suicaの毎日連載です。

1日1回づつ、更新しておりました。

ちまちまと読んでやってくださいませ m(_ _)m























愛していても・・・・・





「大ちゃん〜久しぶり〜って事はないか、先週会ったしね」

ボクの事務所を尋ねたヒロの機嫌がとても良い

久しぶりのソロライブが待ち遠しくてたまらないみたいだ


「楽しそうだね」

ボクの声色が咎めるふうに聞こえたのかヒロの顔色が僅かに変わった

「まだ怒ってるんだ? 誕生日とライブが重なった事」

「そんな事ないよ」

「もう! くどいんだよ!」

ボクはヒロを睨み付けた

「あぁ! くどくて悪かったね、ヒロが悪いんじゃないか!」

いつも穏やかなヒロの顔色が変わり出す

驚きと困惑と戸惑い・・・

その全てをさらけ出したかのように目を丸くしてボクを見た

「だって、仕方ないじゃない・・・」

声がだんだん小さくなる

「仕方ない、仕方ない・・・ボクは何回、同じ事聞けば良いのさ!」

澱んでいた感情が吹き出しそうだ


********** 1






「いつだって! いつだって! ヒロはいつだってボクの事なんか二の次なんだ

 今まで何回大事な日をライブやイベントで潰したんだろうねぇ」

そんな小さな過去まで持ち出すような真似はしたくなかったのに言い出したら後に引けなくなった

「ボクはライブでヒロの事を必ず話すのに、ヒロは言わないし・・・」


話したくて堪らないだけなんだけど


「相談なしで車買うし、挙句やめちゃうし」


ここまで来ると理不尽な気もする

他人から見たらアサクラダイスケはわがままでどうしようもなく勝手な人間だと思われるかな


ましてや・・・・・ヒロにはどう見えているんだろう?


********** 2






バンッ!!!

床に何かか叩き付けられる音がしてボクの話は途切れた


「あぁ! ごめん。手が滑っちゃった」

ヒロの足下に少し厚めの雑誌が落ちていた

「今日はオレ、帰るわ」

苛立ちを隠すようにニット帽を深く被り直してから立ち上がった

それがヒロの優しさだと分かっているのにボクの怒りは治まらない


「ヒロが出て行くならボクが出て行くよ。 都合が悪くなると逃げるんだから!」

気分転換にワンコの散歩をしようかと思い、勢い良くドアを開け廊下へ出た

「イテッ!」

運悪く誰かとぶつかりボクは後ろへ弾き飛ばされた


今日は厄日だ



**********
3






「すいません!大丈夫ですか?」

優しい声と共に黒のスーツに包まれた長い脚を二つに折り曲げ その人は手を差し出した

「あっ・・・はい」

吸い寄せられるようにボクはその手に自分の手を乗せると、そのまま強く握られ引っ張りあげられた

「お怪我ありませんか?」

並び立つとその人はボクよりかなり背が高い

「大丈夫です。こっちこそ前見てなくてすいません」

初めて顔を上げその人の顔を仰ぎ見る

普段は横に撫で付けている前髪が急いでいたのか二筋乱れ、端正な顔立ちを人懐っこく見せている

フレーム無しの眼鏡も嫌味じゃない

何より瞳の綺麗さに魅きつけられた

「あ! アサクラさん!」

「えっ!?」

「あぁ、馴々しくてすいません。来月からタカミさんのマネージャーをやらせて頂きます、コウダと申します」

「・・・マネージャー??」


********** 
4







「やっぱり・・・覚えていては貰えませんでしたか? 一度だけご挨拶したんですけど」

「そうなんだ・・・あっ!」

まだ握られたままの手を離した

「ライブのリハの最中だったから仕方ありませんよ」

「今日は何でヒロと一緒じゃないの?」

「前の現場から僕だけ事務所に帰ったんです。で・・・ですね」

コウダは口ごもりながら目を彷徨わせる

「うちの事務所の場所忘れたんだ?」

「すいません」

照れるコウダの仕草が可愛くてボクは声を出して笑った

初対面に近い人間とこんなにくだけた会話を出来る事が不思議で

同時にヒロと口喧嘩した事をも忘れていた


「どこかに出掛けるんじゃなかったんですか?引き留めてすいません」

「あぁ・・・ワンコの散歩に行こうと思ったんだけど」

その時ドアが開いてヒロが顔を覗かせた

「コウダくん、遅いよ」

ボクら2人を見ると怪訝な表情をした



********** 
5







コウダくんが事務所の中に入ったのを見届けてからボクはワンコが待つ上の階に向かった

気持ちが落ち着いたとは言えヒロの顔を見る気にはやはりなれない

ちゃんとヒモを付け、散歩グッズを持ち外へ出る

巷で話題の“金色3人”だ

まぁ、見慣れてしまってるからこの辺りの人達は驚きもしないけれど・・・

朝晩はかなり寒くなったが、日中はまだ暖かいと思える


「・・・言い過ぎたかな〜」


ボクの誕生日とヒロのライブが重なったのが悔しかったわけじゃない

そんな事はどうでもいい

その日じゃなくてもヒロはちゃんと祝ってくれる


ボクは何に怒っているんだろう・・・?



