■ またね・・・・








玄関を入ると、そこにダイスケの靴を見つけて、ヒロはリビングへと急いだ。




『大ちゃん?』

返事のない真っ暗なリビングを不審に思いながら明りを点けると、部屋の中央にダイスケが倒れている。

『大ちゃん!?』

思わず叫んでダイスケのそばに膝をつくと、その身体がピクッと動いてゆっくり起き上がってきた。

『・・・・ヒロ? おかえりぃ・・・・』

『お帰り・・・・って・・・・寝てたのぉ?』

こくっと頷くダイスケに、ヒロが大きく息を吐いてぺったりと座り込む。

『び・・っくりした・・・・・倒れてるのかと思ったよ・・・・』

『あ・・・ごめん・・・ここのラグが気持ちよくてゴロゴロしてたら寝ちゃったみたい・・・』

ヒロの隣に同じように座り込んで笑うダイスケの、少し乱れた髪をヒロの指がやさしく梳いていく。

『最近、忙しいみたいだし、絶対過労で倒れたんだと思ってさ・・・・一瞬心臓止まったって・・・』

どれ? と、ダイスケがヒロの胸に耳を当てると、そのまま長い腕に抱きこまれた。

『泊まっていくでしょ?』

耳元で囁くヒロに、チラッと横目で時計を見たダイスケが

『だめ、もうスタジオ戻らないと・・・・』

悔しいぐらいにあっさり言い放つ。

『えぇ〜〜〜! だって、それじゃ、何しに来たんだか・・・・』

思いっきり不満の声を洩らすヒロに、ダイスケがぎゅっとしがみつく。

『ヒロにね・・・パワーもらいに来たんだ・・・』

『パワー?』

『うん・・・しばらくこうしてていい? パワー補給するから・・・』

頬を摺り寄せるようにして呟くダイスケの声が、ヒロの胸にくすぐったい。

『これだけで補給できるの? もっと手っ取り早い方法もあるけど?』

ヒロの言葉にダイスケが顔を上げると、すぐにその唇が塞がれる。


『・・んん・・・っ・・・』

魂ごと吸い取られそうな口づけから逃れようと身を捩らせたダイスケだったが、抵抗は長く続かない。


完全に力の抜け切ったダイスケに満足したのか、やっとヒロが唇を解放した。

『・・・・だめだよ、ヒロォ・・・・』

目元を薄っすら紅く染めたダイスケが小さな声で非難する。

『なぁにが? パワー補給しただけだよ?』

『なんか・・・反対にパワー吸い取られちゃった気がする・・・』

文句を言いながらも、苦笑いするダイスケをもう一度抱き寄せて

『ホントに、このまま帰っちゃうの?』

耳朶を噛むようにヒロが囁き、その右手は、妖しくダイスケの内腿を這い上がってくる。



『だめだってー!』

ヒロを突き放すように立ち上がると、ダイスケはソファーの上のバッグを掴んだ。

『ホントはヒロの顔だけ見て戻るつもりだったんだ。 ごめん! マジで仕事がたまってて・・・』

泣きそうな顔のダイスケに、ヒロも立ち上がって微笑みかける。

『ごめん、困らせちゃった? 大丈夫、何もしないから・・・・・・・・あ、もうけっこうしちゃったかな?』

ヒロの笑みにつられるように、ダイスケも泣き笑いの表情になる。


『送るよ、スタジオ?』

『ううん、ひとりで帰る・・・』

『でも・・・』

『これ以上ヒロと一緒にいたら、絶対帰りたくなくなっちゃうから・・・・』

そんな可愛いことを言うダイスケを抱きしめそうになった両手を、ヒロはグッと握り締めて我慢した。



『またね・・・』

小さく手を振るダイスケ。



『うん・・・・またね・・・・』

すでに背中を向けて歩き出したダイスケに、呟くような声は届かないと思っていたヒロだったけど、

彼は立ち止まって振り返る。

『また、すぐに来るから! そしたら・・・・いっぱい・・・・ね・・・』

恥ずかしそうに微笑って、ドアの向こうに走り去っていった。



ぼんやりとリビングに立ち尽くしていたヒロの視線が、ソファーの隅に転がるように忘れられた帽子を捕らえた。

ゆっくり拾って自分の頭に乗せると、そのままソファーに沈み込む。


目を閉じると “ またね ” と、寂しそうに笑ったダイスケの顔が浮かんできた。


〜 そんな顔しないで・・・・・またすぐに会えるんでしょう? 〜


その日を想って、ヒロの口元が綻んだ・・・・・よからぬことを考えて・・・・・。

でもそれは、よからぬことを考えているのが、きっと自分だけではないと確信した上での微笑み。


〜 早く、おいで・・・ 〜


ヒロの心の声は、きっとダイスケに届いている。










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end ----------









なんとなーく思いついて書いた、ショートショートです。
ふざけんなってくらい短い逢瀬でごめんなさい(^_^;
でも愛はある・・・・・・よね?

流花
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