All LOVE  (ボクとオレと愛の生活)





いきなり上昇した気温に今年の夏も暑くなるんだろうと当たって欲しくない予感がする

少し身体を動かすだけで額にうっすらと汗が滲む



ダイスケは娘のクローゼットを開けて溜め息を吐いた

「・・・夏の洋服が無い」

産まれた時にお祝いで貰った洋服は・・・日本の習慣なのか・・・実際の年齢より大きくてまだ着られなかった

「買いに行かなくちゃね」

何が必要か中を確認して扉を閉める、と同時にリビングから娘の可愛い声が聞こえてきた



「お腹コチョコチョ〜〜〜〜」

ヒロユキはソファに寝そべって、腹の上に同じような格好で寝そべる娘を乗せていた

片手で落ちないように支えながらプックリしたお腹をくすぐる

「キャッ キャッ」

くすぐったいのが楽しいのか、パパに遊んで貰えるのが嬉しいのか可愛い声は止まらなかった



「ラッコの親子みたいだよ」

「そう? やめようとすると愛の機嫌が悪くなるからさ〜〜さっきから何分この姿勢だと思う?」

そう言いながらも可愛い娘の為なら大して苦になっていないようだ

二人が寝そべるソファに近寄ってダイスケは小さな足の裏をくすぐる

ママの思いがけない攻撃にますます身体を捩って笑い声をあげる

楽しい親子3人の休日のひとコマ・・・

ダイスケは手が滑った振りでヒロユキのお腹もくすぐった

「うわぁ!・・・ちょ、大ちゃん!それ無しだよ!」

「愛もパパをくすぐってあげて」

ママにお許しを貰った彼女も小さな手でパパのお腹をくすぐり始める

「嘘!?マジ?愛!やめて〜〜〜〜!」

4つの手で虐められているヒロユキにダイスケが言った

「止めてあげるから・・・ボクのお願い聞いてくれる?」

「わかった!何でも聞くから〜〜キャハハハ〜〜〜」



・・・・・・ダイスケが娘を抱き上げて、それはやっと終った

「・・・ひどいよ・・・大ちゃん・・・愛まで味方に付けちゃって」

「娘がママの味方なのは当たり前なんだけどね」

「で?お願いって何?」

「お買い物行きたい」

ヒロユキの頭の上に?マークが飛び出す

「買い物・・・?行けば良いんじゃないの?オレが車で愛を看てるからさ」

「違う! 愛の夏の洋服買いたいから一緒にお店の中まで行かないと意味が無いんだってば」

「それは・・・大ちゃん」

ヒロユキが口篭るのも無理は無い

一緒に行く・・・それはある意味タブーだった

二人きりで買い物した事も無いのに娘を連れて行くのは世間にカムアウトした事と同じようなものだ

平日のこんな時間帯と言っても誰が見ているか分からない

ある程度の変装を施してもバレる可能性はかなり高いだろう



「良いよ・・・3人で行こうか」

ヒロユキは不安げに瞳を揺らせているダイスケにそう答えた

「良いの?」

リスクが高い事は十二分に分かっていてダイスケは3人で行きたいのだと思うと無下に断わる気にはならない

むしろこれが良い機会になるような気がする、ただの下らない直感と言われればそれまでだが・・・

「バレたって平気でしょ、どっちかの隠し子って世間は考えるくらいだよ・・・オレ達の子だとは思わないよね」

「うん。本当は“ボクらの娘です“って言って歩きたいくらいなんだけどね」

腕の中にいる娘を見つめて少し目尻に涙が溜まるダイスケの頬にヒロユキはキスをした

「だぁいじょうぶ。誰も知らなくってもこの子はオレと大ちゃんの子なんだから。ホラッ!そっくりじゃん」

「パパにね」

「ううん・・・・オレの大好きな大ちゃんに」



自分の顔の横をすり抜けてパパがママにキスするのを見て娘も口をとがらす

「ん〜〜〜?愛も?CHU♪」

可愛い妻と娘に頼られるオレって凄いじゃん・・・ヒロユキは得意げだった

・・・・・これがかしこい亭主操縦法だなんて事は欠片も思っていない



大きなファションビルの屋上の駐車スペースに車を停めた

「着いたよ・・・何かドキドキするよね」

こんな事くらい何でもないことだと自分に言い聞かせて車から降りる

流石に出掛ける姿には気を使った

ダイスケも派手な色使いはやめて水色のインナーに白のジャケット下はジーンズだ

インナーと同じ水色の帽子を気持ち深めに被って度無しの伊達メガネをかける

「うわぁ・・大ちゃん可愛い。どっから見ても若いお母さんって感じ。絶対、見破られないよ」

「そっかな・・・・流石に帽子は店の中でも脱げないよね」

「大丈夫、大丈夫」

ワガママを通してしまったダイスケの方がやはり落ち着かない

ヒロユキはと言うとクロムの白のインナーに黒のジャケット下は膝がすぐにも抜けそうなビンテージジーンズ

クロムの刺繍のキャップにサングラス・・・・かなり怪しくて目立つ

でも、胸に天使のような子供を抱いている様は若くてカッコイイお父さんになっている

娘はママと同じ水色のボーダー柄Tシャツに白のジーンズ素材のつなぎを着せて水色の帽子を被っている

少し大きめのつなぎの裾を3重に折り曲げた姿が可愛い

「大ちゃん・・・大丈夫だからね・・・行こう」

ヒロユキに背中を軽く支えられて歩き出す

この手が常に自分を守ってくれる事にダイスケは改めて気付いた



端から見れば、このカッコイイ親子が目立たない訳はないと思うんだが・・・・?!



