〜 fille 〜 marriageシリーズ】 

 

 

「愛?  愛  あーいーーー?」

「ダメそう?」

「うん  何か感じているんだろうね」

普段、出かける時は身体中で嬉しいと表してくれるのに今日はビクとも動いてはくれない

「どうする?  オレは無理にする事はないと思うけど」

「何、言ってるの・・・予防接種なんだから、無理強いも何も無いでしょ」

娘の機嫌が治らないのを気に病むオレに大ちゃんは強い口調で言う

母は強し・・・・・

 

娘の機嫌が悪いのにはもちろん訳がある

先日、お世話になっているヤマモト先生から電話がかかってきて

そろそろ初めての予防接種を受ける時期が来たと告げた

体調の良い時に連れて来てくれれば良いと気を使ってくれている

オレ達家族には心強い人だ

 

でも・・・「予防接種」とは「注射」なのである

風邪気味のときにドサクサ紛れに打たれるのと違って意識があるのだから好きなモノではないだろう

朝から熱を測られたりといつもとは違う空気を娘は感じ取っているのかも知れない

意味も無くグズリ始めたり、ソファに突っ伏したまま動かなくなっている

「ヤマモトに会いにいくのは好きなんだけどな」

定期的な検診は楽しくやって貰っているのだから病院が嫌いなのじゃない

「だよね・・・・ひょっとして注射打つって感じてる?」

「カンが良いみたいだね」

「へぇ〜〜〜そこはママ譲りだ」

「もちろん。で、どうしよう? 病院の昼の休憩の時に診て貰う約束してあるのに」

大ちゃんが娘の着替えやオムツが入っているバッグを持ち上げた

それを見ていた娘の目に涙が溜まっていく

オレは娘を抱き上げた  少しだけ彼女の肩が震えている

「大丈夫だよ・・・全然、痛くないからね。 パパがついてるよ」

「ヒロ・・・そんな大袈裟なものじゃないから」

玄関を出て地下駐車場に向かうエレベーターに乗り込んだ

「ねぇ?大ちゃん」

「何??」

「こんなに小さくても試練ってあるんだね、ガキの頃って何の苦労も無いって思ってた」

「・・・ホント。 大人になってその頃をすっかり忘れてしまってるけど子供も大変。

この子を見てて忘れてしまっている事って案外と多いんだと気付かされる、人間は一人では生きて行けないって凄く思うよ」

「うん。かなりワガママなオレも周りの人に感謝しちゃうからね、もちろん一番感謝してるのは大ちゃんだけどね」

「褒められても何も出ないけど・・・?」

大ちゃんが笑いながらオレの頬にキスした

車の置いてある所に着いた時には娘は眠ってしまっていた

頬に涙の跡を一筋残して・・・

 

 

病院に着いてドアを開けると看護師のスズキさんが迎えてくれる

「いらっしゃい・・・あらぁ?ご機嫌斜めですか?」

いつもなら目的地に着いても簡単に起きないけれど、やはり小さいながら緊張しているのだろうか?

大ちゃんが抱いて車から降りる時に不意に目を覚ました

「愛ちゃん〜少し見ないうちに大きくなりましたね」

「そうですか?毎日、見ているからあんまりわからないんですけど」

スズキさんが手を差し出すと娘は嫌がりもせずに抱かれている

空っぽになったオレの腕が娘の重みをすぐに懐かしがった

「本当に重くなって、それに、ますます可愛くなって・・・もう・・どうしましょう」

「ありがとうございます」

娘は沢山の人に守られて生きている

 

