*** ゆびきり ***

【リクエスト内容・・・・・小さい大ちゃん】

 

春もまだ浅い頃・・・・・。

その夜のヒロは気持ちよく酔っていて、ふわふわした足取りで帰り道を歩いていた。

5日後にはオーディションもあり、受かると勝手に決めて友人達と前祝で飲んだのだが少し飲みすぎたかもしれない。

まだ冷たい夜の風が頬に当たるのが気持ちよくて空を見上げると半月が浮いていた。

月に見惚れながら家の傍にある小さな坂道横の10段にも満たない階段を降りようとした時、うっかり足を踏み外してしまった。

転びそうになったが、なんとか踏み止まる。

『飲みすぎたかなぁ〜』

独り言を言いながら1歩踏み出した時、周りの景色が見慣れないものであることに気がついた。

 

 

『・・・・あれ?』

住宅街を歩いていたはずなのに・・・・森? いや・・・神社?

ぐるっと周りを見回すと、オレの後ろには小さくて古ぼけた社がある。

どこかの神社の裏手・・・なのかな。

やっべ〜、完全に飲みすぎた。 どこだよ、ここ。

その時、社のあたりで影が動いた・・・・・・犬?!

勘弁してくれよ〜・・・・身構えて目を凝らすと闇の中に小さな子供が立っていた。

オレはホッとしてその子に微笑みかける。

その子は蜻蛉の柄の浴衣を着てて、縁日にでも行くような・・・・・縁日? こんな春先にそんなものがあるのかな。

だいたい浴衣じゃ寒いだろうに・・・と思いかけたところで自分自身、寒さをまったく感じていないことに気が付く。

着ていた皮のジャケットを暑く感じるくらいだ。

マジ、ヤバイ、なんか変な酔い方してる? 

混乱しているオレのそばで、浴衣の子供は地面に這いつくばって何かを探しているようだ。

『何か落としたの?』

なんとなく気になって声を掛けてみると、子供はしゃがんだまま、じっとオレを見て・・・・

『ビーだま』

ぼそっと答える。

その声や着ている浴衣の感じで、どうやら男の子なんだとわかる。 幼稚園児くらいかな。

『ここで落としたの?』

『うん・・・・青いの・・・・これくらいで・・・』

小さな指で大きさを説明しながら、その目は “いっしょに探してくれるんだよね” と言ってるようだ。

しょーがねーなー・・・・・

『お兄ちゃんも探してやるよ』

その子のそばに近寄ると、オレもしゃがみ込んだ。

梢が影を作っていて、見つけるのは難しいかもしれないな。 せめて満月の夜なら もっと明るいだろうに・・・・。

そう思って何気なく空を見ると新月がかかっている。 

・・・・・・・新月? 