「これなんかどう? 絶対、愛に似合うよね」

有名な子供服のブランド店のズラっと並べられた夏服にダイスケの目が輝いている

一枚手にとっては娘の身体にあてがって「どう?」とヒロユキに聞く

「すっごい数があるんだね・・・子供服ってバカにしてた。・・・それに大人並みな値段するよね」

ダイスケとは違う所で感心するヒロユキだった

「ヒロ? 聞いてる? これどう思う?」

「ん・・・可愛いよ、愛は何でも似合うから。好きなの全部買えば良いじゃん」

遠くでこちらを窺っている店員がその言葉に少し身を乗り出した

「ダメだよ・・・すぐに大きくなってしまうんだから。ちゃんと着られる物を買わないと無駄なんだってば」

・・・って、店の中を一周する頃には両手に持ちきれなくなっていたけれど



「ほーーらーーー言ってる割には何枚買ったの?」

疲れて眠ってしまった娘を抱いて歩くダイスケの後で大きなブランドのロゴが入った紙袋を提げてヒロユキがついてくる

「だってさ・・・・・・」

“可愛かったから““愛が欲しいって言ったから・・・“ 口の中でモゴモゴと何か呟いているダイスケにヒロユキは苦笑した

「大ちゃん、歩き疲れちゃったよ。ココで休まない?」

ちょうど二つのビルを繋ぐような位置にあるパティオを歩いているのに気付いてヒロユキは椅子に座った

『北館から南館への通路』になっているソコは吹き抜けの高い天井がガラス張りで

TVのニュースで今年最高の気温だと言われている陽射しもかなり柔らかく振り注いでいる

床には水が流れていたり鳥の鳴き声がBGMに使われていたり、人々が憩いやすいように工夫されていた

「アチィ〜〜〜〜!」

アトランダムに置かれている白いスチール椅子に座ってヒロユキは帽子を脱いで顔を仰ぐ

娘の為とは言え・・・大きなビルの中を歩き回るのには流石に閉口する

「ヒロ。 愛、抱いていて」

少し寝起きでグズグズ言い始めた愛をヒロユキの腕に抱かせるとバッグのなかの娘専用の袋を覗き込んで

ミッキー柄の保温袋から哺乳瓶を出した

「ぐずっているのはお腹が減っているんだ」

「うん、それと暑いんじゃないかな」

ヒロユキは娘を覗き込んでダイスケに自然に手を差し出し哺乳瓶を受け取る

「ヒロも疲れているでしょ?ボクが飲ませるから向こうで一服してきて良いよ」

「良いよ、、大ちゃんこそ自分の洋服とか見てきなよ」

「ホント?」

「っと・・・その前にオレにも何か飲み物買って来てくれる? 喉カラカラなんだよね」

「うん。待ってて」

白いジャケットを翻してダイスケは自販機が並んでいる方へ走って行った

ミルクを必死で飲んでいる娘の額に大粒の汗が浮かんでいるのに気付き哺乳瓶と一緒に渡されたタオルで慌てて拭う

「愛も暑い?・・・やっぱり夏服買いに来て正解だったよね」




「エーーっと・・・ヒロにはコーラ。ボクは・・・うんと・・何にしよう?」

たくさんある種類の飲み物を見てダイスケは選ぶのに手間取っていた

コンビニでも“新発売“ってラベルが貼ってあったりするとそれを手に取ってしまったりするのだから

実物を手にとって選べない自販機はある意味ワクワクする機械なのだ

「決まった・・・」

散々迷った挙句押したボタンはいつもの紅茶だったりする

2つの飲み物を手に振り返ったダイスケの目に飛び込んできたのは・・・

ヒロユキの目の前に若い女性が2人

一人は娘をあやすようにしているが、もう一人はヒロユキの顔を見つめている

ヒロユキが左の方へ手を差し示し何かを教えているようだ

・・・男と女、そして子供・・・

あれが本当の家族のあるべき姿のなのだとダイスケはそこから一歩も動けずに見つめるしかなかった

「ヒロ・・・」

自分だけの世界で誰にも聴かれない様に名を呼ぶ

喉を潤す筈の冷たい飲み物がダイスケの手の中で少しずつ温みを持ちはじめて行く

彼女達がヒロユキに頭を下げて南館へ消えて行くのを見届けると何も無かったようにヒロユキの元に戻った

「ごめん・・・何にするか、ずっと迷ってた」

ハイッっと手渡したコーラがダイスケの手の温みを僅かに引き継いでしまった事にヒロユキは気付かない振りをした

ミルクを飲み終えた娘はパパが飲んでいるモノにも手を伸ばす

「愛・・・これは愛が飲めるもんじゃないんだからね・・・喉がシカーーーってするよ」

すばしっこくなった娘の手の動きに苦笑しながらヒロユキは一気に飲み干した

ダイスケは少し口をつけただけでジッっと二人を見ている

「ん?」

空っぽになったペットボトルを娘に渡してやるとパパの真似をして飲み口に自分の可愛い口を付けた

