darling





「・・・・では、アルバムはもうすぐ出来上がるんですね。楽しみにしています」

「ファンの皆にも早く聴かせてあげたいです」

「ありがとうございました。・・・お仕事の話はここまでにして。

ここからはアサクラさんのプライベートについてお聞きしてもよろしいでしょうか?」


ボクから少し離れていたアベちゃんが僅かに動いた

『何それ? 私は聞いていないわよ』

・・・・みたいな顔をボクに向ける

今、ボクの前に座っている女性は、新人の音楽ライターだ

顔見知りのライターに頼み込まれて取材を引き受けた

仕事に〃新人〃も〃ベテラン〃も無いのだろうけど、やはり初体験ってのは緊張するだろう

彼女もインタビューの合間に何度もRECボタンを確認する

失敗出来ない気持ちが無意識にそうさせるんだろうな


この取材の前にアベちゃんが言っていた

「新人には新人のアーティストを取材させるべきだわ。どうしてダイスケを選んだのかしら?」

・・・まぁ、そうかもしれないけどさ

きっと、アサクラはインタビューしやすいとか、口調が優しいとか、選ばれた理由はそんな所か


椅子から立ち上がってこっちに向かおうとするアベちゃんにボクは目配せをした

『大丈夫だよ』

『そう?』

ボクは小さく頷いた


そんな回りの空気も感じていないかのように新人さんはインタビューを続けてくる

「アサクラさんが今、ハマっている事は何ですか?」

勢い込んでいるわりには、そんな質問なんだ・・・

「そうですね・・・」

〃F1〃とか〃ワンコ〃とかありきたりで面白く無い答えしか浮かばなかった

ふと・・・新人さんを驚かせようかなって気持ちが芽生える

先日、久し振りにヒロと一緒に出たラジオに来たメールが思い出された

「そうですね・・・・今は『年下のダーリン』にハマっています」

ボクの事について予備知識が少しでもあれば冗談だと分かるはずだ


「・・・年下のダーリンですか???ダーリン???」

彼女の頭を混乱させられたか?

