Eternal promise






窓からの風が都会のとは少し違う気温と匂いを運んでくる


「うわぁ・・・コレ全部葡萄畑かな?」

助手席の彼は嬉しそうに目に入ってくる光景をオレに伝えてくれる

運転するオレの眼前にも両手を伸ばしたような背の低い木が遥か向こうまで続いていた

今は緑色の葉だけがその木を覆っているけれどもうすぐワイン色やグリーン色の宝石のような粒をたわわに実らせるだろう

走り去る車の中にまでその馥郁たる香りまで感じさせるような・・・・


「あとどのくらい?」

「高速降りたから30分くらいかな」

「ふーん」

それ以外の言葉を口にしない彼が心の中では嬉しがっているのをオレは知っている


・・・2人で来る初めての軽井沢




様々な仕事の合間にアベちゃんからもぎ取った貴重な休みをどうしようかでオレ達は悩んだ

3日しかないので初めから海外は無理だ

でも、都内で過ごすにはあまりにも無味乾燥な気がして時間も無くなりそうな時にオレは彼に告げた


「大ちゃん・・・・うちの別荘に行ってみる?」

「ヒロん家の?」

正直言うといきなり思い出した訳じゃない

何か有る毎に軽井沢行ってみたいな≠ニ言われててずっと気になっていたんだ

「行きたい・・・」

「よっし、決まり。 今から行こうよ」

「今からって!? ご家族に迷惑じゃないの?」

「今の時期は使わないよ。 それに、もう行くって決めてカギ預かってるから」


実は決まってました的な報告は彼をがっかりさせるかと思ったけれど、気にする風もなく出掛ける支度を始めた

クローゼットルームから彼がオレに聞いた

「ねぇ?やっぱり向こうは夜になったら寒いんだよね?」

「そうだね、朝晩はもう寒いね。でも、大ちゃん 向こうで買っても良いんじゃないかな」

「うん・・・そうする」

冬物を引っ張り出すよりは早く2人になりたい

多分、オレも彼もそう思っているんだ




秋の夕暮れは想像よりも早い

車窓を流れる叙情的な景色もすでに影絵のようにしか見えなくなってきていた

「真っ暗だ・・・風も冷たいね」

「閉める?」

「もう少しこのままでいいよ。東京とは違うんだなぁ・・・って感じられる」

ふっと見せた彼の横顔が淋しそうなのにオレは気付いた

「大ちゃん・・・」

「何?」

「・・・お腹減ったでしょ?」

肝心な事はやはり聞けない・・・

オレは他事で話をはぐらかす

「減ったよ〜〜〜さっきのICで何か食べておけば良かった〜〜どっかお店寄ろうよ」

子供みたいに駄々を捏ね始めた

「クックッ・・分かったから拗ねないの」

オレは別荘まであと数メートルの道をUターンして行きつけの店に彼を案内した




フランス料理だが高原野菜を使ったメニューが豊富で最近、野菜を獲らなきゃいけないと自覚した彼にも大丈夫だと思った

お皿にふんだんに盛られた旬の野菜たちを前に彼の手が躊躇する

「これ全部・・・ヒロは食べられるの?」

「もちろん! 身体に良いんだよ。 オレも食べる、大ちゃんも食べる。ね?」

じっとオレの顔と野菜を見比べているのをよそ目にオレは野菜を食べ始める

いじめている訳ではないけれどそんな彼も可愛くてオレは何も言わなかった

イヤなら食べなくてもいいよ=E・・って言いかけた時

綺麗なオレンジ色の人参のスライスを口に運んだ

「あ・・・美味しい」

「大ちゃん、偉い」

彼に小さく拍手を送る

「でしょ?」

少し得意そうな微笑がオレに向けられた

端から見たら男同士が何をしているんだろうと思われるけどそんな事は構わない


彼の抱えた不安を打ち消せる事が出来るなら



店を出るとあたりは夜の闇に包まれていた

都会と違ってどこにいっても人工的なライトに照らされると言う事もなく

店が建っている場所がすでに山間にあり地上よりも月がある空の方が明るいくらいだ


「凄い星だね」

見上げる彼の頬に形が浮き上がりそうなほど星達の煌きが眩しい

「東京じゃあ見られないよ・・・これが見たくてオレはココに来るのかも知れない」

「分かる気がする。 こうしたら手に届きそうだもん」

「大ちゃん」

オレは彼を抱き寄せた

微かに震えているのは寒さのせいなのだろうか?

