恋色・愛色・夏の色

 

長い梅雨の鬱陶しさに負けないくらい、憂鬱な顔でダイスケが今夜、何度目かのため息をついた。

スタジオの外は雨が降り続いていたが、ソファーに深く埋もれてアニーの頭を撫で続けているダイスケの方がよっぽどジメジメしている。

ここ2〜3日ずっとこの調子だったのでアベも気づいてはいたけれど、あえて理由を訊く気にはなれなかった。

返って来る言葉がだいたい想像できたから・・・・。

しかし、このままでは仕事に支障をきたしそうだったので、マネージャーの義務として声をかける。

『ダイスケ・・・・なんかあった?』

その声に縋るような瞳を向けられて、アベは観念した。

『ヒロのケータイが通じない・・・・・』

ほーらね・・・・やっぱりアイツのことか。

『通じないって? どこかで遊んでるだけでしょ?』

『どこかってどこ? 電波の通じないとこで3日も遊んでるの?』

怒ったように言葉を吐き出してはいるが、心配しているのは明らかだった。

『わかった。 ヒロの事務所に問い合わせてみるわよ。だから・・・・・・・仕事して』

アベが仕事部屋を指差すと、ダイスケは嫌々ながらも立ち上がる。

『何かわかったら教えてね』

念を押して仕事部屋へ入って行った。

 

 

いたずらにキーボードやマウスをいじってるだけで、まったく仕事にならない。

3日前ダイスケは、もう1週間以上ヒロと連絡を取っていないことに気がついてケータイにかけてみたのだが通じない。

たまたまかな・・・と思っていたのだが、次の日も、また次の日も通じないとなると さすがに心配になってくる。

あるひとつの可能性は浮かんでいたのだが・・・・・。

最後に二人きりで会ったのは、まだトリビュートライブの最中で、その日はなんだか慌しく別れてしまった。

その後も、仕事では会ったけれど・・・・・・思い返してみても何も変わりはなかったと思うのだが・・・・・。

ドアがノックされて、アベが声をかけてきた。

『今、いい?』

実は、何もしていませんでした・・・とは言えない。

『うん、大丈夫だよ。 何かわかった?』

『ん〜〜〜〜、確かに電波の通じないとこにいた・・・・』

曖昧な笑顔のアベを見て、ダイスケは何も聞かなくても答えがわかってしまった。

『ハワイ?』

アベが頷く。

『ダイスケ、何も訊いてなかったの? こないだ会った時とか・・・』

『ぜんぜん・・・・』

答えるダイスケの声が棘々しい。

『そう・・・・・ま、いつものことよね? 去年も行ったし・・・・』

『去年は行く前に教えてくれたけどね』

『・・・・・一応、ホテル聴いたけど、2日後には帰ってくるらしいわよ』

『ふ〜〜〜ん、そんなに前から行ってたんだ?』

顔つきまで険悪になってきたのを見て、今、仕事の催促をしても無駄だと、アベは早々に退散することにした。

 

 

『ヒロのバカ・・・・・・』

呟いてみたところで気持ちが治まるものでもない。

黙って行ってしまったことにも腹を立てていたが、ハワイから一度も連絡がないことも寂しかった。

帰ってきたらどうしてくれよう・・・・・皮肉のひとつじゃ済まさないからなっ!

ダイスケはハワイの方に・・・と言ってもどちらがハワイかわからなかったが、

多分こっちだと勝手に決め付けて、中指を立ててみせた。

 

*

 

