アルケミラー
* リクエスト内容・・・・・大ちゃんが怪我をしてヒロがいろいろ世話をやいてあげる
「あっ・・・」
DJブースの中で右足が何かにつまずいたような気がしたが気にも留めずに左足を踏み出した瞬間・・・身体が右に傾くのが分かった
最近お気に入りのクラブでDJをやるイベントの最中だった
アナログのレコードを自分で操る作業と自分の得意なデジタルな音が狭いフロアに響き合い
その音の海の中でファンが踊っているのを見ているのが楽しかった
・・・あと一曲・・・・そう思った時に気持ちが緩んでしまったのだろうか?
バランスを立て直せず倒れこんでとっさに腕を庇おうとしたが間に合わず床に着いた右手が本能的に身体の重みを受け止めてしまった
〃パキッ〃 曲がる筈の無い方向に手の平が鈍い音と共に曲がってしまった
・・・・・しまった!折れたかもしれない!・・・・・
身体より頭より自分にとって一番大事な指を心配した
ジワジワと折れ曲がった指の付け根が痛み出してくる
指を動かしてみるのが怖くて身体中から冷や汗が噴出してきた
・・・・・どうしよう・・・・・
前の方のファンが少しざわつくのに気が付いてボクはこのままじゃいけない・・・・と、立ち上がった
少しはにかみながらゴメ〜〜ンと手を合わせて謝るポーズをしてみた
「何やってんの〜〜大ちゃん」
ファンの中から失笑が漏れる・・・ボクがいつものように慌てて転んだと思っているようだし
手の事に気付いたのはスタッフの中でも僅かだと思う
レコードは左手でも回せるし難なくアンコールまでやり遂げてファンに別れを告げてDJブースを出た
アベちゃんがサッっと脇に寄ってきて「ダイスケ・・・手・・・」と聞いてきた
この人に隠し事は出来ないと思いながらも今は何も言いたくなかった
「うん・・・大丈夫、大丈夫・・・ドジちゃったよ〜〜」そう言うと早足で楽屋に向かう
ゴメンネ・・・アベちゃん、今はもっと会いたい人がいるの
バタン
開けたドアの向こうには大好きな人が・・・ヒロがいる
いつもなら笑ってボクを迎えてくれる筈なのに、青い顔でヒロが駆け寄ってきた
「大ちゃん・・・モニターで見てたよ・・・転んだ時、手、どうかしたでしょ?」
黙って差し出した手を見てヒロが大声を上げた
「腫れてるよ!冷やさなきゃ!こんなになってんのに何で続けたの?!」
口調は厳しいけれど手際良くアイシングを当ててくれるヒロの優しさに演奏してる間我慢していた涙が零れてくる
「大ちゃん・・・」
「痛いよ・・・ヒロ。どうしよう・・・折れてたら・・・もうシンセを弾けなくなったらどうしよう・・・ヒロ〜〜〜」
もう涙を止める事が出来なくなったボクを抱きしめて背中を撫でながらヒロが慰めてくれる
「大丈夫・・・オレが付いてるから。弾けなくなるなんて言わないの・・・何ともなってないから・・・大丈夫だよ」
右手の痛みは現実としてボクを不安にさせるけれど抱き締め続けてくれるヒロの優しさがそれを和らげてくれる
イベントは明け方まで続けられたので今はまだ病院も開いてはいない
「病院が開いたら一番に見てもらおうね」アイシングの上からヒロの大きな手が包んでくれる
「うん」時間と共に酷くなる痛みを感じ、大きくなる不安に押しつぶされそうだ
コンコン・・・
「入るわよ」アベちゃんが声をかけて楽屋に入って来た
アイシングされてるボクの手を見るなり深い溜め息を零した 「こんな事じゃないかと思ったわ」
さっきどうして本当の事を言わなかったのかと軽いお小言を貰ったけれど彼女もまた心から心配してくれている大事な人だ
