望 月 【full moon】 

【リクエスト内容・・・・・2人で秋の夜長の散歩道】

 

「う〜〜〜ん」

「う〜〜〜ん」

オレと大ちゃんは違う部屋でそれぞれに唸っていた

 

スタジオに来ていきなり渡された数枚の楽譜、ある曲のコーラス部分のパートがそれぞれに分けられてある

「・・・凄いね。今までで一番多いコーラスじゃない?アサクラさん」

「そうかな?タカミさんなら〃赤子の首をひねる〃より簡単でしょ?」

「大ちゃん・・・それを言うなら〃赤子の手をひねる〃だよ」

いつもの事だけど・・・彼の間違いは凄い

「いいの!これ全部、完璧にしてね」少し・・・怒らせたか?

「・・・ちょっと!?いきなりは無理だよ!練習させてくれないと」今度はオレが慌てる番だ

「もちろん。ボクはその間に違う曲やってるから、歌えそうになったら呼んでね」

そう言って大ちゃんは機材だらけの『夢の部屋』に消えていった

・・・・・そして今に至る・・・・・

 

「う〜〜〜ん」オレはあまりにも難しいコーラスパートを目の前にして手も足も出せずにいる

しばらくは一人きりにして欲しいと応接室に閉じ篭っていたのだが、息苦しさを感じて部屋を出た

 

「お疲れ〜〜」アベちゃんがGOODタイミングで声をかけてくれる

「フ〜〜」

「ハイッ」椅子に座るなりコーヒーを差し出してくれた

「早いねぇ・・・オレが出てくるのが分かっていたみたいじゃないの?」

「私くらいな優秀な人間になると何でも分かるものなのよ」

「なの?」一口飲んで軽い甘さに気付く

「コレ?砂糖入ってる?」 普段はブラックしか飲まないけれど疲れた時やリラックスしたい時は少しだけ甘さが欲しくなる

「ダイスケがね、・・・ヒロが休憩しに来たら少しだけお砂糖を入れてあげて・・・って。実はさっきまでココにいたのよ。ヒロと同じ椅子。 

フフフ・・・似た物ナントカかしらね」

やっぱり大ちゃんには叶わない    何も言わなくてもオレの全部を知られてしまってる

 

ふと窓に目をやれば見事な月が出ていた

「今日は満月か。ブラインド全部閉めていたから分からなかったな」

コーヒーを片手に窓に近づいてみる   普段はそんなに月を見上げるような生活なんてしていない

昼間の空の青さだって知らずに過ごしていると言うのに・・・

急にオレの中にある気持ちが沸いてきた

「ねぇ?アベちゃん・・・大ちゃんも煮詰まってる?」

「ん・・・かなりね」

「じゃあさ、気分転換しても良いよね」 オレはさっさと大ちゃんのいる部屋に向かった

「気分転換・・・って?また、よからぬ事を考えているのね」

 

「大ちゃん・・・?」ドアを開けて覗き込めばパソコンの画面とにらめっこをしている、でもマウスは止まったままだね

「ヒロ!あ・・・歌入れもうちょっと待っててくれる・・・」

オレは近づくと半ば強引に手首を掴んだ

「今は何も浮かばないでしょ?ちょっと外の空気吸いに行こう」

「ヒロ?!」

〃行く?〃じゃなくて〃行かない?〃でもなくて・・・無理矢理に連れ出さないと恋人は部屋から出てくれない

アベちゃんが保護者のように心配してる「一時間くらいで帰るのよ、それと車は禁止。どこ行くか分からないから」

「OK!」  今は歩きたい気分だ。

秋の夜は少し肌寒い、オレは二人分のジャケットを引っ掴んだ

 

「うわぁ〜〜寒いね、ちょっと前まで暑かったから身体が慣れていかないよね」

渡したジャケットを着ながら  2人夜の街へと足を踏み出した

「ねぇ?ヒロ、何でいきなり外の空気なの?これからどうするの?」

「上見て・・・大ちゃん」

大ちゃんは素直に顔を上に向けた

「うあぁ〜〜〜〜凄い!綺麗な満月〜〜〜それに大きいよね〜〜ちょっと感動〜〜〜」

見上げながら月よりも目をキラキラさせている、彼のこんな無邪気な横顔を見られるなら寒くはないよね

「このまま少し歩こうか・・・目的なんて無いけどさ。  オレはそんな気分だけど・・・」

「良いよ」

軒を連ねている店々はすでに閉まっていて24時間営業のコンビニだけが灯りを道路に溢していた

「あ〜〜!」大ちゃんが突然声を上げた

「どした?」 振り向くと閉まってるシャッターを指差している

「こんな近くにペットショップがあったなんて知らなかった〜〜今度、来てみよう」

・・・また、ワンコか・・・・ちょっとだけワンコ達にジェラシー感じて歩く速度を速めてしまった  オレってガキ

「ねえ、ねえ、ヒロ・・・ヒロってば。アジアン雑貨だって〜〜」大ちゃんがオレの気を惹こうとしてる

「今、セール期間中だってさ〜〜明日にでも見に来ないとね〜〜ヒロ〜〜」一生懸命叫んでる

あまりの可愛さについ顔が綻んでしまうオレ・・・

大ちゃんがオレの所に追いついてくるまで立ち止まって待っていよう

「大ちゃん・・・フラフラしてると置いてくよ」

「ヒロの歩くのが早いからでしょ」

どちらからともなく差し出された手は   少しの躊躇いの後にしっかり繋ぎ合わされた

二人の姿を隠してしまうほど月は暗くはなくて・・・繋ぎ合った手を咎めるほど明るくはない・・・

「ねぇ?いつも来ているスタジオの周りなのに何にも知らないよね」

「本当・・・ビックリだよね」

 