********** 6







「ダイスケ、遅い! ヒロ、次の仕事に行っちゃったわよ」


ボクは小一時間かけ散歩し、事務所に戻った瞬間アベちゃんに怒られた

「別に話す事なんかなかったから良いよ」

「ヒロの新人マネージャーも紹介したかったのに・・・」

「知ってる・・・コウダって言うんだよね」

あらっとアベちゃんが意外な顔をする

「ヒロ以外に興味ないかと思ってたのに」

「さっき、廊下で挨拶されたんだよね。一度、現場で会ったらしいけどそれは忘れてたよ」

コウダくんの事を嬉しそうに話している自分に気付いた



**********
 7






「大ちゃん、おかえり」

両手に溢れるほどの大きな花束を抱えてヒロがボクの部屋の前で待っていた

「ヒロ」


こんな気恥ずかしい事を平気でやってしまうそんな彼が好きだ


ボクは黙って花束を受け取り、ドアを開けて彼を招き入れる

中に入るなり濃厚な口づけを受けベッドルームへなだれ込む

今すぐにヒロの熱が欲しかった


「大ちゃん、ごめん」

「ん・・・」


言葉よりも強く抱き締めてくれれば良いから


**********
 8







「・・・アサクラダイスケでした」


『はい、OKです』

ブースの向こうから軽い会釈と共にOKサインが出され、ラジオ収録は終わった

「お疲れ様でした〜」

旧知の仲であるディレクターが “食事でもどう” と誘ってくれる

「私は会社に戻らなければならないけど行ってくれば?」

アベちゃんの言葉にボクは「そうだね」と答える


「そっか〜タカミくんと約束してるのかな〜」

ディレクターの口からヒロの名がいきなり出て来てボクは驚いた

「えっ!?」

「あれ? だってタカミくん今、第2スタジオで収録してるからてっきり・・・」

「ボクちょっと見て来る」

エレベーターで2階に降り第2スタジオを目指す


「あ・・・コウダくん」


**********
 9






コウダくんは携帯に向かって何か呟いていた

ひょっとしたら相手が留守電にしているのかもしれない


「お疲れ様」

「あ、アサクラさん。お早うございます」

何事もなかったように携帯をポケットに仕舞うとペコリと頭を下げた

近付くと少しドアが開いていて、ヒロの声が聞こえる

彼も携帯で誰かと話しているようだ

彼の高い声はよく通る

『んっ、今仕事終わった。すぐ出るから・・・えっ?

 いや・・・オレは “お持ち帰り” は良いよ、いやマジでさ、じゃ、後で』

「お持ち帰り?」

ボクの体温が僅かに上がる

「コウダく〜ん、今から六本木に送ってくれる〜その後でオレの車を事務所に・・・」

ジャケットを羽織りながらヒロが出て来た

「・・・大ちゃん? そっか・・・大ちゃんも収録だったんだ」

その時のボクはとても惨めだった



********** 10






「ごめん、大ちゃん。時間ないからまた今度」

「タカミさん、すぐ車下に持って来ますから」

鍵を受け取ったコウダくんが歩を進めようとした

「いや、良いよ。タクシーで行くからさ。車だけ頼むね」

ヒロは時計を見てからエレベーターに乗り込んだ

扉が閉まり際のヒロの揺れる瞳がボクの胸に刺さる

冷たい廊下にボクとコウダくんが残された


「すいません・・・タカミさん、ライブリハでずっと籠ってて飲みに行ってなかったので・・・」

「なんでコウダくんが謝るの」

「えっ・・・」


「ここにいたのね」

アベちゃんが廊下の向うから少し怒りを含んだ声をかけて来た

「ごめん・・・」

「コウダくん、久しぶり。で、プロデューサーとの食事はどうするの?  私はもう出なきゃならないんだけど」

「やめとく。ボクも帰るよ」


そんな気分にはなれなかった



********** 11






どうして・・・

あんな事・・・

ボクから言ってしまったんだろう


迎えの車を呼ぶと言うアベちゃんを制してボクはコウダくんに聞いた

「コウダくん、この後仕事?」

聞かれたコウダくんも側に居たアベちゃんも驚いている

「いえ・・・あの・・・タカミさんの車を事務所に届けたらそのまま直帰しても良いとは言われていますけど?」

「じゃあさ、食事しに行こうよ。アベちゃん、良いよね?