「ヒロ」

「この星よりも大ちゃんの方が綺麗だよ」

「・・・何言ってるの?」

少しあきれ気味の唇にそっと唇を重ねた


こんな雰囲気の時はそれに呑み込まれてみようよ



「着いた」

滞在用の食料を途中で買い込み、やっと別荘に辿り着いた

車から降りて彼が小さく感嘆の声を上げた

「うわぁ、凄い・・・」

門柱のライトに照らされた広い敷地の中にログハウス風の別荘は建っていた

リビングから続いたデッキも広く大きなロッキングチェアーが置かれている

「2、3年前に兄貴が建て替えたらしいからオレ自身の思い出ってあんまりないけどね」

オレはドアを開けて彼を招き入れた

「うわぁ」

玄関から通じるリビングに案内して彼はまた溜め息を吐く

確かにリビングは2階までの吹き抜けになっていて兄貴自慢の部屋になっている

「ありがとう、ヒロ。 凄い嬉しい」

「いえいえ・・・御礼は後でゆっくり&たっぷりで良いからね。 先にお湯溜めてくる」

「ヒロ」

「ん?」

彼がオレの胸に飛び込んできた

そして、腕が背中に回って熱いキス

「そうきたか・・・」

いつもと環境が違うからなのかオレも止める事が出来なくて小さな彼を抱き上げて即セカンドルームへと運ぶ

普段、家族が使う寝室は流石に気が引ける


「ヒロ・・・? お風呂は?」

そんな色っぽい目で聞かないでよ

「後で良いじゃん」

「切羽詰ってるんだ」

「うん」

素直に頷くオレに彼は再びキスをくれた

きっと・・・許してくれてる合図だね


都会では有り得ない静けさの中で激しく乱れた彼をオレは抱いた




「ヒロ、おはよう」

いつもはオレより寝坊の彼が先に起きている

「早いね・・大ちゃん」

「だって、せっかく軽井沢に来てるのにゆっくりするのって勿体無いじゃん」

「それにしたって、夕べは激しかった・・・」

ボフッ!

枕を顔に押し付けられてオレは黙った

「知らない! ボク一人で散歩してくるからね」

割と軽装で彼は階下に降りて行く

「ちょっと待って、大ちゃん! この辺の地理も知らないくせに! 絶対、迷子になるよ! すぐ行くから待ってて」

ココの寒さを甘く見ている彼の分までジャケットを掴んでオレは着替えもソコソコに後を追った



玄関を出て澄みきった高原の風を肌で感じると彼が首を竦め急いで戻って来た

「ほらね。 ねぇ? 手繋ごうか?」

東京ではおおっぴらに出来ない事もココではやれる

シーズンオフの今は定住者以外の人はまばらでオレ達が手を繋いでも誰にも見咎められる事はないだろう

オレの掌に彼がそっと手を重ねた

寒いと形容してもいいくらいの風を感じながらソコだけは暖かかった


決して一人では味わえない幸福


旧軽と呼ばれる別荘地域にも今風の店は建っている

今はまだ時間が早いから開いてはいないが後から来ようと思うのが何軒もある

「あ・・・ココは開いてるんだ」

朝食にピッタリなパンの店を見つけた

「買ってく?」

「そうだね」

そんな些細な会話さえオレ達には新鮮に思えて胸が弾む

「大ちゃん、もっと遠くに行く?」

「ん?」

オレはレンタサイクルを見つけ指差した

「ボク・・・自転車は苦手だよ」

「オレの後に乗れば良いじゃん」


買ったばかりの長いフランスパンを前カゴに乗っけて後には彼の温もりを感じオレは走り出した

「ねぇ? どこ行くの?」

腰にしっかり腕を回した彼が風に掻き消されないように大声で聞いてくる

「ドコ行こうか?」

急に無口になった彼の腕に力がこもる

「このまんま・・・ヒロと一緒にいられるならドコでも良い」


淋しげな横顔の原因はそれなんだね・・・?

