Close-to-you 

 【リクエスト内容・・・・・ヒロのシャツに興奮している大ちゃんを見ちゃったヒロ】

 

 「はいっ、OKで〜す」

 「良かったよ・・・本番もこの調子でやってよね。リハは最高だけど本番は緊張してダメになる人が多いからさ」

 プロデュサーやディレクターが口々に声をかけてくれる、彼がコムロの秘蔵っ子である事はすでに知れ渡っていたが

 それとは別にこれから伸びる新人を見つけ出すのも業界人としてのステータスになるらしく、CDセールスのかなり良い彼らは今週の目玉だった

 人気の歌番組に出演が決まった時は、彼らよりもスタッフが大喜びをした

 その番組に出る事は雑誌に何百回と載るよりも顔を全国区に売り出せるし、次の週のCD売り上げが2倍になるくらいの影響力を持っている

 「これから忙しくなるかもね・・・」 いつも冷静なマネジャーでさえも興奮を隠せないでいた

 

 楽屋に戻って、マネジャーが時計を見やった

 「本番まで2時間あるから食事する?」

 隣で雑誌を繰っていた彼に声をかけた「ヒロはどうする?」

 「んあ?オレはもう少し後でいいよ。   ゴメン、電話してくる」 嬉しそうに電話の並んでいるコーナーに長い足を運んで行った

 

 「まぁた・・・彼女に連絡かしらね?」

 「だね。こんな凄い番組に出るんだから見てもらいたいんじゃないの?何度かけても繋がらないって言ってたから」

 TV局に向かうと途中にコンビニがあると何度も車を停めて電話をかけていたのをダイスケは見ていた

 「それにしても・・・一日に何度も連絡しなきゃいけないなんて、かなり強引な彼女みたいね」

 

 accessを始動させて3ケ月、その間・・・忙しくて彼女と付き合う暇が無くて別れたと聞きその2日後に新しい彼女が出来たと言ってた

 その何週間後にも別れたと聞き、その一週間後に出来たと言っていた

 確かに女性には不自由しない容貌であり、性格的にも明るいので軽く付き合える女の子が絶えた事がない

 今まで回りにこんなにも奔放的な人間がいた事が無かったダイスケには彼の全てが新鮮だった、むしろ彼の眩しさに戸惑いさえ覚えた

 「ヒロだからね、彼女の方が心配するのは当たり前だよ」

 「そうかしら・・・今は良いけどまたすぐにヒロの方が我慢できなくなって別れちゃうんじゃないのかしら?」

 それでも、またすぐに彼女が出来たとシレッと言われるのだろうとダイスケは思った

 

 「っと、いけない。ヒロの事言ってる場合じゃないわ。私も事務所に定期連絡しなくちゃあ」 アベも電話の所に走って行った

 新人にしては破格の個室の楽屋を宛がわれたと言うのにダイスケは居場所がなかった

 今まではサポートメンバーとしてガヤガヤとみんなで同じ場所にいる事が当たり前だったから

 こんなところにもコムロの秘蔵っ子と言う肩書きがどんなに偉大なのか分かると言うものだ

 ヒロユキが楽屋に戻って来たけれどかなり浮かぬ顔をしている

 「どうしたの?また繋がらなかった?」

 「うん・・・・この時間には絶対いるって言ってたのにな。  オレ携帯電話買おうかな?」

 少し前までは肩から担がなければならないくらい大きかった携帯電話も今はかなりコンパクトになってきている

 かけたい時にかけられると言う便利さはせっかちなヒロユキにとって、今一番欲しい物だった

 「携帯電話か・・・いつでもどこでも見張られているようでボクは嫌だな」

 「でもさ、そのうちみんなが持つようになったら大ちゃんだって絶対欲しくなるよ。彼女にもすぐ連絡取れるし」

 ・・・そんなに気を使う女性はヒロには似合わないよ・・・言い出しそうになる言葉を無理矢理に飲み込んだ

 「アベちゃんがもうすぐ買うって言ってたよ」

 「うそ?!マジ?!オレも買う〜〜〜〜!」

 「何、騒いでるの?」 アベが入ってきた

 「何でもない・・アベちゃん、お腹減った〜〜〜〜」 ヒロユキが大袈裟に騒いでみせる

 「そうね。そろそろ食べておかないと混んで来るから行きましょうか?」

 ココのTV局の食堂は美味しいと先輩方からしっかりとリサーチ済みだった

 

