*fiction*






見慣れた風景の中


アルはいない…


あの日から何も変わらない


アルだけがいない…


時間は過ぎて季節は流れ生活はそのままなのに


アルはもういない…


朝眠り夕方起きる

目覚めると当たり前に視線が部屋の隅で止まる

黒い塊のジョンが身体を丸めて眠っている

その隣にポッカリ空いた犬用のベッド

そこに居るはずの茶色の優しい子はもういない



―あぁ、そうなんだー



こんな日が来る事はわかっていた

それなのに、こんなに胸が苦しい

頭の奥が思い出す事を拒否している



「やっぱ…そっち見ちゃうよね」


背中に優しい声が注がれる


「まだ1ヶ月経ってないから仕方ない…でも、大丈夫」


泣きそうな瞳を見られたくなくてダイスケは振り向かず答えた


隠さなくてもわかってしまうだろう



「アルは家族だから失ったら辛いに決まってる。 思い出して泣いてあげなよ」


ヒロユキの温かな手の平がダイスケの肩から背中へと撫で下ろされた


そっと包み込むように何度も何度もダイスケの心を溶き解す


「いつもあそこに寝てたよね」


「うん」


「あのぬいぐるみが大好きで抱えてた」



「うん」


「ボクが寝ようとすると“遊んでよー”って吠えるんだよ、困った子だよ」


知らず熱い涙が頬に零れた


生後まもなくボクのところに来てから片時だって離れてない


仕事先だって連れて行った

人懐こくて誰からも愛された

ボクはそんなカレが誇らしくて嬉しかった

最後に逝く瞬間も一緒にいた



「ヒロ…どうしょう、涙が止まらない」


「オレが受け止めようか?」

ヒロユキは背中からダイスケを抱きしめた



「涙?それともボク?」

笑い泣きしながらダイスケは身体をヒロユキに押し付けた

裸の肌がしっとり汗ばみそれがむしろ心地良い



「思うんだけど…アルは大ちゃんに幸せを運んできてくれたんだよね。

再会した時の笑顔見てそう思った。 オレも感謝してる」


「うん、こんなに幸せだった時間はなかった」



“ワォン!”



「ほら、トラボルタもいますよだって」


2人のベッドに黒い毛が飛び乗って来た

ダイスケとヒロユキの間に無理やりお尻をねじ込み悦に入ってる

その可愛らしさにダイスケに笑みがこぼれた



「泣いた後はボクと遊んでよーって言ってる」



“ワン”



「そうだ、そうだ、って言ってる」


「随分と犬語が理解出来るようになったんだ」


なおも自分の領域を広げようとジョンはヒロユキの膝の上に半分乗っているが嫌がるでもなくジョンのされるままになっていた



「犬が苦手だったオレを克服させてくれたのもアルだったよね」


「ねえ?ヒロ?

こんなに悲しいのにいつか全部思い出になってしまうのかな…

懐かしそうに笑って話したりするのかな」



…そう、幼い頃に飼っていた動物や魚

今は思い出しもしない

人間は醜い生き物だ



手が肩におかれたと思った瞬間、ダイスケはジョンごとヒロユキの胸に抱かれた



「それで良いんだってば…今は思いっきり泣いて明日は笑おう

ずっと大ちゃんが淋しそうだとアルが心配しちゃうよ」



「口だけは上手いなぁ」


「そんな言い方ないじゃん!一生懸命励ましたんだから…なぁ、トラボルタ」



“うわん!”



抱き抱えられた体勢が苦しかったのかバタバタと脚を動かしジョンはベッドから飛び降りた

そのまま、寝室から出てお気に入りのクッションがあるリビングに逃げてしまった



「きっと…ジョンもボクより先に逝くんだよね」


想像しただけで新しい涙が目に溜まりポロポロと落ちてダイスケを抱きしめるヒロユキの腕を濡らした



「オレがいるじゃん、多分ジョンよりは長生きする自信あるよ。

悲しいことがある度にオレが受け止めてあげる

だって…オレ達…」



ジョンがいなくなったヒロユキの胸元にはダイスケがすっぽり収まったまま

馴染んでいく体温はどちらのものかわからない



「オレ達…何?」


「家族じゃん」


「だよね」


「うわー、改めて言葉にすると恥ずい」



少し照れたヒロユキはダイスケをシーツに横たえると覆い被さり白い肩に唇を落とした


ダイスケはそっと瞼を閉じる




すでに外は夕暮れの気配

シーツは紫色に染まり現実と虚構の境目が見えなくなっていた
 


ふっと…柔らかい毛が優しく頬を擽る

ダイスケは瞼の裏でアルの存在を確信した



…そばにいるよ



また会える

その時までにもっとヒロを犬好きにならせようと思う



…もう泣かないよ




∞∞∞∞∞∞終∞∞∞∞∞∞







お久しぶり〜〜〜
アルくんの訃報には驚きました
大ちゃんの悲しみを考えると側にヒロが居てあげてくれたらなぁ〜って(^_^;)
実際は知りません(苦笑)

エッチの続きは気になる方はメールくだちゃい←をいww 

      20100509 suica


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