***** ONLY ONE ******
 
 
       『帰らないの?』
       仕事がめずらしく早く終わって、僕がソファーで雑誌を読んでるのを見て、アベちゃんが訊いてきた。
       『うん・・・・・・』
       雑誌から目を上げずに答えると、ふ〜ん・・・と意味ありげな声。
       アベちゃんを見ると、にやにや笑いながら僕を見ている。
       『なに?その笑いは』
       『どうりで ちゃっちゃっと仕事すると思ったわ。 これからデート?』
       デートって・・・・食事するだけだよ・・・・・・多分・・・・。
       『ご飯食べに行こうって約束してたからさ・・・』
       『何時に?』
       壁の時計を見上げると約束の時間はとっくに過ぎている。
       『もうすぐ来るんじゃないかな』
       時間過ぎてるなんて言ったら、またアベちゃんが何を言い出すかわからないと思ってそう答えたのに・・・
       『ふ〜ん、遅れてるの? 忘れてるんじゃないの? 電話したら?』
       どうして分かっちゃうかなぁ・・・・・・伊達に10年以上の付き合いじゃないってことか。
       『だから、もうすぐ来るって!』
       『はいはい、じゃ私は帰っていいのね?』
       いいよ。 ヒロが来なかったらタクシーで帰るし・・・・。
       『ねぇ・・・来るって確信もないわけ?』
       今、口に出したっけ?!
       『ふ・・・・ダイスケはね、油断してるときは すっごく分かりやすいのよ』
       得意げに微笑うアベちゃんに両手を上げて降参のポーズ。
       アベちゃんは そんな僕の隣に腰を下ろすと ちょっと真剣な顔で訊いてきた。
       『で、ヒロとはどうなってるの?』
       『どう・・・・って・・・・・別に普通だよ?』
       突然 そんなこと言われても・・・・。 誤魔化すようにテーブルのタバコに伸ばそうとした手を叩かれた。
       『イタッ!』
       『吸い過ぎは身体に毒でしょ。 ヒロもタバコ臭いキスは嫌だって言ってたわよ』
       『嘘!そんなこと言ったの?』
       アベちゃんの顔を見て、はめられたことに気づいた。 あぁ〜〜〜!
       『そっか・・・・少なくともキスはしてる仲なのね? よかったよかった』
       ぜんぜん よかったように聞こえないよ? 
       『何か、文句でもあるわけ?』
       『ないわよ。 まぁ、あのピアス事件あたりから何かあったな〜とは思ってたんだけどね』
       『事件って・・・・・大げさな・・・』
       『大騒ぎして 耳に穴開けたのは どこのどなたでしたっけ?』
       ここの僕です・・・・・。 だって、ヒロがさ・・・・・。
       『どうせヒロのくれたピアスなんでしょ?』
       なんで知ってるの〜? という顔をした僕にアベちゃんは頭を抱える。
       『いいじゃん! ピアスしちゃダメなわけ? 誰からもらったものでも同じでしょ?』
       『居直るんじゃないわよ。 てか、そういうことじゃなくて・・・・私が訊きたいのはヒロの気持ちよ』
       ヒロの気持ち?
       『どうしてピアスくれたの? ダイスケが好きだから? だからエッチしてるわけ?』
       『そんなの! ヒロに訊いてよ。 どうしてなんて訊いたことないよ』
       『否定なしか・・・・・そう・・・・・エッチもしてるのね・・・・・』
       あああ〜〜〜〜〜!!! 今度は僕が頭を抱える。
       私に勝とうなんて百年早いわよって顔で見ないで欲しい・・・・・。
       『ダイスケの気持ちは、もう嫌ってくらい知ってるけどヒロはどうしたの? 宗旨替え?』
       嫌ってくらい知らせて悪かったね。 しゅうし・・・・・何だって?
       『あのね、ヒロが急に男好きになるなんて考えにくいんだけどってこと。』
       『そんなことあるわけないじゃん。 ヒロは今でも女の子大好きだよ』
       女の子が好きじゃないヒロなんて考えられないでしょ。 もてるんだし。
       『何、ケロッと言い放ってんのよ。 じゃ何、アンタは特別?』
       多分・・・。 ヒロの言葉を信じるならね。 僕は信じたいけど・・・。
       僕が黙ってるとアベちゃんが大きな溜息をつく。
       『まぁ・・・それはそれでいいんだけど・・・・・・あのヒロがダイスケ一筋になるなんて信じられないのよね』
       『うん・・・・・そうだよね・・・。』
       『そうだよねって・・・・ダイスケはそれでいいの?』
       いいわけないでしょ・・・・・でも・・・・・・。
       『女の子と遊ばない真面目なヒロなんて、ヒロじゃない気がしない?』
       う〜んと唸りながらも、アベちゃんは頷いた。 ね、そうでしょう?
       『あのヒロを好きになったんだからさ・・・・しょうがないよ』
       微笑ってみせたけど、ちょっと複雑。
       『じゃ いずれヒロが結婚なんてことになったら、潔く身を引く覚悟はあるわけね?』
       う・・・・・・・、それは痛い。 でもヒロの幸せを考えたらそうすべきなんだよね。 “潔く” は無理かも・・・。
       『もしかしたら 今だって女の子と二股ってことも考えられるのよね?』
       アベちゃん・・・それは虐め? 
       『・・・・そんな辛そうな顔されても・・・・・・文句あるならヒロに言ってよ』
       辛そう・・・かな? でもね、それでもヒロといっしょにいたいんだよ。 ヒロが僕に笑いかけてくれるのが嬉しいんだもん。
       ヒロのキスひとつで幸せになれるなんて、安上がりだなーって自分でも思うけどさ・・・・。
       ヒロが女の子を愛するように 僕を愛してくれるってのは やっぱりすごいことだと思うし・・・文句言ったらバチがあたるよ。
       『よりによって なんでヒロかなぁ・・・・』
       呟くアベちゃんのほうが 何か辛そうにみえる。 心配しなくても僕は大丈夫だってば。
    