容器を上に向かせるとソコに残っていた僅かな茶色の水が娘の口の中に流れる

「うえぇ・・・」

苦そうに顔をしかめる娘が可笑しくて愛しくてヒロユキは容器を睨んでいる娘を抱きしめた

その様子を見ていたダイスケの顔にも自然と笑みが浮かぶ

この世でこんなに愛しいものがあるのだろうかと・・・

「やっと笑った・・凄い険しい顔してたから。さっきの見てたんだ?」

「うん。ヒロの側にはああ言う綺麗なお嬢さんが良いのかもって思ったら悲しくなった」

ヒロユキがダイスケの顔を覗き込む

「誰がそんな事言った?」

「誰も言わないよ・・・ヒロがモテルって事はわかっているつもりだったけど。やっぱり・・」

「さっきの人は駅に行く道を聴いてきただけだしさ・・・それくらいで自信なくすのやめようよ」

「・・・・・・・」

「ね?」

「もう帰る」

飲みかけのペットボトルをゴミ箱に落とすとダイスケは立ち上がった

「大ちゃん!」

ダイスケのイラだちの素が何にあるのか分からないヒロユキじゃない・・・でもいい加減信用して欲しかった



どこの夫婦でもある小さな亀裂・・・見ない振りして出来るなら自然に治って欲しいと思う

でも一度気にすると大きくなって縦に割れて横に伸びていつか割れてしまう

ダイスケの中でそれはいつだって見ない振りして来た筈だった



車の振動が心地良いのだろうか後部座席のチャイルドシートで娘は眠っている

運転するヒロユキも助手席のダイスケも何も発せずに窓の外に流れていく景色を見ている

今年最高の気温の中でも人々の動きが止まることは無い



大きな買い物袋を提げて先を歩くヒロユキの背中が怒っているように見えてダイスケの足取りも重い

眠ってしまった子供を抱えてバッグからキーを取り出すのは難しい

かと言って大きな買い物袋を抱えている方もキーを出すのは嫌なものだ

気持ちが擦れ違ったまま扉の前でキーを探し始める

やっと取り出したキーが指の間から落ちてマンションの床に金属的な音が響く

「チッ」

舌打ちをされたのが自分に向けられたものだと瞬間ダイスケは肩を震わせた



ダイスケはそのまま娘をベッドへ寝かせに行った

ヒロユキは床に荷物を放り投げて着ていたジャケットも脱ぎ捨て疲れた身体をソファに預けた

「今日は何も出来ねーーー!」

リビングへ戻って来たダイスケはヒロユキのジャケットを拾いキッチンへ立った

「・・・ねぇ? 何か食べる?」



「大ちゃん・・・ココ」

ヒロユキはソファから身体をずらして直接床に腰を落とした

大きく開いた足の間をポンポンっと叩いてダイスケを手招きする

2度3度、目を彷徨わせたけれど観念したようにヒロユキの足の間に華奢な身体をおさめた

後からふわっと大きな胸に包み込まれるように抱かれた

ヒロユキの長い腕がダイスケの胸の前で交差する

「大ちゃん・・・・ごめんね。」

優しい言葉がヒロユキのキスと共にダイスケの髪に降りてくる

「キツイこと言ってゴメン」

「ヒロの事・・・信じてるよ。ボクがダメなんだ・・いつもどっかで女性には叶わないって思ってるんだよね」

「ふーーーん」

「思ったこと無い?」

「I don't think!・・・ fall in love with you forever」

「もう・・・キザなんだから」

ダイスケは身体を捻ってヒロユキにキスをした

「あのさぁ、大ちゃん? ひょっとしてオレが愛に取られたみたいに思ってない?」

「ウッ・・・・そうかもしれない」

本当の敵は他人ではなく我が子だったかとダイスケは今更ながら頭を抱えたくなった

「前にも言ったよね・・・愛は宝物だけど、一番愛してるのは大ちゃんだって。覚えてる?」

「うん」

ヒロユキの綺麗な顔がゆっくり降りてきてダイスケの唇を塞ぐ

娘が宝物ならボクは何?って、いつか聞いてみたい

でも・・・このキスが終るまでは他の事は考えたくない

だって、こんな濃厚なキスは娘にはしないでしょ?



うっとりとしながら次の買い物はドコにしようかと思いを巡らせるダイスケだった

3人ならどこだって楽しいけれど・・・・








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HIRO☆だから何でも心配なんだよね・・・大ちゃん♪

                 suika      
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