***** Only my angel *****






もうダイスケと1ヶ月以上会っていない。 

レコーディングも停滞していて、ヒロ的に沈んでいる。

もちろん “ ヒロ的 ” にだから、沈み具合も普通の人の半分程度に過ぎなかったけれど。


最近は、飲みに行く回数も減っていたのだが、ここは憂さ晴らしに・・・って感じで

友人たちに会う確率の高い店へと足を運んだ。

が、こういう時に限って見知った顔に会わないもので、ついてないな・・・・と不貞腐れ気味。

せっかちなヒロは注文すらしていないのに、さっさと店を出ようと半分腰を浮かせていたのだが

『ご注文は?』

甘ったるい声で、訊ねてきた店員の女の子に、一瞬で目を奪われる。

さらさらのロングヘアーに、アーモンド型の瞳、ふっくらした唇も、とてもセクシーで、

胸の膨らみも、ウエストのくびれも申し分ない。

要するに、ヒロの理想が、そこに立っていたといっても過言ではない。

しかし、これもあくまで “ ヒロの理想 ” であって、彼の理想がいくつあるかは定かではないのだが。


『仕事、何時まで?』

いきなり切り出したヒロに、目を丸くしながらも笑い出したとこを見ると、かなり期待が持てそうだ。

『それ、誘ってるの?』

笑った顔もキュートだな・・・・・なんて思いながら、彼女の言葉にヒロが頷く。

彼女は、少し考えた後、ヒロの望んだ答をくれた。

『1時間で上がれると思う』

『オーケー、待ってる!』

カウンターの向こうへ消える彼女の後姿を見送りながら、

今日はついてるかもしれないと上機嫌のヒロだった。





2時間後、シャワールームから漏れてくる水音を聞きながらヒロは首を傾げていた。

あの店から、徒歩で20分ほどしか離れていないシティーホテルの一室。

シャワーを浴びているのは、もちろん彼女。

仕事が引けた後、あの店で一緒に飲んでいたのだが、思ったとおり明るい子で・・・・

いや、思った以上にと言ったほうがいいくらいだろう。

初対面の女性をホテルに誘うことは、ヒロでも遠慮していたのだが

“ 行こうよ!” 彼女に手を引っ張っられて連れてこられたのがこのホテル。

さすがのヒロも入り口で躊躇ったものの、断る理由も見つからず・・・・・今に至っている。

自分のどこがどう気に入られたのか、それとも誰とでも寝てしまう女なのか、

ひとりで考えても答えは出ない。



バスタオルを巻いただけの姿で、シャワールームから出てきた彼女にクラッときたものの

さぁ始めましょうって気にもなれず、戸惑った顔をしてベッドに座ったままのヒロに彼女が笑いかける。

『どうしたの? 変な顔して・・・』

『だって・・・・さっき会ったばっかりでコレは・・・・早すぎない?』

素直に疑問を口にするヒロの隣に座りながら彼女は小さく笑う。

『そりゃ、知らない人ならね、私もこんなことしないけど・・・・・興味あったんだもん。

 A*Sのタカミヒロユキが、どんなセックスするのかなって』

『え?・・・なんで・・・』

“ 知ってるの?” という言葉より早く彼女が答える。

『ごっめ〜ん、実は友達がA*Sのファンでさ、顔知ってたのよ、私・・・・』

店での会話では、ヒロという名前と、今はフリーターだと言っただけで、

彼女も納得した顔をしていたのだが、知っていて、とぼけていたのかと

ヒロは、ばつの悪い思いを味わった。

『知ってたらマズイ? やめとく?』

そういいながら素肌を摺り寄せてくる彼女の身体から、

ほのかにシャボンの匂いが立ち上り、ヒロを刺激する。

まぁ、いいか・・・・・深く考えることもなく白い身体を抱き寄せた。




軽くワンラウンド済ませたヒロが無意識に煙草を探してベッドサイドに手を伸ばす。

『煙草?』

ヒロの彷徨ってる手を見て彼女が気付いた。

