***** Love call *****

 

 

 

最近、ヒロは自分の部屋に女性を連れ込むことをしなくなった。

あとあと、面倒なことになるのを避ける意味もあるのだが、もうひとつの理由の方が大きいかもしれない。

それは、ダイスケに渡した合鍵。

でも、彼があの鍵を使うことは殆どないといっていいだろう。

彼にとって、アレは持っているだけで嬉しい代物らしいから。

それでも、絶対に部屋に訪ねて来ないとは言い切れないから、極力、危険は避けているヒロだった。

 

だから、今夜も彼女と来たのは、ちょっとお洒落なシティーホテル。

食事して、軽く飲んで・・・・・少し退屈なくらいのワンパターンだけど、女の子には手順を踏まないとね。

恋愛はゲーム・・・・ヒロはそう割り切っている。

可愛い女の子とのドキドキする出会いや、恋の駆け引きが楽しくてしょうがない。

でも、どんなに好きになっても、いずれ別れる時は必ずやってくる。

いや、無意識のうちに、いつか別れると決めて恋愛しているのかもしれない。

そんなヒロでもいつかきっと運命の人にめぐり逢うと信じている。 

その人とは絶対に別れない。 特別な誰か・・・・・・・・。

 

 

まだ付き合って間もないゲームのお相手とキスをしながら、彼女のジャケットを脱がそうとした時、

そのポケットから何かが落ちた。

『あ、ごめん、ケータイ落ちちゃった』

ジャラッと音をさせて彼女が拾ったそれは、本体部分よりあきらかにストラップに重量がある。

『すーごいねー』

呆れ顔のヒロの目の前で、彼女が笑いながらストラップを振って見せた。

『なんか、捨てられなくてどんどん増えちゃうの』

その多数のストラップのなかに、ミッキーマウスを見つけたヒロの思考が一瞬にして飛ぶ。

 

以前、ダイスケが見せてくれたストラップ。

また新しいのにしたのかと、ヒロが笑ったら、

“ 新製品がどんどん発売されるんだもん。 これでも我慢してるんだよ ”

もっともらしく言い訳するダイスケ。

我慢してるんだ? えらいね〜と頭を撫でたら、照れたような、拗ねたような、なんともいえない顔で笑っていた。

あの笑顔・・・・可愛かったな。

『ヒロ?』

彼女の声で、自分の思考が飛んでいたことに気が付く。

『あのね、私といるときに別の女のことは考えないでくれる?』

もちろん、彼女の冗談で、本当にそんなこと考えていたと思われたならひっぱたかれるのは必然だ。

ヒロは頭の中からダイスケを閉め出すと、彼女との行為に没頭した。

 

柔らかい身体を抱きながら、何も考えないようにしていたのに、ベッドサイドの彼女のケータイが目に入ってしまい

避けようもなく、笑ってるダイスケの顔が浮かんだ。

拗ねてるダイスケ、何かを考えているダイスケ、びっくりしてるダイスケ。

そして、イク時のダイスケの顔を思い浮かべた瞬間・・・・・!

『・・・ごめん・・・』

自分勝手にイッてしまったことを彼女に詫びると、彼女も笑いながら、久しぶりだから・・・・・と許してくれた。

別の人、それも男のことを考えて・・・・・なんてわかったら、完全に愛想をつかされるに違いない。

ダイスケを想ってイッてしまったことに、ヒロは少なからずショックを受けていた。

誰かを抱いていて、違う人を思い浮かべるなんて・・・・そんな失礼なこと、今まで一度もなかったのに・・・・。

謝罪の意味も込めて、もう一度彼女に挑みかかった時、ケータイが呼んだ・・・・気がした。

彼女のケータイと並べて置いてあるソレは、鳴ってはいなかったのに・・・・。


『どうしたの?』

ヒロの身体の下で、彼女が怪訝な声を出す。

『ん・・・・いや・・・ケータイが鳴った気がしたんだけど・・・・』

『ええ? 鳴ってなんか・・・』

彼女の言葉が終わらないうちに、ソレは本当に鳴り出す。

ダイスケからだ・・・・・・・・見てもいないのにヒロは直感した。

出てはいけない。 今出たら今夜のデートは台無しになる・・・・・そんな予感がする。

ヒロには、電話の向こうのダイスケが見えるような気がした。

ケータイを握り締めて、ヒロがでるのを待っている。

きっと、このままヒロが出なくても、ダイスケは小さくため息をついてケータイを切るだけだ。

彼女と別れたあとに、気が付かなかったといってかけ直せばいい、そう思っているのに・・・・

『出ないの?』

ヒロがケータイに出ないことを彼女が不審がる。

『うん、放っといていいよ、後からかけ直す』

『大丈夫? 仕事とか大切な用件ってことはないの?』

出たほうがいいんじゃないの?という彼女の視線に、ヒロの心も動く。

そうか・・・・何を決め付けてたんだろう、仕事かもしれないじゃないか。

そうではないにしろ、ダイスケとは限らない・・・・・・ヒロはケータイを手に取った。

しかし、名前を見ると、やはりダイスケからで・・・・・そして、それは分かりきっていたことのような気もした。

彼女が出たほうがいいと言ったから・・・・・そんな大義名分が欲しかっただけかもしれない。

 