クラブの楽屋にいると人の出入りが多く、いつ手の事が知られてしまうか分からないと言うので病院が開く時間まで事務所に移動した
アイシングをしていても痛みがひどくなってきた 手全体が腫れてしまって指の感覚も無い
側にヒロがいなかったらボクはこの痛みと先の見えない不安に耐えられなかったかもしれない
「今、病院に電話をしたら診察が始まる30分前に看て貰える事になったから。もう少し我慢してね」かかりつけの病院にアベちゃんが連絡してくれた
芸能人だから・・・と言う訳ではないけれどボク達はとにかく目立つ、病院という場所に一番ふさわしくない人間かも知れない
待合室の長椅子にポツンと座っていたヒロがボクとアベちゃんの姿を見つけて駆け寄ってきた
「大ちゃん・・・コレって?」そぉっと差し出されたヒロの指がボクの手に巻かれている白い包帯に触れた
「うん・・・・実はね・・・こんな身体になっちゃった・・・どうしよう・・・」きっとボクの顔は真っ青だったに違いない
「・・・分かった・・・大ちゃんはオレが一生面倒見るから」
「本当に?嬉しい・・・」
アベちゃんがボクとヒロの頭をコンッと小突いた
「何やってるの!あんた達!ココが病院だって忘れてる訳じゃないでしょう?」
「だって、アベちゃん!この包帯・・・」
「確かに2,3日は動かしちゃダメだって言われたわよ、ある意味、絶対安静。無理に動かすと神経がおかしくなる事があるからって。
それ以外は骨折もナシ。ダイスケのタフ伝説が増えたわね。包帯の下は湿布よ、それくらい大袈裟にしないとすぐに手を使うでしょ?」
ヒロが長椅子に座り込んだ
「良かった〜〜〜マジで心配してたから気が抜けちゃったよ〜〜〜」
「ゴメンネ・・・ヒロ」
「じゃ・・私、会計と薬の処方箋を貰ってくるわ。あ・・・ヒロ?絶対ダイスケが手を使わないように見張っててよ」
「OK!・・・車で待ってるからね」
「でもさ、本当に良かったね。骨が折れてたら・・・って、振り払っても振り払っても悪い方に考えが行くんだよね」
「ボクも。レントゲン見るまではダメだと思ってたもん」
「ねぇ・・・・」「ねぇ・・・・」
「何・・・見つめあってるの?」
会計を終えたアベが二人の待つ車に乗り込んできた
「お待たせ」
「じゃあ・・・行こうか」
混み出した病院の駐車場から滑るように車を走らせる
「ダイスケ、痛みはどう?」
「さっきの注射が効いてるからちょっと楽かな」
「手に注射??マジ・・・?痛そう」思わずその光景を想像してヒロは顔をしかめた
「フフフ・・・そうね指の付け根に打つ所は流石に見ていられなかったわ。ヒロなら失神してるかもよ?
痛み止めを3日分貰ったから部屋に帰ったら飲んだ方が良いかもね」
「アベちゃん・・・ごめんね。ボクの不注意で仕事遅れちゃうよね」白い包帯が恨めしい
「ダメよ!仕事の事は考えないで。3日間は絶対、指を動かさない事。それから・・・ヒロ、ダイスケの面倒付きっきりで見られる?」
「OK!良いよ」
軽く聞くアベに軽く答えるヒロ・・・ボクの方が戸惑ってしまった
「ちょ・・・ちょっとヒロ!そんな軽く受けて良いの?スケジュールは?付きっきりじゃなくても大丈夫だよ」
嬉しさは表情に出さずに言ってみる、もし・・・じゃあやめよう・・・って言われたら悲しいくせに
「そう?でもさっきマネージャーに電話してオフにしてもらったから。
・・・大ちゃんが怪我したって分かった瞬間からオレが一緒にいてあげなきゃって思ったんだけどね。ダメ?」
ダイスケは胸の奥に仕舞っていた、さっきの言葉を思い出した・・・一生面倒見るから・・・冗談じゃなかったんだ?
