Cause of a quarrel






『今まで一度もケンカなんかした事がありません』


どんな番組に出てもどんな雑誌でも一度は聞かれる質問にはいつだってこう答えてきた

『ケンカしますか?』

『ケンカしたらどっちが強いんですか?』

『曲作るときにケンカしたんじゃないですか?』



・・・ケンカなんかした事無いです・・・

それは本当の事だ

だってケンカになるような関係じゃなかったんだから     

           今までは


再結成して数ヶ月・・・

一緒にいない歳月が7年もあったとは思えないほど、暖かな空気が2人の間に流れている

毎日、顔を合わせていても飽きる事が無いようだ

昔を知っているスタッフはもちろん、知らないスタッフも彼らの仲の良さは認めている


今日も事務所の片隅で2人だけで仲良くミーティングをしていると思っていた・・・が・・・


「ごめんね」

「うん」

「本当にごめんね」

「うん」


どうも2人の様子がおかしい

いつもならダイスケがからかい半分に拗ねて、それを宥めるのがヒロユキという図の筈なのに

ましてや、ヒロユキがダイスケに冷たく当たるなんて誰もが考えられなかった

事務所中が妙な緊張感に包まれている

そんな中でも自分のスタンスを崩さない女性が一人・・・

「アベさん・・・どうしちゃったんでしょう?あの2人」

「何が??」

「何がって・・・アサクラさんとヒロですよ。ケンカしてるみたいなんですよね」

「あれが?・・・・私にはそうは見えないけど?」

この後に雑誌の取材を控えているヒロユキを迎えに来た彼のマネージャーもオロオロしている


「武道館はこの曲やりたいと思うんだけど・・・ヒロはどう思う?」

「良いんじゃない」

椅子に浅く腰掛け背凭れに背中を預ける事も無く

ヒロユキは興味無さげに携帯のメールを打ち続けている

「ヒロ・・聞いてる?」

ピッと送信ボタンを押し終えて顔を上げた

「聞いてないよ」

流石にその言葉にダイスケの顔色が変わる

「怒るのは勝手だけど、仕事はキチンとやるのがルールだよ!」

「怒ってなんかいないってさっきから言ってるだろ!」

「ヒロ!」

カツッ!

靴の踵をイラだつ気持ちの代わりに床にぶつけてヒロユキはダイスケを残して部屋を出た

「ごめん・・・アベちゃん。今日はもうこれで帰るね。ハヤシさん、次の現場行こう」

「あ・・・ハイ、そうですね。じゃあ・・・アベさん、皆さん、お疲れ様でした」

言われたハヤシも重い空気を感じながら、それでも現場を預かる身としての行動に移す

「お疲れ〜〜〜」

一度も振り返らずに出て行くヒロユキの背中を見ながらアベは思った

・・・マジでケンカしてるの?あの2人が?信じられない・・・


そっとダイスケがいる部屋を覗く

彼が今どんな表情をしているのかを目の当たりにするのがアベは恐かった

「ダイスケ・・・?」

「何?アベちゃん」

頬に涙の後・・・はなく、思いの外元気そうな声に安心する

・・・私だって男と男の修羅場の跡は見たくない・・・

「ヒロとケンカしてるの?今までそんな事なかったから・・・皆、心配してるわよ」

「ケンカ??あぁ・・・そうなのかな?分からない」

「でも、ヒロがあんな態度をとる原因はあるんでしょ」

「原因かぁ・・・・」

ダイスケのそれが癖なのだろう、首を少し傾げて必死に考えている

「朝起きたら・・・何か機嫌悪かったかな・・・?