 まさか他のアーティストのマネージャーと二人きりになっちゃいけない理由なんて?」

「そりゃないけど・・・」

アベちゃんはいつになくドギマギしているけれどボクはそれに気が付かない振りをする

「じゃあ、決まり」

アベちゃんが持ってくれていた自分の荷物を受け取り

ボクはまだ現実じゃないような顔のコウダくんと地下の駐車場に向かう

普段あまり乗る事がないヒロの愛車にこんな形でお目にかかろうと思わなかった



********** 12







秋から冬へと風の冷たさが変わって来ている特に夜風は香りさえ違う


綺麗に整えられてあるヒロの車の中

几帳面なのではなく物を置かないようにしているようだ


赤信号で停まる度にコウダくんは携帯を取り出して耳を当て、メッセージがあるか確認している

しかし、「はぁ・・・」と溜め息をなんども零す

「コウダくん、信号青だよ」

「すいません!」

急にアクセルを踏まれボクは前のめりになった

「あぁ! アサクラさん、すいません」

「せめて運転中だけでも携帯を触るのは止めなよ」

少し強く言ってみた

本当はそれほど気にしてはいない

「・・・すいません」

至極恐縮してそれからは携帯をポケットに潜めたままだった


「この先2つ目の信号左ね」

「えっ・・・」

「食事しに行くんだよね?」

ボクが笑いかけてあげるとコウダくんの硬い表情が弛んだ

「はいっ」



********** 13




「あの・・・アサクラさん」


食事後のデザートが出て来るのを楽しみにしていた時コウダくんが静かに口を開いた

「ん?何?」

「さっきは乱暴な運転をしてすいませんでした」

「あぁ・・・あれね。大丈夫だったから良いようなモンだけど、やはり携帯を操作しながらは危ないと思うよ」

「はい。すいません」

「そんなにまでして連絡したい人がいるなんて羨しいけどね」

ボクは軽く揶揄した

「彼女にフられたんです」

「えっ・・・?」

「僕・・・10年付き合った彼女がいたんです」

「そうなんだ」

いきなりそんな話をされてどうしていいか分からなかったけれど

コウダくんの話を聞いてあげたかった


「高校生から付き合いだして、将来は結婚するって決めてました・・・でも」

「じゃあ・・・何故? あ、ごめんね」

「何でかな・・・僕がこの業界に入ったのが気に入らなかったかもしれません

 原因もわからないまま “もう会いたくない” とか言われて・・・

 だから、みっともないんですが携帯にメッセージを入れて返事を待っていたんです」


一気にあおったウーロン茶では酔えないだろう

・・・ボクはなんだか悲しくなった



********** 14




コウダくんには悪いけれど他人の苦しみは蜜の味だ

どう励ましても彼の苦悩を取り除く事は出来ないだろう


コウダくんはアイスクリームに手を付けずずっと俯いていたが、ふと顔を上げ呟いていた

「こんな事聞かせて申し訳ありませんでした。

 でも、タカミさんにも言ってないのにどうしてアサクラさんに話しちゃったんだろ」

「ボクが聞き出しちゃったようなモンだから」

会計レシートを手にしてボクは先に歩き出した

「あっ!僕が払います」

慌ててコウダくんが会計レシートを掴もうとするのをボクは制した

「ボクが誘ったんだからボクが払うよ」


払い終えて店のドアを出た瞬間と車がボクの横に滑り込むのとが同時だった

「ナイスタイミングだね」

ボクの言葉にコウダくんは破願した



しばらく走り見慣れた景色が飛び込んで来た

それで、あと少しで家に着くとわかった

何故か気持ちがざわついている


「コウダくん・・・ボクの部屋で飲まない? さっきの店ではお酒飲めなかったみたいだからさ」



********** 15




「えっ!?それは・・・」

そう言ったきり彼は固まってしまった


そうなるのも仕方の無い事だ

本来なら仕事の現場で挨拶する程度の関係

二人きりで食事するなんてのはコウダくんにとって “青天の霹靂” のような凄い出来事だし

その上、家に誘われるなんて想定外だろうしね


「いや・・・それは・・・車! タカミさんの車を事務所に置いてこないと明日困りますから・・・」

「そっか・・・いきなり誘われたら迷惑だよね・・・ごめんね、ボク、外で飲むの苦手なんだよ」

そう言ってボクは流れる車窓を見つめて溜め息を吐いた

後で思い出したらそれは完全に誘惑していた仕草だと思う


「あの・・・取りあえずアサクラさんの家まで送ります」

ボクは返事もせずに横を向いていた

今頃ヒロは女の子がいる店で飲んでいるのだと思うだけで胸が苦しくなって涙が溜まる

ボクは目を閉じた



********** 16




「どうして・・・ヒロは」

