスケは可愛くアカンベーをして見せた

「アカンベーって…大ちゃん!」

ヒロユキは肌掛けを吹っ飛ばしてベッドから降り、ダイスケを捕まえ再び組みしいた

「簡単じゃないよ・・・すっごい緊張して考えて言ってるのに。 心の底から思ってるんだよ、大ちゃんを愛してる」

「誰にだって言うんだよね」

「まさか…ここ10年くらいは言ってない…」

「ヒロ!」

「嘘です…ごめんなさい」

ヒロユキはダイスケを抱きしめ髪にキスした

「もう・・・あ〜〜いつになったらヒロを独り占め出来るのかな」

顔の横にあるヒロユキの腕にしがみついた

ヒロユキはそんな様子を黙って見ている


…ずっとずっとオレの事見ていて

貴方の全てから一欠片でもオレが無くならないように

いつまでも心配していて


「だから大ちゃん・・・愛してるってば」




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