その時 初めて背筋が寒くなった。

確か、さっきは半月だったはずだ。 どうしちゃったんだ、オレ。

オレがおかしいのか・・・・・それとも、この場所がおかしいのか・・・・。

ビー玉を探すことも忘れて、その場にペタンと座り込んだ・・・・・・・

『! イテッ・・・』

腿の辺りに小石が当たったのかと見てみると、どうやらビー玉を踏んでしまっていたらしい。

『あったよ』

オレの声に少年が走り寄ってきた。

その小さな手にビー玉を握らせると本当に嬉しそうに微笑む。

『ありがと・・・。 おにいちゃんすごいねっ』

ビー玉ごときですごいと言われても・・・・・・でも悪い気はしない。

『大事なものなの?』

『うん。 さっきお祭りで取ったんだよ。・・・・・自分で取ったんだよっ』

あぁ、自分で取ったのが嬉しかったんだね。 自慢げにしてるのがとても可愛い。 ところで・・・・

『ねぇ・・・ここどこ?』

オレのまぬけな質問に少年は真ん丸い目をする。

『●●神社』

そんなことも知らないのかって顔で俺を見てるけど・・・・・・・どこの神社だよ、それ。

『おにいちゃん、まいごなの?』

『う〜〜〜ん、かもしれない』

『おかあさん、いなくなっちゃったの?』

いや、それは・・・・・一生懸命心配してる少年が可笑しくて、なんだか どうでもよくなってきた。

『きっと、酔っ払って夢みてるんだろうな・・・・』

『ゆめぇ?』

聞き返しながら少年がオレの隣に座り込もうとしたから、せっかくの浴衣が汚れちゃいけないと思って、

慌てて立ち上がると少年の手を引いて、社の小さな石段に戻って並んで腰を下ろした。

腰を落ち着けた少年は手の中の青い玉をやさしく撫でている。

『綺麗だね』

その言葉に少年がオレを見上げる。

『青い目・・・って感じかな』

『目? 目は黒いよ? 青いのは外人のひとだけだよ』

外人の人・・・・ね。 ガキのくせによく知ってるじゃん。

『うん。でも青い目って綺麗だと思わない?』

『よく見たことないからわかんない・・・・・・・綺麗なの?』

『うん、そのビー玉くらいに綺麗・・・かな』

ビー玉を指差すと、少年は小首を傾げて、オレとビー玉を見比べる。

『青い目が好きなの?』

う・・・・・・どうかな。 好きといえば好きかも知れない・・・・・ので、曖昧に頷きながらも話題を変えることにする。

こんなところで子供相手に外人好きを披露してどうするんだ、オレ。

『名前、なんていうの? いくつ?』

そうそう、やっぱり基本だよ。 名前と年は訊かなきゃね。

『知らない人に名前教えちゃいけないって先生が言ってた』

お、けっこうしっかりしてるじゃん。 オレはそんなこと考えたことなかったけどね。

じゃ、年は? と訊くとビー玉をもっていない方の手を顔の横でぱっと開いて見せる。

5歳か・・・・。 さて、次は趣味でも聞くのか? 見合いじゃないだろ。

会話に詰まったオレは、ぼんやり空を見上げながら小さく歌を口ずさむ。

まだ酔いが残っていて、さっきまで飲んでいた店でかかっていた曲が頭の中でリピートしていたから。

暗い木陰に響く自分の声が気持ちよくて、まるまる1曲歌いきってしまう。

『すごいねっ、おにいちゃん、お歌上手なんだねっ』

突然の声にびっくりして少年を見ると、目をキラキラさせてオレを見ている。

『あ、・・・ありがとう』

すごいね、とか、いいなぁ、とか・・・しきりに褒めてくれるので、相手が子供でも何か照れてしまう。

『ボクも上手に歌いたいなぁ・・・』

『上手じゃないの?』

少年は、ちょっと考えてからオレを見て応える。

『おにいちゃんみたく上手じゃない・・・・・でも・・・・』

『でも?』

『ピアノは弾けるよっ』

自慢げに胸を張る。 どうやらこの少年はかなりの負けず嫌いらしい。 オレに似てるかもと思ったら笑えた。

『すごいじゃん、オレ弾けないもん。 大きくなったらピアニストになる?』

『ピアニスト? なれるかな?』

少年は急に自信なげな様子になる。

『なれるよ。 いっぱい練習すれば絶対なれるって』

オレもけっこういい加減だなと思ったけど、間違ったことは言ってないよな。

『練習すれば・・・・・・・おにいちゃんみたく歌えるようになる?』

『歌?』

そんな縋りつくような目でみるなよ〜。

『オレみたいかどうかはわからないけど、練習すれば上手になれると思うよ』

精一杯励ましたつもりだったのに、少年は不満そうに俯く。

『おにいちゃんみたいな声にはなれないんだ・・・・』