「えっ!?」

後部座席から降りるのをためらっていたボクは胸の中の思いを言葉にしてしまった

「・・・自分が情けないよ。ヒロが飲みに行くだけでこんなに凹むなんてみっともない」

ボクがヒロを好きな事はヒロ側のスタッフにだって知られているから

こんな恥ずかしい言葉も言えてしまう

ジッと思い詰めていたコウダくんが口を開いた

「少しなら・・・僕は飲まないけどアサクラさんの愚痴くらい聞きますよ」

端正な顔がはにかんだ

「良いの?」

「駐車場はこちらですか?」

コウダくんはボクが指し示した場所へ静かに車を滑らせた



コウダくんをリビングに通してからボクはラフなスタイルに着替えキッチンへ向かう

たいして飲みたいわけではないのだけれど冷えていたビールを運んだ

「僕は水で良いですから」

「うん。分かってるよ」

水を手にした瞬間、携帯から軽快な音楽が鳴り始めたコウダくんは素早い動作で胸ポケットから取り出し画面を見た

彼女からだろうと思うボクの勘は外れない


********** 17




「ちょっとすいません」

と言いコウダくんは玄関まで歩き通話ボタンを押した

ボクはビールを飲みながら聞き耳を立てている

「サオリ・・・元気か? しつこくメールとかしてごめん。あぁ、オレは元気でやってるよ」

普段から優しい口調が彼女相手に更に優しくなっている

「えっ?!!!!」

その声色が異様に変化した

「もう一回聞いて良いかな? 頭真っ白で理解出来ないんだけど・・・・・・・・・そうなんだ・・・あぁ、おめでとう」

通話ボタンを静かに切ってから廊下に怒号が響いた

「ちくしょう!!!!」

「コウダくん?!」

ボクがリビングから飛び出すとコウダくんは冷たい玄関先に座り込みうなだれていた

「・・・うるさくしてすいません」

「そんな所にいると風邪ひくよ」

しばらくボー然としていたが、そのうちノロノロと歩き出した

リビングに入って来たコウダくんの様子がおかしい


********** 18




リビングに入ってコウダくんにソファに座るように促した


「お水飲むよね」

「一口だけビール頂いて良いですか?」

それは縋るように聞こえた

「良いよ・・・気が済むまで飲みなよ」

手にしたビール缶を指が白くなるくらい握り締め、一気に飲み干した

「すいません・・・」

そう言うとまた新しいビールを煽る

ボクは自分からは何も聞かない

彼が話したくなければそれでも良いと思ってる

缶ビール3本を飲み干し、やっと一息ついたようだ

「すいません、って今日は何回謝ってるんだろ

 でも、マジみっともない所を一番見せたくない人に見られちゃった気がします」

見せたくない人間だと彼に思われている事にボクは少し傷ついた

「ボクは何でも笑い話しにしちゃうからね」

「あっ! そう言う意味じゃないです

 アサクラさんみたいに強い精神の人から見たらオレの姿は情けなく映ってるだろうな」


「ボクは強くなんかない」


********** 19




「さっきの電話の内容は何となく分かりますよね」

「・・・別れた彼女からかな〜くらいにしかわからないよ、君の電話を盗み聞きする趣味はない」

「そうなんだ」

知らぬ間にかなりの量を飲んだコウダくんはお酒に強いのだろうか・・・

顔色一つ変えてはいないが言葉がくだけた調子になっていた

「彼女にね・・・フラれただけじゃなくて結婚するって言われました

 それもオレの親友って聞いて祝福出来る訳ないじゃないですか。ですよね?」

コウダくんは銀縁を外しテーブルに突っ伏した

「コウダくん?」

「オレとなかなか会えなくて不安な時になにかと相談するうちに気持ちが動くなんて・・・

 そんなドラマみたいな事あるんですかね・・・アサクラさん! 答えてくださいよ!」

いきなり2人の間にあるテーブルを蹴散らしてボクは押し倒されていた

「冗談はやめようよ・・・君の彼女の気持ちなんて判る訳ない」


押し付けられた肩が痛い


********** 20




ボクに覆い被さっているコウダくんの顔があまりに近くて吐息さえリアルに感じられボクは目を逸らした

「いい加減どいてくれないかな・・・ボクに怒りをぶつけるのは違うと思うよ」

彼の顔を見ないように身を捩って逃げ出しかける

「オレ・・・多分酔っ払ってるんですよね? この角度から見るとアサクラさんの唇・・・サオリに似てる」

起こしかけた身体を再び戻されてボクは仰向けになった

「んぅ・・・」

黒髪が目の前に迫り綺麗な切れ長の瞳が閉じた瞬間キスをされていた

悪ふざけだと思ったのに口づけの角度は深くなり彼の舌がボクの舌と絡んだ時

初めて彼を怖いと感じた

「離して・・・!」

「何で? オレじゃあそんな気にならないですか?

