Love never fails 【愛はいつまでも絶ゆることなし】







「大ちゃん、早く!車出ちゃうよ!」

そう急かすヒロユキも片方の靴に足先を入れながらドアに向かっている

「ちょっと待って」

そう言ったきり動き出す気配がないダイスケにヒロユキが焦れた

「何やってんの? 式に間に合わないとアベちゃんから後々ずっと嫌み言われ…続け…大ちゃん?」

リビングルームを抜けて寝室に入るとすでに着替え終えているダイスケがベッドの下を覗き込んでいた

「時間ないって言ってんのに何やってんの?!」

「ピアスが片方無いんだ。 ずっと探してるのに見つからなくて…どうしょう」

困って泣きそうなダイスケには悪いが…そんな事…と胸の中でヒロユキは溜め息をこぼした

確かに愛用しているピアスには違いないけれど

「帰ったら一緒に探したげるからさ、今日は他のつけたらどうかな?持って来てるんだよね?」

「……あるよ。 でも、これが一番好きなんだよね」

髪をかき上げた耳のダイアのピアスは南国の陽射しを受けてキラキラと光っていた






10月某日

ダイスケとヒロユキはスタッフと共にハワイ入りをした

2日後にはここハワイでファンイベントが行われる





すでに初秋を迎え始めた日本から常夏の地に降り立った瞬間むせかえるような熱気に身体を包まれる

この暑さは何度味わっても心地良いものだった

ヒロユキは空港ですでにアロハシャツに短パン、ビーチサンダルで、

どこから見てもハワイ在住のようだとダイスケは笑い転げた

タクシーに乗り込んで走り出してもなかなか海は見えない

ただ太陽の近さや花の色の鮮やかさは日本のモノとは明らかに違う

肌に当たる風すら心地良い




「大ちゃん、海、海だよ!」

飛行機で爆睡していたヒロユキはハワイに来て文字通り、水を得た魚のごとく跳ね回っている

反対にウトウトしかけたダイスケはその声で目を開けた

瞳に飛び込んできたエメラルドグリーンの色にはっきりと覚醒する

「何回来ても何度見ても思うよね…やっぱハワイって楽園だなぁって」

「うん、うん」

カラカウア通りに走りホテル群から見え隠れする海を気にしていると

タクシーはハワイでも第3の規模を誇る大型リゾートホテルのエントランスに横付けた




「チェックインしてくる」

マネージャー時代と変わらぬフットワークの軽さでアベがフロントに向かった

今は会社の代表だが長く苦楽を友にしたアベもスタッフとして一緒に来ていた

…と言うよりは、ちゃっかり新婚旅行を兼ねているらしい


「アベちゃんもさ〜会社の経費で新婚旅行しちゃうってどーなの?」

ヒロユキがダイスケに小声で囁く

「言いつけてやろ、また怒られるよ」

「アベちゃん結婚して少しケチになったんじゃない?ねぇ?そう思うよね?」

「堅実って言って欲しいわね」

「うわっ!」

目の前にカードキーが入った封筒を差し出されてヒロユキは焦った

「悪口ならこれ渡さないわよ!なんならワイキキビーチで野宿する?」

「そうじゃくて…新婚旅行ってのはこんな大勢で来るもんじゃないんじゃないかな〜ねぇ?大ちゃん」

「あら、偶然よ。今回はたまたま彼の休みと重なったの」

「彼ね…」

なんだかヒロユキの方が照れてしまった

「ヒロ…今のアベちゃんは幸せ一杯だから2人でも大勢でも関係ないと思うよ

 ボクのキーどれ?荷物解きたいし、アベちゃんも2人きりになりたいでしょ?」

「やだ…もう」

真っ赤になったアベからスタッフ全員にキーが渡り一旦解散となった

ダイスケの分もヒロユキが持ちエレベーターに乗り込む




「アベちゃん、怒ったかな?」

「フフ…な訳ないじゃん…毎日幸せ全開でのろけられてるからたまには嫌みの一つも言わないとね

 ヒロ…結婚ってそんなに良いのかな」

「大ちゃん…あのさ」

ヒロユキが何か言いかけるとエレベーターが止まり扉が開いた

「ボクのどっち?」

「えっと…あれ?」

渡された2通の封筒を開いてヒロユキが声を上げた

「これ同じキーじゃん」

書かれてある番号の部屋に入って2人共驚いた

真ん中に大きなリビングルーム、左右にそれぞれベッドルームを据えたスィートだった

どの部屋からも見事なオーシャンビューだ

「アベちゃん、やってくれる」

ダイスケは早速アベに電話した

『文句なら受け付けないわよ、どうせ一緒にいるんだから別々は無駄でしょ。

 私達より大きいスィートルームなんだから有り難いと思ってよね』

「そうなんだ…」

『ただ、スタッフやファンが泊まるタワーとは違えたけど、くれぐれも部屋に入る時は

 見つからないようにしてよ』

「わかってる…ありがと」




反対側の部屋に荷物を置いてヒロユキがダイスケの隣に座った

「別々のベッドルーム使わなくても良いんじゃない?」

「いいじゃん!2つあるんだし使おうよ。で、アベちゃん何だって?」

「有り難いと思えだって」

「らしいや」

ダイスケはカーテンを開きテラスに出た

ヒロユキも後についた

「気持ちいいね」

きっと色が付いていれば虹色だと思えるような風が2人の頬を撫でてゆく




ハワイに到着して軽い食事と休憩を取った後、アベがダイスケ達の部屋を訪れた

ファンイベントの打ち合わせを兼ねてスペシャルスィートルームを見学したかったらしい

「うわっ!何この広いリビング!何このベッドルーム!何この景色!