『うん・・・・・あ・・・・違う、やめたんだ・・・』

『やだ、忘れてたの?』

クスクス笑い出す彼女に “ やめたばかりだから ” と言い訳しながら、胸の中に抱き寄せる。

『ヒロくんって、案外ボケキャラ?』

『う〜ん・・・かもしれない』

『あの、すっごい色の服は自分で買ったの?』

話の展開についていけず、ソファーに脱ぎ捨てたシャツのことを指して言ってるのだと

気付くのに少し時間がかかった。

その “ すっごい色 ” と称されたのは、ヒロとしては気に入っていたコバルトブルーのもので

同色の小さな花の刺繍が散りばめられている。

『そう・・・だけど、なぜ?』

『そっかぁ・・・・あんな奇抜な色の服とか見るたびに、誰が買うんだろうって思ってたんだけど

 ヒロくんみたいな人が買うわけだ』

奇抜・・・・だろうか? 確かに地味とは言えないけど・・・・。

『変?』

『うん・・・・服の趣味、悪いって言われない?』

着る物には、けっこう気を使っているつもりのヒロとしては、この言葉は胸に突き刺さった。

『・・・・いや、ないけど・・・・』

『ふぅ〜ん・・・・アーティストってみんなそんな感じなのかな?』

そんな感じって、どんな感じだよ・・・・って、女の子相手に言うようなことはしないけど。

『基本は歌だからね』

とりあえず笑ってみせる。

『あぁ、だから煙草やめたの? 喉のため?』

『うん、それもあるけど健康のためかな』

『そっか・・・ヒロくんって歌う時、独特の声してるよね』

『そう? 少し高いから・・・』

『少しじゃないよー、すっごく高い! 最初聞いた時、気持ち悪かったもん』

再び、胸に何かが突き刺さる。

『あ、ごめん。 初めて友達に聞かされた時にね・・・今はもう慣れたけど・・・』

歌に関しては褒め言葉を聞くことのほうが多いヒロにとって、これは新鮮ではあったけど

決して、気持ちのいいものではなく返事をする気になれない。

腕の中の彼女の身体を重く感じ始めたとき、トドメの一言が発せられた。

『ヒロくんって、かっこいいのにエッチは普通なんだね〜』

この言葉に、さすがのヒロも黙ってはいられない。

『普通って・・・・かっこいいエッチとかあるわけ?』

これには、彼女が受けて笑い出した。

『そうじゃないけどぉ〜・・・・なんか、つまんなかった・・・・』

そんなことを言われたのは初めてで、男性としての自信が足元から崩れていく感じだった。

いつものヒロなら、この女性との身体の相性が悪かったのだろうと軽く考えるのだが

かなり落ち込んでいるこの状態だけに、ヒロのショックは大きかった。

今すぐベッドから飛び出して、この場を立ち去りたいぐらいだったが

フェミニストのヒロにそんな真似が出来るはずもなく、

思わず心の中に思い浮かべてしまった金髪の天使に救いを求める。


その瞬間、鳴り出したのは彼女のケータイだった。

裸でベッドを出るとバッグをかき回してケータイを取り出す。

『はい!・・・・・うん・・・・今?・・・・』

チラリとヒロを見る。

『・・・・うん、いいけど・・・・わかった、待ってる』

ケータイをしまうと彼女は傍らのバスタオルを掴んで、ヒロにぺこっと頭を下げた。

『ごめん、友達から呼び出しかかっちゃったから行くわね』

ベッドに片肘をついて起き上がったヒロが曖昧に頷くのを見て、バスルームに入っていく。

『大ちゃん、サンキュー・・・・』

別にケータイを鳴らしたのはダイスケだったわけではないが、タイミングのよさでそんな気がしたヒロは

そこにはいないダイスケに呟くように礼を言って、再びベッドに沈み込む。

『サ・イ・テー・・・』

ついていたはずの今日は、最低の1日に変わっていた。


シャワールームで嫌になるくらい丁寧に身体を洗ってから、タクシーで帰路に着く。