「おぉ!やっと来たな、貴重な昼飯の時間を割いてるって事忘れんなよ」

狭い診察室に大きな声が響き渡る

大ちゃんと幼い頃から親友のヤマモト先生は相変わらずの皮肉屋だ

でも、オレら家族にはなくてはならない頼もしい人

そして・・・ちょっと妬けるけれど娘にはこの上なく優しい人

大ちゃんが娘を抱いて座る、その後にオレはそっと立った

「愛」

ヤマモト先生の言葉に娘は少し笑顔になる

この瞬間、オレは“花嫁の父“の気持ちに少しだけなってしまう

まだ幼いとはいえ他の男に笑顔を見せる娘の姿は嬉しいものじゃない

予防注射に必要な問診をしてから、聴診器をお腹や胸に当てている

まだ娘の機嫌は曲がってはいないようだ

「めちゃめちゃ健康だな・・・よっし、今のうちに打っとくか」

スズキさんが銀のトレーに注射器を乗せて持って来た

カチャカチャと金属的な音が診察室に響く  同時に部屋の空気が変わったのを娘は感じ取った

見る見るうちに娘の顔が歪んで 大きな瞳から一粒涙が零れた

「大丈夫・・・」

大ちゃんが優しく娘の身体を撫ぜる

「おぉ〜〜元気、元気」

細い注射針がチクリと刺した瞬間、娘は後ろに立っているオレを見上げた

まるで“パパは私を助けてくれないの?“と言われているようでオレは辛かった

「ハイッ、、終りましたよ。良い子でしたね」

スズキさんに褒められた娘は大ちゃんに抱き付き声を上げて泣き出した

「愛は偉いね、凄いね」

ママに抱きしめられて、褒めて貰うのが子供にはきっと一番の元気の元だと思う

こう言う時パパってかなり損な立場だと思わずにいられない

家に帰ってからの注意事項などを聞き終る頃には娘の機嫌もすっかり良くなった

ヤマモト先生やスズキさんに思いっきり愛想を振りまいている

「おいっ、父親としてはこの愛想の良さは心配だろう」

なんて余計な心配をさせるような事をヤマモト先生はオレに言ったりする

・・・オレには今の貴方が一番心配なんですけどね

「あ・・・ヒロ。ちょっとスズキさんに聞きたい事があるから待っててね」

「うん」

子育ては半端じゃなく大変だ 

ここぞとばかり・・・スズキさんに色んな事を相談したいらしい

狭い診察室にオレはヤマモト先生と顔をつき合わせている

「どうだ・・・父親業は?」

「そうですね・・・大変です。  あの・・・オレって良い父親でしょうか?」

「なんだ  悩み相談か?」

ズズキさんに見つかると怒られるからなかなか吸えないと愚痴を零しながらタバコに火を着けた

白い煙を吐き出してオレの顔を見てヤマモト先生は苦笑する

「さっきさ、愛に注射打った時のお前たちの顔面白かったぜ」

「顔って・・・?何かしましたっけ?」

「オレからしか見えなかったけど自分も注射打たれてるような痛そうな顔してて・・・笑ったね」

あぁ・・・そう言われれば娘の細い腕に光る注射針を見て自分も打たれているような感覚になったっけ

大ちゃんもそう思っていたんだ  そんな些細な事が嬉しかったりする

「親なら誰だってそうなんじゃないですか?我が子が痛がっていたら余計に」

「そうだとオレも思いたいが  そうじゃない親も腐るほどいるぞ」

「オレって良い父親になれますか?こんなワガママなオレでも?」

「この世に“良い父親“なんていないんだよ。子供に必要なのは“愛してくれる人“なんじゃないか」

「愛してくれる人」

「そう。遠慮せずに思いっきり自分の娘を愛してやれよ、そうすればそんな妙な心配も無くなると思うけどな」

カチャリ

「お待たせ〜〜ヒロ帰ろうか?」

大ちゃんの声にもしばらく動けないほどオレはヤマモト先生の言葉を噛み締めていた

「ヒロ??」

「ほっとけよ・・・父親業に浸ってるらしいぜ」

「そう・・・よく分かんないけど。 ヒロ〜〜愛が帰りたいって」

ポンッと腕の中に渡された娘はオレの顔を見て笑ってくれた

安心したようにオレに身体中を預けてくれる

この腕から自分が落とされる事なんて世界が滅びるよりも皆無だと信じてくれている

これで良いんだよね パパはいつでも守ってあげるから・・・いつだって愛してあげるからね

「おっと・・・もうひとつ付け加えると」

「???」

ヤマモト先生がオレの耳元にソレを吹き込んでくれた瞬間、オレはドギマギするしかなかった

「そ・・・それは・・・えぇ?!」

「何??何???」

しつこく食い下がる大ちゃんを連れてオレは病院を後にした

 

「ねぇ?ヒロ!ヤマモトは何て言ったの??ねぇ〜〜教えてよ」

車の中でも大ちゃんは執拗に聞きたがるけれど・・・それって・・・言って良いのかな?

言わずに実践する方が良いのではないかと思うんだけど   ねぇ?大ちゃん

 

花のような愛   太陽のような愛   星のような愛   空のような愛   風のような愛   海のような愛

         

   愛しい娘よ         

 

 パパはそのすべてを愛する 

 

 

 

 

*************************************************end

 

 

 

えっと・・・言い訳はしません(-_-;

・・・・「封印」解きました←封印してたんかい!?(謎)

こんな可愛いヒロパパが書きたかったんです♪テヘッ(何事も無かったかのように)

タイトルはフランス語で【娘】で(フィーユ)と読みます。

      

                 (節操無しの)suika

 

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