不甲斐ないオレのせいで彼はいつも悲しい想いをしているのかもしれない


「OK!」

オレはペダルを勢い良く漕ぎ始めた

白樺やポプラの木が道の両脇に立ち並ぶ軽井沢の景色の中に吸い込まれるように走って行く

こんな素晴らしい時間を過ごせることへの感動は言葉には言い尽くせないほどだ

きっと、背中の温もりの持ち主も同じ気持ちだと思う

「ねぇ? 本当にドコ行くの? 目的は無いの?」

無言で走り続けるオレに不安になったのか、彼が小さな疑問を口にした

「もうちょっと我慢して」

「うん」

数パーセントの奇跡を期待してオレは先を急いだ

並木道から森の奥へと入ると急に拓けて目の前に白い建物が現れる

その建物から出てきた掃除のホウキを持った人へオレは声を掛けた

「すいません・・・中を見せて頂いて良いですか?」

早朝のそれも男二人連れの姿を見て訝しげに思われても仕方ないのにその人は笑顔で「どうぞ」と言ってくれた

「大ちゃん、降りて良いよ」

「ヒロ・・・ココって?」


この建物の天辺を見ればすぐに理解できるだろう

それはこの辺りでは有名な教会だった

小さい頃から遊び場代わりにしていたオレが彼を連れてきたかった場所

聖なる場所は誰にだって平等だと思う

重い扉を開ければその厳かな内部に足を踏み入れるのさえ躊躇ってしまう


「大ちゃん」

彼の手を引いて中へ踏み出す

きっと誰もが一度は憧れ、夢見る場所

「ヒロが軽井沢に誘ってくれたのはココに来る為?」

「うん・・・大ちゃんと来たいとずっと思っていたんだ」

彼と向かい合ってオレは立った


「デタラメだけど・・・汝はこの男を愛し健やかなる時も病める時も

 生涯一緒だと誓いますか?」

うろ覚えの誓いを口にするオレに彼が黙り込む

「あれ? やっぱりデタラメだった??」

ううん・・・と俯く彼の瞳から涙がいくつも零れてオレはうろたえた

「ごめん! こんなやっつけみたいなシュチュエーション嫌だよね?

 ごめんね」

「違う!ヒロ違うってば!・・・・良いの?」

「何が?」

彼は涙が流れ続ける瞳をオレに向けた

「そんな大事な誓いを神様に捧げて良いの?後悔しない?

 こんなボクに?」

「何言ってるの?それはオレの方でしょ!?」

「ヒロ」

「誓いますか?」

オレはゆっくり彼の瞳を覗きこむように尋ねた

「はい」

「良かった」

「汝はこの男を健やかなる時も病める時も楽しい時も辛い時も

 ずっとずっと愛し抜くと誓いますか?」

あ・・・少し条件が厳しくなってる気がする

「はい、誓います」

オレはまだ涙ぐむ彼を抱き締めて誓いのキスをした

ステンドグラスから差し込む光が祝福のようにオレ達を包む


真っ白なウエディング衣装も着てないけど・・・


真っ赤なバージンロードも踏めないけど・・・


華やかな賛美歌も聞こえないけれど・・・


人々の羨望の歓声も無いけれど・・・


空に舞い上がるライスシャワーも見えないけど・・・


神様と天使が見守る中で永遠の愛を誓おう


約束は守るものじゃなく


続けていく事だと思う


この人を永遠に愛していく



休暇はあと2日もある


「何する?大ちゃん」

「ずっとイチャイチャしてたい」

「オレも」



***********************************Fin



10万HIT御礼の小説でございます。

構想はずっとあったのですが、やっと書けました(T_T)

サイトを訪れて下さる皆様にはやはり「結婚式」が良いかな〜〜って。

でも、こんなのでお茶を濁してしまった感はあります・・・すいません<m(__)m>

ってか、「結婚式に付き物の初夜」はどうなった???←こら?(^_^;

(まぁ、エッチは常に書いてるし) って・・・事で。

皆様いつもありがとうございます、これからもよろしくお願いします。

                      Suika
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送