ヒロが帰ってくるというその日、ダイスケは髪を染めるためにかかりつけのヘアメイクYのスタジオにいた。

『どうする? いつもと同じ色でいいかな?』

ダイスケは頷きかけたが、ふと、ヒロのことを思い出して呟いた。

『ハワイ・・・・』

『え?ハワイ?・・・・ハワイがどうかしたの?』

Yが後ろから覗き込むように訊いてくる。

『ハワイの色にして・・・・・』

『ハワイの、い・・・ろ?』

怪訝そうな顔をするYの向かい側で、座ってタバコを燻らせていたアベも椅子から立ち上がった。

『ダイスケ? 何言ってるの?』

何を言ってるんだかダイスケ自身、よくわかっていなかった。

ただ急にそう思っただけで・・・・・でもそれも面白いかも・・・・。

『ねぇ、ハワイって何色かなぁ?』

Yもダイスケの案を面白がっているようで

『そうだなぁ・・・、やっぱり太陽色だから、黄色・・・か、オレンジ?』

笑いながら答えるのを見て、アベが慌てる。

『ちょっと・・・Yさんもやめてよね、普通にしてよ、普通に!』

そんなアベの声はダイスケの耳には届いていなかったらしい。

『オレンジ・・・・・かぁ・・・・・、うん、オレンジにして!』

『いいの?』

と訊きながら、すでにYはやる気満々の様子だ。

『うん、思いっきりオレンジ!』

『ダイスケ〜〜〜!!!』

アベの叫びも虚しくダイスケの髪は南国色に染まっていった。

 

*

 

翌日、スタジオにいるダイスケにヒロから連絡が入り

今から行ってもいいかという簡単な電話に、ダイスケも待ってるとだけ答える。

ワンコもスタッフもアベすら別室に追いやって、ダイスケは一人、ヒロの来るのを手薬煉挽いて待っていた。

この髪を見て、ヒロは何て言うのだろう。

実を言えば、自分でも派手過ぎたかな〜と少し後悔していた。

昨日はなんだかムシャクシャしていて、半分自暴自棄になっていたのかもしれない。

ダイスケの髪を見て周りの誰もが曖昧に微笑むだけで、少なくとも褒めてくれた人はいない。 Yは別として・・・だが。 

多分ヒロも、呆れて何も言えないか、或いは不満を漏らすか・・・・、やっぱり曖昧に笑って誤魔化すのか。

もし文句をつけてきたら、これ幸い倍にして言い返してやろうと思っていた。

黙って行っちゃったくせに・・・・。 電話の1本もよこさなかったくせに・・・・って。

 

『おはよ〜』

ニコニコと入ってきたヒロは案の定、小麦色の肌をしていて手には大きな紙袋を提げている。

ダイスケは久しぶりのヒロにうっかり見惚れそうになった自分を戒めた。

絶対、一言いってやらなきゃ!

ヒロはダイスケを見るなり、目を丸くして立ち止まる。

『うわ・・・、それ染めたの?』

『そ、誰かさんがハワイ行っちゃったから僕も気分だけでもと思って・・・・似合う?』

ダイスケは皮肉たっぷりに微笑んでみせたのだが・・・・

『うん。いいね〜、夏!って感じで』

拍子抜けするくらいの眩しい笑顔で、ツカツカとダイスケに近寄ると、抱き寄せてその髪にチュッと音をたててキスをした。

『な〜んか、違う人にキスしてるみたい』

そう言って笑うヒロにダイスケは どう対処していいのかわからない。

いいね〜って・・・・・本当に?

その腕から抜け出して、何か言ってやらなきゃと口を開きかけたところで、ヒロが“あ、そうだ!”と大きな声を出す。

『お土産、買ってきたんだ・・・・・・・・はいっ』

ヒロが紙袋から出してきたのは大きなイルカのヌイグルミ。

ヌイグルミ・・・・・35歳、成人男子がヌイグルミで誤魔化されると思ってるのか?