道が二つに分かれていて左は登りの坂道になっていた、オレ達は自然とそちらに歩き出す

街灯はあまり立っていなくて、坂の途中に二つ三つ飲み屋の看板が出ている

「うわっ、思ったより急だね」勾配のきつい道を歩きながら大ちゃんが繋いでいる手に力を込めた

・・・オレってば大ちゃんに頼られてるのかな?なんて自惚れてしまった

「ヒロ?」

「何?」

「さっきの・・・コーラス大変?」弱気を見せる大ちゃん

「全然、OKでしょ!それともオレに任せるの心配?」強気に答えるオレ

「心配なんて何もしてないよ。ヒロだから出来るって思ってる・・・。他の誰にもあんな難しいコーラスは書かないよ」

「・・・・相変わらずの褒め殺しだね」

「だってさ、さっき楽譜渡した時のヒロの顔、凄い強張ってたよ。アッハハハハ・・・」

不安気な表情の後はオレの顔で大笑いなんだ・・・イイけどね、大ちゃんが楽しければさ・・・。

 

「前にもこんな事あったよね。ヒロ覚えてる?」

「エッ??   あったっけ?」

「・・・覚えている訳ないか・・・ヒロだもん」

いきなりそんな事言い出すのやめてよ・・・大ちゃん

「まだ・・知り合ったばかりの頃、お互いの事何も知らずにレコーディングだけは始めてて。ある曲の事でちょっと言い合いになってさ」

大ちゃんの瞳が今じゃなくて過去を見つめて懐かしそうに語りだす

「そうだった?確かに若かったからねぇ。そんな事もあったかもしれない」

「スタジオ全体が変な雰囲気になって・・・アベちゃんがいきなりボク達に『二人共外に出て頭冷やして来い!』って怒鳴ったの」

「流石、アベちゃん」

ひとしきりオレ達はアベちゃんの話で笑い合った   こんな事が本人に知れたら大変だけどね

「で・・・?どうやって仲直りしたんだろ」

「こうやって歩きながら今まで知ろうとしなかったお互いの事を話したような気がするよ・・・何が好きとか、今何が食べたいとか・・・」

「知らない事が多すぎたもんね、なのに曲だけは凄いスピードで作ってた。考えると変な二人だよね」

「あの時に音楽に対する姿勢が二人共同じだって分かり合えたんじゃないかな」

「そうだね」

想い出は暖かい・・・想い出は優しい・・・想い出は二人だけのモノ・・・

 

気付けば坂道の一番てっぺんに到着していた  

住宅街の明かりはとうに少なくなっているけれど高いビルが立ち並ぶ都会を彩る光の粒は眠らない街を縁取っていた

ボク達もあの光の粒の渦の中で暮らしているんだ

「陳腐な言葉だけど『宝石を散りばめた様な感じ』だよね・・・」

冷たい夜風に髪を吹かれるままにさせていた大ちゃんがオレの腕にしがみついた

「どうした?大ちゃん」

「んっとね・・・寒い」

大きめのオレのジャケットの中に大ちゃんを身体ごと包み込む  一度離された手はジャケットの中でまた繋ぎ直して

「あの時ね・・・」

「ん?」

「音楽に対してだけ分かり合えたんじゃないよ・・・」

「他に分かり合えたことがあったっけ?」

ジャケットの中での睦み言は艶色を帯びて聞こえる  鼓動が早いのはオレだけじゃないよね?

「それは覚えているでしょ?それも忘れた・・・ん・・・」

大ちゃんの声も聴いていたいけれど、それよりはキスがしたかった

黙らせたかった訳じゃないよ・・・大ちゃん

外でこんな事するの普通なら絶対イヤがるのに   今、見てるのは満月だけだから許してくれてる?

大ちゃんに会えたから一人で歩く事も出来た  大ちゃんの後を追いかけようと決心する事も出来た

あの時二人で見た月の光は歌に込めて君に渡したよね

 

MOONLIGHT PRAY    このINFINITY    思い出と呼ばせない 

            肌に戯れる  光と影追いかけ   Through The Night  

 

 

*******************************************************END

 

 

のらさんから頂いたリクエストで書かせて頂きました。

散歩しながらの何気ない会話・・・ってのはかなり難しかったです、マジで・・・(^_^;

のらさんの思われたモノと少しでも近づいているでしょうか?

良かったら貰ってやっって下さいね(^^ゞ

(ちなみに望月とは満月の別名なのです)

                         suika

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