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       『ごめん! 道混んでて・・・・』
       アベちゃんが帰るのと入れ違いのように、ノックもしないでヒロが飛び込んできた。
       1時間以上の遅れだけど、そんなのお互い様だから・・・。  
       クロムハーツの帽子から覗く髪が少し短くなっている。
       『髪、切ったの?』
       『うん。・・・・・・ファンがうるさいから、ちょっとだけ・・・』
       『ヒロのファンって はっきり言うもんね〜・・・・僕は長くてもいいと思うけど』
       雑誌を置いて立ち上がった僕をすっぽり腕に包み込んで、こんばんわのキス。
       『・・・んっ・・・・・んん・・・・・・ヒロッ』
       それは 挨拶のキスじゃないよ! ああ、もう・・・そんな色っぽい顔で見るんじゃない!
       『大ちゃん、何が食べたい? 行きたい店があるならそこにするけど』
       『ヒロは? なにか食べたいものある?』
       『大ちゃん』
       ・・・・・・お約束だね。 笑って見せると、じゃ大ちゃんの次に食べたいものはぁ〜・・・と考え始める。
       その時、ヒロのGジャンの下に着ているブルーのシャツの胸の辺りにとても薄いけど紅い染みを見つけた。
       口紅? いつの? ずっと前?・・・・・・・・・・少し胸が痛くて目を逸らした。
       『・・・あ・・・・これ・・・やっぱ目立つ?』
       ヒロが気づいて僕の顔を覗き込んだ。 
       目立つってほどではないのかもしれないけど・・・・・僕には気になる。
      返事をしないでいるとヒロが困ったような顔で・・・・でも笑ってるね。
       『これ、付けられたのはずいぶん前なんだけど・・・・あ、お店でね』
       『・・・・キャバクラ?』
       ちょっと上目遣いに睨んでやったのに、相変わらず笑ってる。
       『そう! そこのお姉さん。 でもこのシャツ気に入ってて・・・一応染み抜きしたんだけど、ダメかぁ・・・・』
       そんなこと明るく正直に言われたら、僕はなんて言えばいいんだよ。
       だいたい、そういうお店の女性と遊んだことへの反省はまったくないよね。
       ヒロにとっての反省は “お気に入りのシャツ” がダメになったってことだけなんだ?
       僕の気持ちは? たとえ遊びでもいい気持ちはしないんだけどなぁ、・・・・・・・ヒロは違うの?
       『俺が女の子と遊ぶのは嫌? 許せない?』
       さっきまでの笑いがヒロの顔から消えている。 僕が黙っちゃったからだね。  
       許せないって言ったらどうなるの? 言わないけどね・・・・・・・ううん・・・言えないよ、怖くて。
       ゆるゆると首を横に振ると、ヒロがまた困ったように微笑む。
       『大ちゃんが一番じゃだめ?』
       『い・・・ちばん?』
       『うん。 ナンバーワン! どんな人より大ちゃん優先! それでも・・・だめ?』
       ヒロ・・・・・それは “だから これからも遊びます” って宣言しているようなものだよ。
       でも、年下パワー全開で甘えた声を出されたら僕が敵うはずもなく・・・・・
       『まぁ・・・・・節度を持って・・・・・ね』
       『は〜〜〜い!』
       ヒロの笑顔に絆されてるなぁ・・・・と、つくづく思うよ。
       『でも、そのシャツは嫌・・・』
       染みの部分を人差し指で強く押さえてやった。
       『いてっ・・・・・、わかった、捨てる』
       『え? いや別に捨てなくても・・・・気に入ってるんでしょ?』
       ヒロはふふっと笑って僕を抱きしめてきた。
       『ダイ様が嫌っていうんならシャツの一枚や二枚、どってことないって』
       そう言って僕の髪にキスを落とした。
       『さ、ご飯食べに行こう!』
       僕の肩に手を回したヒロに押されるようにしてスタジオを後にした。
 
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       僕がヒロのナンバーワンになれたことは とっても嬉しいし、文句を言うつもりもない。
       一生 手に入らないと思ってた人といっしょにいられるんだから それで満足しなきゃって・・・・・。
       でもね・・・・・僕はヒロのナンバーワンじゃなくてオンリーワンになりたいよ。
       これは僕の “希望” いや・・・ “野望” かもしれないけど。
       いつか・・・・・・・・・・。
 




       ----- end -----





      
       大ちゃん好き!(なんのこっちゃ・・・・)
         もちろんヒロの方が好きなんだけど・・・・ここのヒロはどーよ?(笑)
         大ちゃんに頑張ってもらってヒロを更生(?)させたいものです(^_^;
         次はヒロのお話書きたいなぁ・・・・って、いつも思ってるのに
         大ちゃんの方が書きやすいのはなぜかしら???
                                       流花

        

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