*** main dish ***

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『手伝おうか〜?』

キッチンから聞こえてくる音に、落ち着くことが出来ず、ヒロが声をかけた。

『だめっ! もうちょっとだから待ってて!』

にべもなく撥ねつけられて、しかたなくまた見たくもないビデオに視線を戻したけど集中なんか出来そうもない。

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1時間ほど前、突然ダイスケが材料と共に乗り込んできてキッチンを占領してしまった。

『やっぱり、男は肉じゃがだよねっ』

わけのわからないことを口走りながら、自分で持ってきたビデオを渡して

『あっちで、これ見て待ってて』

そう言ってヒロをリビングに追いやろうとする。

『ちょっ・・・と、待ってよ、大ちゃん。 急にどうしたの?』

なんの説明もなく、追い出されるわけにもいかず理由を訊いても

『僕には、料理なんか作れないって思ってるよね?』

なんだか逆切れ状態のダイスケに、ヒロも言葉を詰まらせる。

『いや、そんなこと・・・・だから・・・ね、大ちゃん落ち着いて? 何で急に料理なの?』

やさしく訊いてくるヒロに、ダイスケも少し落ち着いたようで、上目遣いにヒロを見上げると、ボソボソと喋りだす。

『アベちゃんがね・・・・・』

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ダイスケの話を要約すると・・・・・

アベが “やっぱり男心をつかむには料理が出来なくちゃね” というようなことを言い出し、

イトウがそれに賛同して “だよね〜、やっぱり何だかんだ言っても男は家庭料理には弱いから”

“でしょう? 最初はいいけど、最終的に胃袋つかんでないと男が去っていく確率大よねっ”

そんな話で盛り上がった二人が、ふとダイスケを見て憐れむように言ったらしい。

“あ、ヒロは違うと思うけどね” “うん、タカミさんはそういうこと関係ないって感じだから”

その言い方にダイスケはカチンときてしまった。

“なんだよ、料理くらい僕にだって出来るよっ”

もう、ここからは売り言葉に買い言葉で、アベとの言い争いになり、「肉じゃが」と「味噌汁」を作る!