押し付けられるように渡されたイルカを抱いたとたん、それが“キュゥ・・・”と鳴いた。

『わ・・・・可愛い〜』

けっこう誤魔化されている成人男子だった・・・・。

『でしょ? あとこれもっ』

そういって取り出したのは黒地にオレンジの花が鮮やかなアロハシャツ。

派手・・・・以外の形容ができないそれを見て、さすがのダイスケも絶句する。

『派手・・・だね』

お礼を言うのも忘れてるダイスケにヒロが笑う。

『そう? 大ちゃんに似合うと思ったんだけど・・・・・ほら、髪の色とお揃いじゃない!』

ダイスケは髪の色と聴いて、自分が怒っていたことを思い出した。

『ヒロ・・・・』

イルカを抱きしめたまま、ダイスケが上目遣いにヒロを見る。

『ん?』

ヒロもアロハシャツを持ったまま、小首をかしげる。

『ハワイ・・・・・黙って行っちゃったんだね・・・・』

責めるつもりだったのに、その声色は寂しかったと白状しているようなものだ。

ヒロはその言葉を待っていたかのように、ふわっと微笑んでイルカごとダイスケを抱きしめた。

『ごめん・・・・、ちょ〜っと拗ねてたからさ・・・』

拗ねてた?・・・・・誰が?

『最後に二人きりで会った時のこと憶えてる?』

最後? ハワイに行く前?

『リシンクアワードの受・・・』

『違う違う、二人っきりでだよ、仕事じゃなくて』

見下ろしてくるヒロの茶色い目をじっと見返しながらダイスケは考える。

確か・・・・まだトリビュートライブの最中で・・・・そうだ、久しぶりにヒロの部屋に行って・・・・・。

『思い出した?』

『うん、ヒロの部屋で・・・少しお酒飲んで・・・』

『これからって時だったのにさぁ・・・』

ウツから電話があったんだ。

ライブの打ち合わせしたいから すぐに出て来いと・・・・。

『大ちゃんさ、ごめんね〜って言いながら、さっさと帰っちゃって・・・』

ヒロの棘のある言い方にダイスケが慌てて言い返す。

『さっさとなんて、帰ってないよっ。 だって・・・しょうがないじゃないか、お仕事なんだか・・・・・・・あ・・・・・』

言葉に詰まったダイスケにヒロが口の端で笑う。

『仕事じゃなかったんだよね〜?』

ウツに呼び出されたものの結局、メンバーで飲みたかっただけのようで仕事の話はほとんどなかった。

次の日、ダイスケはヒロに電話して謝ったのだが・・・・。

『大ちゃん、電話で “ただの飲み会だったんだよ。でもすっごく楽しかったけどね”って言ったよね』

まさか・・・それで拗ねちゃったの?

『あぁ、大ちゃんはオレといるよりみんなで飲んでる方が楽しいのかぁ・・・・って思ったら、ちょっと・・・・・ね』

ダイスケは持ってたイルカをテーブルの上に置いて空いた両腕でヒロを抱きしめた。

『ごめんね、そういう意味じゃなかったんだけど・・・・』

ヒロもシャツをテーブルに投げ捨ててダイスケの身体を包み込むように抱きとめる。

『ヒロといるより楽しいことなんて絶対ないから・・・・・』

『うん・・・オレも大人げなかった・・・・ごめんね・・・・寂しかった?』

片手でダイスケの顎を持ち上げるように訊くヒロに、ゆっくり目を閉じながら応える。

『・・・・すごく寂しかっ・・・・』

最後の言葉はヒロの唇に吸い取られていく・・・。

ヒロの温かい唇に安堵しながらダイスケは考えていた。

あんなことで拗ねて、黙ってハワイ行っちゃうなんてヒロって子供みたいだ・・・・可愛い・・・。

黙ってハワイに行かれて、拗ねて髪を染めた自分のことはすっかり忘れているダイスケだった。

 

どっちもどっち・・・・・・?

 

 

---------- end ----------

 

 

なんなんでしょう?(^_^;

“オレンジの髪” と “ハワイ” でいろいろ妄想してしまったわけですが・・・・エッチも甘々もなくてごめんなさい(_ _;)

オマケに中途半端〜〜〜! 書きたいことは他にもいろいろあったんですが文才のなさで入れることが出来ませんでした(>_<)

駄文中の駄文・・・って感じです・・・。 この暑さがいけないのよっ!(多分;)

流花

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送