以前からアサクラさんって抱き締めたらどんな感じかな〜って思ってたんです」

ボクはコウダくんの胸の中に抱き込まれた

「想像通り華奢ですねそれに柔らかい・・・気持ち良い 」

「やだ・・・ヒロ」


続く ********** 21




コウダくんの動きが一瞬止まる

「タカミさんは今ごろ・・・女の子のお店ですね」

コウダくんのこの一言がボクの拒む力を弱め、逆に彼の腕に縋ってしまった

「・・・きっと彼女は淋しかったんだと思う・・・

 どんなに付き合いが長くても側に居て欲しい時にいないなら意味がないって思えたんだよ・・・今のボクみたいに」

「だから、近くに居たアイツを選んだのかな」

「ボクは強くないんだよ・・・ヒロ」

ボクからコウダくんにキスをした

それくらい淋しかった


「今だけオレに縋ってみますか・・・アサクラさん」

「コウダくんは酔っ払ってるよね・・・」

芸能界の立場を考えたらこんな危険な夜になるはずがない

「明日になったら全部忘れてますよ」

ボクはキスをせがみながらベッドルームへ誘った

ボクの服を脱がせながらコウダくんが囁いた

「アサクラさん・・・オレの下の名前知ってますか?」

「あ・・・ううん、そう言えば知らない」

「ヒロキって言うんです」

「エッ・・・あんっ」

鎖骨を軽く噛まれボクの快感が呼び起こされる


********** 22




ベッドサイドの仄かな灯を頼りにボクはベッドから降りた


カサッ

足裏にアルミの冷たさを感じ拾いあげる

コウダくんが持っていた避妊具の空き袋だった

“身だしなみ”だなんて言いながら彼女以外の人とのSexに使う男に鼻白む

その25歳の青年はスヤスヤ寝息を立て眠っている

右手が僅かに動くのは今まで隣りにいたボクを探してるのだろうか

どんなに肉欲を貪ってもフィニッシュを迎えた瞬間

互いではなく愛する人の名を叫んでいた

肌を焼き尽くすくらいシャワーの設定温度を限界まで上げる

いっそ、彼に愛撫された所も受け入れた所も精で汚れた所もただれるくらい自分を苛めたい

こんな事になって改めて思う

ボクはヒロに抱かれたい

その力強い腕に抱き締められたい


「ごめんね・・・ヒロ」


冷たい水に切替え火照りを冷ます

そして、ヒロ以外の人の為に使い捨ての髭剃りと真新しいタオルを洗面所の横に置いた


********** 23




シャワーを浴びて部屋着に着替え寝室へ戻る

ベッドの上に起き上がっていたコウダくんがバツの悪そうに頭を掻いた

「お・・・おはようございます」

「おはよう。シャワー使って良いよ」

「あ・・・あの・・・アサクラさん・・・あの・・・昨晩はすいませんでした!」

「忘れるって言ったじゃん」

「ですけど」

「ここから出たら今までと同じだからね」

朝焼けが窓際に立つボクの顔を照らした

誰を待つべきかわかったボクに迷いはない

コウダくんは裸でベッドを降り、脱ぎ散らした下着を拾った

流石に替えまでは用意していない

「コンビニ行って来ようか?」

「とんでもないです!!!大丈夫ですから。それじゃあ、シャワーお借りします」

寝室からリビングに入って、これも同じよう脱ぎ散らかしたジャケットの内ポケットから携帯を探り当てた

「あぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「どうしたの?」

「タカミさんから何通も着信があって、何件か伝言が入ってます」

「アッハッハ!そりゃそーだ」

ボクは久しぶりに大声で笑った



********** 24





「この時間に連絡取れないマネージャーはヤバいよね」