 食事を終えると本番に備えての支度をするようにとアベから言われた

 新人である限り他の歌手より先にスタジオ脇の前室に行っていなければならなかった

 メイクや着替えを終えると、またヒロユキがソワソワし始めた

 「ちょっと・・・オレ電話してくるね」

 「うん」 笑顔で楽屋のドアを開け放したまま嬉しそうに走って行く

 ・・・その笑顔は彼女だけのモノなんだよね・・・心の中で声が響く

 「ボク・・・何、考えてんだよ・・・」

 ダイスケは衣装が皺くちゃになるのも忘れて思い切り自分の胸元を掴んだ

 

 「ココがイタイなぁ・・・」 形容しがたい想いが渦のようになり、踏ん張っていないと身体が吸い込まれてしまいそうになる

 いつからだろう?

 こんな得体の知れない想いがボクの身体を苛み始めたのは?

 ヒロユキが女の子の話をするのを聴くのが辛くなったのは?

 自分以外の誰かと楽しそうしているだけで耐えられなくなったのは?

 ・・・醜くて歪んだ想い・・・

 軽い目眩に襲われてダイスケは立っていられなくなり、とっさに壁に手を付きそのままズルズルと座り込んでしまった

 「みっともない  何やってんだよ」

 立ち上がろうした時、床以外の感触を手の平に感じた 

 見ればヒロユキがさっきまで着ていた黒のシャツの上に手をついてしまっている

 今日着る予定だった他のスーツと共にパイプのハンガーに掛けていた私服がシャツだけ落ちてしまっていた

 神経質なダイスケと違ってヒロユキはいつも投げるように引っ掛けるだけだからこんな事はよくある事だった

 「また・・・」 シャツを拾い上げてクスッと笑みが零れた  彼らしい・・・

 ハンガーに掛けようとシャツを広げると微かにヒロユキの香りが鼻を擽る

 「今日は・・・カルチェかな?」 別に香水に詳しい訳ではないけれどヒロユキが付けるモノは分かる

 目を閉じるとすぐ側にヒロユキがいるような錯覚を覚える

 いつも撮影で必要以上に接近して撮られているけれど、そういう時とは違った感覚

 ・・・君に初めて会った瞬間、ココロが求めている人だと思った・・・

 

 

 ガチャン!

 ヒロユキは乱暴に受話器を本体のフックに叩き下ろした

 「何だよ!何なんだよ!」 見えない相手に怒鳴った声が必要以上に響いてロビーにいる人達を驚かせた

 でも、今のヒロユキにそれを気にする余裕は無い

 「あらそう?って・・・もっと喜んでくれると思ったのに!いつも 『早く全国ネットのTVに出て』 って言ってたくせに」

 楽屋までの距離が異様に長く感じられた

 「もう・・・彼女とも限界かな」付き合いだして何日だったかと指を折り始めた

 「ウヘェ・・・まだ一ケ月じゃん  また大ちゃんやアベちゃんにバカにされるよな・・・」

 溜め息を零して楽屋の手前に並んでいる喫煙所の長椅子に座り込み無意識にシャツのポケットを探って気付く

 「あ・・・そっか・・・コレ衣装だ」

 煙草を吸うのにもいちいちマネージャーの許可をとらなければならないような拘束の多い今の生活

 『ヒロはTVに出る人なんだから、まだ人前で煙草は禁止、イメージがあるからね』

 「イメージなんて初めから無いのに」            

 本来のヒロユキならこんな窮屈な毎日から逃げ出したくなってしまう所だが・・・

 それを凌駕してしまうような音楽の海の中が心地良かった、これこそが自分が長い間求めていた状態だから我慢出来た

 何より仕事を一緒にする人が音楽に対して真面目であればあるほど自分ものめりこまなければ置いていかれそうだから必死だ

 やっとデビュー曲を出した、と思ったら2ケ月後にセカンドシングル、さらに翌月にはアルバムとかってない異例なリリースをしている

 この番組のオファーもそれが認められての事だとマネージャーが言っていた

 音楽だけが先走ってしまう業界  歌い手のイメージは後からゆっくり付いてくるから怖いと教えて貰っていたけど

 「彼女にもゆっくり会えないってのは・・・予想外」 楽しい毎日だけれどままならない事も沢山ある

 「あぁ!やっぱり煙草取って来ようっと」 立ち上がったと同時に自分の中で彼女とは別れる決心もついた

 