あの女の香りひとつ残したくなくて2回もシャンプーした髪は、まだ少し湿り気を帯びていた。





憂鬱な気持ちで自宅のドアを開けると、そこにはいつも暗い玄関が待っているはずなのに、

目に飛び込んできたのは、煌々とした照明の下に立つ笑顔の天使だった。

『おかえり〜』

まったく予期していなかったヒロは、驚きで声が出ない。

『やだなぁ・・・そんなにびっくりしな・・・・』

なぜか言葉を詰まらせて、軽く眉をしかめたダイスケには気づかず、やっとヒロが反応した。

『ごめん、びっくりしちゃって・・・・・どうしたの? 仕事は?』

『ヒロ・・・・ひとり?』

質問には答えず、ダイスケはヒロの背後のドアを気にしている。

『え? どうして? ひとりに決まってるじゃん』

ヒロの笑顔に、ダイスケの微笑みも戻る。

たった今、女と会っていたヒロだったが、何一つ痕跡を残してない自信があったので、

安心してダイスケを抱きしめる。

その感触と匂いに、沈んだ心が少し浮上したような気がした。

『大ちゃん、いい匂いがする・・・・』

靴も脱がずに抱きしめ続けるヒロの腕の中で、ダイスケがくすぐったそうに笑う。

『そう? ここに来る前にお風呂はいってきたからかな』

呟くダイスケの耳元でヒロが囁く。

『すぐにエッチできるように?』

『うん』

即答したダイスケにびっくりしてヒロが身体を離した。

『ヒ〜ロ、なんて顔してんのぉ?』

大笑いしながらリビングへ歩き出すダイスケの後を追ってヒロも急いで靴を脱ぐ。

『僕が言うとおかしい? ヒロなんていっつもそんなこといってるくせに・・・・』

『オレと大ちゃんは、キャラが違うから・・・・』

そういうヒロの声に違和感を感じたダイスケが、いぶかしげに振り返る。

『ヒロ・・・・・何かあったの?』

『どうして?』

内心の動揺を隠してソファーに座ると、ダイスケの方に誘うように腕を差し伸べ

巻き込むようにヒロの隣に腰を下ろさせた。

『なんか・・・・元気ないみたいだから・・・』

『大ちゃんがいるのに?』

そう言って笑うヒロだが、明らかにいつもの精彩を欠いている。

『キスしてくれないの?』

寄り添うように座っているダイスケがヒロを見上げて言った言葉に、また驚かされる。

『大ちゃん・・・・・なんか、今日は・・・・・』

『積極的?』

ダイスケが企んだような微笑を見せる。

沈んでいる自分の気持ちを見越して、先手を打ってくるのだろうかと考えながらも

今夜のヒロは、積極的になれずにいた。

頷きながらもボンヤリとダイスケを見ているヒロにじれたのか、

ダイスケがコバルトブルーのシャツのボタンに手を伸ばす。

『ちょっ・・・・大ちゃん?』

『早く、脱いじゃって・・・』

冗談なのか、本気なのか・・・・ボタンを外すダイスケの指先を見ながら、

ヒロの頭の中には、まったく関係ない事柄が浮かんできていた。

『この服・・・・変かな?』

突然のヒロの言葉にダイスケの指が止まって、不思議そうにヒロを見る。

『服? どうして?』

『早く脱がせたい?』

『うん・・・・・あっ、やだなぁ、変だから脱がせたいわけじゃないよ。 どうしたの、急に・・・・。』

ダイスケが少し後ろに身体をずらして、ヒロを眺める。

『いいんじゃない? ヒロ、この色似合うし・・・』

でも変だって言われたんだよ・・・・そんな言葉を飲み込む。

誰に言われたの? なんて薮蛇になりかねない。

『ヒロ、気に入ってないの? あ・・・・・・誰かからのプレゼント?』

言葉尻に、微かな嫉妬の香りを感じて、ヒロが苦笑いする。

『違うよ、この色が好きで自分で買ったんだけど・・・・』

『だけど、何? 綺麗なブルーだよ。 1曲作れちゃいそうな・・・・あ、でも・・・』

『ん?』

『ヒロが着てるからいいのかもしれない・・・・』

