are you ready?






短いライブツアーが終わった

しかし、その余韻を味わう間もなく東京に帰らなければならなくて滝のような汗をシャワーで流すのも早々に切り上げ駅へと向かう

今はむしろ

終わってしまった事への喪失感の方が大きくて・・・八月のイベントを切望しているのは誰でもなく自分だ

聞いてはいないけれど、前を走っている車に乗っている彼も同じ気持ちだと思いたかった

もうすぐ駅に着くと言う時にマネージャーから告げられる


『席はX号車の○番です』

「・・・・大ちゃんは?」

『      ●号車だそうですよ』

しばらくの間が開いてから教えてくれた

同じ車両に乗れない事くらい知ってる・・・・

ユニットって言っても違う事務所なんだし格差が付くのも仕方ない

舞台が終わってバックステージに引っ込めばいつ帰ってしまったのか分からない事もある

要は大人の事情≠チてのに翻弄されている訳だ

「オレもイイ年の大人なんだけどな」

「何か言いましたか?もうすぐ駅に着きますよ」

きっと改札口と言わずホームにもライブ終わりのファンが沢山いるんだろうな

それが迷惑とは思わない

昔と違ってファンもオレ達と同じくらい大人になり無茶する子は殆どいないからだ

それでも、初めてこんな状況下に置かれた子がたまに大声を上げてスタッフが注意しているのを聞くと返って新鮮に思える




車を降りると普段の改札口ではない場所に導かれた

「?」

オレより先に車を着けて降りていた彼と一瞬目が合う

「?」

同じように顔にクエスチョンマークを付けて苦笑いを零している

駅員から事情を聞いていたスタッフが走って戻って来た

どうやらココ2日ばかりこの地を色んな芸能人が来ていて改札とホームが大混乱になっている為に

どの芸能人もVIP専用エレベーターでホームまで上がりすぐに新幹線に乗らせているらしい

「へぇ・・・」

VIP専用とはオレ自身は少し面映い感じがした

でも、最終の新幹線はホームに到着しているので急いでエレベーターに乗り込んだ

・・・・面白い体験だよね・・・

彼のサングラスの奥の瞳がそう告げている

素直にオレも頷いた


そして・・・・

隣の車両に乗り込む彼の背中を目の端に捉えて、オレも乗った

座席に座るとすぐに目を閉じる

目蓋の裏にはさっきまでの色とりどりのレーザー照明がまだ生きていて、耳の奥にはファンの歓声が木魂しているのに

時間はとても優しくて・・・そして残酷だ

過ぎ行く時の余韻までも不躾なアナウンスが掻き消してゆく



ホームから滑り出しファンの喧騒も落ち着くと仁王立ちしていたマネージャーも静かに腰を降ろした

ブルル・・・

ジーンズのポケットでバイブにしている携帯が震えた

「あぁ・・・多分」

画面表示を見なくても分かる

一車両前に座っている彼からだ

テレビ電話が出来るから・・・なんて歌い文句で購入した新機種だけれど

往々にして街中や仕事先で携帯の画面に向かって大声で話しかけている人を見た事が無い

特にこんな乗り物の中でやれるもんじゃないと気付いた

それでも、二人で同じ携帯を持ってる事の気恥ずかしさと心地良さだけで満足している

『今のボクの顔』のメールと共に添付されているのは彼のドアップ

隣にはアベちゃんもいてからかわれているだろうに、そう思うと可愛いくて仕方ない

オレはわざと返信せずに無視してみた

ブルル・・・

ブルル・・・

ブルル・・・

「大ちゃん・・・」

横顔だの外の景色だの手元の雑誌だのどうでもいいものばかり送って来てはオレの反応を楽しんでいるようだ

『わかった。起きてるよ』のメールと共にサングラスを外した顔を送ってやると

『知ってた』すぐに返事が返ってくる

彼もサングラスを外した顔の写真を送ってきた

「疲れてない?」

そっと画面を撫でる

怒涛の様な一週間をやり遂げた充実感は何にも代え難く、すぐにでもまたライブをやりたいオレだけど

彼が疲れているのは知っている

休息と言う言葉を嫌悪するように走り続けているのは何故だろう?