そう宣言して、仕事もそこそこにヒロの部屋に押しかけることになってしまった。

もちろん用意周到なダイスケはヒロの部屋に来る途中で、料理の本と材料を買ってくることは忘れない。

『大ちゃん、一人で買い物できたんだねぇ・・・』

うっかり洩らした一言で、またダイスケがヘソをまげて、ヒロはリビングに放り出されてしまった。

それから1時間、キッチンには近寄れない状態が続いている。

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『あ・・・・いい匂い・・・・肉じゃが・・・・かな?』

たいしてお腹も空いていなかったヒロだが、この匂いに刺激されて空腹感を憶える。

それから、なお30分待たされて、ダイスケの呼ぶ声で、やっとキッチンに入ると、

深めの皿に盛られた肉じゃがと油揚げと豆腐の味噌汁が用意してあった。

『うわぁ・・・・すごい。これ今作ったんだよね?』

素直に感心するヒロにダイスケも満足そうに頷く。

『初めてにしちゃ良い出来だと思わない?』

『思う、思う、ぜんぜん思っちゃう。 すごいよ、大ちゃん』

ヒロの言葉にますます笑みを濃くして、ダイスケが箸を差し出した。

『とりあえず、食べてみて』

『ここで? テーブルに持っていこうよ』

確かに、キッチンにテーブルセットは置いてないので立って食べるわけにも行かず、二人で手分けしてリビングへ運んだ。

箸を持ったヒロが “いただきま〜す” と小さく手を合わせてから、ジャガイモを摘まんで口に入れる。

『んっ・・・・』

『なに? まずい?』

ヒロの微妙な顔にダイスケが不安になって聞くと、明らかな作り笑顔で

『いや・・・・味は悪くないと思うよ・・・』

そういって、今度は肉に箸を伸ばす。

『うん。 美味しいよ、大ちゃん』

『うそだ・・・・』

呟いて、ダイスケもジャガイモを口に運ぶ。

『う・・・・』

口を押さえたまま、キッチンに走っていくダイスケをヒロは苦笑いで見送る。

情けない顔をして戻ってきたダイスケが、無言のまま、ヒロの箸を取り上げた。

『大ちゃん?』

『食べなくていいよ、ごめん・・・・生煮えだったね・・・口の中でガリッていうんだもん・・・』

『でも、お肉はや玉ねぎは煮えてたよ・・・人参は・・・食べてないけど・・・』

食べる勇気がなかった・・・・とはさすがに言えない。

『ちゃんと、本に書いてある通りにやったのに・・・・なんで煮えてないんだよっ』

怒りながらも、目がうるうるしてきたダイスケをヒロが慌てて抱き寄せる。

『でも、味は美味しかったってば。 料理って微妙なものだからさ、なかなか本の通りには行かないものなんだよ、きっと』

『ううん・・・味付けも薄かったよ。やっぱりだめだね〜・・・』

ヒロの腕の中でダイスケが溜息をつく。

そんなダイスケの髪を軽く撫でてから、その手をまた箸に伸ばすとヒロは味噌汁に口をつけた。

『あ・・・・美味しい』

ヒロがちょっとびっくりしたようにダイスケを見る。

『ホント?』

ダイスケも恐る恐るといった感じで飲んでみると・・・・

『ん・・・うん・・・飲めるよね?!』

満面の笑みでヒロを見上げたダイスケに、ヒロも満面の笑みを返す。

『ちゃんとお味噌汁の味だよ、すごいよね〜』

『・・・・・ちょっと・・・・それって・・・じゃあ、肉じゃがは何の味だったんだよ?』

ダイスケの突っ込みに、しまった・・・・と、もろに顔に出してしまったヒロだったが・・・

『まぁまぁまぁまぁ・・・・』

ダイスケの身体を半分抱くようにして、そのまま寝室に連れ込んでしまった。

勢いのままにベッドに押し倒されかけたダイスケがグッと踏ん張ってヒロを睨みつける。

『エッチでごまかそうとしてる?』

『う〜ん、ごまかされてよ?』

『あのね〜、ヒロ・・・』

『あの美味しいお味噌汁はあとから温めなおしてさ・・・肉じゃがももう一回煮たら柔らかくなるよ』

『あとから・・・なの?』

『うん・・・今は大ちゃんを煮て、柔らかくしたいから・・・』

『ばっ・・・・か・・・・』

見つめられただけで熱くなってしまいそうなヒロの瞳にダイスケの抵抗も止んでしまう。

目の縁を赤く染めたダイスケがヒロの首に両手を回して、口づけを待つその唇をヒロのそれがゆっくり塞いでゆく。

長い長い口づけの後、ヒロが唇を離した時に薄く笑ったのをダイスケは見逃さなかった。

『何? ヒロ・・・何が可笑しいの?』

首を傾げるダイスケにヒロがウインクした。

『やっぱりさ・・・・大ちゃんが一番美味しいなって・・・・』

そんな甘い言葉にダイスケも負けずに言葉を返す。

『ううん、きっとヒロの方が美味しいよ』

『食べる?』

『・・・・うん、欲しい・・・・』

ダイスケに煽られるように、彼を抱きかかえてヒロはシーツの海にダイブした。

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まだベッドから動けないでいるダイスケを置いて、シャワーの準備にヒロがキッチンを横切ろうとした時

『・・・ぅわっ・・・』

さっきは料理に気を取られて気付かなかったが、シンク回りは爆弾が落ちたような有様になっていた。

きっとダイスケは “作る” ことに一生懸命で “片付ける” まで意識が回らなかったに違いない。

(これって、もしかしてオレが片付けるのかな・・・・) 嫌な予感が背筋を走る。

料理を作ってくれるダイスケも好きだけど、作らないダイスケだってヒロは同じように好きだ。

なら、後片付けの手間がない分、後者のダイスケの方が好きかもしれない。

そんな結論に達したヒロは、その日の深夜、再びベッドの中でダイスケに甘く囁いた。

“料理の出来ない大ちゃんのほうが、可愛くて好きだな・・・”

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この切実な想いがダイスケに伝わったかどうかは・・・・・わからないけれど。

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---------- end ----------

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キリ番18000を踏まれた雅姫ちひろ様に捧げます。

「甘い生活」になっていたでしょうか?・・・・って、そのお題考えたの私なんですが・・・(^_^;ゞ

良かったら、また感想お聞かせください m(_ _)m

流花

Rillaさまのお言葉をヒントに書かせていただきました、ありがとです♪)

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