「本当に良いの?ボク相当ワガママ言うよ」 ちょっと照れ臭くて、素直な言葉は出て来ない
「そんなの平気だよ・・・だって大ちゃんのワガママって可愛いじゃん」
「あ・・・ひっどい、ヒロ」
「あのねぇ・・・・痴話ゲンカは私が降りてから思いっきりやってくれる??」アベちゃんの声に棘を感じてボク達は黙った
これからスケジュールの調整をすると言うアベちゃんを事務所に送って、車はやっとボクの部屋を目指す
「うわ・・・何か長い旅にでも行って帰って来た気分」
「長い一日だったモンね。ねぇ?大ちゃん、今何したい?」
コンビニで買った飲み物や軽く食べられる物をテーブルにおきながらヒロが訪ねる
「ん〜〜〜〜〜やっぱりシャワー浴びて眠りたいかな」
「そうだね、じゃあ起きたら食事行こうよ」
「シャワー・・・浴びてくるね」ソファから立ち上がってから「あっ!」と声を上げる
「大ちゃん!痛む??」驚いたヒロがボクの所に駆け寄って包帯の巻かれた右手を優しく自分の手に乗せる
「痛み止め・・飲む?・・・・何?」心配そうなヒロを覗き込んでニッコリ微笑んでやった
「ヒロ・・・一緒に入ってくれる?」大胆でしょ?ボク・・・
「エッ・・・エェッ〜〜〜〜!」
「何でそんなに驚くの?この手じゃ脱ぐのも洗うのも身体を拭くのも大変だもん。ネッ?」
いきなりこう来るとは・・・流石のヒロも予想していなかったみたいだね
「良いよ」 余裕ある言葉が返って来た
狭い脱衣場に二人で入って、痛めた手にシャツの袖を引っ掛っかからないように脱がされた
上半身をヒロの目の前に晒してしまってからボクは後悔した
自分がワガママを言ってヒロを慌てさせるつもりだったのに、この状況ではボクの方が恥ずかしさでどうしていいか分からない
ヒロの方は何でもないようにズボンのボタンを外してファスナーに手をかけている
「もう良いよ・・・自分でやれるから・・」ボクは左手でヒロの手を止めた
「ケガ人は黙って甘えてれば良いんだよ。さ、脱いで」ヒトツの手なんか役に立たない
下着姿がヒロに見られている事にとうとう耐えられなくなってボクは目を瞑った
「恥ずかしいなら止めようか?」その気もないくせに言葉だけは優しいヒロ
こんな煌々とした電気に照らされて下着を下ろされる感覚ってそうは味わえないんじゃないのかな?
そう思うとちょっと可笑しかった
「大ちゃん?」不思議そうにボクを見つめるヒロ
「ボクの全てを見られる人ってそうはいないよ?分かってる?」
いきなり強く抱きしめられて目眩がしそうだった
「うん・・・分かってる。オレって凄い幸せモノ・・・・・ケガしてなかったらこのまま風呂じゃなくてベッドに運ぶんだけどね」
「フフフ・・・ケガしてたってやれるでしょ」
「いいの?!マジ?」今にもボクを抱き上げてしまいそうだ
「でも、お風呂と睡眠と食事が終わらないとダメ」
「それは命令?それともワガママ?」これ以上、無理ってくらいに顔を近づけてヒロがボクに聞く
「両方」 ヒロの頬に左手を滑らせてボクからキスをした
普段じゃあまり味わえないスリリングな入浴を終えて喉を潤そうと冷蔵庫から飲み物を出した
いざ・・・飲もうと思ったら「ペットボトルの蓋が開かない〜〜〜〜!」ヒロに叫ぶ
「ハイ、ハイ」笑いながら蓋を開けてくれた
さっきも片手では大変だからと服を着せてくれたり自分では乾かしきれない髪もヒロが丁寧にタオルで拭ってくれた
あ〜〜〜幸せ、幸せ
「ねぇ?大ちゃん?食事どうする?食べに行っても良いけど・・・その手は目立つよね?」