少し照れくさそうに視線を外したダイスケを、ヒロが優しく抱きしめた。

『ありがと・・・・』

ダイスケを抱きしめるたびに、ヒロの心が少しづつ軽くなっていく。

そのまま、ヒロの腕に絡みつくように凭れかかると、ダイスケはそっとヒロの顔を見上げた。

『・・・・・・レコーディング、うまくいってないの?』

訊いてはいけないことだと思っていたけど、ヒロの元気のなさに思わず口に出してしまう。

ダイスケに問われて、ヒロは今日の落ち込みの元凶がそれだったことを思い出した。

順調にいっていれば、飲みに行くこともなかったのに・・・・・と。

『うーん・・・・・曲作りって難しいよね・・・・って、大ちゃんはそんなことないかな』

『そんなことないけど・・・・・A*Sの曲ならすぐ出来るよ』

『そうなの?』

『うん・・・』

『どうして? 他の曲と何か違うの?』

ダイスケは顔を伏せたまま、小さな声で答えた。

『A*Sのは・・・ヒロの声を思い浮かべて作るから・・・・』

『・・・・・オレの声・・・・・・好き?』

『大好き・・・』

恥ずかしそうに言った後、知ってるくせに・・・・と呟く。

知っていたけど、何度でも言って欲しいヒロは、ダイスケの髪にキスを落とす。

すると、ダイスケが不服そうな顔でヒロを見て・・・・・そのまま瞳を閉じる。

そういえば、まだキスもしていなかったと、ヒロは苦く笑って、キスを待つその唇にそっと触れた。

薄く開いた唇の間から舌を滑り込ませると、ダイスケのそれが絡まってくる。

その刺激に、消えていたはずのヒロの性欲に火がついた。

そのままソファーに押し倒し、シャツのボタンを外し始めると、ダイスケが小さな抵抗を見せる。

『ヒ・・・ロ・・・ここで?』

さっきまで、あんなに積極的だったくせに、いざとなると尻込みするダイスケが可愛くて・・・・

『ここじゃ、いや?』

訊いてるくせに、返事を待たずに再びその唇を塞ぐ。




ダイスケの小さな抵抗もそこまでで、ヒロの唇と舌と指に翻弄されて理性が飛ばされる。

それでも、ヒロが脱ぎ捨てたコバルトブルーのシャツが目の端に止まると、ダイスケの胸が小さく痛む。


ヒロは気付いていなかったけど、シャツの肩の辺りに、薄くついていたファンデーション。

そして、まだ乾ききっていなかった髪・・・・・女と会っていたのは明白だった。


だからこそ、ダイスケはヒロに抱かれたかった。

そんな女のことなんか、すべて忘れてしまうくらい自分をヒロの中に植えつけようと・・・・。

シャツから視線をヒロに戻すと、リビングの明るい照明を背に、彼を縁取るように光のオーラが見える。


----- 天使みたいだ・・・・・僕だけの天使・・・・誰にも渡さない・・・・ -----


僅かに残ってた理性も、ヒロ自身が入ってくると消し飛んでしまう。




ヒロの腕の中で乱れるダイスケがいとおしくて、もっと深く・・・・・と、身体を進める。

『あ、あっ・・・・・ヒ・・・ロ・・・』

その声に、ヒロは場違いな安心感を憶えた。


----- 大丈夫、オレには天使がついているんだから・・・・オレだけの天使・・・ -----


二人の天使は絡み合って、幸せな夜の淵へと落ちていく


それぞれの想いを抱いて・・・・・・・・でも、ひとつの想いに向かって・・・・







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end ----------






キリ番51000ゲットのROMIさまへ捧げます。
リクの内容と微妙にずれてしまった感もあるのですが
どうか、もらってやってください (_ _;)
二人は幸せなので、許してやって・・・・(^_^;

流花

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