「ですね・・・あぁ!タカミさん、車取りに事務所に行ったみたいです」

留守電を聴きながらボクに報告して来る

「・・・これから出掛けるから仕事始まる前には車を届けるようにって・・・やっちゃったな」

「じゃあ、早く支度した方が良いよ」

コウダくんがバスルームに消えるのを見て、ボクは紅茶を入れる為にお湯を沸かし始めた

人ん家のは勝手が違うから上手く操作出来ないのだろう

時折 “あー” だの “わー” だの聞こえるのには苦笑モノだ


「ありがとうございました。 オレ・・・じゃない、ボクはこれで」

ろくに拭かずに着替えたのかと思うくらい髪から水が滴って皺くちゃのシャツの襟元を濡らす

「もう〜ちゃんと拭かなきゃダメじゃん」

手元のタオルを取り髪を拭いてやる


カチャカチャ

トントン


「大ちゃん、おっはよ・・・う・・・」

ヒロの手から合鍵が滑り落ちた


********** 25




「ヒロ・・・」


こんな時は、あたふたするとか、ごまかししたりするのかもしれないけれど何故かボクは冷静だった

「そいつ誰?」

普段のヒロはそんな不躾な人間じゃない

なのに今はボクの隣りを睨み付けていた

「あ・・・おはようございます、タカミさん」

「?・・・君・・・コウダくん???」

「あぁ!すいません」

まだ湿っている髪を手櫛で整え銀縁眼鏡をかける

「何で君が大ちゃんちに居るの?」

「それは・・・あの・・・」


ピーー


ケトルの間抜けな音がこの静寂を破った

ボクはキッチンへ向かいながら、これからどうなるかより3人分の紅茶をいれるかどうかの方が気になった


「もう良いから帰れ!・・・2日同じ服で現場には来るなよ!」

何も話さないコウダくんに対して、珍しくヒロが声を荒げた

「本当にすいませんでした」

どちらに対しての謝罪なのか・・・

たんなる挨拶なのか・・・

コウダくんは深々と頭を下げて出て行った

ヒロはすぐに寝室に向かった



********** 26




ヒロの後を追ったボクは寝室の手前でほんの少しだけ躊躇した


汚れたシーツはさっき剥いでおいたけれど

今し方まで人が眠っていた温い空気はまだ無くなってはいない

ヒロは黙って乱れたベッドを見た

きっと、横のゴミ箱の中の避妊具も目に入っている筈だ


「・・・あいつココに泊まったんだ」

「うん・・・」

ボクはヒロの瞳を見つめた

「否定しないんだね」

「だって本当の事だから。昨晩、ヒロがラジオ局を出た後にボクから食事に誘ったんだよ」

「ふーん、それが何で大ちゃんちに来た訳?」

皮肉めいた言い方がボクの気に触った

聞きたい事はそこではないだろう

「彼にも色々あってさ・・・車で行って飲めなかったからそれならうちで飲めば良いかなぁと思ったんだよ」

「酔っ払って寝てシャワー浴びてそこにオレが入って来た訳だ」

「ボクが何しようとヒロには関係ないよね」

リビングに戻りソファに座ったヒロをボクは睨み付けた



********** 27





「今・・・何て言った?」

「ボクが誰と何しようがヒロには関係ない」

「あいつとSEXしたのかってオレが聞くのを待っているの!!」

怒りの炎が見えるようだ

「・・・」

「何で否定しないのさ!大ちゃん!」

「コウダくんと寝たよ」

「だ・・・」

ヒロが絶句した

「何であいつなんだよ!!!!」

いきなり立ち上がってボクの肩を掴み揺さぶる

「どうして? どうしてなんだよ!!!」

「ヒロがそんな事言える立場? さっきだって呼ばれたら女の子のお店に行っちゃうし!