『はい・・・』

“ あ、ヒロ? ごめん、今大丈夫? ”

ヒロは、ベッドの中で、隣には裸の女性が横たわっていることなど微塵も感じさせない声で応える。

『うん、大丈夫。 どうしたの? 何かあった?』

電話の向こうで一瞬のためらい・・・。

“ うん・・・何も・・・・ヒロ、何してるかなって・・・・・ ”

そう言って照れくさそうな笑い声。

何か言ってあげたいのに、隣が気になってうまい言葉が見つからない。

そこでヒロは、そっと彼女に背を向けて自分の視界から消すと、電話の向こうに気持ちを集中した。

『・・・で、本当は何があったの?』

“ え? だから別に何も・・・・・ない・・・・・けど・・・ ”

『けど?』

“ もう・・・ずるいよ、ヒロ。 なんでわかっちゃうかなぁ・・・ ”

『愛の力?』

そればっかり〜と、ダイスケの笑い声が響く。

“ ごめん、ヒロに言ってもしょうがないことなんだけど・・・・・あのね・・・ ”

ダイスケが言うには、今製作しているアルバム、1曲出来上がるごとにスタッフに聴いてもらっているのだが、

今日出来上がった曲を聴かせた時の、スタッフの反応がイマイチだったらしい。

ダイスケは、自分が作る曲には絶対の自信を持っているくせに、人の反応を気にするという反面も持っている。

『誰も、だめだなんて言ってないんでしょう?』

“ うん、はっきりとはね。 でもさ、ほら・・・なんかわかるじゃん、そういうのって ”

『・・・・で、直そうって思ったの?』

“ う〜・・・ん、僕なりのこだわりはあるんだけど・・・・どうしよう? ”

要は誰かに、このままでいいよと言ってもらいたいのだろう。 

いや、誰か・・・ではなく、ヒロに。

『それ、オレが聴いてもいいの?』

“ 聴いてくれる? ”

待っていたように弾んだダイスケの声音に、ヒロが苦笑いする。

『うん・・・いつがいいかな?』

“ いつでも・・・・・・なんだったら今からでもいいよっ ”

それは無理だろうと、振り返ったら・・・・ベッドには誰もいない。

いつのまにか、ドレッサーの前で身支度を整えた彼女が化粧を直している。

『今・・・・ひとり?』

こちらを見ようともしない彼女から視線を外さず、ダイスケに尋ねる。

“ うん、ワンコもアベちゃんも帰っちゃったから ”

帰っちゃった? 帰したの間違いでは?

最初から誘うつもりで電話をしたのだろうか。

曲のこともあっただろうが、それはダイスケにとって都合のいい口実になったのかもしれない。

そして、口実を作ってまで電話をしてきたダイスケがいじらしくて、ヒロの口元が綻ぶ。

『待ってて、今から車飛ばしてくから』

自然に出てしまった言葉に、無視しつづけていた彼女が鏡越しに冷たい視線を投げた。

“ いいの? ごめんね、急に・・・・・じゃ、待ってるからっ ”

ダイスケからの電話が切れたとたん、部屋の空気が冷たくなった。


『帰っちゃうの?』

白々しく訊いたヒロに、彼女がバッグを持って立ち上がりざま振り返る。

『恋人が寝てる横で、他の女と会う約束するなんて信じられない!』

『ごめん・・・でも、女じゃないから・・・』

確かに女ではないが・・・・

『そんな嘘つかなくていいわよ! どこの男に向かって、あんなに甘い声で “ 何かあった? ” なんて訊くわけ?』

甘い声なんて、ヒロに自覚はない。

『ごめん・・・』

とりあえず、ヒロには謝ることしか思いつかない。

『もういいわよ。 二度と会うこともないでしょうから』

『え・・・・?』

そうなんだ・・・・と、言いかけた口を閉じた。 

何か言って、これ以上彼女を刺激することもないだろう。

ドアの前で彼女が静かに振り返る。

『ヒロって、いい加減だけどやさしい人だと思ってた・・・・。 誰にでもやさしいけど、それでもいいって。

 でも、特別な人が出来ちゃうと、あとはどうでもよくなっちゃうタイプだったのね。 今、わかった。

 ・・・・・・・私が、特別じゃないってことと・・・・・電話の彼女が特別だってこと・・・・』

浮気なんかしちゃだめよと言い捨てて、ドアの向こうに消えた彼女の言葉がヒロに染み込むのに、少し時間がかかった。

特別? 大ちゃんが? 何言ってんだろう、大ちゃんは男なのに・・・・・・・。

そんなことを考えながら、大急ぎでシャワールームに飛び込んだ。

 

男だから、ダイスケは運命の人じゃない・・・・そう思いながら、目の前に転がっている裸の女性より

ダイスケを選んだ自分に、ヒロはまったく疑問を覚えてはいない。

 

運命の人じゃないけれど、誰よりも大切なダイスケに会うために、口笛を吹きながらヒロはホテルを後にした。

 

 

 

 

---------- end ----------

 

 

 

鈍感なヒロが好き!(自分で感想書いてみました(ーー;)

                           流花

 

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