* 君となら・・・・ *




ヒロが僕の部屋にいる。

ソファーにもたれた僕はアニーを撫でながら、そっと横目でヒロを窺う。

それに気付いたヒロが、ふっと微笑って僕の肩を抱き寄せた。

ヘッドホンをつけたヒロが次に聴くのは「あの曲」・・・・・・・どう思うんだろう。




最後のアルバム「赤」が仕上がり、アベちゃんとスタジオで聴きながら「あの曲」になったときの彼女の顔は忘れない。

カビの生えた食パンでも口に入れたような、複雑な表情だった。


『これは・・・・すごいわよね・・・』

『すごいって・・・何が?』

『声・・・・っていうか、歌詞っていうか・・・・』

『アベちゃん、歌入れの時いなかったっけ?』

『うん、出てたからね・・・でさ、まさか、ヒロ・・・・のことじゃないわよね? この「君」って・・・』

『あ・・・あぁ・・・』


歌詞の部分を作る時、いつもなら、ある程度の意見は言うもののお任せな部分が多いのだが、

この曲に関しては、かなり我を通して作ってもらっている。

その時、ヒロのことを考えていなかったと言ったら嘘になる・・・なんて、綺麗事はよそう。

ヒロのことしか考えていなかった

これが本音。


思わず言葉を濁してしまった僕に、アベちゃんが小さく首を振る。

『はいはい、訊いた私がバカだったわ』

『・・・僕もかなりバカだったかも・・・』

実は、こっそり後悔していたりする。

『あら、珍しい、ダイスケがそんなこと言うなんて・・・失敗ってこと?』

目を丸くしたアベちゃんに苦笑いで答える。

『失敗なんてことはないけど・・・僕自身はコレ入れたかったし・・・』

『じゃ、いいんじゃない? あのサルも喜ぶだろうしね〜』

そう・・・かな? 僕が後悔してるのはそこなんだけどね。

『何、暗くなってんの?』

『え・・・いや、だって・・・ヒロ、呆れないかな? 

 なんか・・・君はボクのもの≠チて感じで・・・図々しいって言うか・・・』

『だって、実際、ボクのものなんでしょ?』

『うーーーん、僕がそう思ってるだけかも・・・』

呟く僕を、アベちゃんがクスクス笑う。

『なんだよ、その笑いは?』

『あぁ、スタッフに対しても、その謙虚さがあったらなぁ・・・って思ったのよっ』

『なんだよ、それ!』

『ヒロ限定だもんなぁ・・・・』

『アベちゃん!』

『さっ、お仕事しなくっちゃ』

・・・・・無視かよっ。




スタジオでのアベちゃんとのやりとりを思い出しているうちに、いつの間にかCDは「あの曲」になっていた。

やっぱりヒロも、アベちゃんみたいに複雑な表情になるのかなと見守っていたんだけど・・・・。

なんだか、やたら真剣な顔になっちゃってる。

さっきまで、すごくリラックスして、うっすら笑みを浮かべていたのに・・・・なぜ?

全曲聴き終わるまで、邪魔したくなくて黙っていたけど・・・・・


『うん、最高! やっぱりすごいね、大ちゃん』

そんなアリキタリな感想なの? いや、すごく嬉しいんだけどさ・・・・なんか上滑りな感じがするのは僕の気のせい?

じっと見つめる僕の視線にヒロが怪訝そうな顔をする。

『なに? なんかオレ変なこと言った?』

『ううん・・・・そうじゃないけど・・・・どの曲がよかった?』

『あ? あぁ・・・えっと・・・・』

慌ててCDのジャケットを手に取ってタイトルに目を通してるヒロに寄りかかるようにして、

いっしょにジャケットを覗き込むと、僕はそっと「あの曲」を指差した。

『・・・・これは・・・どうだった?』

すごく小さな声で言ったのに、ヒロは困ったような顔で僕を見ると、すっくとソファーから立ち上がる。

え? どうしたの? 怒ってる?

『来て・・・』

『は?』

いきなり僕の腕を掴んで立ち上がらせると、そのまま向ったのはベッドルーム。

急に動き出した僕らのあとを、アニーが嬉しそうに着いてくる。

『アニーは、ここで待ってて!』

そういって、アニーをドアの外に残したまま、ヒロは僕といっしょに部屋に入ると、後ろ手でドアを閉めた。

なんなの? リビングじゃ話せないことなの?

ボケッと突っ立っているだけの僕を、ヒロはギュッと抱きしめると唇を重ねてきた。

それは、睦言の合い間に交わされるやさしいキスではなくて、明らかにその先を予感させる熱を含んでいて・・・。

『・・んっ・・・ヒ・・ロ・・ちょっ・・・ん・・・ん・・・まって・・・』

熱い唇から逃げながら途切れ途切れになる言葉も、自然と甘さを含んでしまう。

今夜は泊まらないって言ってたから、当然SEXもしないものだと思っていたのに・・・どうしたの?

『待たない・・・・誘ったの、大ちゃんだからね・・・』

ええ〜〜! いつ〜〜〜?