どうせ、お持ち帰りなんてしたんでしょ! ボクをいつだって一人ぼっちにするくせに!」


ボクは知らず泣いていた

うなだれたヒロが顔を上げる

「大ちゃん・・・ひでぇよ・・・ひどすぎる」

「ひどいのはヒロだろ!」

絡み合わない歯車の軋む音が聞こえる


********** 28




パンッ

乾いた音が耳元で鳴ったと感じた瞬間、ボクの頬に軽い熱が帯びた


「何でボクがぶたれなきゃならないの?」

・・・心が痛い

「ごめん・・・大ちゃんごめん! でも、オレ・・・」

「都合が悪くなると今までは黙っていたけど今度は殴るんだね・・・ひどいよ」

「ごめん」

ヒロは崩れるようにソファに座り込んだ

「昨日は・・・ソロでやりたい企画の相談をしてたんだよ

 その後でそう言う店に誘われたけどオレは行かなかった。大ちゃんから貰った曲に詞を書きたくなってすぐに帰ったんだよ」

「企画? マネージャー抜きの?」

マネージャーと言う言葉にヒロの表情が引きつる

「・・・まだ事務所に話してないからさ」

「いつもそうだ・・・自分の中だけで決めようとするから・・・・・ボクに話してくれれば良いのに」

「大ちゃんにはわからない。思った事全てを自分発信でやれる人にオレの気持ちはわからないだろう!!」

ヒロは絞り出すような声で叫んだ



********** 29





「いつでも大ちゃんの背中ばかり見て来ているから・・・追いつきたくて仕方なかった。

 でも、なかなか思い通りには行かないもんだね。歯痒くなる事も多くてさ・・・」

ヒロの瞳から一粒、二粒、涙が零れ膝の上で握り締めていた拳に落ちた

「それでも・・・大ちゃんが立ち止まってオレを待っていてくれたり・・・見ていてくれたり・・・

 愛してくれていると信じていたんだ・・・なのに」

長い指が顔を覆った

「ヒロ」

いつものポジティブなヒロはそこにはいない代わりに母親にはぐれて泣きじゃくる子供がいた

ボクはヒロを抱き締める

「ヒロはいつもボクを独りぼっちにするの? 側にいてと言ってくれたらそれだけでボクは・・・」

ヒロ以外の腕に縋らなかったのに・・・

後の言葉は胸の中で叫んだ


「大ちゃんは大丈夫だと心のどこかで思い込んでいたんだね・・・でも、相手がオレのマネージャーなんて」

いきなり甲高く笑い放った

「面白しろすぎだ」


「ヒロ、許してはくれないよね」



********** 30





「許したい・・・けど・・・コウダくんを見る度に今の気持ちを思い出してしまう」

またヒロは顔を覆った

ボクは膝に置いたヒロの手にそっと手を重ねた

「縋る相手は誰でも良かった。だって・・・ヒロじゃなきゃ心は満たされないもの

 許してくれなくても良いよ、でも・・・ボクにはヒロが必要だからね」


身を任せてわかった

本当に誰を愛しているのか・・・

本当に誰を欲しているのか・・・


「大ちゃん」

「ずっと、そうやってボクの名前を呼んでくれる?」

「・・・どう言う事?」

ヒロが不思議そうな顔をボクに向ける

「それだけで生きてゆける」

ボクの頬に一筋涙が落ちた

ボクは二度と間違いをおかさない


「・・・大ちゃん、ずるいよ」

「えっ」



続く ********** 31




「ずるい・・・自分の中だけで自己完結しないでよ」

「ボクが?・・・今まで意味なく怒り散らしてヒロをうんと困らせたもんね・・・ごめん」

「そうじゃなくて! 許して貰えなくて良いって?! 何でそんな事言えるの?

 許せないのは・・・浮気した事じゃない、オレ・・・」

「ヒロ?」

「自分の頼りなさが許せないよ」

「そんな事ないから」

ボクがフルフルと頭を振ると、流れていた涙が粒になり滑り落ちた

「でもさ、大ちゃん。それだけじゃない・・・」

「?」

「あいつへのジェラシーが渦巻いているオレの胸ン中見せてあげたいよ! この気持ちはどうしたら良い!?