そんな彼を隣に居て時々抱き締めてあげたくなってしまう

「もういいから・・・」

昨日のライブでアンコールが終りファンに手を振りながら袖に引っ込む彼がスタッフの手に倒れ込んだの何人が知っているだろう

オレは彼の分までファンの歓声に答えたかったから、そんな彼を受け止めてはやれなかったけれど

『大ちゃん、大丈夫?』当たり障りの無い言葉を選んで送る

『うん、大丈夫。ヒロもお疲れ様』オレの事はどうでもいいからさ

『名古屋に着いたら何弁当食べる?』

『うんと・・・・ひつまぶしか名古屋コーチン』

「大ちゃんの中でコーチンがブームなんだね?」

彼のこだわりは割りと長く続く

タイミングよく、もうすぐ名古屋に着くアナウンスが流れた

『またファンの子が動き出すからメール送るのやめるよ』

打ち終わってからポケットへ仕舞い、サングラスをかけて目を閉じた

送信が無事に終わったかどうか気になったけれど確かめる事はしなかった

マネージャーが腰を浮かせる気配でみんなが移動しているのを知る

「そんな厳重にしなくてもオレのファンは無茶しないってば」

小声で言ってはみるが彼女も仕事なんだから責めたりは出来ない



思ったより長くホームに止まっているんだと目を開ければ数名のファンがこちらを見ている

「あぁ」

気付いて手を振る

そんな些細な触れ合いだってオレは嫌じゃない

それでも距離を保たなければ見られる者と見る者の価値が変わってしまうのかもしれない

奇妙な世界にオレは生きているんだ

そして・・・・オレと彼の距離はどれだけ詰めて良いのだろうか?

オレと彼

彼と事務所

オレと事務所

今だって確かに一車両分の溝がソコにはあるじゃないか



再び新幹線は滑り出した

ブルル・・・

「早いですね」

彼からだって分かっているからマネージャーが苦笑する


『いただきます〜〜』そこにはひつまぶし弁当の画像

車内販売で買ったか、止まっている間にスタッフに走らせたか

どっちにしても得意満面な彼が写っている

「あぁ〜〜オレも腹減ったな」

少し愚痴っぽくなったオレがどう返信するか迷っていると彼のスタッフがこっちの車両にやってきた

「これアサクラさんからです、皆さんでどうぞ」

スタッフ分の弁当が配られている

きっと、隣の車両のサポートメンバーにも配られているに違いない

「これはタカミさんにです」

今、彼の写真に写っているのと同じ弁当がオレの手に乗せられた


「そっか、弁当もお揃いだね」

さっそく箸を割って一口分を乗せるとそれをメールで撮って彼に送る

『大ちゃん、ありがとうーーー!早速いただきます』


美味しいご飯を食べながら思う・・・

事務所がどーの溝がどーのと言ってはいるけれど、確かにオレはココに居て彼の想いを感じていられる

同じ世界で同じ時間を分け合える人はそんな沢山居る筈も無い

これからも二人で走って行こうよ

疲れたら・・・・オレが支えてあげるから


箸を止めて彼にメールを送った

『大ちゃん、これからも一緒に頑張ろうね』

『いきなりだね・・・うん、これからもよろしくね』


それと・・・・

『今夜・・・are you ready?』

だって、こんなに気持ちが昂揚しているのに一人で眠るのって淋しいよね?




大ちゃんから返事が来ないのって  YESなの? NOなの?


*************************

@おまけ

「今夜?・・・・ヒロ、元気だよね」

溜め息吐きながらも嬉しそうに返信しようとするダイスケの携帯をアベは取り上げた

「こんなバカメールにいちいち返信するのやめなさいよ!!」

「え〜〜だって楽しいよ」

「・・・・・・・・・・・・・そう」


**************************END(爆)


かおりさんからのリクエストで書きました。

「ツアー関係」って言うよりは番外みたいで申し訳ないです(^_^;

帰りの新幹線でこんなんだったら良いな〜〜って思ったものですから。

 suika

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