抗議する間も与えず、ヒロは僕をベッドに押し倒すと、そのまま組み敷いて服を剥がしにかかる。

『まっ・・・まって・・・ヒロ・・・あの・・・』

『嫌なの?』

眉をしかめて僕を見下ろしながらも、その手を休めようとはしない。

いや・・・・なわけないじゃん。 でも、わけがわからないから・・・・。

『あっ・・・ん・・・』

すっかり肌蹴させられた胸に、ヒロの唇が吸い付いてくる。

胸だけじゃなく、その指は下腹部に絡み付くと、痛いくらいに揉みしだかれて・・・。

『あぁっ・・・あ、あ、あ・・・』

逃げようとずり上がる身体を引き戻され、もう少し手加減して欲しくてヒロを見ると・・・・

『ゼリー、どこ?』

目が合ったとたん訊かれて、僕は条件反射のようにベッドサイドの引き出しを指差してしまったけど、

・・・・・もう、やっちゃうの? いきなり過ぎない?

ヒロをこんなふうにしちゃうようなこと、何もした憶えはないんだけどな。

なんて、考えていられたのもここまでで、後ろに冷たい感触を感じたと同時に、ヒロの指が入ってきて、

どこが感じるのか知り尽くしているそれは、すぐに辿り着いた場所を執拗に責めたてる。

『あん・・・やっ・・・・あ・・・ヒロ・・・・』

でも、そんな生ぬるい快感に浸る暇もなく、いきなりヒロ自身がねじ込まれてきて

『やっ・・あぁっ・・・』

思わず悲鳴に近い声を上げてしまった。

すると、それに答えるようにドアを引っかく音がして、ヒロと二人そちらを見てしまう。


『・・・アニー・・・心配してるのかな・・・』

僕の呟きに、ヒロがふっと笑う。

『アーニー、ちょっと待っててね〜』

『もうっ・・・ヒロ!』

『なぁに? 大ちゃん』

能天気な声で返事しながら、焦らすように緩く腰を動かすものだから文句の代わりに喘ぎ声が出てしまう。

『んっ・・・・あ・・・』

『いいお返事だね・・・すぐ終わらせるから文句はあとで・・・ね』

『すぐ・・・・終わっちゃうの?』

別に他意はなかったんだけど、上目遣いにヒロを見上げたら・・・・・

『う・・・・予定変更。ア〜ニ〜、いっぱい待ってて!』

え! 違うよ、そういうことじゃなくて・・・・・という言葉は口から出る前にヒロの唇に飲み込まれる。

結局、何がなんだかわからないままに、僕はヒロの腕の中で声を上げ続け、

解放される頃には、違う意味で何がなんだかわからない状態になっていた。




濡れた鼻の感触を頬に感じて意識が戻る。

『アニー・・・・』

その首を抱き寄せながら、気付くとヒロがいない。

うそ・・・黙って帰っちゃったの?

上半身を起こすと、遠くで水の音。 あぁ、シャワー浴びてるんだ。

僕も・・・・と、起き上がろうとしたら身体が恐ろしくだるくて・・・よたよたとシャワールームに向かう。

何も言わずガラスのドアを開けたら、シャワーを浴びてたヒロがビックリして振り返った。

『大ちゃん・・・・ごめん、起こしちゃった?』

『ううん、アニーに起こされた』

『あ、そうなんだ? 大ちゃんも入る?』

差し出されたヒロの手に縋るようにして、降り注ぐ雫の中に入ると、その手が優しく背中を撫でてくれる。

『ねぇ、ヒロ・・・』

さっき、訊けなかったことをきいてみなくちゃ・・・。

『どうして急にやりたくなっちゃったの?』

僕が誘ったとか言ってたけど、そんな憶えはぜんぜんないし・・・・。

『だから・・・・あの曲のせいだって・・・・』

あの曲って・・・・・「あの曲」?

見上げるとヒロが照れくさそうに笑っている。

『大ちゃんがさ・・・・すっげぇクル声で歌ってるから・・・』

『クルって・・・・えぇ〜? そんなことないよ〜』

普通に歌ってるだけじゃん。

『そんなことあるの! オレにはね。 でも、我慢しようって思ってたのに、

 これはどうだった?なんて刺激したのは大ちゃんだからね!』

『僕のせい〜?』

そんなんで欲情するのはヒロくらいだよって笑ったら、他の人に欲情されても困るって、ヒロも笑い出す。

あれ? だったら・・・・・

『ねぇ・・・あれ・・・歌詞はどう思った?』

『・・・歌詞? どんなんだった?』

聴いてないのかよっ・・・・・僕は気が抜けてヒロに抱きつくように凭れかかる。

『ごめん・・・大ちゃんが歌詞書いたの?』

『そうじゃないけど・・・・いいや、またゆっくり聴いてよ』

『・・・うん・・・誰もいないとこで聴くよ・・・』

『どうして?』

『だって・・・・勃ったらマズイから』

ヒロったら〜〜〜。

二人で抱き合ったまま大笑いした。




大丈夫、あの歌詞を見て、ヒロが呆れるなんてあるはずがない。


きっとヒロは笑いながら言ってくれるんだ。


いっしょに虹を見つけようね≠チて。


ヒロとだったら、きっと見つけられるから。


---------- end ----------

キリ番74000のやすしさまのリクエストです。こんなんで、よかったでしょうか?
あの世界観は難しかったので、四苦八苦した挙句がコレです。
取り合えず曲が出てくるってことで許してくださいませ〜<(_ _)>

                              流花

                 
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