「あぁ!そっか。スイマセン・・・聞き間違えてました。ダーリンじゃなくてdarling(最愛の人)ですよね?」

ボクはさして否定も肯定もしなかった

曖昧に彼女の言葉に頷いた

「お付き合いしてる方がいるってカムアウトですか? うわぁ・・・その人の事お聞きして良いんですか?」

「えぇ?!」

少し驚いた風を装わなくちゃ

アベちゃんはそんなボクのお芝居を見て向こうで苦笑してるし

「年下って幾つくらい下ですか?」

「二つかな・・・」

「お付き合いして長いんですか?」

「うんとね・・・知り合ったのはもう随分前だけどね。本当に付き合い始めたのは・・・どれくらい?」

「覚えておられないくらい長いお付き合いなんですね」

「かな・・・」

「羨ましいなぁ」

彼女の眼鏡の奥の瞳が夢見てるようだ

「でもアサクラさんはお忙しいじゃないですか・・・デートとか出来るんですか」

「う・・・ん、それはやっぱり普通の人のようにはいかないよね。でも、夜とかドライブ行くよ」

いきなりアベちゃんの笑顔が止まった

『ちょっと! 休憩って言っててドライブしてたの???!!』みたいな

バレたか・・・・・

「アサクラさんのお好きなテーマパークには行かれたりしないんですか?」

「あぁ、それはちょっと無理だよね、目立つ人だから。ボクがお土産買ってきてあげるって言う感じ」

「目立つ・・・? アサクラさんより背が高いとか・・・?」

「全体的にボクより大きいんだよね。 骨太じゃないんだけど」

「今時の女性は背の高い方が増えてますから」

考えてみれば、この新人さんもボクよりはきっと背が高いから不思議には思わないよね

でも・・・そろそろ・・・この辺でやめておこうか・・・

「アサクラさんはお相手の方のどんな所に魅かれたんですか? すごく知りたいです」

「どこって?」

ボクは彼のドコに魅かれたんだろう? いきなりな質問にボクの悪戯心が消えてゆく

「うんとね・・・とっても優しいし、ボクの意見も向こうの意見もちゃんと聞き合えるし、

考え方がとっても面白いんだ。 いつもビックリさせられてる。」

「へぇ・・・アサクラさんとは正反対な方ですか?」

「そうかもしれない、でも似てる所もたくさんあるけど」

「ルックスは?って、こんな事まで聞いちゃいけないのかしら?」

アベちゃんを見るとすでにボクの暴走を止める気もないようだ

ニヤニヤしながらボクを見ている

「大丈夫ですよ。 ルックスはね・・・目がとっても綺麗でいつもキラキラしてます。

 笑顔がね・・・うん・・・誰が見ても可愛いって思えるかな。ボクにとっても一番可愛い人かな」

「素敵な方なんですね。もうすぐアサクラさんのお誕生日ですが、その方と過ごされますか?」

「どうかな・・・向こうも忙しいからね。」

「それは残念ですね。 でも、当日、一緒にいなくても会えた時に楽しいのが一番ですよね。

 あ・・・スイマセン、偉そうな事言っちゃった」

頬を赤らめて謝る彼女もきっと素敵な恋をしているのだとボクは思った

誰にでも恋をする権利はある

・・・それがどんなに苦しい恋でも




「こんなにお時間とらせてしまって申し訳ありませんでした。 今日はありがとうございました」

そろそろ・・・種明かしをしようかとボクが口を開きかけた時

「それから、お仕事以外の部分は記事にはしません、宜しいでしょうか? やはりプライベートな事は。

 でも、『年下のdarling(最愛の人)にハマってる』って部分だけは使用させて下さい。

 何か思わせぶりな感じがしますよね」

「あ・・・どうぞ。 良いよね? アベちゃん」

腕を伸ばして大きな丸を作ってくれた

ボクのファンならジョークだって分かってくれるよね?


取材の人達が帰って行くのを見計らってアベちゃんがボクの側に寄って来た

「あれって本気の答えじゃないの? 何企んでる訳?」

「記事にはならないんだし、良いじゃん。 彼女だって相手が誰かなんて気付いてないしさ」

「気付かれたら困るでしょ。ってか、気付かれるのは時間の問題だと思うけどね」

「そう?」

言われている本人がココにいなくて良かったとアベは思う

「彼と話している姿を見られたらすぐにバレるわよ」

「そっかな・・・」


ボクも何となく冗談ではない雰囲気になってしまった

「おっはよ〜〜〜」

「あ・・・ヒロ!」

「何二人でニラメッコしてるの?」

「そんな訳ないでしょ」

アベちゃんは付き合ってられないって向こうに逃げ出した

「アベちゃん、変だよね」


「早かったね」

「大ちゃんに会いたかったから速攻で来ました」

そう・・・・髪の寝癖が何よりも雄弁だ

「そんなにレコーディングしたかったんだ」

ボクはヒロの髪を指で撫で付けてあげる

「アハッ・・・それはね・・・・そうだけど・・・あ、髪?」

気付いた寝癖を治す仕草も可愛いと思う

「大ちゃんの誕生日もうすぐじゃん・・・ドコ行く? 今年は一緒にいられるよ」

「〃今年は?〃なの?」

「・・・・〃今年も〃一緒にいられるよ。これで良い?」

「OK!」

ボクはヒロに抱きついた

そして・・・もう一つ寝癖を見つけた

でも、教えてあげるのはやめようと思う

そんな所が可愛いから

「ドコ行きたい?」

「ヒロと一緒ならドコでも良いよ」



ボクは『年下のダーリン』にずっとハマっています

飽きることなんか絶対ありません

最愛のダーリンです



後日、新人さんが取材した雑誌が事務所に送られてきた

「大ちゃん!・・・何コレ?」

先に目を通していたヒロが大声でボクを呼ぶ

「何?」


「アサクラさんが今、ハマっている事は何ですか?」


「そうですね・・・・今は『年下のダーリン』にハマっています」


『darling』では無く、しっかりと『ダーリン』になっていた


「・・・・これは誤植じゃなくて確信犯よね」

アベちゃんが面白そうに言った

でも、ヒロが上機嫌なのでボクは新人さんに文句を言うのはやめようと思う



**************************************END





先日のラジオでの「年下のダーリン」が頭から離れずに書いてしまいました(^_^;

素敵なダーリンが側にいる大ちゃんが羨ましい(?)

(日本では男性はダーリン、女性はハニーって呼ぶのが定説だと私は思っているので「ダーリン」が

同じ意味だと言うのは無視してください、お願します)(ーー;

                     suika

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