そりゃ声ってのは個人差があるし・・・・って、そんながっかりした顔するなよ。

『オレの声がいいの?』

コクンと頷く少年になんていえばいいんだろう。 

大人になれば俺の声になる・・・・なんて嘘はつきたくないし・・・・。

『じゃぁさ・・・・・・・君がピアニストになったらオレを呼んでよ』

わけがわからないといった顔で俺を見る少年に笑いかける。

『そしたらさ、君が弾くピアノでオレが歌うから。 それじゃダメ?』

『うたってくれるの?』

大きく頷いてみせると、少年はオレの膝に手を置いて “ほんとに?” と訊く。

『うん、いつでも呼んでよ』

それも面白いなって本気で考え始めていた。 この子がピアニストになれたら・・・・・だけど。

『ボクが歌ってっていったら、いつでも歌ってくれる?』

すごいこと言ってるんだけど、ま、カワイイから許そう。

『いいよ。そのかわり ちゃんとピアニストになれよ?』

『うん、なるっ。 おにいちゃんも歌うって約束ね?』

ね? と、小首をかしげる仕種が可愛くて、何度も頷いてみせる。

『じゃ、ゆびきり!』

指切り〜? いいけどさ・・・・・その小さな小指に自分の小指を絡ませる。

ゆーびきーりげーんまん・・・・・その時、甲高い少年の声にかぶさるように遠くで女性の声がした。

『あ・・・・お母さんだ!』

少年は立ち上がると背伸びをして社の向こうを見る。

『ボク、帰らなきゃ・・・』

そう言って石段を降りかけたところで、急に振り返ると何かを渡すように手を伸ばしてくるのでつられて手を差し出すと

オレの手のひらに、あのビー玉を置いて・・・・・

『あげる』

びっくりしてるオレを見て微笑む。

『え? だってこれ、大事なものなんだろ? 一生懸命探してたじゃん』

『うん・・・でもあげる。 だから・・・』

だから?

『また お歌聞かせてね?』

まいったな〜・・・・本当に可愛いぞ、こいつ。

『指切りしただろ?』

少年は安心したようにコクンと頷くと、ポンと石段を飛び降りた。

駆けて行く後姿を見送ろうと、オレも一歩踏み出したとたん、足を滑らせて下まで摺り落ちてしまった。

 

 

『いってぇ〜』 

さっきのように踏みとどまることも出来ずに、尻餅をついてしまう。

少年に見られてしまったのでは・・・・と、顔を上げたヒロの目にいつもの見慣れた住宅街の風景が映った。

『あ・・・れ?』

・・・・・今のはやっぱり夢だったのかと空を見上げると半月・・・・・・頬に当たる冷たい風に身震いする。

夢にしては やけにリアルだったなぁ・・・・と、しばらくボンヤリしていたが風邪をひいたら大変と、急いで立ち上がる。

家に向かって歩きながら ふと口から出た歌が、夢の少年を思い出させた。

あの子のピアノで歌ってみたかったな・・・・・・・と、出来もしないことを考えて一人微笑う。

朝になれば忘れてしまう、一夜の夢。 

ヒロが歩き去った石段の隅で、鈍く光る青い玉も誰にも気づかれることはなく・・・・・・・時は過ぎる。

 

 


 

 

『・・・・・すごいね』

オーディションの最中に、ガラスの向こうで歌ってる青年を見ながらダイスケが呟いた言葉にアベが顔を上げる。

『すごいって、何が?』

『声だよ。すごいって思わない?ほら鳥肌立ってる』

腕まくりして見せてくれるダイスケの興奮具合にアベが吃驚する。

『・・・そぅ? 大ちゃんの好きな声なの?』

『うん。 なんていうか・・・・・僕の探してた声って気がする』

うっとりとガラスの向こうを見つめるダイスケに、アベは

(惚れるのは声だけにしてね・・・) 喉まで出かかった言葉を飲み込んで、小さくため息をついた。

ダイスケの顔を見れば、それが手遅れなのは明らかだったから・・・・・。

 

 

ダイスケもヒロも忘れてしまった夢の一夜に一瞬だけ絡んだ小指は、時を経て再び結び合おうとしていた。

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

キムチ☆ボンバーさんのリクエストに応えさせていただきましたが・・・・・どうでしょう?

多分、思っていたのとは違ったのでは?ってわかっているんですが

私が書いたらこんなふうになってしまいました (^_^;

けっこう書いてて楽しかったりしたんですよ、ありがとうございます♪

                              流花

 

 

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