 でも、いつもと同じで寝惚けてるのかと思ってた・・・それだけ」

「朝って・・・?!昨夜ヒロが泊まったの?」

アベはホンの少しだけ頭の芯がクラッとした

・・・そう言えば最近よくワンコを預かっている・・・

「ボクがヒロの部屋に泊まったんだよ。ヒロはワンコの臭いもダメだから」

「なるほど・・・って私が感心してどーするの!」


「何で怒ってるのか言ってくれたらこんなに辛くないのにね・・・」

カラ元気は長くは持たなかったようだ

ダイスケの瞳に涙が溜まってゆく・・・それが流れ落ちるのに数秒持たないだろう

Pipipi

メールが届いたのを短い着信音が知らせた

「これ・・・ヒロの。・・・忘れたんだ。怒って出て行くからだよね」

笑顔を作った筈なのに瞳から堪えきれずに涙が零れた

「じゃあ、絶対戻ってくるわ」

「そうかな?」

「友人の電話番号ヒロが覚えていると思う?これがなきゃ誰にも連絡とれないでしょ。

それにメールを頻繁に送っていたんだから、何かの相談をしていたのかもしれないしね」

「うん」

涙を零しながらそれでも手の中の彼の携帯に愛しげに触れる

「機嫌治してよ・・・ヒロ」



「ヒロ・・・アサクラさんと何かあったの?」

勢いで出て来てしまったけれど、まだ次の仕事場に行くには早すぎたようだ

同じく勢いで出て来てしまったハヤシと遅い昼食を食べる事にした

ダイスケに怒鳴ってしまった事への憤りが自分自身を苛む

この店のお薦めのパスタも美味しく思えるはずはなかった

「何も・・・オレ達ケンカしたこと無いしね」

「冗談で済ませられる事じゃないでしょ。武道館ライブがあるのに、こんな気まずいままじゃ・・・」

「オレと大ちゃんの事だから。それにライブはちゃんとやる」

愛しい人の名を口にするだけでこんなに心が癒されるのに、冷たい態度しか取れない自分が歯がゆい

「それよりさ・・・武道館のリハが始まる前に休み貰える約束だよね」

「確かにそう言いましたけど」

「サンキュ・・・でも、あいつ返事遅いよな」

休みに思いきりサーフィンをやろうと友人を誘った

その返事を確かめる為に携帯を探す・・・探す・・・探・・・

「あれ?・・・あれ?ハヤシさん、オレの携帯知らない?」

スープパスタのスープを飲み終えたハヤシが怪訝な顔をする

「ひょっとして?アサクラさんの所じゃないの?」

「しまった!!!」

ヒロユキの目の裏に机の上に置いたままの携帯の残像が残っている

「ヤベ・・・大ちゃん怒ってるだろうな・・・ってか、アベちゃんは更に怒ってるだろうな・・・うわぁ・・・」

食べ残してしまったパスタにキスせんばかりに肩を落すヒロユキにハヤシの声が降って来る

「私・・・どんなに頼まれても取りに戻りませんから。自分で行ってきて下さいね」



勢い込んで出て来た道を後戻りして、エレベーターの中で大きく息を吸ったり吐いたりして呼吸を整える

「大ちゃん怒ってるよね。・・・ダメだ!ココで甘やかしたらダメだから。オレのプライドだって傷ついたんだし」

・・・でも、あれってプライドの問題なのかな?・・・・・

自分でも何で怒っていたのか分からなくなりつつあった


カチャリ

「いらっしゃ〜〜い。やっぱり来たわね」

いきなり苦手な女性と遭遇してヒロユキは焦った

「あのさ・・・アベちゃん。オレの携帯は・・・」

「あっち」

クイッとまだダイスケがいるであろう部屋を指で示された

「だよね」

覚悟を決めて横を通り過ぎる瞬間にアベの声が低くなった

「ダイスケをこれ以上泣かせないで」

・・・大ちゃんが泣いてる?・・・

「そんなつもりないのに」

ヒロユキ自身も気付かないまま自然と早足になる


「大ちゃん!ごめん!!」

泣いている姿を想像していたヒロユキの足が止まる

「ヒロ」

そこにはいつもと同じ嬉しそうに微笑むダイスケが居た

少しうたた寝してしまったのか乱れた髪のまま身体を起こしたその手の中に携帯がある

「忘れ物でしょ。さっきから何通もメールが来てるよ・・・早く返事出してあげなきゃ」

「うん、そだね」


「あのさ・・・ヒロ」

言おうとした瞬間、ヒロユキがダイスケの肩を引き寄せて胸の中に抱きしめた

「ヒロ?!」

「オレさ・・・もう一個忘れ物しちゃった」

「何?」

「大ちゃんに謝らなきゃ・・・・今日はごめんね」

「ひどい!・・・ひどいよ・・どうして怒っているのか何も教えてくれなくて・・・ボク凄い不安で悲しくて」

堪えていたものが堰を切ってしまったダイスケはヒロユキの胸に顔を埋めて泣き始めた

「ごめんね・・・ごめん」

震える肩を強く抱き締める・・・・・

そんな詞を書いた事があったなぁと泣きじゃくるダイスケを見てヒロユキは思った

そんな恋をしている自分が少しくすぐったい


それを隣で聞き耳を立てているアベは思う

「ヒロがダイスケに対して悪者になり切れる訳ないのよね」

・・・でも、この痴話ゲンカの種は何だったのかしら?・・・




ヒロユキの胸の中で落ち着きを取り戻したダイスケが呟く

「ねぇ?何を怒ってたの?教えて・・・」

「理由かぁ・・・。今思うとすんごく・・・くだらない」

「でも、腹が立ったんだよね」

「あきれないでね・・・・あのさ・・・オレとエッチするようになってから・・・一回も言ってくれないよね」

「エェェェェ〜〜〜〜〜!エッチの時に何言うの?何か言わせたいの??」

この人は何考えてるのだろう的な眼差しでダイスケの身体がヒロユキから離れて行く

「イヤッ、大ちゃん!そう言う危ない事じゃなくて・・・あれ?そうなのか?」

「ヒロ・・・言ってる事がメチャメチャだよ」

「だから!!エッチの後でオレが〃良かった?〃って聞いても、大ちゃん絶対答えてくれないじゃん!

・・・・・・・・・・・・・アレってかなり男のプライド粉々だよ」

「そんな恥ずかしい事言える訳ないでしょ!

 信じられない・・・今までヒロと付き合った人はみんな言ったの?」

「そ、そんな事ないよ・・ごめん。くだらなくて」

また違う『ケンカの種』を芽吹かせた事にヒロユキは気付いていない



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・〃良かったよ〃って言わないとダメなの?」

少しの沈黙の後にダイスケは恥ずかしそうに言った

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来れば言って貰いたいかな」

何かそればっかりなオレの方がバカみたいだとヒロユキは思った

「分かった。今夜、挑戦してみる・・・だから頑張ってね」

「大ちゃん・・・それって・・・」

耳まで真っ赤なダイスケの頬にキスをする




これからはこう答えたい

『今はケンカしてもすぐに仲直り出来る関係です』

                        言える訳ないんだけどね・・・。









*************************************END








キリ番47000を踏まれた りこ様のリクエストで書かせて頂きました。
りこさんのリク通りかどうかは・・・(-_-;
あの二人が「ケンカする」なんて想像すら出来なかったものですから。
だから「オチ」がこんな事に!?(爆)ヒロの怒りの持って行き所がおかしいような気もします(更に爆)
スイマセン・・・・
タイトルの意味は【ケンカの種】
さて?大ちゃんがこの言葉を言えるようにヒロは頑張ったのでしょうか???(笑)
                     
                     suika
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