Etoile(星)★






「パァパ〜!マァマ〜!」

ブロードバンドラジオを終えて控え室に戻ると可愛い声が出迎えてくれた

スタッフから大ちゃんの腕に手渡されたのはオレ達の大切な娘だ

仕事場に連れて行かないと決めていたが近ごろオレ達が出掛ける時に淋しがるようになった

“知恵がつき始めた証拠”なのだが、今日は玄関先でひどく泣かれとうとうラジオ局に連れて来てしまった


「パァパ〜!」

まだしっかりとした発音が出来なくて擬音のように聞こえる、それでもオレはデレデレになってしまう

「愛、イイ子にしてた?」

顔を覗きこむオレにドアを指差して何かを伝えようとする

「あっち?外?」

「さっき外に出て電車を見に行ったのを言いたいんじゃないでしょうか?」

スタッフがこっそり教えてくれた


「電車見たんだ・・・良いなぁ〜パパも見たかったよ」

「ゴ〜」

自分の意思が通じたのが嬉しいのか電車の音を真似てくれる

「今度3人一緒に見に行こうね」

大ちゃんの言葉に娘ははしゃぐ


「いっちょ〜」

「一緒〜」

「ゴ〜〜」

オレは電車を真似て控え室の中を走り回る


「子供が2人・・・」

それを見ていたアベちゃんがポツリと呟く

「何か言った?」

オレは振り向く

「何にも。ところで・・・ダイスケは自覚あるの?」

矛先が大ちゃんに回ったようだ


「自覚・・・って何の?」

ふう・・・と、大きな溜め息を吐きこめかみを押えた


「何?何?なんなのさ」

「公共の電波に乗るんだから自分の発言には気をつけてほしいのよね」

さっきのラジオの内容のダメ押しらしい

「ママ何か言ったっけ? 変な事ないでちゅよね〜」

娘に同意を求めてみたりするのだが

そんな事は我関せずの娘はおでかけバッグの中のお菓子を欲しがっていた

「あっ、パパ! 夜の9時以降は甘いお菓子は食べさせない」

「あぁ・・・そうだった。チョコはダメだ」

「だ〜か〜ら〜! それよ」

いきなりアベちゃんが叫んだ

「どれ?」

オレと大ちゃんと娘の3人でアベちゃんにツッコミをいれた


「ラジオの中で“パパ”だの“食事はよく噛んで食べなさい”だの!生活感出しまくりなんですけど」


「あぁ・・・なるほどね、でもさぁ仕方ないよ」

「何が“仕方ないよ”なのよ!」

怒りはオレにも向いて来た

「だってさぁ。普段言ってるからつい口を滑らしちゃう事あるよね?

ラジオも番組半分くらいになるとまったりするからなぁ」

「それは2人だからでしょう!」

「両手でおせんべいの下の方持つと食べやすいよ」


言ってるそばから大ちゃんは愛に食べ方を教える

言われた娘は小さな手でおせんべいを持ち口へ持って行く

控え室にポリポリと言う音が響いた


それを見ていたアベちゃんは脱力してから、笑い出した

「お母さんなんだから仕方ないか・・・でも、気をつけてよ」

「うん。ごめんね」


「愛、おいしい?」

「あい、アーちゃん」

娘と同じ目線に屈みこみながらアベちゃんが聞くと満面の笑みを返しおせんべいを差し出した

「ありがとね」

それが嬉しかったのか娘はスタッフ全員におせんべいを配って歩いた

どんなにアベちゃんの機嫌が悪くなってもこの可愛らしさですべてが拭われてしまう



「さあ、帰りましょう」

そう、アベちゃんが促した

カシミヤの白いコートを着た娘を抱くオレの隣りを大ちゃんが歩く

そんな当たり前の家族の風景が愛しい


外に出ると夜の冷たさが肌を刺す

オレは少しでも防げればとコートのフードを娘の頭に被せた

うさぎの耳が可愛らしい

娘がオレの顔を見上げそのまま夜空を仰ぐ

「あ〜」

「今夜は星出てないね。愛は星見るの大好きだもん」


今にも初雪の便りが届きそうで黒く暗い雲が覆いつくしていた

小さくて短い指が空を指差す

オレには見えない星が彼女には見えているのかもしれない

「ねえ、大ちゃん、オレ達には見えなくて残念だね」

そう言って大ちゃんを見ると優しい視線とぶつかった

「何?」


「ボクにはちゃんと見えてるよ」


「・・・? そっか・・・そうだね」


オレの腕の中で夜空をキラキラした瞳で見上げる娘がオレ達の“星”だ

「寒いね・・・帰ろうよ、大ちゃん」


そして、オレはもう一つの“星”と手を繋いだ






□■□■□■□■□終






久しぶりの「愛ちゃん」です。 先日のBBNはネタの宝庫でしたね(^^;)
                                        
                            suika
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