 このまんま、何もなかったように過ごすなんて耐えられない」

まっすぐなヒロの瞳を見る事が出来なくてボクは唇を噛んだ

「ごめん・・・ごめんね」


責めるヒロも、責められるボクも・・・

互いに見えない涙を流し続けていた


********** 32





「ヒロはどうしたい?・・・気の済むようにして良いよ」

信じてあげられなかったのだから、どっちが悪いとか罪の擦り合いはしたくなかった

「あっ・・・」

不意に力強い腕が伸びてボクはヒロの胸に抱き留められた

「どうしよう・・・大ちゃん。」

切なげな声が耳に吹込まれる

「ヒロ??」

「どうしよう、どうしよう・・・」

それは小さくて聞き取れないくらい

だが確実にボクの心臓の鼓動とシンクしていた

「大ちゃんが好きだ。好きで好きで気がおかしくなりそうだよ、どうしよう・・・」

髪を撫でるヒロの指が震えている

「ボクもヒロが好き」

何度も繰り返した想いを改めて確かめ合う


「大好き・・・ボクが他の誰も見ないようにずっと抱いてて」

「誰にも触れさせたくないよ・・・でも」

ギリギリと言うヒロの苛立ちが聞こえるようだ

「その先は言わないで」

ボクはヒロの胸に顔を埋めた


********** 33




抱き締めていた腕からボクを離すと、ヒロは携帯を取り出しどこかに繋げた

このまま帰ってしまってもボクは彼を追いかける事は出来ないのだ


「もしもし林さん?・・・オレだけど。今日の仕事何? うん・・・うん・・・それさぁ、キャンセルしてくれないかな

 頼むよ・・・あ? コウダくん? 知らないよ・・・じゃあ、頼んだから」

ピッ

「これでOK」

「ヒロ? 仕事行かないの?」

「どうしても確かめたい事があるからさぁ」

「???」

さして怒った感じはしない

むしろ楽しげなのはどうしてだろう

「大ちゃん〜」

猫撫で声でボクに凭れ掛り優しく抱き締めキスをしてくれた

「あいつ・・・上手かった?」

甘い声が優しく耳に吹込まれる

「何? 上手い? 誰が?」

スーーとヒロの長い指がボクの胸の突起をシャツの上からそっと撫でる

「SEX・・・上手かった?」



********** 34





「SEX・・・」

言葉を口にしてからカァと身体が熱くなった

「知らない・・・覚えてない・・・」

ヒロの腕から抜け出そうとして逆に深く抱かれる

「やだ・・・やだってば」

「覚えてない・・・本当に? そっか、そんだけ夢中だったんだ」

「ち、違う!」

今日のヒロはとても意地悪だ


「何でそんなひどい事聞くの?」

恥ずかしさと悔しさでボクはヒロから目を逸らす

「何で?・・・愛してるから」


“愛してる”

その短い言葉に辿り着くのにボクは随分遠回りをしてしまった

「も一回言って」

「愛してる・・・愛してる・・・大ちゃん、愛してる」

優しい口づけを顔じゅうに受けボクは声を上げて泣いた

「ヒロじゃなきゃヤダ!! 何にも感じない!・・・あの時だってヒロの事思ってた」

「オレの何?」

言うなり横抱きにされ寝室のベッドに寝かされた


シャツのボタンが外されスルリと肩から滑り落ちる

「あ・・・っ」

赤い舌が胸の突起をイヤらしく舐めはじめた


********** 35





身に纏ったすべてを脱ぎ捨てボク達は抱き合う

素肌に当たるシーツの感触が心地良くてボクは何度も手を滑らせるとヒロの手が制した

「大ちゃん・・・オレを触ってよ」

「シーツに嫉妬してるの?」

ボクの足を大きく開き、その間にヒロが身体を滑らせた

「あったりまえじゃん。オレしか大ちゃんに触っちゃダメなんだから」

「誰が決めたの?」

ボクはヒロの首に腕を巻き付け唇が触れ合うくらい近付いて聞いた

ヒロがボクの唇をペロッと舐める

「オレ」

毛穴が開くようなくすぐったさに耐えられずボクからヒロに口づける

「ヒロ・・・好き」

「オレは大好き」

「むう・・・大、大好き」

「負けず嫌いなんだから」

言い返したくても胸の突起への優しい愛撫にボクの思考がピンクに染まる

もうヒロの事しか考えられない


********** 36

「あぁ・・・ヒロ、ヒロ」


ヒロの猛りきった雄を秘部に受け止めボクは揺さぶられていく

「やぁん!あ・・・んぅ!」

「大ちゃん、凄く良いよ」

縋りつくヒロの腕が汗で滑り、ボクの手が宙を彷徨う

「んっ!」

「あぁ!・・・墜ちそうだよ・・・」

敏感な真奥を責められ意識が身体ごと浮き立つ感覚に襲われる

闇雲にシーツを掴む手をヒロの手が掬い取ってくれた

目を開けるとヒロが優しく見つめてくれてる

「ヒロ?」

「オレが抱いていてあげるから一緒に墜ちよう」

「うん」

微笑みながら突き上げの激しさを増していく

「あぁ!」



・・・SEXはあまり好きじゃない

でも、それがヒロを一番感じられる手段なら毎日でも抱いて欲しい

ボク達は二つの肉体で二つの感情に支配されるから

どんなに愛していてもわかり合えない時もある

間違いを犯す事もある

・・・誰かに心を奪われないように

ボクは毎日ヒロに恋をしていたい


終 ********** 37


やっと終わりましたヽ(^o^)丿

つまらん話を長々と読んで下さってありがとうございました。


                           suica


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