 私達に譲ってちょうだい!どっちが新婚かわからないじゃない」

部屋に入るなり大騒ぎのアベを2人は苦笑して見てるしかなかった

「アベちゃん…そろそろ打ち合わせしない?」

「…わかってる」

しぶしぶソファーに座り資料を捲った

「明日は朝から向こう?」

打ち合わせにじっとしてられなくなりバルコニーに出て海を見ていたヒロユキが振り向いた

「そう。 あっ、念を押しとくけど遅れないでよ

 別荘は時間で借りてるから遅刻した人に延長料金払って貰うからね」

「マジ!キビシいなぁ」

「経済観念がしっかりしてるって言って欲しいわね

このコーヒー美味しい!部屋のランクが違うと置いてあるモノまで上等な味じゃない!?」

「そんなこと無いって」

アベの高すぎるテンションにダイスケも付いていけなくなりそうだ

「そろそろ出掛けない?せっかくのハワイなのに勿体ないよ。打ち合わせなら散々日本でやったから大丈夫

 オレらが楽しかったらファンの子達も絶対楽しいって…ねっ、大ちゃん」

「うん」

最後に同意を求めるように甘えるヒロユキにダイスケも多分そうなんだろうと思う

多少のハプニングくらいあった方が面白い

「そうしよっか。で、この後夕食までどうする?」

広げた資料を纏めながらアベが聞いた


「買い物」

「海」


「だろうと思った」

夕食は全員で予約してあるからそれまでにホテルに戻って来てねと言いながらアベが部屋を出た





「泳いできて良い?」

すぐにでも青い海に飛び込みたいヒロユキはダイスケに声を掛けた

ソファーに座ったまま返事はない

「大ちゃん、オレ行くから。夕食までには戻るし…行き違いになるかもしれないから

フロントにキー預けといてくれる?泳ぎには持って行けないからさ…大ちゃん?」

座っているダイスケの前に回りヒロユキは笑みをこぼした


「大ちゃん…」


ダイスケは目を瞑り軽い寝息をたてていた

「ずるいなぁ…こんな大ちゃん残して泳ぎに行けないじゃん」

持っていたサングラスをテーブルに置き、ヒロユキは隣に座った

コツンとダイスケの頭を肩に持たせかけて自分も目を閉じる


「まぁ…こんなハワイの休日も有りかな」






アベの結婚パーティーが行われる別荘に向かうリムジンの中でダイスケは無口だった

出掛けにお気に入りのピアスの片方を無くし、他のにすればと言うヒロユキの言葉を聞かずに

片方だけ付けてきた

何もしていない方耳が寂しい


ダイアモンドヘッドをぐるりと回り豪奢な建物が並び立つ別荘地へと車は入っていた

高い門や塀の隙間から見える建物の立派さに溜め息が出そうだ

その庭の向こうにはプライベートビーチが広がっているのだろう

「良いよね」

いきなりヒロユキが言い出した

「?」

「オレもこんな所住みたい」

「なら、仕事頑張らないとね」

「そっか…でも、なんとかなる…ような気がする」

「なんないってば、ヒロは楽観すぎ」

「すいません」



車は大きく開いた門の中に吸い込まれた

丁寧に造られた花壇に迎えられ玄関に向かうと新郎新婦手作りのウエルカムボードが立て掛けてある

ダイスケ達が揃った所でパーティーが始まった

庭に出ると誰もが溜め息を吐いた

遠くにダイアモンドヘッドが見える以外は見渡す限りの青い世界だ

空と海が同調している

緑の生け垣が切れた鉄柵の向こうにはヨットに乗るための桟橋があり文字通りプライベートビーチだ


拍手に迎えられ新郎新婦が庭に出て来た