 薄く開いた楽屋のドアを開けかけてヒロユキの動きが止まった

 「だ・・・い・・・?」

 背中を向けうずくまっているダイスケが何をしているのかは分からないが胸に包み込まれたモノを見てヒロユキは驚いた

 「オレ・・・・の・・シャツじゃん!大ちゃんが何で抱きしめてるの?」

 すぐに大きい音をさせれば何事もなかったような顔で中に入っていけるのに運悪くタイミングを外してしまった

 「はぁ・・・ん・・・」 小さく艶を帯びた吐息がダイスケの口から零れてヒロユキの耳にも伝わる

 紅色に上気した頬・・・何度も湿らせたような濡れた唇・・・衣装を汚さないように密やかにズボンに忍ばせた手・・・その手が微かに動いている

 「うそ・・・・マジ・・・大ちゃんが・・・?」

 同じ男としてはその摂理も生理も分かるけれど  ダイスケのソレは今まで考えても見なかった

 いつ誰が入ってくるか見当も付かないこの空間でダイスケを駆り立てたものが何なのかヒロユキには分からず

 ただ、ダイスケの行為を見つめるしかその答えを知る術はない気がした 

 抱きしめたヒロユキのシャツに何度も何度もキスをしながら、ズボンの中の手は忙しなく出口を求めて行き来を繰り返される

 やがて  欲を吐き出そうとフルッと震えるダイスケの口から 「ヒロ・・・・」    と自分の名を呟かれるその瞬間

 「オレ・・・オレなの?」 ヒロユキは驚きながらもダイスケから目が離せない

 前髪の小さな束が汗に張り付き可愛いオデコを見せながらも薄く開いた赤い唇から乱れた呼吸を零す姿はヒロユキの何かを呼び起こしそうだ

 

 開いた瞳から背徳の行為に対する涙が一筋頬を伝って落ちシャツに吸い込まれていった

 広がる染みが声にならないヒロユキへの想いの様に広がってゆくのをダイスケは見た

 「バカみたい・・・」 どんなに貪ってみても形のないモノへと手を伸ばすようなものだ

 ズボンから出した手の平や指に自分の欲の後を見て更に深く後悔する

 よく誰もココに近づかなかったものだと平静を取り戻した今だから思う、それが刺激になったかと問われればそうかもしれなかった

 

 カッカッカッ・・・    あぁ・・・あれはアベちゃんの靴音だ

 さっきまで自分の邪な感情で満ち溢れていたこの空間は人が入るのに相応しい場所に戻っているだろうか?

 「ヒロ!何やってんの?そんな入り口で・・・さっさと中に入れば?」 アベの声が廊下に響き渡った

 頭が真っ白になると言う事はこういう事なのだろうか?

 「ヒロ?!」 急いで入り口近くに行けば、ドアは薄く開かれていてソコにヒロユキは立っていた

 ・・・ヒロに・・・見られた?・・・・・ダイスケの目にはヒロユキ以外の景色の色は失われた

 

 アベはヒロユキを促すと楽屋に入ってきた    

 ダイスケは二人と目を合わす事が出来ずにアベの問いにも適当に返事をするだけの時間が流れた

 せわしなく腕時計を見ていたアベが「そろそろ前室に行きましょうか?良い?落ち着いてやれば大丈夫だからね」

 アベはきっと自分を励ましているのだろうと思った、何度もこんな舞台を踏んでいる彼は涼しげな顔をしている

 ・・・落ち着け・・・あまり緊張しないと自負しているヒロユキもこんな時は「人」って言う字を手の平に書きたくなった

 

 ダイスケは隣に座るヒロユキを目の端で盗み見た

 何でも無いような顔でアベとふざけ合い笑い転げている・・・君は見てたの?・・・そう聞けたらどんなに楽だろうと思った

 こんなにも臆病で小心者なんだとヒロユキに伝える事が出来るのに

 

 accessを続ける事はこの想いを押し殺すこと

 守り切れなくなったらaccessを止めよう

 いつか・・・そんな日がくるのだろうか・・・とTV局の長い廊下を歩きながらダイスケは悲しい予感を感じていた

 

 

 

 *****************************************************END

 

 

 

あおいさんのリクエストで書かせて頂きました

まず先に謝っておきます・・・スイマセン。今回、ダークです(そうでもないかな?)それに中途半端な所で終わっています(汗)

私にしてはダークですがどうでしょうか?

access結成してすぐの頃のお話にしました。

携帯電話とか目覚しい進歩ですよね。今は持っていない人の方が珍しいけど、あの頃は持ってるのが珍しかった(^_^;

続き・・・・書けたら良いなぁ。(読みたいと思って頂けたら・・・ですが)

タイトルの意味は【あなたの近くに】です。
                                     suika

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