「そっか・・・じゃあさ、さっきコンビニで買ったもの食べようか。」ボクは左手で冷蔵庫のドアを開けた
「コレコレ・・・〃名人の味シリーズ〃面白いから買ったんだけどね、ボクこれで良いよ」
「スパゲッティね・・・じゃあオレも」♪レンジで5分♪ヒロの鼻歌が面白い
リビングのガラステーブルに温めたスパゲッティと冷たいお水を二人分用意して
「いただきます」手を合わせて食べようとしているヒロにボクは「ア〜〜〜ン」と口を開けて待つ・・・生まれたての雛鳥のように
「大ちゃん?」
「ア〜〜〜ン」そんな目で見たってダメだよ、聞いてくれるよね?ワガママ
苦笑しながらクルクルとフォークにスパゲッティを巻きつけてボクの口に運んでくれた
「美味しい?」
「うんうん、凄く美味しいよ〃名人の味〃って嘘じゃなかったね」
ヒロもパクッと食べて「ホント!美味しいね」
同じ物を好きな人と一緒に食べる・・・それだけできっと全てが美味しいと思える事ってあるんだよ
「もっと食べる。ア〜〜〜ン」
「ハイ、ハイ」
お腹が膨れてくると途端に眠気が襲ってくる、考えてみればケガの事でまともな睡眠をとる暇がなかった
「大ちゃん、痛み止め飲んで寝た方が良いよ、そう言えば腫れが引かないと熱が出るかもってアベちゃんが心配してたっけ」
「そうだよね」ヒロが錠剤とお水を持ってきてくれた
「・・・飲ませてあげなくても良いの?」イジわるそうに聞いてくる
「これくらい飲めるよ」口移しって事?そうはいかないよ・・・
ベッドに潜り込んでから動かせる左手でヒロを誘う
「何?」
「一緒に寝て・・・」ボクの左側のスペースを開けてあげる
「一緒じゃない方が良いんじゃない?オレが寝返り打って大ちゃんの右手にぶつかったりしたら大変でしょ」
眠りは密やかに足音を忍ばせてボクの近くに来る・・・ヒロの声を聴きながら、もう目を開けていられなかった
「・・だい・・じょうぶ・・・ヒロがいないと・・・眠れな・・い・・・」
「大ちゃん・・・オレがいなくてもちゃんと眠れるじゃん」
違うよ、ヒロ・・・ボクの人生にはもう君がいないと眠るのも起きるのも食べるのも意味がなくなるんだ
ねぇ?ヒロ・・・ボクはもうヒロが側にいてくれないとダメな人間になってしまったかもしれないよ?
ケガが治って君がいなくなってしまったらボクはどうなってしまうんだろう?
・・・一生面倒見るよ・・・
その言葉信じてて良いんだよね?
「ヒロ〜〜〜これ食べさせて〜〜〜」
「ハイ、ハイ」
「ねぇ?もう手使っても良いんじゃないの?ってか、ダイスケ仕事はちゃんと手使ってるわよ?何甘やかしてるの?」アベちゃんがあきれている
「良いの・・・良いの・・・大ちゃんが甘えたがってるんだから」
「ヒロ〜〜〜」
「ちょっと待ってて〜〜すぐに行くから〜〜〜」
もっと、もっと甘やかして・・・君がいないとダメな身体にして・・・君がいないと壊れてしまう心にして・・・ボクを溺れさせて・・・
******END******
キリ番9000を踏まれたゆき子さんに進呈します。
リクエスト通りに書けているでしょうか?(^_^; どうかな???
タイトルはヒロのお誕生日で花言葉を検索したら「アルケミラー【花言葉】献身的な愛」と書いてあったので、思わず貰ってしまいました(苦笑)
アルケミラーと言う花はよく知らないのですけど・・・(^_^; ダメじゃん。
suika
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