アベは白いウエディングドレス、もちろん隣の新郎は白いタキシード

舞台監督として厳しい一面を見せているが普段は静かな彼も緊張気味だ

若さに任せて結婚したのではなく、紆余曲折を経て結ばれた2人だから祝福せずにいられない

さっきまで浮かない顔だったダイスケも笑顔で2人に歩み寄った

「アベちゃん!おめでとう」

「遅いわよ…お化粧禿げちゃうくらい待ったじゃない」

「ごめん、出掛けにバタバタしてさ…スッゴい綺麗だよ」

「そうそう…馬子にも衣装…」

「ヒロ…海に落ちてみる?」

「やめとく…」

最高のロケーションにも負けないくらいアベは輝いている

幸福が目に見えたらきっとこんな感じなのかもしれない



「機嫌直った?」

華やかな輪から2人抜け出てイスに腰掛けた

「ん?あぁ…怒ってた訳じゃないから…無くしちゃった自分に腹が立つだけだよ

 “掃除はいらない”って札は掛けてきたけど見つかるのかな」

「業務用の掃除機かけられたらアウトだよね」

「こんな素晴らしい景色見られたんだからヘコんでちゃダメだね

 明日からファンイベントだもん、ハッピーな気持ちでいなくちゃ」

「大ちゃん」

「何?」

「下行かない?桟橋歩こうよ」

「えー!上から見たけど大丈夫かなぁ」

鉄柵を開けて少し急な階段を降りると桟橋に降りられる

しかし、手摺りもなく幅もようやく2人立てるくらいしかない

確かにスーツで歩くには向いてないようだ


「ちょっ!ヒロ止めようよ…怖いってば」

「大丈夫…オレが付いてるから…ねっ」

スッと伸ばされたヒロユキの手にダイスケは吸い寄せられるように自分の手を重ねた

桟橋の突端に立ってぐるりと見渡せば、それはもう奇跡のような風景だ

まるで海の上に立っているようでダイスケは感動した


「凄い」

「うん、綺麗すぎてどうしょう」

「…この自然に比べたら人間なんて小さいね…うじうじ悩んでるのがバカらしくなるよ」

「オレの事好き?」

「好きだよ…」

こんなシチュエーションならためらいなく言える

「結婚しよう」

「?!」

「ちっぽけな人間の短い人生だもの…誰に理解されなくてもいいじゃん…こんなカップルも有りだよ」

「ヒロ」

「目瞑って」

「?」

素直に目を閉じるとヒロユキの指がダイスケの耳に触れた

ピアスがはめられた感触がしてダイスケは目を開けた

「これは?」

「大ちゃんの大事なピアス」

「何で!?隠してたの?」

「違う…気付いたのは車の中

 朝起きてから着替え一式ベッドに置いたじゃん

 その時シャツに引っかかったみたいでさ…何か襟元チクチクするなぁって」

「ピアスまでヒロにくっつきたいなんて…ヒロって不思議な人だよ」

ヒロユキがダイスケを見つめた

「Will you marry me?」

「yes」

「マジ?」

「形はどうでも良いよ…ボクはずっと一緒にいられたら幸せだもの」

「ありがとう、オレは大ちゃんが笑っててくれたらそれで良い」

ヒロユキはダイスケを抱きしめた




この瞬間にも地球は動いていて風が生まれて雲は流れていく

大きな奇跡の中の2人が出会った小さな奇跡に感謝しよう




「ねえ?ヒロ…夫婦より“めおと”って呼び方良いよね」


「大ちゃんの好きなように」







★★★★★★終



やっと心が通じたか〜って感じです(^_^;)
まだまだ色々考えさせてくれる2人ですね
suica

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