万華鏡(banka-kyo)

 

【リクエスト内容・・・・・鏡の向こうにヒロを見る】

 

タクシーが静かにマンションの前で止まった

その中から金髪の青年が降りて中にいる人影に一言、二言声をかけると再びタクシーは走り出した

彼は暫くその場に立ち止まっていたが「フーー」と溜め息を零し荷物を持ち直すとマンションの中へと歩き出す

メールボックスを開けると中にあるのは山のようなダイレクトメールばかり、この中に彼が欲しいモノは一つも無い

いつもこんな真夜中に帰ってくる彼は自分の部屋に行くまで他の住居人と会うことも滅多に無くて廊下の照明だけが顔馴染みだった

部屋のドアを自分で開けて自分で閉める・・・そんな当たり前な動作も疲れた身体にはとてつもなく苦痛なモノだ

「ただいま」ライブツアーで久し振りに帰った部屋   外と同じ冷たい空気だけが出迎えてくれる

荷物を置いてキッチンに向かい冷蔵庫を覗く「何も無いか・・・」

ミネラルウォーターを取り出して喉に流し込んだ

ボトルを持ったままリビングに行き、上着を脱いでソファに倒れ込む

視線の先に見えている犬のゲージ・・・ソコにいない愛犬達に思いを馳せる

「明日・・・一番で迎えに行くから待っててね」

家を長く空ける時は流石にスタッフに頼む訳にも行かずペットホテルに預けていた

「あの子達がいないと淋しいね」

いつもなら楽しさや淋しさや悲しさもすべて横にいてくれる彼らのフワフワの毛の柔かさの中に埋めて眠るのに

疲れた身体を無理矢理動かしてバスルームに向かい、ふと鏡に映った自分の顔を見て驚いた

「ウワ・・・・・ひどい顔・・・肌もボロボロ・・・白いんじゃなくて青いよね・・・」

風呂のお湯を溜める事も忘れて鏡の中の自分を凝視する  

      甦ってくる記憶

昨日ライブを行うために行った地方で初めて世話をしてくれた若いイベンター

ボクのファンだと興奮しながら話しかけてきた

「ありがとう」軽く受け流して御礼を言ったけど

 

『accessって凄いユニットでしたね・・・5年前に解散した時はショックでした』

 

・・・・聞きたくなかった   その名前

心の中に閉じ込めて絶対触れないように封印をして見つけてしまわないようにガムシャラに仕事をしてきたのに

他人がズカズカと入り込んで楽々と引き摺り出してしまった・・・

手の平に掴まれて広げられた記憶の中には彼がいる

声に出して呼びかけてもいいのだろうか?

白雪姫の継母の魔女は正直だ 「この世で一番美しいのは誰?」 鏡に向かって聞くなんて普通は出来はしない

答えて貰えるのなら誰だって鏡に聞いてみたい

・・・この世で一番幸せなのは誰?・・・・・・

この世で一番淋しいのは誰?・・・

・・・この世で一番好きなのは誰?・・・

                    「ヒロ」

唇に彼の名前を乗せるだけで、こんなに身体が震えるのに・・・どうしてボクの隣にいないの?

ガンッ  思わず鏡を拳で叩いていた

ガンッ  ガンッ  何度も鏡に拳をぶつける

ボクの願いも叶えられない鏡なんて壊してもいいと思った

                 「大ちゃん・・・」

懐かしい声が耳を擽る    空耳だよね

                 「大ちゃん・・・大事な手が傷付いたら大変だよ」

優しい声がハッキリと聞こえる ずっと聞きたかった彼の声

「エッ?!」目を凝らせばボクの後に彼が立っているのが鏡に映っている

                 「久し振りだね・・大ちゃん」

きっとボクがあまりにも彼を焦がれすぎているから神様が見せてくれた幻 それは懐かしくて悲しい幻 

「ヒロ・・・後を向いたら君は消えちゃうんでしょう?」

                 「うん、ごめんね」

別れた時よりは大人になったのかな?  髪の色も長さも変わったね?  少したくましくなったの?

ボクが作り出した幻なのに成長しているなんて可笑しいね・・・TVの中でしか見ていないのに

                 「あ、笑った。大ちゃんは笑顔の方が良いよ」

ボクを喜ばせる所だけは変わらないね

                 「無理してない?凄く疲れて見えるよ。大丈夫?」

「そう見える・・・やだなあ。ヒロと会う時はいつもしっかりしていたかったのに」

                 「今も可愛いけど?」

「フフ・・・幻は自分に都合良い言葉を選べるんだ。でも会えて嬉しい」

                 「オレもだよ」

「ヒロの事はちゃんと知ってるよ、何やってるのかとかTVも見てるしね。いつもカッコイイ」

                 「そう?ありがとう。オレも大ちゃんの事は全部知ってる・・・だから身体が心配」

ボクだけを見つめる琥珀の瞳が揺れてボクは思わず後を振り向きそうになった  けれど振り向いたら終わりだ  夢は消える

 

「ヒロ・・・ボク達はもう二度と同じ道を行く事は出来ないのかな?」

                 「・・・・いつか・・・きっといつか・・・また歩ける日が来るよ」

「身体を酷使していないと、ちょっとでも休んでしまうとヒロを思い出いだす・・もう限界かもしれない」

ヒロの幻を見ていられなくて俯いてしまった  閉じる瞼から零れる涙  拭ってくれる指はそこにはない

                 「泣かないで」

ふわりとボクの身体が後から抱きしめられた ・・・・幻だよね・・・・でも腕の強さがまるで現実のよう

                 「いつだってオレが大ちゃんを守ってあげるから。こうやって支えてあげるから」

「ヒロ・・・本当?ボクは一人じゃないって思って良い?いつだってこうやって抱きしめてくれるの?」

                 「うん。鏡の中にいるオレを呼んで・・・」 

「もっと強く抱きしめて、ヒロ。離さないで・・・このままボクも鏡の中に一緒に閉じこめて・・・お願い」

                 「ダメ。大ちゃんは幻じゃないから。オレの音作ってよ」

涙がまた零れる・・・後から後から・・零れてすじをつくって抱きしめる彼の手を濡らす

「作っても歌ってくれるヒロがいない。意味が無い」

                 「その時が来たら歌うよ。」

「その時はいつ来るの?ボクに分かるのかな?」

                 「大ちゃんなら絶対分かる。オレを信じてて」 

髪にキスをして・・・何度も何度も・・・約束のキスをする・・・それが幻でも・・・儚いキスをする・・・

 

「?!」  リビングで電子時計のアラームが鳴ってボクは現実に戻された

何時間、鏡の前に立っていた?・・・・足が感覚を失ってしまうほど長い時間だったのだろうか?

もう目を凝らしてもヒロの姿は見えない  でも抱きしめられた彼の腕の強さもほのかに残る彼の香りもちゃんとボクの中にある

 

ヒロ  彼だけがボクの心を揺さぶる たとえ今は会えなくても彼だけがボクを支えてくれる

ヒロ  彼だけがボクの心を捉える  たとえ再び出逢ってもボクは新しく彼に恋をする

 

「ヒロ」鏡を見るたびに彼の名前を呟こう  それはボクにだけ許された秘密の呪文

 

                 「大ちゃん」

             今夜もボクは鏡の中の彼と逢う

 

 

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海里さんのリクエストで書かせて頂きました。

かなり・・・反省な部分が(汗)海里さんの中で思っていたものと離れてしまってたらスイマセン(T_T)

でも、貰ってやって下さい。

                                      suika                        

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